悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき

文字の大きさ
14 / 20

14

『フレーブ令息がラプサンスを慕っていることは、この国の七不思議の一つだとこの学園で言われている』
 数ヶ月前に、生徒会でそんなことを言われた。俺とアルグの仲に水を差そうとする不愉快な噂だと思っていたが、今ならそう言いたくなる気持ちがよく分かる。
 俺も、アルグが俺を好いていてくれることが奇跡なんだとようやく知った。
 寮の自室で、使用人もいない、本当に二人きりの空間。長椅子に並んで座って、熱っぽい瞳で俺と見つめ合うアルグが本当に可愛い。
 可愛い、可愛い、俺だけのアルグ。
「すまなかった」
「?何がですか、ラプス様?」
「兄上達から昔の話を聞いた。王家の咎を王子である俺はずっと知らなかったが、アルグは知ってたんだろう?大事な婚約者に一人で背負わせてしまっていた。本当に申し訳ない」
 アルグがぱちくりと瞬きをして、優しく微笑む。
「お聞きになられたんですね。ラプス様がお兄様方に認めていただけて嬉しいです」
「それだけか?」
「はい?」
「アルグはもっと俺への不満を言ってもいいんだぞ」
 15年前、俺が2歳の頃、複数の王妃、王子、王女達への毒殺未遂が横行した。首謀者は第二妃の王子王女達。俺と母親が同じである第一妃の王子王女達は、彼等の罪を暴き皆に知らしめた。王が与えた罰は軽かったが、彼等はその後不慮の事故により、肢体不自由となった。
 これを俺は知らずにアルグは知っていたなんて、あまりにも情けない。
 俺は話をするに値しない愚かな人間だと、兄上達にずっと判断されていたんだ。俺の愚かさに学園の者達も気付いていたんだろう。
「頼りない婚約者に嫌気が差したって、誰も非難なんてしない。俺が役に立たない人間だということは皆よく知っていたんだからな」
「ラプス様・・・」
「アルグは俺が婚約者であることを嫌に思ったことはないのか?」
「そんな時は一瞬たりとも存在してません!」
 俺の瞳を見てアルグが真っ直ぐ力強く答えてくれる。珍しく少しだけ怒っているようだ。
 自分の不甲斐なさに打ちのめされて、気弱になっていた。今の俺の発言は、アルグの愛を疑っているようなものだったな。
「ありがとう、すまない、アルグ」
「いいえ。ラプス様はいつだって僕に愛されているのだと、もっと自信を持っていただいてもいいくらいですよ」
「それはアルグも同じだ。きっと俺はアルグが想像してる以上にアルグのことを愛してる」
「ラプス様・・・僕も愛してます」
「アルグ・・・」
 アルグを抱き寄せて、頬にキスをする。アルグの瞳が潤んで、熱が宿る。
 嗚呼、可愛い、可愛い、俺のアルグ。もっと、もっと君が欲しい。
 俺の情欲がアルグに伝染したのか、アルグが俺の首に腕を回して身体がグッと近付く。
「アルグ?」
「不満、ではないんですけど・・・僕、先日からラプス様にもっと触れてほしくて堪らないんです」
「っ!?うん、もっとって?」
「・・・キスを、口にしてほしいです」
「あ、嗚呼。アルグがしたいと言ってくれるなら喜んで」
 アルグからの思いがけない告白を受け、緊張と興奮で自然とアルグの腰に回した腕に力が入る。いつになく欲を孕んだ表情のアルグに胸の高鳴りが止まらない。
 すぐ近くにあるアルグの顔に、ゆっくりとまぶたを伏せながら更に近付いていく。俺からの口付けを待つように、薄っすらと閉じられていくアルグの瞳が見えて、一層興奮が積もる。
 静かな空間で一瞬鳴ったリップ音。
 今聞こえるのは熱を送り合う互いの吐息だけ。
 ほんの一時触れ合っただけなのに堪らない。ずっと触れたかった。柔らかいアルグの唇。足りない。もっと触れたい。
「アルグ」
「ラプス様」
「もう一回いいか?」
「はい。もっとたくさんキスしてください」
 アルグの後頭部に片手を回し、もう一度キスをする。
「アルグ、もう一回」
「はい、ラプス様」
 もう一度俺から強請って、アルグと触れ合うだけのキスをする。
 もっとアルグが欲しい。アルグが足りない。
 もう一回と何度も強請り、アルグと唇から僅かな熱を重ね合う。
 アルグの唇を熱を香りをもっと味わいたい。その唇を喰み、口を吸い、舌を絡ませ、もっと深くつながりたい。
 今日はどこまで俺達は触れ合えるだろうか。


「ぅん、ちゅっ、んっ、アルグっ」
「はぁっ、ラプスさまっ、んぅっ」
 ただ互いに夢中になっている中、突然ドアのノック音が響いた。
「「!?」」
「ラプサンス様、アールグレイ様、もうすぐ夕食のお時間ですが、本日はどちらでお食事されますか?」
「あっ、あー、俺の部屋で!俺の部屋でとる!二人分運んでくれ!」
「かしこまりました。10分後にお運びいたします」
「嗚呼、頼む!」
 飛び起きて、ドアの外からの執事の声かけに答えた。もうそんなに時間が経っていたのか。1時間以上ただひたすらアルグとキスし続けていた。なんて贅沢な時間だったんだ。
 いつの間にか長椅子に押し倒していたアルグは、目が潤んで、頬を紅くし、息が乱れている。椅子の上に髪が散らばった様がより一層煽情的だ。
 けど、もうこの昂りを沈めなければ。
「もう、夕食の時間なんですね」
「嗚呼、惜しいが、甘い時間は今日はこれで終わりだ」
「はっ、はぃ」
「少し風で涼むか」
「そうですね」
 夕食が運ばれて来るのを待つ間、窓を開けて二人で顔の熱を僅かでも冷ます。
 恥ずかしいからと目を逸らすのも嫌なのはアルグも同じようで、二人で顔を合わせてはにかむ。そてまた、愛しさが募る。
 その後すぐに夕食が運び込まれ、食事を始めた。食べながら、アルグに伝えるべきことをふと思い出す。
「そうだ。春になる前に、バーバオ王国から使節団が着く」
「今回の王城からの召集はその件だったのですね」
「嗚呼。肝心のジンジャーは城に居なかったがな。シュエグ王子も来国するらしい」
「もしかして」
「恐らく、学園卒業と同時にジンジャーを国に連れ帰るつもりだろう」
 ティアブレイド国から離れて南東にあるバーバオ王国は非常に豊かな国だ。数年かけて漸く生まれた繋がりを強固にするために、王族同士の婚姻を取り付けたけど、婚約している当人がそれに納得していないのが、最大の問題となっている。
「ジンジャーの恋人の件は現調査段階では特に問題はなさそうだが、もう少し調べるらしい」
「婚約に影響が出ないならよかったです」
 アルグがホッと息を付く。
 今、我が国は、兄上達の政策により、外交に力を入れ始めている。閉鎖的な国のままでは、国力が弱まる一方になることを危惧してのことだ。王族とフレーブ侯爵家の婚約も、フレーブ侯爵が外交部の要人であるために決まったことだ。
 王族は政略結婚が当たり前の中で、婚約者とこれほどまでに愛し合える関係になれた俺はなんてなん幸せだろうか。
「それと、兄上達に条件によっては結婚後も王族に籍を入れてもいいと言われたが断った。相談せずに決めてしまってすまない」
「いいえ、かまいません。僕も当初の予定通り伯爵位を継ぐことを望んでいるので、ラプス様と同じ気持ちだと分かって嬉しいです」
 アルグが微笑むとかではなく、本当に嬉しそうに笑っている。俺達の今後については問題なさそうだな。
 連続毒殺未遂事件の後、第一妃の産み子の兄上達以外の王子王女達は、他国の王族に嫁ぐ場合を除き、俺も含めて皆臣籍降下することが決まった。それは、あの事件を機に、兄上達が実権を握り始めたということでもある。
 俺は守られて生きてきたのだと思い知った。これからは俺がアルグを大切な者達を守れる人間になっていきたい。
 機嫌のいいアルグを見つめながら、切に願った。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される

水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。 しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み! 生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。 ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。 しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。 「――俺の番に、何か用か」 これは破滅を回避するためのただの計画。 のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。 悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

俺の婚約者は悪役令息ですか?

SEKISUI
BL
結婚まで後1年 女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン ウルフローレンをこよなく愛する婚約者 ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。