真樹子

MIKAN🍊

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早苗

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「どうしたの」真樹子が割って入った。
「またババアかよ。おい早く会計しろ!こっちが先だ」男がAMEXのゴールドカードをカウンターに叩きつけた。
「何よババア、ババアって。あんたこそジジイじゃない」千夏が食ってかかった。
「何だと、ペチャパイ」
「何よ!チンパンジー!」

そこにシャネルのバッグを抱えた若い女が現れた。
素足にタイトな超ミニ。ニットのキャミソールからこぼれ出そうな大きな胸の谷間。足元はパイソン柄のパンプス。
「まあ何て格好…」主婦達はどよめいた。

「何やってるのよ。宗介、早く行こうよ」
長い茶髪をクルリと一回転させて女は男に腕を絡ませた。
「ああ早苗か。ちょい外で待ってろ」
「どうしてよ」
女はグロスでテカった唇を突き出した。
「お前のションベンが長えからだ」
「混んでたのよ。このオバちゃん達で」
「先行ってろ」
「早くしてね!」

「あの…」一人の女が宗介の前に立った。
「PTA副会長の南川真樹子と申します。何か失礼があったようですけれど私でよければ代表して謝りますわ。ここは納めてもらえませんでしょうか」真樹子は頭を下げた。
「ちょっと、南川さん!」
「謝る事ないわ」
「なんだテメーは」宗介は気色ばんだ。

真樹子は祖父が後援会長をしている地元の政治家の名刺を差し出した。
「これは祖父から預かっている名刺です。因みに叔父は桜中央署で生活安全課の警部補をしています。昔から面倒見の良い叔父で揉め事はいつでも相談にくるように言われています」
「なんだあ?」
「どうか穏やかに納めて下さい。どうしても納得いかないのでしたら第三者に仲介をお願いしなくてはなりません。何でしたらそちらのお会計もさせて頂きますわ」

「ふん。俺はタカリじゃねえぜ」
宗介は店の外にいた女を呼んだ。
「おい!早苗!カードしかねえから金貸しておけ」
「いいわよ」
「ありがとうございます」真樹子は再び頭を下げた。
「お釣りはいらないわ。あ、宗介!ちょっと待ってよお!」

二人は自動ドアの向こうへ出て行った。
すると一人の男が垣根の陰から二人に近づいてきて手を振った。
島津光彦だった。

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