悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき

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「冬休みにルフナのお家に連れて行ってもらえるの、私すっごく楽しみなの!誘ってくれて本当に嬉しい!」
「カフェリオ嬢にも我がセイロン家で出来得る限りの饗しをさせてもらう。少しでも楽しんでもらえれば幸いだ」
「もう!私達友達なんだから、ラテって読んでって言ってるのにぃ!」
「ラテ!何でこんな遊び人と仲良くするんだ!?君には僕がいるだろ!?」
 三角関係らしき恋愛模様らしきものが僕とオーキッズ公爵令嬢の前で繰り広げられている。
 5日前から王城に帰られているラプス様の代わりなのか、今日はラプス様のお茶会仲間のセイロン辺境伯爵令息とオーキッズ公爵令嬢にお茶に誘われた。
 今回のティータイムの会場として選んだ温室に向かう途中で、アッサム伯爵令息とカフェリオ子爵令嬢に鉢合わせた。動向は影を使って把握し続けてはいるけど、実際に関わることは極力避けたい二人組だ。
「よければアッサム令息もセイロン領に来ないか?しっかり饗しをさせてもらうぞ」
「誰がお前の領になんか」
「いいね!皆で行ったら絶対楽しいよ!」
「ラテ!!」
 次の冬休みでセイロン令息が領地に連れて行くのは彼等だけではないはずだ。セイロン令息の伴侶探し旅行とも一部で言われている、冬休みの彼の帰省はこの学園では冬のある種の恒例行事となっている。
 時期的に極寒の地となっているセイロン領への旅行は、決して楽しいと言えるものにはならないことを、多数の貴族は知っている。承知の上で、愛があれば耐えられると信じて令息令嬢はセイロン領に行っているのだ。カフェリオ令嬢はその点をあまり理解していないように見えるけど。
「キームンもいい案だとは思わないか?」
 蚊帳の外状態だった僕達をセイロン令息が振り向いて話を振った。
「そうね、ルフナ。是非ともブルースも連れて行って鍛え直してあげてほしいわ」
「うるさい、キームン!お前が俺の行動を指図するな!」
「そうだよ、オーキッズさん。ブルースを束縛するのはよくないよ!」
 あれ?今、束縛要素なんてあったっけ?というか、何でそんな一瞬で意見変わったの?
 セイロン令息は申し訳なさそうな表情をして、オーキッズ令嬢は訝しげに眉間にしわを寄せている。二人にも予想外の反応だったのかもしれない。面識の少ない公爵令嬢にまさか噛み付いてくるなんて誰にも予想出来ないよね。
 それに、噛み付かれ方も不思議だ。オーキッズ令嬢がアッサム令息を束縛する理由がないし、オーキッズ令嬢はアッサム令息を束縛したいなんて気持ちが浮かんでくることすらないだろうから、そんな発想は誰にもなかったと思う。
「提案したのは俺なのに、どうしてキームンを責めるんだい?」
「え?・・・そうだね。変なこと言っちゃった。ブルース行こう」
「あ、ああ」
 セイロン令息に指摘されて、カフェリオ令嬢は決まりが悪そうにすぐに引き下がる。あんまり気分のいい終わり方ではないけど、極力関わらずに済むに越したことはないかな。
 そのまま二人がこの場を去っていくだろうと油断していたところで、カフェリオ令嬢が不敵な笑顔で僕の方へとグッと距離を詰めてきた。
 咄嗟に距離を取ろうと足を引くよりも強い力で、腕を後ろに引かれて背中が何かにぶつかる。
 振り向けば、ラプス様と共に王城に行っていた親友がそこに居た。
「リン」
「やあ、レイ。いきなりすまない。皆もご機嫌よう」
「ご機嫌麗しゅう、ダージリン殿下」
「ダージリン!!」
 子爵令嬢の声で王族を呼び捨てにした声が聞こえて、この場が凍る。
 侯爵令息の僕とオーキッズ公爵令嬢とセイロン辺境伯爵令息で急いで視線で誰が指摘するかと話し合う。アッサム伯爵令息は当てにならないのが総意だろう。
 やっぱり3人の中で最も交流をしているセイロン辺境伯爵令息に声をかけてもらうことにした。
「カフェリオ嬢、ダージリン殿下に敬称をつけないのは無礼だ」
「あっ!ごめんなさい!びっくりしちゃってつい!」
 気が緩んだら礼儀が抜けるような人が社交界で本当にやっていけるのかな。
 嫌な気持ちになったり、迷惑を被ったりする可能性が高過ぎる。やっぱり彼女とは極力関わりたくないね。
 注意は一先ず終わり、リンの方から話を続ける。
「君、レイは君が軽々しく近付いていい相手ではないよ。気を付けるように」
「・・・はぁーい。これからは気を付けるね」
 多少緩んだかと思った空気が再び凍り付く。
 今、セイロン令息から注意されたことの意味をカフェリオ令嬢は何も理解していないみたいだ。高位貴族と親しげにしてるとは知ってたけど、彼女の礼儀の欠如は親しみを込めてるから許されるなんて次元の問題ではない。
 カフェリオ令嬢を今後リンに近付けてはいけないし、ラプス様とも二度と同じ空間に居てほしくない。確率は低いと思うけど、ジンジャー王女と鉢合わせでもしたらとんでもないことになってしまう。
 氷点下のような空気の原因であるカフェリオ令嬢は、無邪気に笑ってリンを見つめて口を開いた。
「安心してね。私が偽りの姿から救ってあげるから。貴方は誰かに虐げられていいような存在じゃないもん」
 今度は何とも言えない空気がこの場に漂う。
 訳が分からない。カフェリオ令嬢は今リンに向けて話したよね?リンが誰かに虐げられていい存在じゃないのは当たり前のことだし、そもそもリンは誰にも虐げられていないんだけど。
 本当にこの人何なんだろう。リンの親衛隊がこの場に居なくて本当によかった。
 リンは学園で最も人気が高い分、親衛隊員のタイプも幅広いから、過激な行為に走る子は居ないって保証することが難しいんだよね。
 もうこの場を去るって言ったんだから、早く何処かに行ってくれないかな。カフェリオ令嬢と同じ空間に居るだけで疲れちゃう。
 っていうか、リンが学園に戻ってきてるってことは、ラプス様も学園にもう戻ってるはずだから、早くラプス様に会いに行きたい。
「俺が誰よりも先にアルグに会いたいのに先に行くな、ダージリン!」
「鍛え方の違いが出たね、ラプサンス。もっと鍛錬に励むといい」
 恋しい人の声が耳に届いて、声がする方を振り向くと、今まさに会いたいと想ったばかりの人の姿がこちらに向かって来ていた。
「ラプス様!」
「アルグ!会いたかったぞ!」
 ラプス様が僕の方を向いて、笑顔で両手を広げて動きを止める。ハグしようってことなのかな?他にも人いるけど!でも!ここでラプス様の気持ちを断るなんて出来ない!
 ドキドキしながら恐る恐るラプス様に近付こうとしたところで、カフェリオ令嬢が両手を広げてラプス様に近付いていった。その姿はラプス様に抱きつこうとしているようにしか見えなかった。
 そう認識した瞬間、冷静になんて言葉は消えて、反射的に身体が動いた。
「ラプス様に近付くな!!」
 下心がある人がラプス様に近付くのがあまりにも嫌で、カフェリオ令嬢を怒鳴って突き飛ばしてしまう。こけたカフェリオ令嬢に素早くアッサム令息が駆け寄る。
「いったぁ~い!ひどいー!何するのよぉ!」
 地面に倒れた体勢から僕を見上げるカフェリオ令嬢を見てゾッとする。薄っすらと微笑んでいるのだ。まさか、僕に突き飛ばされることが彼女の望んだ展開だとでも言うのだろうか。
 確か、前世にあった物語の悪役令嬢もこんなことをヒロインにしていた。同じ光景を狙っていたって言うのだろうか。だとしたら、彼女は。
「アルグ」
 ラプス様が僕の名前を呼ばれる。お優しい声なのに、人を突き飛ばした罪の意識からか、僕の身体は強張ってしまう。ラプス様に名前を呼ばれて怯えを感じるなんて久し振りだな。出来れば二度と味わいたくなかったんだけど。
 そんな僕の不安や哀しみをも包み込むように、ラプス様はゆっくりと僕を抱き締めてくれた。
「すみません、ラプス様」
「俺のために怒ってくれたんだろう?アルグは何も謝らなくていい」
「けれど」
「アルグにこんな哀しい顔をさせないためにも、ダージリンの言った通りもっと俺は精進しないといけないな」
「ラプス様・・・」
 ラプス様は僕にお優しい。それが嬉しくて堪らない。
 けれど、どんな理由であっても、僕が鍛えていない人に暴力を振るってしまったのは確かだ。怪我を負わせてしまった可能性も高い。
 正直、悪いことをしたとはあんまり思えないし思いたくもないけど、力加減が出来なかったという点では僕にも否がある。
「ちょっとラプス!何でその子のこと怒ってくれないの!?私、絶対怪我したのに!!」
「は?」
「え?」
 一体この短い時間で何回空気が凍らせたら気が済むのか。この令嬢は何でこんなにも王族に馴れ馴れしいんだろう。いっそ怖いくらいだ。
 ラプス様の表情に珍しく怒りが籠もる。珍しいと言うか、ラプス様が怒るところは初めて見るかもしれない。
「それは俺がアルグにだけ許した呼び名だ。他の者が口にするのは許さない」
「な、何でよ、ラプサンス!?私達の仲じゃない!」
「ルフナ、キームン、何だこの者は?知り合いか?」
 あれ?カフェリオ令嬢のことが分からないの?
 セイロン令息とオーキッズ令嬢が顔を見合わせ、セイロン令息が説明のために前に出てくる。
「すまない、ラプサンス。俺の友人の一人だ。後で俺が話をしておく」
「ちょっと待ってよ!何でラプサンスは私のことを知らない振りをするの!?」
「ラプス様を呼び捨てにするな」
 さっきよりは落ち着いた声をと心掛けたけど、込み上げる怒りは抑えきれていなかったように思う。
 大してまともに会話をしたこともないのに、どうして自分はラプス様と親しい関係だなんて勘違いが出来るんだ?彼女の疑問はもっともだと思うけど、それとこれとは話が別だ。
 慣れない怒りの感情に苛立ちがより募るのを感じていると、僕の腰に回ったラプス様の腕に力が籠もった。イライラが場違いにもドキドキに変わっていく。
 僕の体温が上がるのに対して、ラプス様は冷たい瞳でアッサム令息とカフェリオ令嬢を見下ろしていた。
「そこのは確か、アッサム伯爵家のブルースだったな」
「は、はい!ラプサンス王子殿下に覚えていただき光栄です!」
「君がそこの令嬢を医務室に連れて行け。怪我をしていた場合、そのままというわけにもいかないだろう。医務室でどう説明すべきは理解しているな?」
「え、えっと・・・彼女は不注意でこけてしまった?」
 アッサム令息の返事にラプス様は視線を鋭くする。
 いつもと違うラプス様のご様子に、話しかけられていない僕達は静かに成り行きを見守っている。
「それは事実とは違うだろ。君は俺が虚偽の報告を命令していると思っているのか?」
「いえ!えっと、子爵令嬢が殿下に無礼を働こうとして、フレーブ令息がそれを諌めようとした結果、怪我に至った。ということで、よろしいでしょうか?」
「はぁ!?」
「嗚呼、もし事実と異なる文脈や虚偽が噂として出回った時は分かっているな?」
「は、はい!承知しています!」
「では、早く行け」
「失礼いたします!」
「ちょっと!私は納得してない!」
「いいから。行こう、ラテ」
 アッサム令息がどうにかカフェリオ令嬢を連れて行くのを見送る。
 ラプス様がトラブルの対処を行った。こんなことは初めてじゃないかな。すごくかっこよかった。王城に帰ってる間に、何かあったのかな?ラプス様がいつもより一層凛々しく見えてドキドキする。
「あんな感じでよかったのだろうか?」
「はい!ありがとうございます、ラプス様!」
「アルグが悪いようにならなければ俺はそれでいいよ」
「ラプス様・・・」
 ラプス様の優しいお声と眼差しに、人前にも関わらずうっとりしてしまう。抱き締められたままなのもあってか、余計に離れ難くなる。
「ラプサンス、君があんな冷静に対応が出来るとは知らなかった。変わったな。感心した」
「ここ最近は生徒会の雑務も自ら名乗り出てやってくれるし、やっぱり心境の変化はフレーブ令息のおかげかしら?」
 オーキッズ令嬢とセイロン令息がラプス様を褒めてくれる。愛する人が周りからも認めてもらえるのは嬉しい。
「そうだな。まぁ、少しでも皆の役に立てていれば光栄だ」
「目の前でいちゃつかなければもっとよかったわ。婚約者とたまにしか会えない私への当てつけかしら?」
「っ!?あっ、あの」
「キームンはすごいな。俺は5日離れたらもう離れ難くて仕方ない」
「ラプス様・・・」
 人前だと指摘されたばっかりだけど、ラプス様のお言葉やお気持ちが嬉しくてまたうっとりしてしまう。
 横からやれやれって空気を感じるのはたぶん気のせいじゃないね。
「すまないが、俺とアルグはこれで失礼させてもらってもいいか?」
「目の前で見せつけられ続けるよりいいか」
「私も同じく」
「ありがとう」
「あ、ありがとうございます」
 改めて言われると恥ずかしくなってくるな。でも僕も離れ難いのは変わらない。
「ダージリン殿下、よろしければ俺達とお茶はいかがですか?」
「せっかくだ。いただこう」
 お茶会は違うメンバーで開催することに話が落ち着き、僕達はラプス様のお部屋に移動した。移動の間もラプス様が僕を抱き寄せてくれたままなのが嬉しくて、でもいろんな人に見られたのはやっぱり少し恥ずかしかった。

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