ぼくのともだち 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 番外編 その1】 北の野蛮人の息子、帝都に立つ

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11 イワンとタオの吉報

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 青い空を、銀色の飛行機が白い雲をひいて北の空に向かって駆け抜けていった。

 最近はこの「ていさつき」が日に何回か飛ぶようになった。いつかはあれに乗って空を飛んでみたいな・・・。


 

 ぼくは帝国語の講習を「卒業」することになった。10人の北の仲間の中では一番乗りになる。

「ミハイルが来なくなるから講習の場所をドミートリーの小学校に移すけど、わからないことがあったらいつでも聞きにおいで」

 イリアはそう言ってくれた。

 よし! これで思う存分サッカーをすることができるぞ!

 6年生のキャプテン、栗色の髪のゲオルクとの約束通り、ぼくはウチの小学校のチームに加わった。毎日放課後は校庭でボールを追いかける日々が始まった。


 

 

 タオは閣下の家じゃないところで練習するようになった。

「まだ日は決まってないんだけど、そろそろ仕上げにかかってるんだ。それで貴族さんの家で楽団の人に聴いてもらってるんだ。かっかもギターやピアノを弾くけど、軍人だからね。やっぱり、『ぷろ』の人に聴いてもらわなくちゃ。それにかっかは今忙しいみたいだし。

 もともとこの音楽会は今行っているブランケンハイムこうしゃくという貴族さんがホッキニン? だしね」

 貴族の全部がそうじゃないらしいんだけど、金持ちの貴族の中にはお抱えの楽団を持っている家もあるという。

 ブランケンハイム侯爵という人はビッテンフェルト准将と同じように近衛軍団の歩兵旅団長をしている軍人なのだけれど、音楽にゾウケイガフカイ? らしくて自前の室内楽団を持っているのだそうだ。もちろん、お屋敷にはピアノもあるらしい。

 それで、舞踏会や晩餐会といった華美? な催しを嫌う皇帝陛下のために、同じように音楽を愛好している貴族たちと誘い合わせて今回の音楽会を企画? したのだという。

「こうしゃくはね、もっと多くの人たちに音楽のスソノ? を広げたいとお考えなんだよ」

 とタオは言った。

 

 ごくたまに降る雨の日やタオと会えない日は本を読むようになった。

 リタやクララに小さな子供向けの絵本を読んでやったりもしたけど、学校の図書館から借りてきた本をひとりで読んだりもした。

 手始めに教科書にも一部が載っている神君カエサルの「ガリア戦記」の小学生向けのヤツを読みはじめた。もともとはラテン語という今は使われなくなった古い言葉で書かれたもので、3000年も前に書かれた書物だというから驚く。

「へえ! ミーシャ、あんたそんなムズいの読むの? 飽きない? 」

 コニーにそう言わせるほどに本に没頭? できるのが自分でも不思議だった。戦争の話が多くてむっちゃおもしろいせいじゃないかと思う。

 わからない単語は前後のわかる単語から想像したりして読み、紙に書きとめておいて後からイリアに意味を聞きに行ったりした。自分が想像した通りの意味だったりしたときはちょっと嬉しかったりもした。


 


 

 そんな日がしばらく続いたある日。

 校庭でサッカーをしていたら青い肌の大男が2人、やってきた!

「よお、ミハイル! しばらくだな。ちったあ、アタマ良くなったか」

「うわ、イワン!」

 なんと、北の里を出るとき国境の川までぼくたちを送ってくれたイワンがアレックスに連れられてやってきたのだった。久しぶりに故郷の言葉を聞いたぼくはたちまちに感極まってしまってイワンに抱きついて泣いてしまった。

 もじゃもじゃのアタマにもじゃもじゃのひげを蓄えたイワンはとても元気そうだった。

「おいおい! 久しぶりに会ったってのに、泣くやつがあるかい!」

 そう言ってイワンはぼくのほっぺたをやさしくぺしぺし叩いて笑った。

「いやな。お前たちが出発したのは満月の日だったと思うが、それからもう一度月が満月になりかけたころにな、ヴォルゴグラードのやつらが襲って来たんだ」

「ええっ?!」

「予想もしてなかったから不意を突かれてな。畑に出ていたやつが何人か矢で手傷を負った」

 一瞬で、ぼくは血の気が引いた。

「それで、それでどうなったの? 誰か死んだ? 父は? お母さんたちは? 姉ちゃんや兄ちゃんは? ヨハンやイワノフやカーチャは!」 

 びっくりして焦ってしまったぼくはついイワンを質問攻めにしてしまった。ふるさとをはるか遠く離れているうちに自分の村が襲われたと聞いては気が動転しない方がどうかしている。

「おいおちつけ、ミハイル。オレの顔をよく見ろ。もし村やお頭やお前の家族に何かあったら、こんなに笑ってると思うか?」

「・・・大丈夫だったんだね」

「大丈夫も大丈夫。畑に出ていて手傷を負ったヤツ以外は誰一人怪我してねえし、死んじゃいねえし、攫われたりもしてねえよ」

 そう言ってイワンはドンッと胸を叩いて胸を張って見せた。

「お頭の命でな、オレは川を渡って第13軍団の砦に急を知らせに行ったんだ。で、次の日の朝イチにゃあ村に援軍を送ろうって話になった。

 そしたら、朝になってルカのヤツが来やがってな。こう言いやがった。

『おい、イワン! ヴォルゴグラードのヤツら、しっぽ巻いて逃げてったぜ』。ってな」

 そうして、イワンは、笑った。

「テッポーだよ、ミハイル。

 帝国からもらったテッポーが、俺たちの村を救ったんだ。ありゃ、スゲーもんだなあ、おい!」

 村と家族が無事だったのを知って身体じゅうからどっと力が抜けた。

「でな、第十三軍団のしれいぶってとこに連れていかれてな。ありゃ、なんていうなまえだったっけな、黒い森の・・・」

「シュバルツバルト・シュタットでしょ?」

「そう、それだ! そこへ連れて行かれたんだ。いくさの報告でな。そしたらよ、シレイカンってオヤジがよ、

『せっかく国境を超えて来たんだから、どうせならお前らに会っていけ』って言ってくれてよお・・・。

 あれだな、帝国のヤツも気の利いた事してくれるもんだな、なあアレックス」

「まあ、お前たちとの友好を深めたいという現れなのだろうな」

 イワンはすっかりアレックスとも仲良くなったみたいだった。

 せっかくはるばる来てくれたイワンにはみんなに会って欲しかった。馬でそれぞれの学校に知らせに行こうかと思っていたら、

「そんなことしなくていい、ミハイル。じつは、アレで来たんだ」

 アレックスが指さした校庭の外の街路にカーキ色のトラックが止まっていた。


 

 それぞれの学校を回って北の留学生10人とイワンを乗せたトラックはアレックスの運転で帝都の南に向かった。

 そこは「飛行場」だった。

 いつも空を見上げて憧れていた「ヒコーキ」が何台かとまっていた。

「うお、ホンモノだぜ! すっげー・・・」

「なあ、ひょっとしてアレに乗せてくれるってのかな」

 ヨーゼフやゲオルギーは今にもヒコーキに飛びかからんばかりにして驚いていた。

 アレックスは言った。

「残念だがお前たちを乗せてやることは出来ん。だが、あれをバックにして記念写真を撮ってくれるそうだ」

 きねんしゃしん?

 

 一時間ほど飛び上がって行ったり降りてくる飛行機を眺めながら待っている間に、ぼくたち留学生とイワンの分11枚の焼き増しができた。

 飛行機をバックにしてぼくら10人がイワンを囲んで並んだ。端っこにアレックスも一緒に写った。

 写真の裏側に、ぼくは短いメッセージを書いた。村で唯一わずかに帝国語が読める父に宛てたものだ。

「お父さん。マリーカお母さんとエレナお母さん。ハナ、ボリス、ヨハン、イワノフ、カーチャ。げんきですか? ぼくとシビルのりゅうがくせい10人はみんなげんきでべんきょうしています。ていこく語やがっこうにも慣れ、ともだちもたくさんできました。えんそくにいってていこくのぐんかんに乗り、せんしゃも見ました。とてもかっこよかった。

 村が襲われたと聞いてびっくりしましたが、けが人だけで済んだと聞きホッとしています。テッポーがかつやくしたときき、あんしんしました。

 ていこく軍のこういでひこーきのまえでとったきねんしゃしんを送ります。よこにうつってるのはアレックスです。お父さんのともだちなんでしょ? 

 イワンがたずねて来てくれてうれしかった。またキカイがあったらてがみします。

 おげんきで。ミハイル」

 北駅で北の里に帰るイワンを見送った。

「いや、いい土産が出来たなあ。お頭やお前たちの親、喜ぶぞう!」

 そう言って写真のはいった袋を叩いた。

「元気でね、イワン。体に気を付けて。ぼくらの家族によろしく伝えて」

「おう、まかしとけ。お前らも元気でべんきょう、ガンバレ。じゃあな」

 そうしてイワンは車上の人? になった。

 北駅からアレックスのトラックに乗って小学校に帰って来たぼくは、タオの住んでいるライヒェンバッハ家に走った。イワンが来てくれたのが嬉しくて、どうしても彼にそのことを聞かせたかったのだ。

 そうしたら・・・。

 ぼくはそこでも嬉しいニュースに接した。

「おお、ミハイル様。タオ様は今パラティーノのブランケンハイム侯爵様のお屋敷においでなのです」

 門番のハンスが教えてくれた。

「なんでも、音楽会が明日になったとか。その総仕上げの練習とかで・・・」

「ホントに?」

 ああ、いよいよ、か。

 あれだけ一生懸命に練習して来たタオの成果が披露されるのだ。ともだちとして、これほど嬉しく、同時に上手くいくように、なにか力になれることがあればと思わずにはいられなかった。

 ぼくは納得してビッテンフェルト家に帰った。


 

 夕食の席で故郷のイワンが訪ねてきてくれたことを話し、飛行場で写真を撮ったことを話した。

「しゃしん?」

 コニーは怪訝そうな顔をした。

「そう。あの、カメラでパチって・・・」

「あんた、そんなのやったの? 」

 よほどビックリさせてしまったのか、コニーは口に運ぼうとしていた肉の切れ端をポロッと落とした。

「ままー、おぎょーぎ悪いです」

 クララが母親を窘めた。

「そんなに・・・。スゴいことなの?」

「あのね、ミーシャ。スゴいもなにも・・・。しゃしんなんて。たいそうな貴族の家でも撮ったことない家多いと思うよ」

「ええっ、そんなに?」

「そうよ、ミーシャ」

 と、奥様も娘に同調して言った。

「やんごとない身分の貴族でも、そんなことはおいそれとできないわ。

 きっと帝国の政府は、それだけあなたたち北の人たちに期待しているのね」

「きたいしているのね」

 いつものように、リタが口真似して奥様と顔を見合わせうんうん頷いていた。

 嬉しいながらも身の引き締まる思いがした。

「ミーシャ。・・・あんたってさ、ナニモノなの?」

 コニーはスプーンで片方の目を塞ぎ、もう片方の目でぼくをじーっと、睨んだ。

 もちろん、クララも母親のマネをした。

「・・・」

 そこへ・・・。

「奥様! お食事中に失礼いたします。ミハイル様のご学友という御方が・・・」

 執事のフランツがダイニングに入って来るやいなや、

「ミーシャ!」

 フランツを追ってタオがダイニングに飛び込んできた。

「ミーシャ、聞いた? 」

 よほど急いできたのか、タオの息は上がっていた。

「聞いたよ。皇帝陛下の御前音楽会が明日に決まった、って・・・」

「きみも来て欲しいんだ、ミーシャ」

 と、タオは言った。

「きみに傍にいて欲しいんだよ。ぼく・・・怖いんだ」

 ぼくより3つも年下で、頼りなげにぼくを見上げてくるタオ。

 そんなタオの願いを断るなんて、ありえなかった。

「行くよ。断られたって、絶対に一緒に行くよ、タオ」
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