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2021

「優しい狩人」と「戦艦ミカサを奪還せよ」の性格について

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    筆者は司馬遼太郎さんと塩野七海さんのファンです。歴史好きで戦史好きです。古今東西問わず、いろんな時代地域の歴史に興味があります。

    もっとも関心を持っているのは古代ローマ史と近現代史です。いつかその二つを融合した話を書きたいなあと思っていました。それが「優しい狩人」と「戦艦ミカサ~」です。

    カテゴリー設定には悩みました。これは「正史」ではありません。あくまでもフィクションです。それに現代の水準を越えるような科学技術も出てきません。強いて言えば19世紀から20世紀ぐらいに最新とされたテクノロジーが背景や小道具になってます。

    で、いったい何をうったえようとしとるんだ、オマエは、と言われても、それも困ってしまいます。筆者自身、書きながら「何を言いたいんだろう」と考えているようなありさまなのです。

    このほど、「戦艦ミカサ~」の登場人物紹介を書いていて、一つ思うところがありましたので、以下に記します。


 筆者はいわゆる架空戦記というジャンルは好きです。

 一番最初に読んだのは高木彬光さんの小説だったと思います。この人は推理小説作家なのですが、いわゆる「IF戦記」も書いてます。

 あらすじを紹介します。

 主人公のあるミリタリー系の雑誌編集者が、とある戦史オタクのたまり場になっているバーで不思議なホステスと知り合うところからこの小説は始まります。

 彼女と懇ろになった主人公はすぐに一夜を共にするのですが、二人同時にエクスタシーに達すると突然1942年の北太平洋上を東に向かう空母赤城の甲板上にタイムスリップしちゃいます。二人ともすっぽんぽん のままで。

 当然怪しまれるのですが、その日の年月日を聞いた主人公はとっさの機転で持ち前の戦史知識を披露し、艦隊が向かっているのはミッドウェー攻略のためで、このままだと待ち伏せている米機動部隊に全滅させられる。それを助けるために私は天から遣わされたという口からでまかせを言って信用されます。

 はたして、史実では索敵機が見逃していた海域に米機動部隊が発見され、史実では陸用爆弾を魚雷に換装する手間をかけたために急降下爆撃機の空襲を受けたところをこれを止めさせたおかげで日本機動部隊は全滅を免れる。そういう話です。興味のある方はググるなりなんなりしていただければと思います。

 それ以来、多くの「IF戦記」が書かれています。今では確固たるジャンルを築いており、多くのファンの方がいらっしゃるやに認識しております。

 さて、筆者も「IF戦記」を書いていますが、これは先に挙げたものとは本質的に違います。「優しい狩人」や「戦艦ミカサ~」は「IF」は「IF」でも、「もし未来にこんなことがあったら」という、純粋なフィクション、まっさらの創作物です。歴史を引用してはいますが、過去の歴史をいじくるものではありません。


 

 かつて三島由紀夫はどこだかの講演会で、

「歴史というものはその当時に生きていた人々がどたどた、バタバタ、あーでもないこうでもないと試行錯誤しながらノロノロ進んできたものです。それらが整理された後世から見ますとあのときこうしていればと思うかもわからんが、実は歴史とはそういうものなのです」という意味のことを言っていましたし、筆者の好きな塩野七生も、確かハンニバルのアルプス越えの下りで

「アルプスを越えてきたばかりの疲れ切ったハンニバルを麓で迎え撃っていたら楽に勝てたろうという人がいるが、不可能事を弄ぶ人は歴史に付き合う資格がない」

 と、書いていたように記憶します。当時アルプスの南側はガリア人の住む土地であり、執政官に率いられるローマ軍が元老院の許可もなく越境して進出できる土地ではなかったのです。

「戦艦ミカサ~」には大東亜戦争の分岐点ともいわれたミッドウェー海戦で活躍した米国の将軍の名前を使わせていただいてます。

  先に紹介した高木彬光さんの小説も、しょっぱなはミッドウェーでした。ミッドウェー作戦は、日本海軍がハワイ西方のミッドウェー島を攻略し、アメリカの機動部隊が出てきたらこれをやっつけようとしたものでしたが、日本の機動部隊の空母四隻が全滅して敗退した、大東亜戦争の一大エポック的な海戦でした。

 ですが、筆者は思います。

 仮にミッドウェー海戦で日本の機動部隊の空母四隻が全滅していなくとも、戦争の帰趨にはいささかも影響しなかったのではないか、と。

 そして、それが筆者が本来の意味での「IF戦記」を書けない、書かない理由の一つなのです。

 一つの例を挙げれば、日米の海軍の潜水艦の使い方にその理由を見ることができます。

 日本は潜水艦を艦隊に付随させ、主力艦を攻撃する手段として使いました。空母ワスプを撃沈した伊19号、珊瑚海海戦では空母サラトガも日本の潜水艦にやられました。

 それに対しアメリカは一隻ずつ日本の輸送船の航路や漁場や近海にばらまき、ただひたすら輸送船を狙わせました。結果、敗戦までに膨大な数の輸送船腹が沈められました。

 インドシナ、インドネシアに広がった広大な占領地域からの油、鉄鉱石、コメ(そのころ日本はコメの輸入国だったのです)が全く入って来なくなり、結局は文字通り、日本は干上がって負けたのです。日本の実情をよく観察して組み立てられた極めて有効な戦略であり戦術だったのは認めざるを得ません。

 ですから、ミッドウェーであれ、サイパンであれ、レイテであれ、仮にどこをどうしたとしたところで、仮に赤城や加賀といった主力空母が残存していたとしても、油が無くて港から出られず飛行機も飛ばせず、呉の港で空襲に遭ってやられていたか、戦艦長門のようにビキニ環礁まで曳航されて水爆実験のマトになっただけだったでしょう。


 

 そして、理由の二つ目ですが、その戦略なり戦術は、さらに壮大な地球規模の戦後戦略を踏まえたものだったという点です。

 筆者は日本が敗戦したあの戦争を学校やマスコミが言うように「太平洋戦争」とは呼びません。あれは「大東亜戦争」と呼ぶのが正しいのです。なぜなら、あの戦争は日本が樹立しようとしていた「大東亜共栄圏」を欧米勢力から守るための戦争だったからです。当時世界を形作っていたブロック経済の中で日本がこれに対抗し生き延びるためには「大東亜共栄圏」の実現が是非とも必要だったのです。そしてあの戦争は決して日本が望んだのではありません。あの戦争を欲したのはあくまでもアメリカなのです。

 米英ソの首脳は、カイロだかヤルタだかポツダムだかを経てすでに戦争中から戦後世界の枠組みを話し合っていました。その枠組みの中では主戦場は常にヨーロッパであり、アジアでの戦争は前座、もしくは視聴率の低い打ち切り寸前の裏番組だったのです。

 アメリカはヨーロッパでの戦争に参加することを欲していました。理由は、市場を得るためです。1920年代後半から全世界を襲った大恐慌の痛手を克服するために、アメリカは市場を欲していたのです。ナチスを滅ぼした後、ヨーロッパ世界のヘゲモニーを獲得し、そこをアメリカの市場にするためには是非とも欧州戦線に加わらなければなりません。ですが、アメリカも「戦艦ミカサ」の世界の帝国と同じで大統領の権限だけでドイツに宣戦布告することは出来なかったのです。

 ドイツと同盟を結んでいた日本が宣戦を布告してくれれば、アメリカはドイツに宣戦布告できるのです。太平洋という「裏口」から欧州戦線に参戦し、ヨーロッパをアメリカの市場にし、欧州各国が持っている植民地にさえその覇権を及ぼすことが可能なビッグチャンスが巡ってきたのです。

 ですから、日本を締めあげたのです。日本を戦争に追い込み、戦争せざるを得なくするために。鉄くずや鉄鉱石の禁輸、原油の禁輸、そして満州から撤退をせよと。立て続けにぎゅうぎゅうに日本を恫喝し、脅しあげたのです。普通の国なら即宣戦布告です。ですが、それでも日本は耐えました。国力の差が歴然としていたからです。日本の政治家だって、日米のアリとゾウほどもある国力差ぐらいは知っていました。

 よく「IF」を言う人が「アメリカの言う通りに満州から手を引いていれば戦争にはならなかった」と言うのを聞きます。しかし、それはあまりにも甘い考えです。

 仕事を失い、食べるものも困っているのにさらに身ぐるみはがされ、自給自足のための裏の田んぼや畑まで取られたら、たとえ一介のすっ町人でも、相手が怖いヤクザであっても、たった一本の菜っ切り包丁をふるって立ち上がるでしょう。家族を守るには仕方がなかったのです。

 有名な、ルーズベルトのスタッフ、国務長官ハルが手交した「ハル・ノート」で、日本はもはやこれまでと思ったのです。軍部が暴走したのは事実ですが、軍部の暴走だけで戦争にはなりません。戦争を遂行するには予算が必要なのです。軍部の暴走をもはや抑えきれないほど、そのべらぼうな予算案に反対することができないほど、日本は追い詰められていた、そういう見方が正しいと筆者は思います。

 そしてその「軍部の暴走」こそ、アメリカが待ちに待っていたものでした。

 日本はルーズベルトが巧妙に用意した罠に、まんまと嵌ってしまったのです。

 そして、ウラニウムの臨界を起こすために大砲型を採用した「リトル・ボーイ」、プルトニウムのそれを引き起こすために爆縮型を採用した「ファットマン」。「ちび」と「でぶ」と名付けられた二つの爆弾は日本に降伏を促すために落とされたのではありません。第二次世界大戦後の新しい勢力図におけるアメリカの主導権を世界にアピールするために、投下されたのです。

 それは戦後世界をリードして唯一の超大国になるために挙げた狼煙。戦後世界の人々にアメリカの覇権を強引に認めさせるための打ち上げ花火でした。ヒロシマとナガサキに落とされた原子爆弾は、アメリカが自分たちの金儲けのために投下したものだったのです。


 

 そのように考えますと、特に大東亜戦争に限っては「IF、もしあのときこうしていたら」というものを本気で考えるのがナンセンスになってきます。

 ですので、筆者は全くの空想物語ならなんとか書けますが、「もしあのときこうだったら劇場」のようなものは書きませんし、書けないのです。
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