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It seem like we may have a white Christmas in Tokyo.
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港区のホテルで開催される、取引のある牛肉メーカーの新社長の就任パーティ。出席するはずの社員がインフルエンザに罹ってしまい、その代打のため運悪く捕まってしまったのが一志だった。
「何で俺なんですか!」
「文句は美作に言ってくれ。木曜には出てくるってよ」
美作は一志と同じ中途組だ。大手外食チェーンでSVをやっていた男だが、商品開発の仕事がしたくて今の会社に転職してきた。年も近いのでそれなりに仲がよく、ときどき仕事を手伝わされる。
「俺が行ってもしょうがないでしょう。他にいるでしょうが、適任が!」
「いや、お前はもう半分は業態推進部の人間だ。先週も基準書作ってただろ」
「あれは打ち込みだけですよ」
「まあまあ、たまには社外に出るのも大事だぞ」
などと丸め込まれ――……たわけではない。これは有無を言わさぬ決定事項だった。
「勧められたら飲んでいいから! ま、俺は勧められなくても飲むけどね」と、最近下腹の目立ってきた推進部の部長(48)がにんまりと笑う。
部長と本部長(52)に挟まれ、居心地が悪いったらない。
普段はオフィスカジュアルの一志だが、いざというときのために会社のロッカーにはワイシャツとジャケットは常備してある。高級ホテルの宴会場には同じようなスーツ姿の中高年男性であふれていた。ときどき気取ったスリーピースのスーツに、複雑な折り方をしたシルクのハンカチーフを胸ポケットからのぞかせているようなおじさんもいるが、だいたいは普通のスーツだ。一志が特別浮いているというわけではないだろうが、この場にいるのは大抵役職付きで、どうも場違い感が否めない。
パーティは約2時間。途中退席もアリのようだから、一通り挨拶を終えたらきっと帰れるだろう。
そう思っていたのに……。
一志の予想通り、パーティにいたのは1時間にも満たない時間だった。
しかしそのまま日比谷でお勉強会と言う名の飲み会がはじまった。
今の会社に転職してから、外で飲む機会は増えた。飲食業に身を置く者としては、他の店で飲食をするのも立派な仕事のうちだ。一志もそれが嫌いではなかったし、飲食歴の長い年長の上司と食事に行くのは、一志のこれまでにない視点での新しい発見があり、それもまた楽しかった。
しかし今日に限っては、心底うんざりしていた。
一秒でも早く家に帰りたい。瑛介に会いたい。
そのとき、ブーッとポケットに入れていたスマホが鳴った。
瑛介からメッセージだ。
『カズくんお疲れさま! 今仕事終わったんだけど、そろそろパーティ終わる頃かな? タイミングが合えばいっしょに帰ろ~!』
帰る。
タイミングとか合う合わないじゃない、合わせる! 今すぐに!
今日比谷、もう帰る、と手短に返信をして、一志は空気も読まず「すみません、俺この辺で帰ります」と言って席を立った。
上司ふたりは一通り文句を言ったが、言うだけ言ったら満足したのか、一志はすんなり解放された。こういう人たちだ。だから一志もこの人たちが嫌いじゃない。
ポケットに戻したスマホがふたたびブーッと鳴る。瑛介からの返信だろう。
「気を付けて帰ってね~!」
「あ、レポート来週中に提出よろしく~!」
失礼します、と軽く頭を下げ、一志はテーブルをあとにした。背後からおっさんふたりのはしゃいだ声が聞こえる。
「あれだよ、半同棲中の幼馴染のカレシ~!」
……なんで知ってるんだ?
「何で俺なんですか!」
「文句は美作に言ってくれ。木曜には出てくるってよ」
美作は一志と同じ中途組だ。大手外食チェーンでSVをやっていた男だが、商品開発の仕事がしたくて今の会社に転職してきた。年も近いのでそれなりに仲がよく、ときどき仕事を手伝わされる。
「俺が行ってもしょうがないでしょう。他にいるでしょうが、適任が!」
「いや、お前はもう半分は業態推進部の人間だ。先週も基準書作ってただろ」
「あれは打ち込みだけですよ」
「まあまあ、たまには社外に出るのも大事だぞ」
などと丸め込まれ――……たわけではない。これは有無を言わさぬ決定事項だった。
「勧められたら飲んでいいから! ま、俺は勧められなくても飲むけどね」と、最近下腹の目立ってきた推進部の部長(48)がにんまりと笑う。
部長と本部長(52)に挟まれ、居心地が悪いったらない。
普段はオフィスカジュアルの一志だが、いざというときのために会社のロッカーにはワイシャツとジャケットは常備してある。高級ホテルの宴会場には同じようなスーツ姿の中高年男性であふれていた。ときどき気取ったスリーピースのスーツに、複雑な折り方をしたシルクのハンカチーフを胸ポケットからのぞかせているようなおじさんもいるが、だいたいは普通のスーツだ。一志が特別浮いているというわけではないだろうが、この場にいるのは大抵役職付きで、どうも場違い感が否めない。
パーティは約2時間。途中退席もアリのようだから、一通り挨拶を終えたらきっと帰れるだろう。
そう思っていたのに……。
一志の予想通り、パーティにいたのは1時間にも満たない時間だった。
しかしそのまま日比谷でお勉強会と言う名の飲み会がはじまった。
今の会社に転職してから、外で飲む機会は増えた。飲食業に身を置く者としては、他の店で飲食をするのも立派な仕事のうちだ。一志もそれが嫌いではなかったし、飲食歴の長い年長の上司と食事に行くのは、一志のこれまでにない視点での新しい発見があり、それもまた楽しかった。
しかし今日に限っては、心底うんざりしていた。
一秒でも早く家に帰りたい。瑛介に会いたい。
そのとき、ブーッとポケットに入れていたスマホが鳴った。
瑛介からメッセージだ。
『カズくんお疲れさま! 今仕事終わったんだけど、そろそろパーティ終わる頃かな? タイミングが合えばいっしょに帰ろ~!』
帰る。
タイミングとか合う合わないじゃない、合わせる! 今すぐに!
今日比谷、もう帰る、と手短に返信をして、一志は空気も読まず「すみません、俺この辺で帰ります」と言って席を立った。
上司ふたりは一通り文句を言ったが、言うだけ言ったら満足したのか、一志はすんなり解放された。こういう人たちだ。だから一志もこの人たちが嫌いじゃない。
ポケットに戻したスマホがふたたびブーッと鳴る。瑛介からの返信だろう。
「気を付けて帰ってね~!」
「あ、レポート来週中に提出よろしく~!」
失礼します、と軽く頭を下げ、一志はテーブルをあとにした。背後からおっさんふたりのはしゃいだ声が聞こえる。
「あれだよ、半同棲中の幼馴染のカレシ~!」
……なんで知ってるんだ?
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