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1(中学生編)
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しおりを挟む――ガタンガタン。
舗装のされていない田舎道はでこぼことしていて、車体はさっきから振り回されてばかりいる。昨日降った雪はまだ残っていて、畑ばかりのあたりは一面真っ白だ。一夜明け、すっかり凍った轍がさらに道を悪くしていた。
――ガタンガタン。
不安定に揺れる車の中で、花也は後部座席に身を任せ、ぼんやりと移りゆく景色を眺めていた。
「今度もいいお友達ができるといいわね」
助手席から母親が声を掛けたが、花也はむっつりと黙り込んだまま唇を結ぶ。
花也の手には先週のお別れ会でもらった、クラスメイトからの手紙が握られている。
あんないい友達が、他にできるわけがない。それでなくとも、引っ込み思案な性格が邪魔をして、まともに友達を作ることだって難しいというのに。
(麻衣子みたいな友達が、そうそうできるもんか!)
親友の姿を思い浮かべ、花也は内心毒づいた。
麻衣子は前の学校でできた友人だ。
勝気な目、つっけんどんで刺々しい物言いは勘違いされやすいが、本当は優しくてしっかり者で頼りになる麻衣子。花也は麻衣子が大好きだった。
「大丈夫だよ、母さん。花也には俺がついてるし」
双子の兄・光也が身を乗り出し、助手席の母に向かって得意げに言う。
「なぁ、ハル?」
花也はちらりと光也を一瞥し、それから無言で頷いた。
そうだ、光也がいる。
少なくとも光也がいてくれれば、花也はなんとかやっていけるだろう。
「新しいガッコ、どんなどこだろうな」
「……どんなとこだっていいよ。どうせ友達なんてできないし」
「まったくお前は。またそんなこと言って。花也がそんなんじゃなあ、できるもんもできないぞ」
花也は光也を無視してプイとそっぽを向いた。そして花也も身を乗り出すと、運転席を覗き込んで父にたずねる。
「じいちゃんたち、元気かなぁ。ねえ、もうすぐ着く?」
「あと三十分くらいだよ。ふたりともちゃんと座ってなさい、危ないから。シートベルトもちゃんと締めて」
ふたりは「はぁい」と揃って返事をすると後部座席に大人しく収まった。
じいちゃん家に着いたらあれをしよう、これをしよう。さっきまでの暗い顔とは打って変わり、光也に釣られて楽しそうに話をする花也の姿に、父親は満足そうに頷く。
しかし母親は、そんな子ども達を見て密かにため息を吐いた。
弟・花也に友達がなかなかできないのは、その引っ込み思案な性格だけのせいではない。過保護な兄・光也の存在が大きく関係ある。
社交的で誰とでもすぐに打ち解ける兄の光也は、花也にとって絶対的な存在だ。彼がそばにいるうちは、ふたりのその関係性もきっと変わることはないだろう。
(ちゃんとお友達ができるといいんだけど……)
母は困ったときによくそうするように、頬に手を添えバックミラー越しにふたりの息子を見つめた。
*
「おーい、転校生が来るって、知ってるか?」
朝からその話ばかりだ。
笠原育巳はさっきから繰り返される会話に、いい加減うんざりとしていた。
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育巳は小さくため息を吐くと、騒ぐクラスメイトらを冷たく一瞥した。
「うっそ、俺知らね。こんな時期に? だって二月だぜ? 男? 女?」
「さあ? でもどうせなら女がいいよなぁ。可愛い子」
わいわい、がやがやと、喧騒は鳴り止まない。
「男ふたりだ。どうやら双子らしいぞ」
日直の生徒が日誌片手に教室に入ってきて早々、なぜか誇らしげに報告する。
「おお! それでっ? 転校生の顔は見たのか?」
「いや、後ろ姿だけだった。顔は見えなかったよ」
クラスメイトの誰かが「ちぇ。なんだぁ、つまんないの」と唇を尖らせたところに、タイミングよく担任が教室に現れた。
「おーい、席つけよー」
噂話は中断され、生徒達は口々に「ちぇ」と不平をこぼしながらも自分の席に戻ってゆく。
教室は、ようやく落ち着きを取り戻すかと思われた。
育巳はホッと息を吐いた。
しかしそんな安堵も束の間、一番前の列に座っていた男子生徒が大きな声を上げる。
「せんせぇ~! 転校生が来るっていうのはほんとですか~?」
「どのクラスに来るんですか? 俺達のクラスじゃねーの?」
担任の松原は、そんな生徒に苦笑する。
「お前達耳が早いな。そう急くなよ。これから紹介するから」
「えっ、マジ! このクラスなのっ?」
「日向、入っていいぞ」
ガラ、と教室の扉が開き、入ってきたのは目を瞠るほどの美少女……ではなく、学ラン姿の少年だったが、息を呑んだのは育巳だけではなかったはずだ。
「東京から来ました。日向花也です。どうぞよろしくお願いします」
恥ずかしいのか、伏し目がちに挨拶をした少年は、落ち着かない様子で教室の中で視線を泳がせ、白い頬をほんのりと赤く染めた。
男も女も、クラスのほぼ全員が転校生・日向花也に見惚れていた。松原だけが、生徒の反応を満足気に見守っている。
「日向の席はひとまず一番後ろな? 笠原の隣だ。おーい、笠原、手上げてやれ」
育巳は自分の名前を呼ばれていることに、すぐには気付かず、慌てて手を挙げる。
相変わらず恥ずかしそうに目を伏せていた少年が、少しだけ視線を上げ、育巳の姿を捉えた。
「あそこだ。わかったか、日向?」
「はい」
「よし、じゃあオーケーだ。皆~、仲良くやれよ~」
それだけ言うと松原は挨拶もそこそこに「よっし、ショートはこれで終了!」とさっさと教室を出て行ってしまった。
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