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詩織へテレフォン
しおりを挟む自宅に帰ってくると、母親が心配そうに病院の結果を聞いてきた。
僕は、「ただの風邪みたい」と嘘をついて、泌尿器から貰った軟膏の入った袋を後ろに隠した。
「食欲はあるの? 食べれるなら用意するけど」
「うん、病院いったら安心してお腹空いてきたから用意してよ」と母親に言った。
元々、風邪でもないので、私のお腹は腹ペコだったのだ。
母親が晩飯の支度をしている間にテレビのチャンネルを捻った。
ブラウン管テレビからは、野生の王国という動物番組が映しだされていた。
アフリカのおし鳥の特集をしていて、画面いっぱいにおし鳥のカラフルな羽がながれている。
テレビからは、女性のナレーションがおし鳥のことを説明していた。
「これは、おし鳥の雄です。どうでしょうか? 非常に美しい羽をしていますね」
ナレーションの言うように、確かにおし鳥の羽はいろいろな色が混じっていて目がチカチカするぐらい華やかである。
「このようなカラフルな羽をしているのは、実は雄だけなのです。雄は繁殖期になるとこのような色に羽が変色して、雌を誘うのです」
ナレーションを聞いていて、なるほど、動物も大変なんだと思ったのだが、まてよ自身も、服装に気をつかったり、おし鳥のように羽ならぬ髪の毛の色は変色していないものの、毎日かかさずセットしているのは、女性、即ち雌を誘っているのだと考えてしまったのだ。
そう、自分もおし鳥のように繁殖期に入っているのである。
うーん、しかし、人間も動物も男ってものはせつないものだと思ってしまう。
女や雌とSEXや交尾をするのには、並々ならぬ努力が必要なわけなのだ。
僕もおし鳥の雄を見習って努力、精進をしないといつまでたっても、繁殖行為が出来ない気になるのだった。
テレビからは、うまくペアになったおし鳥の交尾シーンが映しだされていた。
おし鳥の雄は雌の上に乗っかって羽をバタつかせて、甲高い雄たけびで鳴いていた。
僕は幸せそうに交尾してる、おし鳥の雄を見て負けてたまるものかと心に刻みこんだのだった。
ちょっと遅めの夕食を食べた後に、僕は手に詩織から書いてもらった電話番号を持ちながら、受話器と睨めっこしていた。
時刻は21時の10分前である。
かれこれ30分は受話器を見つめ続けていた。
詩織の家になかなか、ふんぎりがつかなく、睨めっこしてるのには訳がある。
それは、その当時の青少年の誰しもが経験する、女の子の家にいる両親の存在である。
母親ならまだしも父親の存在が非常に危険なのである。
なぜなら、恐らく父親は、目に入れても可愛い我が愛する娘に変な虫がついては困るとばかりに全力を持ってして排除してくるに違いないのだ。
現在と違って携帯電話など無い時代なので、好きな女子と連絡を取るには、どうしても通らないといけない関門といっていいだろう。
実際に自身も携帯電話が普及するまで、親と同居してる女性に電話する際はいくつになっても苦慮したものであった。
そのような事情でなかなか詩織の家のダイヤルを廻すことができないのでいるのである。
それでも、今日電話すると詩織に約束しているし、それに、何よりも詩織の声が聞きたい。
僕は、おし鳥の雄のことを見習うべくして、意を決して、詩織の家のダイヤルを廻した。
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