王家は真実の愛を推奨しています

みあき

文字の大きさ
6 / 11

2-2

しおりを挟む
 3日後、国王陛下と王妃が遠方の国へ訪問に出かけた。陛下と王妃が王宮を出発した直後に私は王子殿下の書斎に案内された。
 使用人達によると、王子殿下はこの一年間書斎と訓練場を行き来するだけの生活を送っているのだと言う。王妃の指示でずっと勉強か剣の訓練をしているらしい。
 王妃の指示に素直に従っていると聞いて、真面目な人なんだなと思った。
 執事が書斎のドアをノックして、断りの言葉と共に入室する。
「エリオット殿下、ローゼリア様がいらしてくださりました。ぜひ、お話されてみるのはいかがでしょうか」
 執事の呼びかけに答える声は聞こえない。けれど、執事は私に入室を促す。入口前でただ待っていても仕方ないかと思い、私はゆっくりと王子殿下の書斎に入った。
 初めて入った王子殿下の書斎は勉強道具がそこかしこに置かれて溢れ返り、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
 部屋全体の空気が重くて居心地が悪い。
 王子殿下は部屋の奥の机で勉強をしていた。目の前まで来ても、入室した私達の存在に王子殿下が気付く様子はない。
「こんにちは、エリオット殿下」
「・・・・・・?」
 私が声をかけて数秒、無反応かと思ったら、遅れて声をかけられたことに気付いたのか、ゆっくりと王子殿下が顔を上げた。周りをキョロキョロして、私の姿を目に止めてやっと私達の存在に気付いたようだった。
「お久し振りです。お会いするのは一年ぶりになるのですが、私のことを覚えていらっしゃいますか?」
「きみは・・・たしか、こんやくしゃの」
「はい。ローゼリア・リザリオンでございます。覚えていただけて光栄です」
「うん・・・」
 殿下の瞳は虚ろで、すぐ目の前に対峙しているのに目が合っているのかどうかが分からない。会話はなんとか出来そうな様子だけれど、受け答えがゆっくりで、本当に大丈夫なのかと心配になる。
 そもそも殿下の体調は全くもっていいようには見えない。顔色が悪くて、一年前にお会いした時よりもやつれているように思う。
 どのように一年を過ごしたら、このようになると言うの?
「きみは・・・ははうえは?」
 王妃?がどうかしたのかしら?どこに居るかってこと?勉強のし過ぎで忘れたのかしら?
「王妃殿下は国王陛下と共に、外交のため遠方の国に行かれてますよ」
「そう、なのか」
 そうだった、とは言わなかった。まるで元々知らなかったと言うみたいに。国王陛下と王妃の予定を第一王子に教えないなんてことがあるの?
 上手く言葉に出来ない恐怖感が胸の奥で生まれる。
 この部屋は空気が悪くて、殿下の様子も明らかにおかしい。一先ず、殿下にはこの部屋を出てもらって、もっと空気が澄んだところでゆっくり過ごしてもらった方がいいわね。
「殿下がずっとこちらのお部屋でお勉強されていると伺いました。もう休憩はとられましたか?私、殿下とお茶をしたいと思って参りましたの」
「きゅう、けい?」
「はい」
「とっていいの?」
 殿下の問いかけに、胸の奥の冷たい感覚が大きくなる。この人に何が起こっているのかという恐怖感かしら。
「休憩はとっても大事なことですもの。当然ですわ」
「ははうえは、ぼくはやすむひつようがないって、とにかくべんきょうをしないといけないっていってた」
「・・・何故、王妃様はそのように仰ったのでしょうか?」
「ははうえはぼくのしょうらいのしあわせのためだっていってた」
 王妃が語った第一王子の恋物語が蘇る。あの物語の王子は孤独だと王妃は語っていた。
「だれかとこうやってはなすのもひさしぶり。ははうえにはだれともしゃべったらいけないっていわれてたから」
 殿下の口角がほんの少しだけ上がった。笑っているのだろうか。
 もう、胸が痛い。
 王妃は理想の恋物語を叶えるために、態と王子殿下を孤独にしているのだ。あんな無邪気に王子の幸せを語りながら、我が子をこんなにも追い詰めている。信じられない。けど、あの人はそういう人だ。
 嗚呼、ダメよ。私が泣いてしまいそう。今ここで辛いのは、私ではないわ。
 私には、いつだって私を大切に想ってくれている父上と母上がいる。けれど、殿下は寄り添ってくれる誰かが居ないのだわ。使用人達がどれだけ心配しても、殿下は王妃の「誰とも話すな」という言葉に従って耳を傾けなかったのね。だから、彼らは立場の違う私を頼った。婚約者は流石に無視出来ないだろうと考えたんだわ。
 とても酷いことをしているのに、あの王妃にとっては善意なのかもしれないと思うと恐ろしい。だからこそ、殿下は王妃の言葉を疑わずに従ったのだわ。
 何もかもが悲しくて堪らない。
「エリオット様とお呼びしてもよろしいですか?」
「・・・うん。きみはこんやくしゃだからいいとおもうよ」
「ありがとうございます。私のこともローゼリアとお呼びくださいませ」
「うん」
「エリオット様、私と外でお茶をいたしましよう?」
「どうして?」
「私がエリオット様とお話がしたいのです」
 私の言葉を受けてエリオット様がまた少し固まって、それから少し下を向いた。
「いいのかな?ははうえはよくないっておこるんじゃないかな」
「王妃様には、私がどうしてもとせがんだのだと仰ってくだされば、エリオット様があまり怒られずにすむのではないかと思いますよ」
「そんなふうにいってもいいの?ろーぜりあがおこられない?」
「お気遣いありがとうございます。私ならきっと大丈夫ですわ」
 エリオット様は王妃の命令に逆らうことに戸惑っているだけで、私の提案が嫌なわけではないはず。そう信じて私は手を差し伸べる。
「さぁ、行きましょう?」
 エリオット様はぼんやりとした表情のまま私の手をとってくれた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、どうぞお好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

処理中です...