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マリーとトンスラ
しおりを挟む「申し遅れましたが、マリーって言います。村はここから少し先にありますの」
マリーさんの言った通り、歩き出すとほどなくして左右に広がる小麦畑が開けていき作業小屋みたいな小屋が点在している。
さらに進むと平屋の家屋が見られて、小川が現れ木々が生い茂る景色に変わっていった。
「もうすぐだから、ほらあそこです」
マリーさんが指さした平屋の前には小太りの男が入り口をソワソワと行ったり来たり落ちつかない様子。
「トンスラっ」
マリーさんが男に駆け寄っていき、いきなり「パーン」とほっぺにビンタした。
そのあと二人は熱い抱擁すると、お互いの無事を神に感謝していた。
その様子から、どうやらマリーとトンスラは夫婦のようだ。つまり、トンヌラはオークに襲われた時に一目散に逃げた旦那ってわけだ。
しかし、トンスラって……。
見た目といい、行動といい、そのまんまの名前じゃねぇかよ。
と、思わず吹き出してしまう。
「良かった、本当に良かったよ。マリーの事が気になって胸が張り裂けそうだったんだ」
気になっていたのは嘘じゃないだろうが、助けを呼びにいくとかあるだろ。と色々突っ込みどころはある旦那ではある。
「で、マリーも逃げられたのだね」
「違うわよ、そこにいる旅の方に助けてもらったの」
「そうでしたか、なんてお礼をいえば。どうも妻を助けていただきありがとうございます」
トンスラさんは深々と頭を下げてお礼を言ってくれた。
意外と腰の低い旦那さんなんだな。
「まぁ、立ち話もなんなんで。どうぞ家の中にお入りください」
助かる、ここまで初のバトルやら、歩き続けていたので休めるし、夫婦から話も聞けるチャンスだ。
「さぁさぁ、おつかれでしょう。狭い家ですがどうぞお入りください」
早速、トンスラ夫妻の招きに応じて家にお邪魔する。木製の椅子に腰かけさせてもらい、テーブルに両手をついた。
久々に座るとこれまでの緊張が解れるってもんだ。
「ありあわせの物しかないけど何か作りますね」
そういうとマリーさんは台所に立って家事を始めた。
「コンコン、コンコン」
台所から食材を刻む音が聞こえてきた。
「グゥー」その音に連動して途端に腹の虫が鳴り出す。
そういや、昨日のカップラーメン以来何も食べてなかったから無理もないな。
「ところで、お二人さん。なんで、こんな田舎に?」
うーん? なんでだろうか。こっちが聞きたいし、そもそもこの旦那にどこから話していいのやら……。
正直に話しても、信じてもらえないだろうな。
だって俺自身、未だに夢見てる感じするし。
ロリミカはどう思ってるんだ。
きっと、どう話すか悩んでいるに違いない。
しかし、ロリミカはそんな俺の思いの、遥か斜め上をいっていた。
「おじさん、あたしたちアレクサンドリアに行きたいの。それでアルデシュームって悪い魔女やっつけて姉さん達とアーシア様救いたい、だから何でもいいからアレクサンドリアの事教えて。ここにいるのはアーシア様の導きよ」
あわわっ。ロリミカ、ロリミカさん。
なんたる単刀直入な物言い、メジャーリーガーもびっくりするようなフォーシームばりの直球どストライクじゃないかよ。
それにしても腹減った。
ロリミカを補足してやるにも、頭が回転しないわ。
「さぁさぁ、お三人さん話はあとよ。まずは冷めないうち食べましょう」
正にグッドタイミング!
マリーさんが食卓にシチューとパンを並べてくれた。
シチューは肉や野菜がゴロゴロ入っていてビジュアルからしてよだれが出てくる。
「特製シチューよ。どうぞ召し上がれ」
うわぁー、ありがたい。
シチューを口に入れてみた。
う、うまい!!
久々に食した家庭的な味に、俺はシチューにがっつく。
「お代わり!!」
気がつくと鍋がすっからかんになるまで胃に入れてしまっていたようだ。
「アレクサンドリアにアルデシューム」
食後にマリーさんが呟くように話だした。
「食事前に。旦那に話してたの少し聞こえてきたのよ。アレクサンドリアまではかなりの長い道のり。それに今は一般人は入国出来ないって噂よ。なんでもパラメキアのエターナル女王陛下の即位式があるのと、パラメキアがロンディニウム国と戦争してるからね」
なんだか食後にしては、いきなりのきな臭い話だ。
「パラメキア?」
「ここイース大陸で一番発展してる軍事国家よ。大陸の覇権を目論んでるって噂。アレクサンドリアを併合してから勢いがついて戦争しかけては領土を拡大してるわ。この地も元々はキリコって国だったけどパラメキアに侵略されて、いまはパラメキアに食料供給する為だけに生かされてるような状況なの」
パラメキアえげつないな。
「エターナルクイーン?」
「元々、パラメキアは皇帝がいたのよ。ちょうど、十年前にね突然皇帝が崩御、つまり亡くなられたのよ。公式発表は確か病気って事になってたと思う。違う国の話だからね、その当時はふーんって感じだったけど。そのあとに皇帝の第三妃だったアルデシューム妃が後継者になって。エターナルクイーンってのはアルデシュームが不死で歳を取らないって真しやかに言われてるから、そう呼ばれてるそうよ」
って事はまてよ。
マリーさんの話ではアルデシューム改めエターナルクイーンが即位したのが10年前ってことは……。
ロリミカ達がアルデシュームと戦ったのは10年前?
つまり、そんなに長い時間、箱の中で人形として【封印】されてたんだ。
いや、定かではないが、その線だとロリミカの話と整合性てか辻褄があい繋がるよな。
ここまで、マリーさんの話に黙って聞いていたロリミカだったがアルデシュームの名前が出ると口を開いた。
「アルデシューム、アルデシューム。はじめは私達と同じ魔法使いだった。優しくて魔法も上手くて皆の憧れだったの。でも、ある日突然変わってしまい、アーシア様に近づきアレクサンドリアを手中にしようとしたアルデシューム。そして国を追放されて悪い魔女に――」
そして、ロリミカはこれまでの経緯を夫妻に聞いてもらった。
「まだ、小さい子どもなのに大変な思いをしたのねロリミカちゃん。アーシア様もアレクサンドリアも心配だけど、一番は姉さん達よね」
こくりと頷くロリミカ。
「一刻も早くアレクサンドリアに行きたい気持ちは分かるけど、いまはまだ行かないほうがいいわ。エターナルクイーンは強大な敵よ。闇雲に行っても返り討ちにあうだけ。トンヌラ地図持って来てちょうだい」
卓上に広げられたこの世界の地図。
地図にはここイース大陸が簡単ではあるが描かれていた。
「さっき、アルデシュームが統治しているパラメキアは戦争してると言ったでしょ。その相手の国がロンディニウムよ。ロンディニウムはこの大陸の最後の希望の場所となっててね。パラメキアのやり方に不満を持ってる人が集まって抵抗してるって話よ。まずは、ここに行くのが良いと私はおもうの」
マリーさんは、そうアドバイスしてくれると、現在地とパラメキア、アレクサンドリア、ロンディニウムを地図上に指さして位置関係を教えてくれた。
ここから北東に行くとアレクサンドリアとパラメキアがあり南西だとロンディニウムということだった。
「悪い事は言わないから、まずはロンディニウム目指してそこで、もっと詳細な情報集めて仲間を探しなさい。安否の分からない姉さん達の事もアーシア様の事も聞けるかも知れないよ。決めるのはあなた達だけど。ただ、ロンディニウムに行く道にも……」
確かに、マリーさんの言うことは理にかなってる。まずは敵を知らないとダメってことだな。
だが、最後にマリーさんか口を濁すような言い方が気になったりする。
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