理性と我慢の違いも分からない婚約者は聖女に譲ろうと思います。

はるのひなた

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作戦開始

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「お嬢様!」

コン、とノックの音が聞こえ、どうぞ、と返事をした一瞬後に礼節もあったもんじゃない勢いで扉が開かれいつもの綺麗なブラウンの髪が逆だっているかのようにも見える形相で部屋に入ってきた私の専属侍女を見た。
恐らくあの噂を聞いたのであろう彼女が、私の侍女になった時のことを思い出すと、むしろノックを忘れなかったことを褒めてあげたい気分だった。
彼女の叫び声と、それに驚いたのか私の足元に擦り寄ってきたペットのふわふわのおかげで自分の中の苛立ちも大分落ち着いて冷静さを取り戻した頭で、机の上の資料をもう一度眺めて、足元のペットを撫でた。

「マリー。」

「はい!」

「作戦実行よ。」

「仰せのままに!」

まるで騎士のような返事をして部屋から出ようとする時しっかりお辞儀を忘れなかったことも褒めてあげたいポイントに加算されたので、今度来た時にはしっかり褒めてあげようと思う。

「さて。」

先程足元に擦り寄ってきていたペットが擦り寄るレベルじゃなく私の足元を小さな身体で右往左往してふわふわとした毛を惜しみなく私のドレスに付けようとしているのが可愛いが、このまま犬毛まみれにされると困る。何しろこの子の毛は綺麗な銀色のため、目視しづらい。後々部屋を掃除する使用人達のことを考えて、落ち着かないわんこを抱き上げて膝に乗せた。

「どうしたのジル、今日は落ち着きがないわね。」

ふわふわの毛を撫でながらその顔を覗き込むと、私を慰めるようにペロリと頬を舐められた。

「クゥン…」

「大丈夫よ、賢い子。」

本当にこの子は驚く程賢い。私の気持ちを1番分かってくれているような気すらする。

きっとマリーが聞いた噂は私が聞いたものと同じだろう。
その噂は要約すると、私の婚約者である王宮騎士団副隊長様であり、次期マロエン伯爵であるシェルビンが我が家の経営する店舗に聖女を連れて来て、どう見てもペアであるデザインの服を仕立てるよう依頼した上に、聖女は国を守る存在だし、自分は店のオーナーの娘の婚約者だから代金は支払わないと言い残し店を後にしたのだが、どうしたもんか的な手紙が両親に届いたとの事だ。

膝の上で丸まった暖かい存在に思った以上に癒された為、眠りそうになったが、作戦実行を言い渡した状態で部屋で寝こけるなんて醜態をマリーに見せたくは無いので、ジルを足元に下ろして目の前の婚約者の行動を書き上げた資料を持って部屋を出た。
いざ、両親の元へ。
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