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ドルトの街

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 ドルトの街に着いたものの、俺は何か違和感を覚えた。

 それは、暗くなってるのに街並みに灯りがついてなく、人通りがないからだ。

 

 この世界に電気がないにしろ、ロウソクやランプとかはあるだろうしな。

 現にトンスラ夫妻の家はランプがあった事を思い出すと街なのに暗いのはおかしい。



 それに街の住人達はいったいどうしたのだろう。



 これが違和感の正体だった。

 ここは左右に建物が建ってる街の目抜き通りだと思う場所。

 しかも、道幅も広い。



 なのに、誰もいない街。

 ゴーストタウンみたいじゃないか!



「トンスラさーん。なんで暗くて誰もいないんだ?」



 ここまでの水先案内人に聞いてみる。



「分からないよ。なにしろ、俺っちもこの街にくるのは久々なんだ。でも、前来た時はこの時間でも家々には灯りついてたし、通りも賑やかだったぜ。松明が一つもついてないのは変だな」



 一番この街を知ってるトンスラさんが分からないのだから仕方なしかな。



「誰もいないってわけじゃないよ。無文あそこ!」



 突然、ロリミカが民家の二階を指さして言った。



 見ると窓のカーテン越しから誰かがこちらを見ている。



 視線があったか分からないが、見た瞬間に窓の隙間から覗いてた人影は消えた。



「なんか気味悪いな」



 思わず呟いてしまう。



「とりあえず、この近くに俺っちダチが住んでるから行ってみよう」



 どうやら、トンスラさんの友達がドルトにいるようだ。



「俺のダチは宿屋と雑貨やってるんだよ。こっちこっち」



 トンスラさんも街の不穏さが気になるようで早足で知り合いの所に向かった。





「あれれ、やっぱおかしいよ、こりゃ。灯りもついてないや」



 友達が経営してる宿屋は、ドルトの街並みと同じように薄暗く、とても営業してる雰囲気はなかった。



 「INN」と書かれた看板も松明が灯されてなく寂しい限りだ。

 しかも、千客万来のはずの門扉が固く閉じられている。

 トンスラさんが入ろうと扉を開けようにも鍵がかかってる始末だ。





「ドンドン、ドンドン。オーイ、ブスカ」



 トンスラさんは扉を叩いて店主の名前を呼ぶ。



「俺だよ、トンスラだ。ドンドン、ドンドン」



 何度呼んでも、扉は固く閉じられている。



「ドンドン」



 諦めかけていた時、「ガチャ」と鍵が開く音がした。



「シィー。トンスラ早く中に入れ。お連れさん達も早く」





 中に入れてくれたのは、どうやら店主のブスカさんのようだ。ブスカさんは俺達を宿屋に招き入れると、また扉に鍵をかける。どうやら何かに怯えてる様子だ。



 ブスカさんは、扉近くを避け奥の部屋に行くとロウソクに火を灯した。



「ここだと光がもれないから安心だ」



「どうなってんだ、この街?」



 二人の再会の挨拶はほどほどにしてブスカさんは街の状況を話しだした。



「話せば長くなるんだけどな。昨年、領主のリッチモンド伯が結婚されたんだ。相手はパラメキアのラーミアって女。それから、この街は少しづつおかしくなりはじめた。最初は屋敷に人手がいるので働きにこないか、給金は弾むってものだった」



「それで……」



 ブスカとトンスラの会話が続く。



「金貨目当てに働きに行った者達は屋敷から帰ってこず、だから誰も行かなくなったんだ。すると、今度は今まで見たこともない魔物が現れだして、夜になると街人を襲ったり連れさったりしだす……」



 ここまで、話を聞くに、やはりリッチモンドとパラメキアの関連は高いし、ラーミアって女はアルデシュームとの繋がりが怪しい。



「最初は街外れぐらいだったが、最近では街の中にまで出てくるようになってな。しかも、サキュバスがいて見かけた男達を操っては悪事を働かすんだ。サキュバスってのはあられもない格好をした女性の、悪魔なんだ」



 エロゲーでしか知らないサキュバスの名前がこんな所で聞けるとは、確か男を誘惑して虜にする悪魔だったような。あられもない姿って、やらしい想像をかきたてられてしまうわ。

 でも、サキュバスがどんな悪さするんだろう。



「悪事って?」



「女子どもを連れさるんた。抵抗すると……分かるだろ」





 やっぱ、男は自分も含めてスケベだからな。操られてしまうんだ。よっぽどいい女なのだろうか? と不謹慎な事を思ってしまう。



 だが、曲がりなりにも御仏の教えを学んだ僧侶た。これでも無名とはいえども寺の住職。

 サキュバス如きの誘惑なんかには惑わされる事はないだろう。

 と、自信はないが気概だけはある。

 まぁ、サキュバスに遭う機会はないからな。

 などと話半分に聞いていたら。



「酷い話だね、無文放っておけないよ」



 突然、ロリミカが二人の話に割って入る。





 確かにロリミカが言うように、無視は出来ない話ではあるし街の人達が魔物に怯えて暮らすのは気の毒な気がする。だが、この街は立ち寄っただけで、目的地のロンディニウムの通り道なだけだから、聞かなかった事にするのもありでわと思ったりもする。面倒なことは「君子危うきに近寄らず」って言うしな。



「おじさん、何とかして、あげるよ!!」



 俺の思惑など関係なく、魔女っ子によって物事は決まっていくわけで。



「無文、やっつけに行くよ!」



「ってどこに行く?」



「聞いてなかったの? おじさんの話。まずは街を徘徊してるサキュバスを探して倒すのだよ」



 やっぱり、そういう展開になるんだ。



「お嬢さん、悪いことは言わないから止めた方がいいよサキュバスは護衛の魔物を引き連れてんだ。今日はここで泊まってから明日出ていくのに限るよ!」



 ブスカさんの良識ある意見だ。



 さすが宿屋を営むだけのことはある御仁だわ。



「だいじょうぶだよ。おじさん。あたしたち強いから。ちなみにあたしは世紀の魔法使いで、無文は剣士見習い中なんだから」



 だいぶ、自分の事は盛ってるようたが、俺の紹介はいただけない。



「そいつら、どこにいるのよ。やっつけるから教えて」



 流石です。ロリミカさん、この自信はどこから来るのだろう。



「たぶん、ここで隠れながら外見てたら現れるよ。最近はやつは収穫がないのか毎晩徘徊してるからな」



 なるほど、街の人達も隠れるようになったから獲物がないってことなんだな。



 俺達は早速に街の外を見張る事にした。





 どれくらい待っただろうか、ちょうど眠気が差しかけたくらいに奴らは現れた。



 それは、どこかのパレードのように、サキュバスが先頭になってゴブリンとオークを引き連れ街の中を闊歩していた。



 いや、闊歩してると言うのはゴブリンとオーク達で、サキュバスはロリミカのようにフワフワと宙を浮いていた。

 







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