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第十九夜 あなたに踏まれたい
しおりを挟む紹介されたクリニックは小児科も併設していて、子供を連れたマスクの母親が二三人ほど、待合室で絵本を読んでやっていた。一人でスマートフォンをスクロールしている女子高生らしい子もいた。土曜日で学校が休みなのだろう。名前が呼ばれてその子が会計のために受付に去ると、譲治もまた名前を呼ばれ診察室に入った。
個人クリニックだが小さな診察室が三つほどあり、医師が順番に診察室を回るやり方なのだろう。その部屋で丸椅子に座り先生を待った。リノリウムの床をきゅっきゅと音をさせているのは看護師たちの履いている屋内靴だろう。やがてその靴音に混じってペタシペタシと違う音が聞こえてきて診察室に入って来た。
「はいこんにちは」
髪を結い上げ、薄く眉毛を書き、えんじ色のメタルフレームの眼鏡をかけてふっくらした頬には笑いエクボを浮かばせた白衣の先生が目の前に座った。
「浅香譲治さん、ですね」
「はい」
白衣の下も白いシャツに白いパンツ。だがその足元は看護師たちとは違い、サンダル履きの素足だった。量販店で売っているような、安い何の変哲もないスリッポン。美しい五本の指が並んでいるのが印象に残った。
先生はふむふむと紹介状を読みながらパソコンでカルテを作ってゆく。
紹介状は密封されていたからどんな文面なのか譲治は知らない。まさか紗和のあの「施術」の内容を記してはいないとは思うが、少しドキドキしながら先生の言葉を待った。
先生は耳たぶに可愛い、メレダイヤだろうか、美しい石を銀色の縁取りをした小さなピアスをしていた。譲治より少し年上のように見える。そのパソコンの作業を一通り終えると椅子を引き寄せて譲治に向き合った。目の大きな、口元のセクシーな女性だ。向かって左の口角の家や下側に黒子がある。先生目当てに来る男性の患者が多いのではないかと邪推してしまった。
「浅香さんはお仕事は、デスクワーク?」
「はい、今はリモートが多くて週に一日か二日程度それも半日だけ出社するだけです」
「今ねェ・・・。多いですよねー。ちょっと失礼しますねー」
先生の冷たい両手が首筋を挟む。リンパ腺の腫れを診ているのだと譲治にもわかる。
「ふむ。ちょっと胸の音聞かせてもらいますね。シャツ捲ってもらっていいですか」
先生がグッと寄り添い、横を向く。結い上げた髪の後れ毛がフワフワしていた。かすかなリンスとファウンデーションの香り以外はまったくの無臭。アレルギー持ちの子供も診る仕事だからその辺りは気を遣うのだろう。
「急に激しい運動したりとかは? 時々キューっと胸が苦しくなることはありませんか?」
「・・・そう言われれば、時々は・・・」
紗和の「夜伽話」を聞いて、嫉妬のあまり胸が苦しくなることは何度かあった。
「はいじゃあ、後ろ向いてもらっていいですか」
その後譲治は採血と血圧を測定され心電図を取られた。その結果が出るまで再び待合室で待たされた。
「お勤め先の健康診断はいつでしたか」
再び診察室に呼ばれた。先生は心電図のグラフを見ながらそんなことを訊いた。
「昨年の秋でした」
「その時は? 何か所見はありましたか」
「いいえ、特には・・・」
「んー・・・。少し心拍に乱れがありますねえ・・・。おうちではずっとパソコンですか?」
「まあ。リモートですから、会社でやってることを・・・」
「体重も増えたでしょう」
「そうですねえ、言われてみれば、二三キロは・・・」
「運動不足、ですね」
と先生は言った。
「今多いんですよ、浅香さんのような人が。今まで片道一時間か二時間通勤していた人が急に巣ごもりしちゃう。通勤って結構な運動でしょ? 駅の階段の上り下り、電車の乗り換え。それに、ずっと立ってる・・・。みなさん知らないうちに運動してたんですよ。それを急にやめちゃって家の中にばかりいれば当然そうなります。コレステロールも危険域ではないですが高いですしねえ。血液って心臓だけで循環してるんじゃないんですよ。身体中の血管が運動することで循環を援けてるんです。特に、足の裏ね」
「足の、裏、ですか・・・」
譲治は見るともなしに先生の素足に目を落とした。そんなところをあまりじろじろ見るのは失礼だ。そう思ってはいてもつい、見てしまう。
「どうされました?」
冷や汗が出た。まさか先生の足はお綺麗ですねとも言えない。
「いや、いいサンダルだな・・・と」
あはは。先生は笑った。
「やあねえ。ホームセンターで売ってる安物ですよ。・・・浅香さんて、面白い方ですね」
特に薬を処方されることもなく一週間後にまた来院し、それまで、朝夕の運動をして経過を見るということで家に帰った。
帰りの電車の中で、譲治は憂鬱を抱えた。
女性の足に興味を持つなんて・・・と。
門倉医師が紗和の足をマッサージしたと彼女自身からその様子を聞いた時も昂奮して紗和の足を舐め回し、勃起した。こういうのを「フェチ」というのか。自分は「寝取られ好き」で「足フェチ」なのか、と。
まいったな・・・。完全に「ヘンタイ」じゃないか。
紗和はいつもの普段着とはちがう、Tシャツにショートパンツという軽装で掃除機を動かしていた。確かに、季節はもう蒸し暑い梅雨に入りかけていたが、こんなしどけない格好でいる妻も結婚以来初めて見る。スリッパの中の素足を思ってしまう。
「ただいま・・・」
「お帰りなさい。・・・どうだった?」
「運動不足だってさ」
クリニックから渡された運動不足解消のお勧めメニューというパンフレットをテーブルに置いた。掃除機を片付けた紗和がそれをとりあげてパラパラとめくった。
「ジョギングよりはウォーキングの方が負担が少ないし長時間身体を動かすのにいいって書いてあるね。最低三十分以上。理想的には一時間か・・・。ちょっと、行って来ようよ」
「え?」
「今から出て、お昼どこかで食べて戻ってくる。わたしも付き合うから。どう?」
紗和は譲治の返事も待たずに寝室に入った。開いたドアから彼女がベッドに座ってソックスを履いているのが見えた。その爪先の少し剥げかけた赤いペディキュアに艶めかしさを感じ、舐めたいという欲望が頭を擡げはじめた。
大股で、腕も大きく振り、踵で着地することを意識して、力強く地面を蹴る。
パンフレットにはそう書いてあった。が、少し前を歩く紗和の姿を見ていれば同じように真似るだけで事足りた。妻の歩く姿もキマッていたが、そのショートパンツからスラリと伸びた生足の美しさと、歩く度にキュッキュッと揺れる尻にフェティッシュな魅力を覚えた。
駅を中心に大きく迂回するルートを取れば大体一時間でマンションに戻れる。主に大通りの舗道をたどるのだろうと思っていたら、紗和の足はどんどん駅から離れ幹線道路を首都高のインターに向かう道を取ってゆく。途中でランチを摂るなら駅の周辺の方がいいのにと思っていると、ある建物の前で紗和の足が止まった。
ラブホテルだった。
「ちょっと、休みましょう」
振り向いた妻の目に、あの蠱惑な色が宿っていた。
妻と共に普通のホテルに泊まったことはもちろん何度もある。しかし、こうしたセックスを目的とした宿泊施設に入ったことはなかった。紗和と結婚する前にも付き合った女性はいたが二人とも深い関係になると別れてしまい、このような猥褻な施設へ誘うほどの間柄になれていなかった。きっと紗和は違うだろう。峰岸との付き合いで、こうした施設での経験を飽きるほど重ねてきたのだろう。
「へえ、わりと落ち着いてるのね。もっとゴテゴテしてるのかと思った」
紗和は譲治の推測を補強するようなことを言った。先生の施術を受ける前の紗和ならこんなことは言わなかったろう。こういうところも変わった部分の一つだと思う。
紗和の言葉通り、内装はいたってシンプルでキングサイズのベッドも落ち着いたベージュのカバーがかけられていたし、壁に掛けられたいくつかの小さな絵画もレプリカだろうが現代美術というジャンルのだろう、抽象画でまとめられていた。ただし、バスルームもトイレもガラス張りでベッドから丸見えなところは、やはりそれ風の宿泊施設を感じさせた。
「お風呂、入りましょう。・・・一緒に」
蠱惑の目の紗和が譲治を誘った。そして服を脱いだ。Tシャツ、ショートパンツ、タンクトップのようなスポーツブラを脱ぎ去ってしまうと青色のTバックショーツの尻を突き出した。
「あなた・・・。脱がせて」
紗和は演出しているのだ。セクシーな雰囲気を作って、譲治を昂らせようとしている。その健気さが胸を打った。
紗和の突き出された尻の前に片膝をついて、そのすこし汗ばんだ尻に手を置いた。
「ねえ、あなた。わたしのお尻、好き?」
「好きだよ」
ショーツに指をかけ、ゆっくりと下げて行く。尻たぶにキスをし、舐める。下げる、舐める。クロッチが濡れて貼りついている。この部屋に入ってから感じてしまったのだろうか。それとも、歩いている間にか、それともラブホテルを見てからか、それとも、家を出る前にすでに、か。ウォーキングの間中、イヤらしい妄想をしていたのだろうか。ホテルを見てたまらずに入ったのだろうか。そもそも、このホテルを知っていて、わざとこのコースをとったのだろうか。
キスをしながら紗和の股間に口を寄せようとした時、スッと尻が遠ざかった。
「あとは、お風呂でね」
うふ。
蠱惑が妖しく笑った。
全裸の紗和を追って全裸になりバスルームに入った。紗和が甲斐甲斐しくお湯を張る。
「お湯が溜まるまで、洗いっこしましょう」
シャワーヘッドを取ってお互いに湯をかけあう。と、浴槽の反対側に白い板が立てかけてあるのに気付く。エアーマットだ。気づいた譲治の視線を追った紗和が先にそれを引き下ろして床に敷いた。
枕の部分が高くなっている。紗和はそこに頭を乗せてゴロンと横になった。
「あなた。お湯、かけて」
紗和のそばに膝をつき、その美しい裸体にお湯をかけてやる。たちまち白い湯気が湧き、マットを打つお湯のたてるゴーっという音でバスルームが満たされる。
目と目が合う。譲治は妻の愛らしい唇にキスした。
「キレイだよ、紗和・・・」
紗和の手が譲治の身体に触れる。それは膝の間に潜り込み、譲治の陰嚢を捉え、揉み込む。
「あなたのこれ、好き・・・」
もう一度妻の首を抱えキスをする。
ソープを探すと透明な瓶に入った透明な液体らしきものを見つけた。逆さにすると中の液体がゆっくりと傾いて口からとろーりと流れ出した。ジェルだ。それを手に取り、伸ばして紗和の身体に塗ってやった。お腹から徐々に上に上がって柔らかな乳房を包み込み、さらにジェルを垂らして円を描くように乳首の周りに塗った。
「あん・・・、あん・・・」
可愛らしい声で鳴く紗和。もっと鳴かせたくなってもっとジェルを垂らし攻撃目標を下半身に変更する。あの先生の第一回目と第二回目の情景を思いだしながら、両の掌全体を白くて柔らかな肌に滑らし、さらにジェルを追加してトロトロにしながら。
譲治の男根がギュ、と握られる。まるでそれ以上ダメとでも言うように。もちろん、無視する。紗和もジェルを使っている。せっかく彼女の身体に塗り付けたのをかき集めている。竿を握って陰嚢をモミモミしてくる。お返しにそのジェル以外の液体で濡れているクレヴァスにさらにジェルを塗り込め、フードを指でこじ開ける
「ああんっ!」
「・・・紗和の負け」
「ふふっ・・・。あなたがそんなこと言うの、初めてじゃない?」
「そうか・・・。初めてだったかな」
「初めてよ・・・。ううんっ・・・、そこ・・・、ああん・・・」
クレヴァスの中に指を入れる。そして、露出したクリトリスを、舌で。紗和の嗚咽はそのせいだ。これがたまらないようだ。紗和の長い脚に添って身体を倒す。屹立を掴んで離そうとしない手に片手を添えて手を離すように誘う。
「ああん、ず、ズルい・・・うんっ・・・」
そのまま片脚を上げて紗和の股間に滑り込む。上げたヌルヌルの脚を首に巻きつかせ、紗和の女への愛撫に専念する。両腿を抱えしとどに濡れそぼった淫裂の襞を吸い、舐め、舌を潜り込ませ、核を指で転がす。
「はああん、だ、だめあああんっ!・・・、そん、あああっ、あ、い、いいいっ! あ、いいくっ、いくぅっ!・・・んんんんんん」
ビクッ、ビクッ、カクカク、カクカク・・・。
「完全に、紗和の負け」
「ん、やあんっ!・・・あ、いま、イッて、ああん、ダメェんっ!・・・んんんんん」
再び痙攣する紗和の身体を強引に裏返し、さっきしようとしてできなかったことをする。伏せた紗和の尻たぶを強引に開き、その固くすぼまった口に舌を這わせる。ワザと水音をさせながら、ゆっくりと、ねっとりと。
「そこだめ、そこだめェ・・・やあああん、やめ、やめてああん、だめえええんっ!」
「あのビデオ見たら、したくなったんだ」
譲治は言った。
「僕には、きみを、紗和を虐めたりいたぶったりはできない。どうしても、できないんだ。でも、こんなふうに可愛がることはできる。紗和の身体なら、どこだって、舐められる。
それでも、いいかな・・・」
紗和は振り向いた。
「あなた、きて」
彼女の柔らかな身体に添うように身を滑らせ、再び妻に口づけした。
「嬉しい。わたし、嬉しいの。大好き。大好き、あなた・・・」
そしてもう一度、紗和の足元に戻り、足を手前に折った。そして、そのペディキュアの剥げかけた指を舐め、咥えた。指の股に、舌を這わせた。
「美味しい。紗和の足、美味しいよ」
足の裏を全て舐め、もう片方の足の指に指をからませた。
「ああん、か、感じるぅ・・・んんんっ、き、も、ちいいいん・・・」
「紗和、お願いがあるんだけど・・・」
丸い桃のような尻を傾けて振り向いた紗和に譲治は言った。
「踏んでくれないかな、足で、ぼくを・・・」
譲治はそのまま紗和に逆さまの向きでマットの上に仰向けになった。一瞬躊躇した妻だったが、すぐにその意味を理解し、夫の脚を開いてその間に脚を入れた。昨日キッチンのテーブルの下で戯れにしたことを夫は、譲治はして欲しがっている。それは正しい理解だった。
投げ捨てられていたボトルを取り、自分の両足にジェルを塗して譲治の股間に押し当て、竿と陰嚢をグッと、踏んだ。
「ああっ・・・」
とたんに譲治の男は反応した。ムクムクと体積を大きくし、屹立を硬くし、男根を脈打たせた。
「もっと、もっと踏みつけてイジリまくってくれっ!」
紗和の中に被虐とは全くベクトルを異にした感情が芽生えた。
男根を両脚で挟み込み親指の股、小股を巧みに使って竿を扱き、陰嚢を掴み、潰した。
「ああ、ああっ! で、出るっ!・・・」
白い涙が噴き出した。それは何度も短く間欠し、ようやく息絶えた。その、あまりにも甘美な快感が過ぎ去り、ふと顔を上げて妻の顔を見た。
妻の目の蠱惑に、悪魔が宿っていた。
「紗和、奴隷の話、・・・受けてみようか」
無意識にその言葉が口から出ていた。
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