魔女の末裔 麻美ちゃん(恋敵は徹底的につぶすのだ!!!)

カトラス

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魔女の末裔 麻美ちゃん(恋敵は徹底的につぶすのだ!!!)

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 恋こがれしあの人よ。

 どうして? あなたはあたしの気持ちがわかってくれないの。

 恋想いしあの人よ。

 こんなにもあなたのことを想ってるあたしに早く気づいてよ。

 いつも、あなたの身近にいるあたしの存在に……



 なんちゃってね。

 授業中あまりに退屈だったから、大好きなあのひとのことを考えて、少しセンチメンタルになってるあたし。

 だって、五時限目の数学の授業って、お昼食べたとこで頭ボットしてるし、先生は女生徒に色目使ってキモイし、言ってることの意味わかんないし、だいたい微分、積分って何よ! こんなもの真面目に理解しても、日常生活に役にたつことなんかあるのかしらなんて思ってる。

 将来あの人と一緒になって主婦になることしか考えてないあたしにとって、たし算とひき算が出来たら充分なのよね。

 だから、こんな授業は超退屈なのよ。

 あぁ、早く授業終わらないかな。そんなこと思っていたら、ブレジャーの脇ポケットに入ってる携帯がバイブしちゃった。



 あたしは、色目先生に注意しつつ、そっと脇ポケットから携帯を机の下に隠した。

 

 お気に入りのキティーちゃんの壁紙には新着メールが一件ありますと表示されている。

 
 うん? 誰だろう? 暇なので早く見たいって衝動に駆られるあたし。

 
 ちらっと、色目の動向を確認しつつ、携帯のメール内容を確認。

 
 よっしゃぁ~! メールを送ってきたのは……大好きなあの人からだった。

 まさに以心伝心って感じで、あたしの想いが少しだけあの人に届いた気がして嬉しい。

 

 
 “麻美、ごめん。相談事があるので放課後に体育館裏にきてほしいのだけど、待ってます。大輔より”

 もう、大ちゃんったら、相変わらずそそっかしいんだから、放課後って何時よ? あなたの放課後とあたしの放課後は少し違うのよ! 女の子はいろいろやる事あって忙しいのだからね。

 って一瞬メール見て思ったのだけど、相談事が非常に気になる。もう、数学の授業なんてどうでもいいくらい気になる。

 もしかして、もしかして……愛の告白なんかだったりして。

 

 でも、まんざらありえない話ではないような気がしてきて、あたしは心の中でバンザイしている。

 だって、ふだんから大ちゃんをウオッチングしているあたしは、最近そわそわしてる大ちゃんを見逃していないからね。

 
 よし、返信、返信っと。

 とりあえず、大ちゃんには三時半に体育館裏に待ってもらうように返信した。

 でも、大ちゃん部活の練習大丈夫なのかな? と思ったけど、まぁ、都合が悪かったらまた連絡あるっしょ。

 それに、むこうからのお願いだから問題なしっと。

 あぁ、早く約束の時間にならないかなぁ。

 マジで相談事ってなんだろう? 以前にも大ちゃんからは数回相談事があるって言われてのったことあったけど、 
 そん時は、あたしにとってどうでもいいことだったから、適当に答えておいたのよね。今回はそうならないことを祈るばかりなんだな。

 

 大ちゃんのことを考えていたら、あたしにとってさほど意味もない数学の授業の終わりをつげるチャイムが鳴った。

 次の授業は選択科目の世界史。

 先生も緩いし、数学よりも意味がないので、放課後に備えて居眠りすることに決めちゃった。

 夢の中で大ちゃんに逢えたらいいなと願いつつ、授業開始とともに両腕を枕がわりにおやすみなさい。

 
 世界史の先生のか細い声が子守唄がわりになってあたしを浅い眠りにいざなってくれる。

 そして、あたしはへんてこりんな夢を見た。

 
 その夢は、きっと世界史の授業内容とあたしの今思ってることが脳内でシンクロして見たのだと思う。

 夢の中では、ジャンヌ・ダルクが魔女裁判をうけて、まさに火あぶりにされる瞬間だったのだけど、なぜか、ジャンヌ・ダルクの顔はあたしのママの顔になっていた。

 ママは、火あぶりになりながら、あたしにいつも言ってる恋愛の教訓めいたものを教唆している。

「男性を好きになっても、絶対に自分から気持ちを伝えたらダメよ! 麻美のことを好きになるようにしむけなさい。男の人をコントロールしてこそ、本当の女性になれるのよ! そしたらママみたいにうまくやれるから」

 
 ママはふだんからあたしに小悪魔な女性になりなさいと言っている。

 でも、夢にまででてこないでよ! 夢にまで出てきて、あたしの心配しなくても分かっているって、今までだって、ずっと自分の大ちゃんに対する気持ちを押し殺してきたのだから……

 
 でも、ほんと不思議でへんてこりんな夢だったな。

 黒板の上にある時計を見たら三時前を指していた。まもなく放課後になる。

 
 ちょっと寝たので気分もすっきり、さぁ、大ちゃんの相談事ってなんだろう? なんだかときめいてきた感じがする。

 そして、都合よくあたしの気持ちの高鳴りを表すかのように、授業終了即ち、放課後を意味するチャイムが高々と鳴ったのよね。



 終礼が終わるとあたしはすぐにトイレに駆け込んで、鏡に向かってこんにちわ。

 カバンから化粧ポーチを取り出して、薄めのリップを唇に塗った。

 それから、鏡に向かって笑顔の練習後、軽くウインクすると、準備万端、体育館裏に向かったわ。

 

 体育館からは、剣道部の竹刀のぶつかる音と気合の声が木霊している。

 あたしは、体育館裏で先に待ってるのが嫌なので、大ちゃんが来るまで体育館の中で様子を窺うことにした。

 だって、先に待ってると、待ってましたって感じで嫌なんだもの。

 剣道部の連中が仏頂面の面ごしから一瞬珍しそうな視線であたしを見ていたけど、そんなのは気にしない。

 
 十分ほど待ったら、サッカー部のユニフォームを着た大ちゃんが待ち合わせの場所にやってきた。

 あたしは、サッカーのことはよくわからないけど、大ちゃんは高校一年の時からレギュラーで試合に出ているので上手いのだと思う。

 ゆえに女生徒達からの人気も高く、あたしにとっては恋のライバルが多いのも現状ってわけ。

 でも、ライバル達と比べて、あたしにはとっておきのアドバンテージがあるのよ。
 

 それは、小学校からの同級生、家も近所で親同士の交流もある幼馴染だったりする。

 昔なんかは、お手てつないでランランらと学校まで一緒に登校したぐらいなんだもん。

 流石に今はそんなこと、大ちゃんが嫌がってしてくれないけど、あたしにとっては懐かしくて嬉しい思い出なんだよね。

 さてと、大ちゃんの様子を見てみると、あたしを探して周りをキョロキョロしている。

 すぐに飛び出していってあげたい気持ちなんだけど、あと五分じらしてから登場することにしよう。

 けっこうあたしってしたたかな女だと思いますよ。

 これも、ママの教育のたま物なんだろうな。



 あたしは、少し慌てたそぶりをして大ちゃんのところに姿を現した。

「ごめーん、大ちゃんまったぁ? ちょっといろいろ用事あって――いそいできたんだけど」

 ちょっと、白々しいかな? でも、あたし的には抜群の演技のような気がする。

「いや、俺も今きたとこ。こっちこそごめんな、麻美忙しいのにこんな人気のないとこ呼び出したりして、変なことしないので安心だけして」

 
 大ちゃんはちょっぴり照れくさそうに少しはにかんであたしに言った。

 別にあたしにしたら、変なことされても全然OKなんだけど、それにしても、大ちゃん爽やかだわ。

 相変わらず甘いマスクだし、真っ黒に日焼けした顔から白い歯がのぞいて素敵なのよね。

「麻美はぜんぜん平気よ! あたし部活もやってないし、それに幼馴染の大ちゃんの悩み事なんだからほっとけるわけないよ」

「そっかぁ、わるいな麻美。こんなこと麻美にしか相談できないから」

 あたしは、麻美にしか相談できないからってのに少しひっかかりを感じた。

 あたしに対する愛の告白じゃないようなフラグが一瞬たったような気がする。でも、動揺を見せてはいけない。いたって平常心を装わないと。

「そんで、大ちゃん相談事って何?」

 ここは、間髪をいれずに直球ストレートで本題を聞くことにする。

「うん……それが……」

 大ちゃんは急に本題を切り出すと歯切れが悪くなりだした。むむ……これは間違いなく恋の悩み。

 しかも恐らくあたし以外の女の子で悩んでると直感した。

 でも、まだわからないのであたしは緊張して返事を待つ。

「実は……三組の美帆さんのことなんだけど……彼氏とかいるのかな?」

 やっぱしあたしのことじゃなかった。

 少し期待したあたしがバカだった。

 あたし以外の女の子のことだ。

 思えば、大ちゃんの相談はいつもそうだった。

 初めての相談も小学校の高学年の時、あたしじゃない初恋の女の子の話だったし、中学の時も年一回ペースであたし以外の女の子の話だった。

 もちろん、その都度、あたしは大ちゃんの恋を摘み取ってきたのだけど、今回もつぶさないといけないと思った。

 そう思ったら心の中でママの声がした。

「麻美、うまくやりなさい」ってね。

 でも、意外だな。

 まさか大ちゃんが美帆のこと好きになるなんて。

 美帆ってのは、あたしの友人なんだけど明るいだけが取り得でそんなに可愛くないし、なんでもかんでも話に割り込んできて正直うざい奴なんだけどな。

 そんな美帆だから彼氏なんかいるわけない。

 さてと、どうしようかな? どう大ちゃんの恋をつぶそうかな。

「へぇ、大ちゃん美帆のこと好きなんだ!」

「うん、いや、好きっていうか……興味があるってのか、気になるんだよ」

 もう大ちゃんのバカ! そういうのを好きって言うのだよ。


 思わずつっこみを入れたくなるような返答。

「確かに美帆って可愛いよね! たぶん彼氏はいないよ。あたし美帆と仲いいけど彼氏の話聞いたことないし」

 

 大ちゃんは、あたしから美帆に彼氏いないと聞くと目を輝かせている。

「そっかぁ。彼氏いないのか」

「うん、いないと思うけど……でも、ちょっと麻美……気になることあるんだ」

 

 あたしは、大ちゃんにだいぶ含みを持たせて言った。今からあたしが話すことを言ったら大ちゃんの美帆に対する気持ちは木っ端微塵に砕けちるのに違いない。

「気になることって……」

 はい、大ちゃんは単純ね。

 さっそく喰いついてきてくれた。


 こうゆうのは焦らさないとダメだよねママ。

「うん、何でもない。何言おうとしてたか忘れたちゃった」

 死んでも忘れないけど、あたしはちょっと慌てたそぶりをして見せた。

「麻美なんだよ、言ってくれよ! 幼馴染じゃないか」

「でも、あたし、あんまり美帆のこと悪く言うの嫌なのよ」

 

 自分で話振っておいて、あたし、ホントにやばいわ。

「悪いことなのか?」

「うん」

 

 あたしは、わざとバツが悪そうな顔をした。

「じらさないで、教えてくれよ。麻美」

 大ちゃんは、だいぶイライラしてきたのが見てとれた。


 それじゃ、そろそろいきますかママ。

「わかった。このことは、あたしと美帆だけの秘密だから、絶対に誰にも言わないでね」

「わかったから、早く教えてくれ」

「実は……美帆は内緒のアルバイトしてるの!」

「内緒のアルバイトってなんだよ?」



「うん、売りっていうのかな? 平たく言えば援助交際してる」

 どうやら、あたしの必殺奥義が決まったようであった。大ちゃんはかなり衝撃を受けたようで、完全に首がうなだれてしまった。



「確かなのか?」

「うん、間違いない、この前、万札ちらつかせて自慢してた」

 

 あたしの決定的なひと言によって、大ちゃんはKOノックアウトとなった。

「ありがとう」とだけ言って、大ちゃんは体育館裏から走りさって行った。

 

 あちゃちゃ、純情を絵に描いたような大ちゃんにはちょっと刺激が強すぎてやりすぎちゃったかな。

 後日、大ちゃんにはうまいことフォローしないといけないな。

 麻美、反省、反省っと。

 でも、小さいときから正義感が強くて、曲がった事が大嫌いな大ちゃんは美帆のことに嫌悪感を抱いたのは間違いないだろう。ママもきっと「麻美うまくやったわ」と褒めてくれるでしょう。

 これで、あたしの恋のライバルがまた一人消えたのに違いないはずよね。



 あたしは、凄く満足しながら家路に向かった。

 我ながら迫真の演技だったように思える。

 大ちゃんには少々きついことになってしまったけど、これぐらいしないと好きなものは手に入らないと思ってるので仕方がない気がする。

 そんなこと思っていたら、突然、携帯電話の着信音が住宅街に響いた。相手は美帆からだった。

 まさか、大ちゃん、美帆に確認しにいったのじゃないでしょうね。電話に出るのが怖い。

 恐る、恐る電話に出るあたし。

「もしもし、麻美」

 美帆の明るい声が耳に入ってくる。どうやら、この声のトーンからして大ちゃんに言った話ではなさそうだ。よかった、あたしは胸をなでおろした。

「何よ、美帆。電話なんかしてきて、用事だったらメールくれたらよかったのに」

「うん、だって気になることがあったから、麻美に直接聞きたくて」

 なんだろう、気になることって?

「聞きたいことって?」

「うん、さっき森田君とあったでしょう」

 森田君ってのは大ちゃんのこと。

「え、どうして知ってるの?」

「うん、実は森田君から、麻美のことで相談受けてたのよ! それでどうなったかって気になって、気になって」

 なぬぅ、美帆は何を言ってるのだろう? なんかはしゃいでるぞ。

「何の相談うけたのよ?」

「え!? 知らないの? じゃ、森田君、麻美に告白しなかったんだ!!」

 麻美に告白って何よ! なんだかわけがわからない。

 

 でも、その後美帆が全てを教えてくれた。

 美帆の話はあたしの心を打ち砕くのに十分すぎる内容だった。

 美帆の話によると、大ちゃんは、あたしのことが好きだったらしく、美帆に相談していたのだそうだ。

 美帆は、きっと麻美も大ちゃんのこと好きだから、告白したほうがいいと勧めたらしい。

 
 そして、あの体育館裏の運びとなったのだった。

 大ちゃんなんで、素直に麻美に告白してくれないのよ! なぜ、美帆の話なんかあたしにしたの?

 ねぇ、ママ。どうしたらいいか? 麻美に教えてよ! あたしは心の中にいるママにアドバイスを求める。

 しかし、心の中の囁きはもう聞こえてこなかった。



 恋焦がれし、大ちゃんよ。

 なぜにあなたは素直になってくれなかったの?

 恋想いし、大ちゃんよ。

 こんなにも、あなたのことを想っているあたしなのに、きっと嫌いになったでしょう。



 もう、とてもセンチメンタルな気分に浸れるあたしでは無かった……

 でも、あたしは大ちゃんのことを諦めるつもりはさらさらない。

 いざとなったら、いざとなったらね、ママに頼んで惚れ薬を作ってもらうことだって出来るのだから……

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