悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき

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 学園を卒業する日が近づいてきた。部活や生徒会の引き継ぎ作業が終わったことで、ラプス様も僕も時間に余裕ができた。
 と思ったんだけど、卒業前の思い出作りだといろんな人にお茶に誘われて、意外と忙しい。ラプス様と二人きりでゆっくりと過ごすということが中々難しい日々が続いている。
 ちなみに今日はラプス様と揃って、セイロン辺境伯爵令息にお茶を誘われた。
「ダージリン殿下は、卒業後はどうされるのだろうか?」
「俺達に聞かず、自分で本人に聞いてくれないか?」
「ただの世間話だろ?そう言えばどうだろうと気になっただけだ」
「ルフナがダージリンに惚れていることは分かっているから、隠す必要はないぞ」
「・・・へ?」
 お誘いの目的は、思い出作りではなく恋愛相談が本当のところかなって感じだけどね。
「ルフナが思い出作りのためにダージリンに告白しようと考えているなら、別にそれを態々止めはしない」
「思い出作りって、フラれる前提みたいな言い方するな。俺がモテるのは知ってるだろ?」
「君がモテているかどうかとダージリンにそういう意味で好かれているかどうかは別の問題だ」
「それはその通りだが。というか、俺はまだ好きだと肯定していない」
 説得力のない否定だな、とラプス様と共に少々呆れた気持ちになる。
 テーブルに3人並んでる中で、お話はほとんどラプス様とセイロン令息の二人でしている。たぶん僕が呼ばれたのは、ラプス様と僕が同じ時間を過ごせるようにっていう気遣いだと思う。
 今の話の感じだとリンのことを聞きたいからという理由もあるかもしれないけど、僕から話せることっていうのはないから静かなままでいる。
「そもそもルフナは伴侶候補を数名連れ帰る予定だっただろう?ダージリンをその内の一人に入れることを俺達がよしとすると思ったのか?」
「だから・・・あー、もしも!だ。もしも、俺が彼女一人だけを連れて帰ったらどう思う?」
「悪いが、そのような提案であっても、俺達が君の応援をすることはできない。そもそもルフナの立場で難しいことを話すな」
「遊び人と有名な俺は殿下には相応しくないということか?」
「身分も性格も関係ない。相応しいかどうかの次元の話ではないんだ」
「どういうことだよ・・・」
 取り付く島がないといったラプス様の返答に、セイロン令息が項垂れて机に伏す。
 申し訳ないけど、リンに関して、恋愛相談は受け付けられない。これはラプス様と僕の共通認識だ。とは言っても、こんな風に相談してくる人自体がこれまではいなかったから、これが初めてのことではあるんだけどね。
「アールグレイ様、よろしいでしょうか?」
「ん?何、ティズ?」
「ダージリン様がお探しです。急ではありますが、お時間がとれる機会も少ないため、今からお話したいとのことです」
「そっか。どこか場所とれる?」
「ラプサンス様とセイロン様がよろしければ、ご相席でも構わないとのことでした」
「ちょうどいい。ダージリンにはここで話してもらおう。先に断っておくが、俺達はルフナの失恋の傷を癒す手伝いはしないからな」
「は?え?どういうことだよ!?勝手にフラれたことにするな!」
「大丈夫だ。すぐに分かる」
「ってことだから、ティズ、リンをここに案内して」
「かしこまりました」
 セイロン令息はしばらく不快感を訴えるように、ラプス様のことを睨んでいた。
 この後起こるだろうことを想像すると、セイロン令息が可哀想だとは思うけど、僕達は幼い頃からの友人であるリンの味方だから仕方ないよね。


「ごめんね、お邪魔して。ただ愚痴を聞いてもらいたいってだけなのに」
「いいよ。言える相手がいなくて辛いのはリンなんだから」
「ありがとう、レイ。ラプサンスもルフナ殿もすまない」
「俺もアルグと思いは同じだ。気にする必要はない」
「俺もどんな形でもダージリン殿下のお役に立てるなら光栄です」
「ありがとう」
 お茶の席にリンが一人加わっただけで、先程よりも空気が引き締まったような気がする。たぶん、セイロン令息の背筋がさっきよりも伸びてるからかな。
「それで?ご両親からまた何か言われたの?」
「そうだね。・・・最近は『結婚相手は決まったか?』と言うのはやめて、今度は『好きな人はできたか』としつこく尋ねてくるようになったよ」
「卒業が近いもんね」
「ああ」
 リンの両親は王家には珍しく恋愛結婚をしたお二人で、それもあってか、我が子にも恋愛結婚をすることを望んでいる。そのため、王族では珍しく、リンには政略的に決められた婚約者がいない。
 代わりに、リンは両親から学園を卒業するまでに、結婚相手つまり愛する人を自分で見つけるようにと言いつけられている。
「好きな人なんて見つかるはずもないのに」
「そうだね」
 テーブルに両肘をついて、リンは頭を抱える。もう何年も、リンからは同じ苦悩を聞き続けてきた。両親に理解してもらえれば解決するであろう悩みは、未だに決着がつく姿を想像できないでいる。
「その、質問してもいいでしょうか?」
「ルフナ殿、私にかな?構わないよ」
「今の『好きな人なんて見つかるはずがない』と言うのはどういった意味でしょうか?ダージリン殿下には忘れられない方がいらっしゃるのですか?」
 ほんの僅かばかり声を震わせて、セイロン令息がリンに問いかけた。きっと不安や動揺を必死で隠しているのだろう。
「あー、そういうことではないんだよ。私にそういう相手はいない。その・・・理解してもらえるかは分からないが、たぶん、私は恋心とは無縁の人間なんだよ。誰かを恋愛的意味で好きになることは一生ないと思うんだ」
「けれど、それは今は」
「ルフナ」
 その先は決して口にするなとラプス様が牽制をするように、鋭い声色でセイロン令息の言葉を遮った。。
 僕達がセイロン令息の恋路に、リンに向けられる恋心に対して非協力的な理由はこれだ。
 リンが言う、恋心を抱くことはない、はラプス様と僕も同意している。なんとなくそうだろうなと思ったという曖昧なことしか言えないから、説得力に欠けてしまうのが難点だけど、僕達の間ではそれだけで十分理解し合えた。
 けれど、他の人々にも同様に理解してもらうということが、難しいことだということも承知している。特に、自由恋愛を至高と考えている節のあるリンの両親に理解してもらうというのは、不可能に近いことだと予測される。
 僕達はこの手の話ができるだけリンに向かないことを願ってきた。今しがたセイロン令息が言いかけたような、今はいい人に出会えてないだけだとか、この先素敵な人に出会えるかも、なんて言葉をリンには聞かせたくなかったから。どれも、リンの気持ちを何一つ理解していない心ない言葉でしかなく、リンをただ傷つけるものでしかない。
 さて、それを、今のラプス様の牽制で、セイロン令息は理解してくれただろうか。
「・・・学園では好きな人に出会えなかったと伝えるのでは駄目ですか?」
「そしたら、出会いのためにあちこちパーティーに連れ回すと言われた」
「それって何気にもう始まってるよね」
 そのおかげでリンは僕達以上に毎日忙しく走り回っている状態だ。体力的にも精神的にも心配になる。
「まあね。パーティーに出席する度に両親に期待され、見つからなかった結果に落胆されることを繰り返すことになるんだ。そんなの想像するだけで苦痛だよ」
「誰かに事情を説明して協力してもらって、偽りの恋人になってもらうとかは?」
「却下だ」
「何でラプサンスが答えるんだよ」
「ダージリンに己を偽らさせる案は俺達が許容しない」
 今既に両親に心の内を隠して申し訳なさと戦っているというのに、リンに嘘をつかせてさらに罪悪感を抱かせるなんてことはしたくない。大切な親友にそんなに辛い思いをし続けて生きるなんてしてほしくない。
「それに、いろんな子に失礼だから、私もあまり気は進まないかな。心から私を好いてくれている子達に申し訳ない」
「・・・そうですね。失礼しました」
「いや、色々考えてくれて嬉しいよ。ありがとう、ルフナ殿」
「恋人がいなくても納得してもらえる方法があるといいんだけどね」
 セイロン令息としては、自分が恋人役をすると言いたかったのかもしれないけれど、僕達的にはそれも却下だしね。
「ダージリン殿下がご結婚をされたくないことは分かりました。では、将来したいこと、このように生きていきたいというご希望はありますか?」
「・・・したいことか・・・うーん」
 今までに考えたことのない視点の質問を受けて、リンが少し考え込む。リンの両親の願いをどうやって退けるかという考え方ばかりして、あんまりそういった明るい考え方はしてこなかったな。
「このまま騎士として生きていきたいかな」
「所属したい団はどちらになりますか?王家直属?」
「王家は嫌だな。色々としがらみを感じそうだ。できるだけ王都から離れたところがいいだろう」
「・・・ならば、セイロン領に来られるのはいかがでしょうか?」
 セイロン令息の新たな提案を受けて、僕達は無言で顔を見合わせた。驚いているというのはリンも一緒だろうけど、ラプス様と僕に至っては、まだ諦めていなかったのかという呆れと感心がある。
「辺境伯領は確かに王都から遠方になるが、叔父上達にはそれをどう説明する?」
「ただ事実を話してもらえればと思います」
「セイロン領で騎士になる、と?うーん、それだけでは足りないのではないかな?」
「俺が伴侶とする人を誰も選ばずに領地に戻ります。そうすれば、俺達がそういう仲なのだと周りが勝手に勘違いをするのではないでしょうか?」
「「「・・・!?」」」
 やっぱり、リンのことを諦めてなかったってことかな。一応告白したわけではないから、まだいいけど、まだ。
「御存知の通り、セイロン辺境伯当主は一人の伴侶に加えて複数の妾を持つのが習わしですが、その次期後継が我が子の恋人だと想像すると、王弟殿下方はご不安でしょう。ですから、後継者の立場は妹に譲ります。たとえ勘違いであったとしても、我が子が選んだ相手が、我が子のために身分や地位を差し出す人間だと思えば、王弟殿下方にはご安心いただけるはずです」
「っ!?私のためにルフナ殿がそこまでする必要はないだろう!?私は君の将来に迷惑をかけたいとは微塵も思っていないんだ」
「お気になさらないでください。これは俺なりのけじめですから」
「?それはどういう・・・」
 リンが問いかけようとしたところで、駆け足で近付いてくる音が聞こえてきた。振り向くとリンの従者が走ってこっちに向かって来ていた。
「すまない、時間のようだ。ルフナ殿の提案は本気なのか?」
「本気です。御一考いただけますか?」
「うん・・・また改めて話をしよう。たとえ、一時の勢いや気の迷いであったとしても、私のためにそこまで考えてくれてありがとう」
 リンの謝辞にセイロン令息が恭しく頭を下げて答える。
 ラプス様と僕にも軽い挨拶をした後、リンは慌ただしく去っていった。
 お茶の席は、4人の会話から2人の会話に戻る。
「・・・ルフナ、ダージリンのために案を出してくれたのはありがたいが、勢いで言ってないか?」
「まぁ、ここで話すのはかなり思い切ったけど、後継を妹にってのは前から考えてたんだよ」
「へぇ、何故だ?」
「知っての通り、伴侶を複数名得られない代わりに、愛人を複数名設けて子も産んでもらうのが、我が辺境伯家では当主の公然の務めとなっている。そんな相手との結婚を王弟殿下が許すはずがない。だから・・・ダージリン殿下への恋は、始めは諦めるつもりだったんだ」
 セイロン令息が流石にリンへの恋心を認めた。そして、愛人を複数名設けるのが務めだなんて恐ろしい規則なんだろう。王族が複数伴侶を持つのが基本とされているのと同等の恐ろしさがある。
「けど、こういうのってやっぱ想いが募るって言うか、叶うならって思うようになってたんだよ」
 じわりとセイロン令息が頬を染める。諦めると決めたら時間が解決してくれるなんてことはない、というのはすごくよく分かる。僕は諦めずにラプス様に想いを伝えてよかったと心から思えるけど、セイロン令息はどうだろうか。
「けどやっぱり、家督を受け継ぐ限りは結ばれることはないとなったら、家督さえ継がなければとかちょっとは考えるだろ」
「家督を妹君に譲ったところで、結ばれるわけではないと分かっただろ。それでもいいのか?」
「そこはもうさ、むしろ覚悟を決めれるってもんだろ。殿下に人生を捧げるってさ。騎士団に身を置くなら、居場所がなくなるってわけでもないしな」
「・・・今後、何かあれば話し相手くらいは続けてやる」
「ありがとう、親友」
 ラプス様もセイロン令息も不器用に照れた様子で紅茶を手にした。お茶会という名のセイロン令息の恋愛相談は、こうして無事に幕を閉じた。
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