悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき

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「第2騎士団フレーブ副団長、サウガ小隊長、本日はお越しいただきありがとうございます」
「礼など不要です、学園長。弟から連絡を受け、こちらから訪問を願い出たのですから」
「そう申し出てくださったことがありがたいのですよ」
 今日は、レモナ姉さんと姉さんの部下の方が学園の訪問に来た。学園長とラプス様と僕とリンで出迎えを行っている。
 この間、ニルギリ・サウガ先生が恋愛的意味合いでカフェリオ令嬢の標的になっていることが分かり、先生の旦那さんに連絡を入れた。
 サウガ先生の様子を見る限り、妙に慕われている程度にしか思っていないようだったから忠告をしたんだけど、今度は、クビになるかもしれない、夫に知られたら心配させると慌てふためくばっかりだった。知らせたことで、サウガ先生の方が意識してしまって、空回りして面倒な事態になっても困るから、ここはもう旦那さんに任せるのが最善だろうという結論にいたった。
 先生の旦那さんは国家直属の騎士だから、ラプス様から伝えた方が速かったんだろうけど、王子から直接騎士に学園に来てほしいことを伝えると仕事の依頼っぽくなってしまうから、僕から姉さん伝いで伝えることにした。
 結局、一小隊率いての学園訪問になっちゃったけど。
「丁寧にお出迎えしてくださっているところ申し訳ないのですが、私は早く妻の元に向かいたいのです。案内していただけませんか?」
 サウガ小隊長からすれば当然の依頼をされて、こちら側は少し気まずくなる。この状況だからこそ、今日の出迎えに学園長が出なくてはならなくなった。
「本来、サウガ先生には生徒会室で待機してもらう予定でしたが、実は現在、サウガ先生は行方不明です。1時間ほど学園内を捜索してますが、まだ見つかっておりません」
「なっ!?」
「誠に申し訳なく存じ上げます」
 サウガ小隊長が顔を険しくする。
 とんでもない状況になった。なんというタイミング。最悪と考えるべきか、むしろ今日来てもらえて良かったと思うべきか。
 何事もありませんように。どうか、人気のない場所でただ居眠りをしてしまっただけだったという、平和なオチでありますように。
「サウガ先生が見つかりました!」
 僕の親衛隊の子の叫び声が聞こえ、サウガ小隊長がいち早く反応し、親衛隊の子に詰め寄った。
「ニルは何処にいたの!?無事よね!?」
「そっ、それが・・・」
 問われた親衛隊の子が言葉に詰まっている。目を泳がせて、言い淀んでいるという風にも見える。サウガ小隊長の勢いに気圧されてとは違うようだ。
「君の情報だけが今この場では頼りなんだ。彼のためにも早く教えてくれないか?」
「っ、学園長!はい!あの、サウガ先生は第3美術倉庫の近くで見つかりました。それで、どうやらそこでサウガ先生はカフェリオ令嬢に媚薬入りの香水を相当量吹きかけられたようで・・・っ!」
「っ!?第3美術倉庫・・・っ!!」
「あっ、周辺には香が漂っています!!お気を付けください!!」
 サウガ先生の居場所と状況を聞いて即刻駆け出した小隊長に、親衛隊の子が振り向いて叫ぶ。
 状況は全然平和じゃなかったし、むしろ最悪寄りだった。
「先生と令嬢の状況は?」
「!はい、ラプサンス殿下。一先ず、サウガ先生を襲おうとしていたカフェリオ令嬢を取り押さえています」
 襲おうとしていたってことは、本当に最悪なことはギリギリ起こってないってことかな。小隊長に来てもらえてよかったと思うべきの方かな?そう思おう!
「君も早く戻って。小隊長は直ぐに先生を安全な場所に移動させたいだろうから、僕が使ってた寮の部屋に案内して差し上げて」
「かしこまりました、アールグレイ様!」
 親衛隊の子が先に駆け出して、僕達も後を追うように直ぐに走り始めた。
 最早事件と言っても差し支えない状況に、学園長の足取りは覚束なくなり、姉さんが支えてくれていた。


「いい加減離しなさいよ!!女の子にこんなことして許されると思ってるの!?」
 カフェリオ令嬢を捕えている現場に着くと、思っていたよりも第3美術倉庫には近くなかった。
 聞けば、香水の臭いがあまりに強くて、長くその場にいること自体が危険なため移動した、ということだった。
 何て恐ろしいことをしてくれたんだ。もう完全に事件だよ。
 既に、リンの親衛隊の子達が香水を打ち消すために動いてくれている。大変な役割を担ってもらって申し訳ない。今度、何かお礼を考えておかないと。
 現場には、オーキッズ令嬢とセイロン令息が居て、サウガ小隊長夫妻は既に居なかった。直ぐに避難が出来たのならよかったかな。
 現場に着いた僕達を見て、険しかったカフェリオ令嬢の表情が明るくなる。
「ラプサンス!!ダージリン!!助けて!!皆、私に暴力奮って酷いことするの!!ルフナも見てるだけで、全然助けてくれないんだから!!」
 この令嬢、この碁に及んで、ラプス様に対してまだ馴れ馴れしく話しかけるのか。
「殿下に無礼を働くなと何度言ったら君は分かるんだ!?そもそも自分が何をしたのかさえも理解していないと言うのか!?」
 カフェリオ令嬢の発言に、誰よりも早く声を荒らげたのはセイロン令息だった。伴侶探しの中で起こる諍いもいつも穏やかに宥めている彼が怒鳴るなんて、相当鬱憤が溜まっていたのだろう。令嬢が腹立たしいことは同感だし、むしろよくここまで耐えてきたと思う。
「もう!!ルフナの攻略も上手く言ってたはずなのに、何でこんなことになってるのよ!?」
 カフェリオ令嬢の不可思議な発言で、空気がピリッとした。
 攻略って何?セイロン令息に対して攻略って、失礼過ぎる。一体令嬢は何を企んでいたんだ?恐ろしい計画の企てでもあったのか?
「そうだ、ラプサンス!私はあなたの孤独を癒やしてあげたわよね?ラプサンスの気持ちを理解してあげられるのは、私だけよ!」
 まただ!!もう、本当にいい加減にしてくれないかな!!
「君はいい加減、自分がラプス様に気安く話しかけられる立場ではないことを理解するべきだ」
「あんたに口出す権利なんてないのよ!!悪役令嬢は引っ込んでなさい!!」
「アルグへの暴言は俺が許さないからな!!それにやはりこの令嬢、アルグのことを悪役と言っている上に、何故か令嬢と言ってるではないか!!アルグは見た目の通り男だぞ!!」
「そんな嘘に騙されるわけないでしょ!!男同士で婚約者なんてあり得ないんだから!!」
「「「はぁ?」」」
 カフェリオ令嬢のまたもや不可思議な発言で、こんどはこの場にいる全員が訝しげな声をあげた。
「婚約者であることに男同士かどうかなんて関係ないだろ?何を言ってるんだ?」
「は、はぁ?だって・・・そう!男同士じゃ子ども産めないじゃん!!跡継ぎ作らなきゃいけないんだからあり得ないでしょ!!」
「普通に子どもは産めるだろう」
「君は一体何を言ってるんだ?」
 思いも寄らない返答だったんだろう。今度はカフェリオ令嬢が混乱した顔で、キョロキョロとこの場にいる人々の様子を確認する。
「え・・・何?私がおかしいの?何で?どういうこと?」
 前世の記憶があるとしても、この世界でずっと生きてきたなら、同性婚も男性が妊娠や出産出来ることも常識でしかなかったはずだ。一体彼女はこれまでどうやって生きてきたって言うんだろう?
「アールグレイも前世の記憶があって、バッドエンドを回避するために男装してるんじゃないの・・・?はっ!じゃあまさか、ダージリンは女装じゃなくて本当に女ってこと!?」
「お前・・・まさか、殿下のことを男性だと思っていたのか・・・!!」
 皆がドン引きして言葉を失っている中、セイロン令息は怒りに震えているようだ。僕は、前世の記憶を持っていると思われていたことに、お腹がヒヤリと冷えていく心地がした。
 事態の収集の付け方がいよいよ分からなくなりそうな時、普段の落ち着きを取り戻して足取りが安定した様子の学園長と、いつもと変わらず凛とたくましいレモナ姉さんが現れた。
「到着遅くなり申し訳ありません。どうやら皆さん揃って、混乱しているご様子ですね。一度ここは場を収めましょう。多くの王侯貴族が関わったこともありますので、カフェリオ令嬢のこれまでの行いは改めて第2騎士団が調査してくださることになりました。調査結果を王家と全貴族家に報告していただいた後、カフェリオ令嬢またカフェリオ子爵家の沙汰は話し合うとしましょう」
 学園長が低い穏やかな声で空気を落ち着かせるように話す。
 さっきは思わぬ事態に気が遠くなってしまったみたいだけど、流石、大きな組織の責任者だ。
「今後は騎士団による正式な調査をさせていただく。一部受けた報告からしても、彼女の件に関して物申したい家は多くあるでしょう。何より、アールグレイのことを何度も悪役と言っているようでしたから、我がフレーブ家も侯爵家として意見を申したい」
 続けて、レモナ姉さんが字面だけだとまだ礼儀を携えている静かな声で話した。怒りが、聞こえる。チラッと目線だけ見上げて表情を確認すると、絶対零度の瞳でカフェリオ令嬢を見下ろしてた。
「学園長、一先ず彼女を軟禁する部屋を確保出来ますか?」
「直ぐに用意しましょう」
 その後直ぐに待機していた第2騎士団の騎士達も駆け付けて、僕達生徒は各寮室へ移動となった。
 想像していたよりも事が大きくなっているんだろう。カフェリオ令嬢は騎士達が動いているのを見て、真っ白になって震えていた。
 それを全く可哀想に思わない僕は酷いのだろうか。でも、同情する気もしたいという気持ちも沸かないんだよね。
 ラプス様への無礼の数々は僕も許すつもりはないし。
「アールグレイ、知っていることを洗いざらい全て話せ。俺に隠し事が出来ると思うなよ?」
「あっ、はい、レモナ姉さん」
「ラプサンス殿下、君もだ」
「あ・・・はい、もちろんです」
 末恐ろしい笑みを浮かべるレモナ姉さんと対等にいられるのなんて両親とラベンディア姉さんくらいだ。別にそんなに怒られるってわけじゃないからいいんだけど。
 隣のラプス様は、薄っすらと涙を浮かべて顔色を悪くされていた。
 昔、剣術の授業をサボったラプス様がレモナ姉さんにものすごい扱かれてたことがあったな、とふと思い出した。

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