悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき

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 利用者が限定されている学園のテラスからは、中庭がよく見える。
 以前、ラプス様と親しいと噂になった令嬢が中心人物となって揉め事が起きているようだ。
 前世で見た物語でヒロインだった少女は、複数の令息と浮き名を流している。お相手の中には、ラプス様の時のように婚約者がいる方もいた。中庭に集まっているのは、その噂に関わる方達だ。
 確か彼女の名は、ラテ・カフェリオ子爵令嬢。カフェリオ子爵の隠し子で、一年ほど前に子爵家に養子に迎えられ、半年前にこの学園に転入した。影が調べた彼女の境遇はあの物語と同じだ。
 物語では、美しいかのように描かれていた多くのことは、現実では誉められないことばかりだった。要注意人物として、警戒をした方がいいかもしれない。
 調査は影に任せるし、会話はここまで聞こえないし、今はもうすぐここに来てくださるラプス様のことを考えよう。
 ラプス様はあれから勉強をとても頑張られた。真剣な表情をお側で見られるのも、休憩の合間に僕との仲を深めようとしてくださるのも、どれもが毎日幸せだった。
 近頃はお手を繋げるほどになって、昨日はラプス様が僕の掌にキスをしてくださった。これは近々下町で手を繋いだままのお忍びデートも夢じゃないかもしれない。
 勉強のご褒美は、シュガールさんの取り決めで、先日行われた試験の結果で決まることになった。
 ラプス様がご褒美に何を考えているかは、まだ教えてもらえていない。照れられながら、ギリギリまで考えたいと仰っていた。ラプス様にとってご褒美になるもの、早く知りたいなぁ。

「今回の試験結果によるご褒美は、全12教科各80点以上とることが条件です」
 試験結果を発表する前に、シュガールさんがご褒美の条件の確認をした。
「厳しめの条件なんですね」
 前回の試験の点数は、全て一桁だったって聞いたと思うんだけど、目標が全教科80点はあまりにもハードルが高いんじゃないのかな。せめて40点くらいから始めた方がいいと思うんだけど。
「シュガールが聞かなかったんだ」
「ラプサンス様が考えられているご褒美の方向性は予想がつきますので、厳しくさせていただきました」
「そうなんだ」
 ラプス様、そんなに豪華なご褒美になさるおつもりなんだ。これをきっかけにラプス様の好みを知ろうと思ったけど、僕上手にラプス様への贈り物を見繕えるかな?
「それで、結果はどうだったんだ?」
「国史、経済、62点。政治、司法、60点。算術、地理、生態、農学、58点。地学、55点。文学、芸術、52点。商学、51点です」
「なっ・・・!」
「す、すごい・・・!」
 試験結果を聞いて、ラプス様はものすごく落ち込んだ。目標に全然届いてないから、ラプス様の反応としては当然だと思う。
 でも、僕は結果を聞いてすごく感激してる。
「全然足りなかった」
「目標には届かなくてもすごいですよ!前回からものすごい点数が上がってるんですから!ラプス様が頑張られた成果は間違いなく現れています!」
「・・・アルグがそんなに喜んでくれるなら頑張った甲斐があるな」
「はい!すごいです、ラプス様!」
 僕の感動を伝えたら、ラプス様も戸惑い照れながら微笑んでくれた。
 あぁ。照れるラプス様を不意打ちで見れちゃった。ラプス様、なんだか可愛い。
「けど、ご褒美が」
「あの、ご褒美は何にされるおつもりだったんですか?」
「アルグにキスして欲しかったんだ」
「ふぇっ!?」
「やはり欲望にまみれたご褒美でしたね。目標を高くして正解でした」
 ラプス様が深く溜め息をつかれた。
 ラプス様、僕とキスしたかったんだ。もちろん、僕もしたい!けど、まだ無理!ラプス様とキスをするんだってお顔が近付く段階で、ドキドキで気を失っちゃう!でも、ラプス様は僕とキスがしたくてあんなに頑張られてたんだ。嬉し恥ずかしってこういう感覚かなぁ。
 さっきちょっとだけ笑ってくれたラプス様が、今はまた落ち込み項垂れている。
 目標には届かなくても、ラプス様はすごく頑張られてたし、その成果は確かに現れている。
 だから、僕としては何かご褒美があってもいいと思う。僕が何かラプス様にして差し上げるのでいいのかな。
 キスよりは段階を下げて、僕がラプス様にしてあげられること。
 少し考えて、思い付いたことを意を決して実行する。
 項垂れて机の上に投げ出されているラプス様の手を取って、口元に近付けて指先にキスをした。
 実際にやってみると、やっぱり恥ずかしくて顔を上げられない。
「ア、アルグ・・・?」
「目標には届かなくても、ラプス様が頑張られたことを僕は知っています。ですからその称賛を今回は唇には難しいですけど、せめてお手にと思った、ので・・・」
「あ、りがとう、アルグ。すごい嬉しい。その、俺は元からアルグに手にキスして欲しいと思ってたから、そのまま願いが叶ってしまったな」
「え?」
 身体の熱が一気に冷めていく。
 勘違いして、一人で舞い上がって、暴走してしまった。
 さっきとは違う恥ずかしさに襲われる。顔を上げられないのだけは変わらない。
「申し訳ありません。僕、ラプス様が僕とキスしたいと思ってくださってるのだと勘違いして」
「それは当然思ってる!!」
 ラプス様が出された大声に驚いて、反射的に顔を上げると、真剣な眼差しのラプス様と目が合った。
「アルグとキスしたいとはいつも思ってる。けど、俺達がこれからするのはファーストキスだ。その時を俺一人の都合で決めていいわけがない。初めては当然、俺とアルグとで最高のタイミングを見つけてしよう」
「ラプス様・・・はい、もちろんです」
 僕を想ってくださるラプス様のお言葉で、心と身体に再び熱が戻ってくる。
 うっとりとしていると、僕が掴んでいるだけの手をラプス様が握り返された。
「それで、キスはまだ先だが、手はこのまま握っていてもいいか?」
「はい。ずっと離さないでいてください」
 見つめ合うラプス様の瞳に熱がこもっている。嬉しくて恥ずかしくて、身体の奥が熱く切なく疼くのを感じる。逃げ出さないとまたドキドキで気絶しちゃうんじゃないかと思うのに、その熱に捕らわれていたいとも願う気持ちもあるんだ。
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