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05 陸軍内の対立と皇帝の決断
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数時間前。
ヤヨイが傍聴した『御前会議』に先立ち、準備会議が行われた。
場所は統合幕僚本部ではなく、皇宮の会議室。出席者はトーガ姿の帝国皇帝と十人委員会、財務省の担当官と資源調査院の担当官。『国務長官』とも言えるヤンと特務機関のウリル。それに統合幕僚本部の面々と、第一軍から第三軍までの司令官とその幕僚だった。
実質的な戦争遂行のための意思決定を行う会議であり、先刻の『御前会議』などはこの準備会議の決定を踏まえて行われた儀式のようなものだった。
その会議はここ数週間に及ぶ陸軍の統帥部内の対立を引きずっていて、最初から険悪なムードで始まった。
議題はもちろんチナに対する侵攻計画に関するものだった。
皇宮の会議室の上座に当たる暖炉の上には、帝国が標榜するいにしえのローマの神君カエサルの、赤いマントを風に靡かせた颯爽とした軍服姿の全身が描かれた大きな絵画が飾られていた。皇帝はその下の一人がけのソファーに白いトーガを纏ってゆったりと脚を組んでいた。両の腕はひじ掛けに置かれていた。少しでも険悪な雰囲気を和らげようという配慮なのか、彼の浅黒い健康的な顔には厳かながらも穏やかな色が浮かんでいた。
しかし、その真正面にいた統合参謀本部長は違った。『御前会議』ではその金を模した黄色いマントで大いなる威厳を演出できた彼だったが、それに先立つこの準備会議ではマントもなく、始終ただおろおろしてばかりいて議論の対立点を要約するのが精一杯のていたらくだった。このような、ロクに調整能力もないような男を本部長に推挙するようでは・・・。その場にいた目の見える者からは陸軍の先々を思いあぐねる聞こえない溜息が会議室のそこかしこから漏れ始めていた。特に皇帝のスタッフであるヤンとウリルは最高司令官の背後に控えつつも、それを抑えるのに苦慮していたのだった。
侵攻軍を三軍に分けることでは幕僚本部も前線の司令官たちも一致していた。そして三軍とも適当な位置までチナ領土に侵攻することも、中央軍である第一軍を言わば「扇の要」とし、両翼に当たる北の第二軍と南の第三軍が敵中に深く切り込んでゆくことも意見の一致を見ていた。
だがその先が問題だった。
第二軍のハットン中将は、中央軍正面に立ちはだかる国境から100キロ内陸の4千メートル級の山脈地帯を迂回し、炭バサミのように北と南からそれぞれ第二軍と第三軍が足並みをそろえて敵中に切り込む侵攻案を主張した。亜麻色の髪をきれいに撫でつけたいかにも秀才然とした目つきの鋭い男で、その挑戦的な瞳を真っ向から一つ上級の老練な大将に向けていた。
「目的がチナをして降伏せしめるところにあるのならば、それが最も有効な作戦であると考えます。チナは首都を守るその兵力を二分せざるを得ず、必ずや早期に窮地に陥るでしょう」
それに対して異論を唱えたのが第三軍のモンゴメライ大将だった。
「ジョージ。敵の兵力の分散を期すのは私も君と同じ意見だ。だが、『足並みをそろえて』というのはどうか。いくさには予定外想定外のことなどいくらでも起こりうる。それに今までの写真偵察での敵情を見る限り、敵の主力はほぼ首都の周辺に集中しているものと思われる。君の第二軍もわが第三軍も、敵に相当程度のダメージを与えるためにはその先鋒をかなり奥深いところまで侵攻させずばならなくなるだろう。しかも『足並みをそろえて』だ。
そこで君に質したいのだが、君の言う『早期』とは、一体どれほどの日数を考えているのかね?」
大将は年齢の割に艶やかな肌をした白髪の下の同じく白い口髭の先を捩りながらゆったりと脚を組んでいた。そして、時折大ぶりなジェスチャーを加えつつ、相手のハットン中将ではなく皇帝の背後にあるテーブルを囲みつつ椅子を回して議論に耳を傾けている十人委員会と財務省の担当官のほうを意識し、ことさらに「日数」という言葉を強調した。
ここのところ帝国は軍事費の増大に悩んでいた。五千トンの最新鋭戦艦を四隻も建造し、小型ガソリンエンジンと装甲車両を開発して量産、それに初の発動機を積んだ航空機を偵察機として完成させ、実戦に配備していた。そして今また十数個以上もの軍団を西の国境へ集めている。国庫は戦争を前にしてすでに底をつきかけていたのだ。戦争が長引けばそれだけ軍費はかさむ。そろそろ戦時国債の発行も視野に入れねばならない時期に来ていた。それには宣戦布告が必要になるのだが・・・。
「おおよそ、一か月、ないし二か月を予定しています」
ハットンは彼の背後に控えている第二軍の参謀長を顧みつつ、胸を張った。
「長いな、ジョージ。長すぎる」
まるで年長者が若輩を諭すかのように、モンゴメライはゆっくりと首を振った。階級が上ということもあり、二人の対立は常に教師と優秀な生徒という構図を意識して戦わされていた。
ハットンには大将のその態度が我慢ならなかった。同じ中将の中では最も若く優秀で、野心的な軍人だった。海軍と同じく、陸軍内もまた士官学校での成績がモノを言う世界だった。同期中席次一番で入学してそのまま卒業した彼はエリート中のエリートとしてのプライドを賭けて、陸軍の重鎮に対して一歩も引かない覚悟で臨んでいた。
「では閣下。閣下ならどのように『早期』に目標を達成なさるのですか。ふた月が長いと仰るなら、閣下には例えば半月以内ほどにチナを降参させる手だけがおありになるのでしょうな」
「ある」
モンゴメライ大将は重々しく断言した。
それはハットン案より自案が優れていることを周囲に印象付けるための演出のようにも思えた。
「私のスタッフの案ならば、ひと月とは言わない。二週間から三週間で決着を付けられる」
ほお・・・。
皇帝の背後からは憂鬱とは対極にある、感嘆の吐息が漏れ聞こえた。財務を担当するものからすれば、戦争が早期に決着するのならばそれに越したことはないのだった。当然に皆の関心はモンゴメライ大将の「早期決着案」に集まった。
その空気に気分を害されたのか、ハットンはイラついて急かした。
「ですから、それをお聞きしたいと言っているのです!」
大将は穏やかに手を挙げて歳若の秀才を諫めた。まるで、結論を先走る優秀な生徒を諫める老教師のように。まるで、熟練の賭博師が勝を焦る相手の勇み足を誘うかのように。
「ある程度の地点までは全軍が前進する。それは同じだ。
だがその後は第一軍は前進地点で強固な陣営地を築いて留まり、北の第二軍もさらに前進するがこの、」
大将は傍らのイーゼルに掛けられた侵攻配置図の北を指した。
「チンメイ山脈の北、クンカーの街を攻略後はそこに留まり、その一帯を広範囲に占拠して多数の陣営地を構築、そこから敵地を砲撃するにとどめる。砲弾は送っても兵は留め、敵の主力をを引きつけるのだ。
そして、敵の主力が第二軍に誘われ移動を開始したのを見計らい、我が第三軍が侵攻を開始する。このルートを辿って、最終目標はここ、遠くアルムの街まで侵攻する。そのルートの総延長は約5百キロにも及ぶが、一日40キロを走破出来れば十数日ほどで十分に可能だ。
知っての通り、アルムはチナの第二の首都とも言える、付近に漁村もある大きな街だ。ここを攻略されるとチナはもう丸裸同然になる。敵の首都の喉元を急襲してその首にナイフを突きつけ、降伏を迫るのだ!」
一同は静まり返った。
その沈黙はトーガの者たちと軍服の者たちとでは、意味が違った。
トーガの集まりである十人委員会の面々はテーブルに向かうと両隣や向こう側と額を付け合う様にしてひそひそ話を始め、皆首をウンウンと降りながら唾を飛ばし合った。聞くともなしに聞えて来るその内容は、大方が、
—半月以内に戦争に決着がつくならば、願ってもない—
という、至極当然のものだった。
だが、軍服組の沈黙はそれとは正反対のものだった。みな押し黙ってハットン中将の顔色を窺った。
中将はしばらく黙っていたが、やがて首を横に振りながら、
「それは無謀ではありませんか、閣下。失礼を承知で申し上げますが、絶対に、無理だ」
「ジョージ、話はまだ途中なのだ。参謀長、例の資料をお配りして説明を」
モンゴメライ大将の背後から肥満体の中将が立ち上がり、部下の参謀たちに命じて用意したパンフレットをその場の出席者たちに配り始めた。
ヤンも受け取り、背後から皇帝に差し出した。
「・・・空挺部隊、かね」
パンフレットに目を通した帝国軍最高司令官は、目だけを上げて白髪の大将を睨んだ。
「左様です、陛下。これより作戦詳細につき、マクスウェル中将よりご説明いたします」
大将が微笑を持って受け応えると、肥満体の参謀長は配置図を掲げるイーゼルの真横に起立し、説明を始めた。
「陛下、お集まりの皆様。本作戦は帝国陸軍史上初の空挺部隊と機甲師団による共同作戦となります」
「オペラチオン・マルクト・ウント・ガルテン・・・」
パンフレットに書かれた表題をハットン中将が読み上げた。
「ハットン中将。『Operation Market garden』、オペレーション・マーケット・ガーデンです」
ハットンの方が先任であるため、マクスウェルは礼をとった。帝国語風に読もうと英語風に読もうと同じである。その小癪な態度にこめかみをヒクつかせたハットンだったが、自制した。
マクスウェルの説明する「市場と庭」作戦とはこのようなものだった。
北方第二軍の前進の後、第三軍主力もまた非武装地帯を超えてある程度の前進を行う。その後、一度停止し陣営地を確保する。次に、第二軍がクンカーの攻略に目途をつけたのを見計らい、まず空挺部隊がチンメイ山脈の麓と海岸線の間にある街道沿いの街々に降下、それぞれの街を通って海にそそぐ五本の川にかかる橋を全て抑える。しかる後に陣営地を出発した機甲師団が妨害する敵を蹴散らし、川にかかる確保された橋を渡って一気に街道を攻め上り、最終目標のアルムに到達、まず漁村を占領し、その後は海軍の艦艇から補給を受けてチナの心臓部に直接睨みを利かせる、というものだった。
「この『マーケット』作戦を担当する部隊ですが、すでに第一近衛師団に第一落下傘連隊を新設、兵の訓練に入りました。ひと月後には実戦配備する予定です。そして、『ガーデン』のほうの機甲部隊は目下、第二軍に編入されている第十一軍団の第二機甲師団を充てる予定ですが・・・」
そこでマクスウェルは上司であるモンゴメライ大将に目配せした。申し上げてもいいのですか、というように。
モンゴメライ大将は片手を軽く振ってわかったというような仕草をし、ハットンに身を寄せ、こう言った。
「そこでなんだが、ジョージ。貴軍はクンカーに留まって敵を惹きつけてもらうわけだから、長距離砲が必要となるだろう。第三軍の砲を貴軍に融通する代わりに貴軍の第一機甲師団を第三軍にもらいたいのだ。地上打撃力を強化したいのでね」
「お待ちください、閣下!」
言いたいだけ言いまくられていたハットンだったが、ついに忍耐の限界を感じたのか、反撃に転じた。
「お説拝聴いたしました。ですが、どうしても納得できかねる点がいくつかあります!」
「ほお・・・」
モンゴメライ大将は、反論を伺おうというように鷹揚に構え、脚を組みなおし、両手を広げてみせた。
「小官も参謀本部が編纂した旧文明の以前の戦史ぐらい目を通しています。閣下の作戦案は千年前の二十世紀中ごろに欧州の大戦で行われたものが基礎になっているように思われますが、あの作戦は失敗したのですよ。
まず第一に、空挺部隊等というものは本来、対峙して膠着した戦線の敵陣の背後に兵力を投下し、そこに別な戦線を構築して敵をして混乱せしめるためのものです。いわば奇襲がその本領なのです。それなのに、これから侵攻しようとする敵地に先行させてしかも橋を守らせるなど、まるで騎兵部隊に籠城戦をやらせるようなものです。敵に包囲されて機甲部隊の到着前に全滅させられるのが目に見えています。
しかも、機甲部隊に一日平均40キロを走破させるなど、いったい何を根拠に算出された進軍速度なのでしょうか」
ハットンはいかにも士官学校の秀才らしく、戦法のセオリーと数値を追及して反撃の度を高めていった。
「チナの正規軍総兵力は我が方より若干多い約30万。軍閥なども入れれば、その総兵力は50万を超えると言われます。今回、これも陸軍初の写真偵察により今までなかったほどの詳細な敵情を得ることが出来ました。ですが、西部戦線各部に置いて把握できた敵部隊はその十分の一にも達しておりません。約二十万と言われる軍閥がチナの土地に住む人民の中に紛れ込んだ、言わばゲリラのような存在だからです。正規軍が首都周辺に集まっているといっても、第三軍先鋒の、しかも機甲部隊に続く機械化歩兵は戦力として一万ほどにしかなりません!」
「ジョージ。だから君の機甲部隊を貸してくれと言っているのではないか」
「さらにです。
仮に空挺部隊が橋の占拠を行ったとしても、その橋は全て機甲部隊の車両を通過させ得るものなのですか? 仮にそれがダメだったとして、仮設橋を掛けるまでにさらに時間が経過します。それまで最先鋒の空挺部隊は敵中に孤立することになります。機甲部隊が到着する前に、彼らが全滅している可能性もあるのではないですか」
ハットンは切々と訴えた。
「仮に機甲部隊が一万から二万になったところで、この「マーケット・ガーデン」が無謀であるという本質は変わりません。
『いくさには予定外想定外のことなどいくらでも起こりうる』先ほど閣下がご自身で仰ったお言葉を、失礼ながらそのままお返ししたく存じます!」
白熱し過ぎた空気は、もはやだれにも冷ますことは出来なかった。沈黙は、決断を求めていた。皆の視線は自然にトーガの最高司令官に集まっていた。
皇帝は黙って目を閉じ論戦に耳を傾けていた。その場の者たちの視線が自分に集中していることも承知で、瞑目し続けていた。
「ジョージ。一つ、訊いてもいいかね」
第三軍司令官は静かに同僚である第二軍司令官に語り掛けた。
「君の言わんとするところはよくわかった。それでは逆に君に問いたい。君の言うように、北と南から同時にチナの心臓部へ侵攻するとして、チナの降伏までには一体どれほど時間がかかると考えているのか。それまでにどれほどの人的な、戦費的な消耗をする予定なのかを聞かせて欲しい。
また、大部隊を一気に動かせば膨大な補給が必要になる。海から支援を受けられる第三軍はいいとして、第二軍はどうかね。これから、冬になる。このバカでかいチンメイ山脈の北側は、まだ帝国の兵が知らない未開の地なのだ。冬季の積雪なども考慮したのかね? 場合によっては補給隊の道が閉ざされ、一つや二つの小隊どころではない、先鋒の数万の大部隊が孤立して立ち往生する可能性を考えてみたかね?」
「冬季は海も荒れると海軍から報告を受けております。
北部での冬季の補給線の問題は今研究中です。ですが、大筋では安全策をとるべきだと申し上げているのです!」
「そしてカネとモノとヒトと時間が無限にすり減ってゆき、戦争は泥沼化する。元老院とそちらの十人委員会の諸閣下方はそれを一番恐れておられると思うのだが」
モンゴメライ大将は皇帝の背後に集っているトーガたちに会釈をした。
「どうだろうか。わかってもらえぬものだろうか、ジョージ・・・」
そのようにして、老練な教師は優秀な生徒を諭した。
白いトーガの最高司令官はようやく口を開いた。それは論戦を繰り広げている二人の司令官ではなく、背後のテーブルに着いている委員会の面々に向かって問われた。
「クィリーテス(市民諸君)。どう思うかね。予算を精査し、執行を監督する君たちの意見も聞いたうえで判断を下したい。そうでなければわたしは、国政を預かる者として、内閣府に臨時の予算を編成するよう命ずることが出来ない。いかに正当な理由があり、いかに高邁な理念があり、理想があり、喫緊の必要があったとしても、帝国を確かな予算の裏付けもなしにいくさに導くことは、わたしにはとても出来ない」
十人委員会の最も議員歴の長い者が彼らの意見を集約し、立った。
「陛下。このところの軍事費の増加により、国庫は今、危機に瀕しております。この上はより早期に決着の付く方法をお選びいただきたいというのが我々の等しく思うところでございます」
「・・・わかった」
そして皇帝はもう一度目を瞑り、しばし沈思に浸った。やがて立ち上がった彼は、元老院の議場で最初と最後の演説をするときのように一点の曇りもない瞳を見開き、目の前の帝国軍指導者たちを見据えた。
その場にいた全ての軍人が起立し、軍用サンダルの踵を合わせた。
「コン・ミリーテス」
と彼は呼びかけた。
「これ以上のチナの横暴は帝国の存立を危うくする。
そう考え、今まで多くの時間をかけていくさの道を模索してきた。
今から私は帝国皇帝として、帝国軍最高司令官として、思うところを申し述べようと思う。私の取るべき道が今貴官たちが申し述べた中にしかないと言うのであれば、私はそのいずれかを選ぶであろう。
だがそれを述べる前に、貴官たちに約束して欲しい。
私がどのような道を選ぼうとも、目的達成に向け私を信じて互いに協力し合い、その類まれなる能力を存分に発揮して欲しいのだ。帝国の、勝利のために。
約束してくれるかね? モンゴメライ大将」
「仰せられるまでもなく、小官は総司令官陛下の言に従うのみであります」
「君はどうかね、ハットン中将」
「小官も同じです。陛下がどのような決断をしようとも、命令を遂行するのみであります」
カエザル、インペラトールはウムと頷き、口を開いた。
「私は、モンゴメライ大将の言を用いる。統合幕僚長。ただちにその旨を全軍に伝達、各員目標完遂に奮励努力せよ。ヤン議員!」
皇帝は背後に控えるヤンを顧みて、言った。
「はい、陛下」
「宣戦布告の最も適切な時を図り、開戦後もことあるごとに機会をとらえ、チナとの和睦を図るよう時機を逸することの無きようにしてもらいたい」
「かしこまりました」
「そして、ウリル少将」
「はい」
「すでにチナに潜入した情報員は悉く連絡を絶ったと聞いている。だが、正確な情報が勝敗を決する重要な鍵となる。至急手配りをし、正しい情報を持って帝国を勝利に導くよう希望する」
「かしこまりました、陛下」
「ではこれにて散会する。帝国に勝利の栄光のあらんことを!」
そう言ってカエザルは、トーガの端を左手に巻き付け、皇帝を湛える唱和の中、退席した。
ヤヨイが傍聴した『御前会議』に先立ち、準備会議が行われた。
場所は統合幕僚本部ではなく、皇宮の会議室。出席者はトーガ姿の帝国皇帝と十人委員会、財務省の担当官と資源調査院の担当官。『国務長官』とも言えるヤンと特務機関のウリル。それに統合幕僚本部の面々と、第一軍から第三軍までの司令官とその幕僚だった。
実質的な戦争遂行のための意思決定を行う会議であり、先刻の『御前会議』などはこの準備会議の決定を踏まえて行われた儀式のようなものだった。
その会議はここ数週間に及ぶ陸軍の統帥部内の対立を引きずっていて、最初から険悪なムードで始まった。
議題はもちろんチナに対する侵攻計画に関するものだった。
皇宮の会議室の上座に当たる暖炉の上には、帝国が標榜するいにしえのローマの神君カエサルの、赤いマントを風に靡かせた颯爽とした軍服姿の全身が描かれた大きな絵画が飾られていた。皇帝はその下の一人がけのソファーに白いトーガを纏ってゆったりと脚を組んでいた。両の腕はひじ掛けに置かれていた。少しでも険悪な雰囲気を和らげようという配慮なのか、彼の浅黒い健康的な顔には厳かながらも穏やかな色が浮かんでいた。
しかし、その真正面にいた統合参謀本部長は違った。『御前会議』ではその金を模した黄色いマントで大いなる威厳を演出できた彼だったが、それに先立つこの準備会議ではマントもなく、始終ただおろおろしてばかりいて議論の対立点を要約するのが精一杯のていたらくだった。このような、ロクに調整能力もないような男を本部長に推挙するようでは・・・。その場にいた目の見える者からは陸軍の先々を思いあぐねる聞こえない溜息が会議室のそこかしこから漏れ始めていた。特に皇帝のスタッフであるヤンとウリルは最高司令官の背後に控えつつも、それを抑えるのに苦慮していたのだった。
侵攻軍を三軍に分けることでは幕僚本部も前線の司令官たちも一致していた。そして三軍とも適当な位置までチナ領土に侵攻することも、中央軍である第一軍を言わば「扇の要」とし、両翼に当たる北の第二軍と南の第三軍が敵中に深く切り込んでゆくことも意見の一致を見ていた。
だがその先が問題だった。
第二軍のハットン中将は、中央軍正面に立ちはだかる国境から100キロ内陸の4千メートル級の山脈地帯を迂回し、炭バサミのように北と南からそれぞれ第二軍と第三軍が足並みをそろえて敵中に切り込む侵攻案を主張した。亜麻色の髪をきれいに撫でつけたいかにも秀才然とした目つきの鋭い男で、その挑戦的な瞳を真っ向から一つ上級の老練な大将に向けていた。
「目的がチナをして降伏せしめるところにあるのならば、それが最も有効な作戦であると考えます。チナは首都を守るその兵力を二分せざるを得ず、必ずや早期に窮地に陥るでしょう」
それに対して異論を唱えたのが第三軍のモンゴメライ大将だった。
「ジョージ。敵の兵力の分散を期すのは私も君と同じ意見だ。だが、『足並みをそろえて』というのはどうか。いくさには予定外想定外のことなどいくらでも起こりうる。それに今までの写真偵察での敵情を見る限り、敵の主力はほぼ首都の周辺に集中しているものと思われる。君の第二軍もわが第三軍も、敵に相当程度のダメージを与えるためにはその先鋒をかなり奥深いところまで侵攻させずばならなくなるだろう。しかも『足並みをそろえて』だ。
そこで君に質したいのだが、君の言う『早期』とは、一体どれほどの日数を考えているのかね?」
大将は年齢の割に艶やかな肌をした白髪の下の同じく白い口髭の先を捩りながらゆったりと脚を組んでいた。そして、時折大ぶりなジェスチャーを加えつつ、相手のハットン中将ではなく皇帝の背後にあるテーブルを囲みつつ椅子を回して議論に耳を傾けている十人委員会と財務省の担当官のほうを意識し、ことさらに「日数」という言葉を強調した。
ここのところ帝国は軍事費の増大に悩んでいた。五千トンの最新鋭戦艦を四隻も建造し、小型ガソリンエンジンと装甲車両を開発して量産、それに初の発動機を積んだ航空機を偵察機として完成させ、実戦に配備していた。そして今また十数個以上もの軍団を西の国境へ集めている。国庫は戦争を前にしてすでに底をつきかけていたのだ。戦争が長引けばそれだけ軍費はかさむ。そろそろ戦時国債の発行も視野に入れねばならない時期に来ていた。それには宣戦布告が必要になるのだが・・・。
「おおよそ、一か月、ないし二か月を予定しています」
ハットンは彼の背後に控えている第二軍の参謀長を顧みつつ、胸を張った。
「長いな、ジョージ。長すぎる」
まるで年長者が若輩を諭すかのように、モンゴメライはゆっくりと首を振った。階級が上ということもあり、二人の対立は常に教師と優秀な生徒という構図を意識して戦わされていた。
ハットンには大将のその態度が我慢ならなかった。同じ中将の中では最も若く優秀で、野心的な軍人だった。海軍と同じく、陸軍内もまた士官学校での成績がモノを言う世界だった。同期中席次一番で入学してそのまま卒業した彼はエリート中のエリートとしてのプライドを賭けて、陸軍の重鎮に対して一歩も引かない覚悟で臨んでいた。
「では閣下。閣下ならどのように『早期』に目標を達成なさるのですか。ふた月が長いと仰るなら、閣下には例えば半月以内ほどにチナを降参させる手だけがおありになるのでしょうな」
「ある」
モンゴメライ大将は重々しく断言した。
それはハットン案より自案が優れていることを周囲に印象付けるための演出のようにも思えた。
「私のスタッフの案ならば、ひと月とは言わない。二週間から三週間で決着を付けられる」
ほお・・・。
皇帝の背後からは憂鬱とは対極にある、感嘆の吐息が漏れ聞こえた。財務を担当するものからすれば、戦争が早期に決着するのならばそれに越したことはないのだった。当然に皆の関心はモンゴメライ大将の「早期決着案」に集まった。
その空気に気分を害されたのか、ハットンはイラついて急かした。
「ですから、それをお聞きしたいと言っているのです!」
大将は穏やかに手を挙げて歳若の秀才を諫めた。まるで、結論を先走る優秀な生徒を諫める老教師のように。まるで、熟練の賭博師が勝を焦る相手の勇み足を誘うかのように。
「ある程度の地点までは全軍が前進する。それは同じだ。
だがその後は第一軍は前進地点で強固な陣営地を築いて留まり、北の第二軍もさらに前進するがこの、」
大将は傍らのイーゼルに掛けられた侵攻配置図の北を指した。
「チンメイ山脈の北、クンカーの街を攻略後はそこに留まり、その一帯を広範囲に占拠して多数の陣営地を構築、そこから敵地を砲撃するにとどめる。砲弾は送っても兵は留め、敵の主力をを引きつけるのだ。
そして、敵の主力が第二軍に誘われ移動を開始したのを見計らい、我が第三軍が侵攻を開始する。このルートを辿って、最終目標はここ、遠くアルムの街まで侵攻する。そのルートの総延長は約5百キロにも及ぶが、一日40キロを走破出来れば十数日ほどで十分に可能だ。
知っての通り、アルムはチナの第二の首都とも言える、付近に漁村もある大きな街だ。ここを攻略されるとチナはもう丸裸同然になる。敵の首都の喉元を急襲してその首にナイフを突きつけ、降伏を迫るのだ!」
一同は静まり返った。
その沈黙はトーガの者たちと軍服の者たちとでは、意味が違った。
トーガの集まりである十人委員会の面々はテーブルに向かうと両隣や向こう側と額を付け合う様にしてひそひそ話を始め、皆首をウンウンと降りながら唾を飛ばし合った。聞くともなしに聞えて来るその内容は、大方が、
—半月以内に戦争に決着がつくならば、願ってもない—
という、至極当然のものだった。
だが、軍服組の沈黙はそれとは正反対のものだった。みな押し黙ってハットン中将の顔色を窺った。
中将はしばらく黙っていたが、やがて首を横に振りながら、
「それは無謀ではありませんか、閣下。失礼を承知で申し上げますが、絶対に、無理だ」
「ジョージ、話はまだ途中なのだ。参謀長、例の資料をお配りして説明を」
モンゴメライ大将の背後から肥満体の中将が立ち上がり、部下の参謀たちに命じて用意したパンフレットをその場の出席者たちに配り始めた。
ヤンも受け取り、背後から皇帝に差し出した。
「・・・空挺部隊、かね」
パンフレットに目を通した帝国軍最高司令官は、目だけを上げて白髪の大将を睨んだ。
「左様です、陛下。これより作戦詳細につき、マクスウェル中将よりご説明いたします」
大将が微笑を持って受け応えると、肥満体の参謀長は配置図を掲げるイーゼルの真横に起立し、説明を始めた。
「陛下、お集まりの皆様。本作戦は帝国陸軍史上初の空挺部隊と機甲師団による共同作戦となります」
「オペラチオン・マルクト・ウント・ガルテン・・・」
パンフレットに書かれた表題をハットン中将が読み上げた。
「ハットン中将。『Operation Market garden』、オペレーション・マーケット・ガーデンです」
ハットンの方が先任であるため、マクスウェルは礼をとった。帝国語風に読もうと英語風に読もうと同じである。その小癪な態度にこめかみをヒクつかせたハットンだったが、自制した。
マクスウェルの説明する「市場と庭」作戦とはこのようなものだった。
北方第二軍の前進の後、第三軍主力もまた非武装地帯を超えてある程度の前進を行う。その後、一度停止し陣営地を確保する。次に、第二軍がクンカーの攻略に目途をつけたのを見計らい、まず空挺部隊がチンメイ山脈の麓と海岸線の間にある街道沿いの街々に降下、それぞれの街を通って海にそそぐ五本の川にかかる橋を全て抑える。しかる後に陣営地を出発した機甲師団が妨害する敵を蹴散らし、川にかかる確保された橋を渡って一気に街道を攻め上り、最終目標のアルムに到達、まず漁村を占領し、その後は海軍の艦艇から補給を受けてチナの心臓部に直接睨みを利かせる、というものだった。
「この『マーケット』作戦を担当する部隊ですが、すでに第一近衛師団に第一落下傘連隊を新設、兵の訓練に入りました。ひと月後には実戦配備する予定です。そして、『ガーデン』のほうの機甲部隊は目下、第二軍に編入されている第十一軍団の第二機甲師団を充てる予定ですが・・・」
そこでマクスウェルは上司であるモンゴメライ大将に目配せした。申し上げてもいいのですか、というように。
モンゴメライ大将は片手を軽く振ってわかったというような仕草をし、ハットンに身を寄せ、こう言った。
「そこでなんだが、ジョージ。貴軍はクンカーに留まって敵を惹きつけてもらうわけだから、長距離砲が必要となるだろう。第三軍の砲を貴軍に融通する代わりに貴軍の第一機甲師団を第三軍にもらいたいのだ。地上打撃力を強化したいのでね」
「お待ちください、閣下!」
言いたいだけ言いまくられていたハットンだったが、ついに忍耐の限界を感じたのか、反撃に転じた。
「お説拝聴いたしました。ですが、どうしても納得できかねる点がいくつかあります!」
「ほお・・・」
モンゴメライ大将は、反論を伺おうというように鷹揚に構え、脚を組みなおし、両手を広げてみせた。
「小官も参謀本部が編纂した旧文明の以前の戦史ぐらい目を通しています。閣下の作戦案は千年前の二十世紀中ごろに欧州の大戦で行われたものが基礎になっているように思われますが、あの作戦は失敗したのですよ。
まず第一に、空挺部隊等というものは本来、対峙して膠着した戦線の敵陣の背後に兵力を投下し、そこに別な戦線を構築して敵をして混乱せしめるためのものです。いわば奇襲がその本領なのです。それなのに、これから侵攻しようとする敵地に先行させてしかも橋を守らせるなど、まるで騎兵部隊に籠城戦をやらせるようなものです。敵に包囲されて機甲部隊の到着前に全滅させられるのが目に見えています。
しかも、機甲部隊に一日平均40キロを走破させるなど、いったい何を根拠に算出された進軍速度なのでしょうか」
ハットンはいかにも士官学校の秀才らしく、戦法のセオリーと数値を追及して反撃の度を高めていった。
「チナの正規軍総兵力は我が方より若干多い約30万。軍閥なども入れれば、その総兵力は50万を超えると言われます。今回、これも陸軍初の写真偵察により今までなかったほどの詳細な敵情を得ることが出来ました。ですが、西部戦線各部に置いて把握できた敵部隊はその十分の一にも達しておりません。約二十万と言われる軍閥がチナの土地に住む人民の中に紛れ込んだ、言わばゲリラのような存在だからです。正規軍が首都周辺に集まっているといっても、第三軍先鋒の、しかも機甲部隊に続く機械化歩兵は戦力として一万ほどにしかなりません!」
「ジョージ。だから君の機甲部隊を貸してくれと言っているのではないか」
「さらにです。
仮に空挺部隊が橋の占拠を行ったとしても、その橋は全て機甲部隊の車両を通過させ得るものなのですか? 仮にそれがダメだったとして、仮設橋を掛けるまでにさらに時間が経過します。それまで最先鋒の空挺部隊は敵中に孤立することになります。機甲部隊が到着する前に、彼らが全滅している可能性もあるのではないですか」
ハットンは切々と訴えた。
「仮に機甲部隊が一万から二万になったところで、この「マーケット・ガーデン」が無謀であるという本質は変わりません。
『いくさには予定外想定外のことなどいくらでも起こりうる』先ほど閣下がご自身で仰ったお言葉を、失礼ながらそのままお返ししたく存じます!」
白熱し過ぎた空気は、もはやだれにも冷ますことは出来なかった。沈黙は、決断を求めていた。皆の視線は自然にトーガの最高司令官に集まっていた。
皇帝は黙って目を閉じ論戦に耳を傾けていた。その場の者たちの視線が自分に集中していることも承知で、瞑目し続けていた。
「ジョージ。一つ、訊いてもいいかね」
第三軍司令官は静かに同僚である第二軍司令官に語り掛けた。
「君の言わんとするところはよくわかった。それでは逆に君に問いたい。君の言うように、北と南から同時にチナの心臓部へ侵攻するとして、チナの降伏までには一体どれほど時間がかかると考えているのか。それまでにどれほどの人的な、戦費的な消耗をする予定なのかを聞かせて欲しい。
また、大部隊を一気に動かせば膨大な補給が必要になる。海から支援を受けられる第三軍はいいとして、第二軍はどうかね。これから、冬になる。このバカでかいチンメイ山脈の北側は、まだ帝国の兵が知らない未開の地なのだ。冬季の積雪なども考慮したのかね? 場合によっては補給隊の道が閉ざされ、一つや二つの小隊どころではない、先鋒の数万の大部隊が孤立して立ち往生する可能性を考えてみたかね?」
「冬季は海も荒れると海軍から報告を受けております。
北部での冬季の補給線の問題は今研究中です。ですが、大筋では安全策をとるべきだと申し上げているのです!」
「そしてカネとモノとヒトと時間が無限にすり減ってゆき、戦争は泥沼化する。元老院とそちらの十人委員会の諸閣下方はそれを一番恐れておられると思うのだが」
モンゴメライ大将は皇帝の背後に集っているトーガたちに会釈をした。
「どうだろうか。わかってもらえぬものだろうか、ジョージ・・・」
そのようにして、老練な教師は優秀な生徒を諭した。
白いトーガの最高司令官はようやく口を開いた。それは論戦を繰り広げている二人の司令官ではなく、背後のテーブルに着いている委員会の面々に向かって問われた。
「クィリーテス(市民諸君)。どう思うかね。予算を精査し、執行を監督する君たちの意見も聞いたうえで判断を下したい。そうでなければわたしは、国政を預かる者として、内閣府に臨時の予算を編成するよう命ずることが出来ない。いかに正当な理由があり、いかに高邁な理念があり、理想があり、喫緊の必要があったとしても、帝国を確かな予算の裏付けもなしにいくさに導くことは、わたしにはとても出来ない」
十人委員会の最も議員歴の長い者が彼らの意見を集約し、立った。
「陛下。このところの軍事費の増加により、国庫は今、危機に瀕しております。この上はより早期に決着の付く方法をお選びいただきたいというのが我々の等しく思うところでございます」
「・・・わかった」
そして皇帝はもう一度目を瞑り、しばし沈思に浸った。やがて立ち上がった彼は、元老院の議場で最初と最後の演説をするときのように一点の曇りもない瞳を見開き、目の前の帝国軍指導者たちを見据えた。
その場にいた全ての軍人が起立し、軍用サンダルの踵を合わせた。
「コン・ミリーテス」
と彼は呼びかけた。
「これ以上のチナの横暴は帝国の存立を危うくする。
そう考え、今まで多くの時間をかけていくさの道を模索してきた。
今から私は帝国皇帝として、帝国軍最高司令官として、思うところを申し述べようと思う。私の取るべき道が今貴官たちが申し述べた中にしかないと言うのであれば、私はそのいずれかを選ぶであろう。
だがそれを述べる前に、貴官たちに約束して欲しい。
私がどのような道を選ぼうとも、目的達成に向け私を信じて互いに協力し合い、その類まれなる能力を存分に発揮して欲しいのだ。帝国の、勝利のために。
約束してくれるかね? モンゴメライ大将」
「仰せられるまでもなく、小官は総司令官陛下の言に従うのみであります」
「君はどうかね、ハットン中将」
「小官も同じです。陛下がどのような決断をしようとも、命令を遂行するのみであります」
カエザル、インペラトールはウムと頷き、口を開いた。
「私は、モンゴメライ大将の言を用いる。統合幕僚長。ただちにその旨を全軍に伝達、各員目標完遂に奮励努力せよ。ヤン議員!」
皇帝は背後に控えるヤンを顧みて、言った。
「はい、陛下」
「宣戦布告の最も適切な時を図り、開戦後もことあるごとに機会をとらえ、チナとの和睦を図るよう時機を逸することの無きようにしてもらいたい」
「かしこまりました」
「そして、ウリル少将」
「はい」
「すでにチナに潜入した情報員は悉く連絡を絶ったと聞いている。だが、正確な情報が勝敗を決する重要な鍵となる。至急手配りをし、正しい情報を持って帝国を勝利に導くよう希望する」
「かしこまりました、陛下」
「ではこれにて散会する。帝国に勝利の栄光のあらんことを!」
そう言ってカエザルは、トーガの端を左手に巻き付け、皇帝を湛える唱和の中、退席した。
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