1 / 45
そこにあるわけ。(ファンタジー)
しおりを挟む「ちぇ、今日はついてないな」
川口は、仕事帰りにふらりと立ち寄ったパチンコ屋の出入り口でため息を漏らした。
それもそのはずで、会社では些細なミスで上司に叱責を受け、そのストレスを発散させるために立ち寄ったパチンコは小一時間で諭吉が一枚羽を生やして飛んでいったからだ。
しかも、外からは音を立てて大粒の雨がアスファルトをぬらしている。
あいにく、川口は傘を持ち合わせていない。
そんな時、人が考えることは傘を黙って拝借することだ。
川口も降りしきる雨を見ながら、そんなことが頭によぎった。
幸いにも、パチンコ店の出入り口には傘立てが置かれていて、川口の邪な考えを誘っているのだった。
川口は傘立ての前に立つと、物色を始めた。
見るからに高そうな傘は遠慮することにして、コンビ二などで売ってるビニール傘を手に取る川口。
これなら、盗んだと注意されることもなく安心だと思うからだ。
それに、このような傘はどうせ使い捨てのようなものなので、誰かが置いて行ったか、忘れていったに違いないと川口は思い後ろめたさは感じないのである。
そして、川口は拝借した傘をさしながら家路に向かった。
川口の自宅は、ここから歩いて10分ほどの距離である。
さきほど、パチンコではずした激熱リーチのことを考えながら歩いていると、突然、頭の中で声がした。
「よくも、盗んでくれたな!!」
川口は、一瞬空耳かと思ったが違った。すぐに、また声が聞こえてくる。
「俺様は傘に宿っているものだ。しかも悪い性格をしていてな。手にとったものを不幸にして楽しんでいるのだ」
どうやら、とんでもない代物を手にとってしまった川口である。
慌てて傘を捨ててしまおうと思ったが、傘に宿ってるものの力なのか、手の自由を奪われてしまっていて傘を手放すことが出来ない。
「不幸って何だ?」
思わず、川口は声の主に叫んでいた。
「ククク、不幸ってのは、手にしたものを死にいたらしめてしまうのだよ。ちなみに、前任者はパチンコ屋のトイレで首を吊って死んだっけな……」
思わず身震いしてしまう川口。
「頼む、出来心だったんだ。なんとか助けてくれないか」
「そうだな、今日は俺様、すこぶる機嫌がいいので助けてやってもいいぞ! でも、お前の物を頼む言い方が気にいらないないな。頼むじゃなくお願いしますだろう」
傘の主は以外に細かい性格のようである。
「お願いします……助けてください」
「いいだろ、今回だけは見逃してやる。もうちょっといったところにコンビ二があるから、そこの傘立てに俺様を置け、それから、俺様を置いたら何も考えずに目をつぶって一目散に走って逃げろ。そしたら助けてやる。ただし、傘を置くときは慎重にな、誰かに見られた傘は手から離れないぞ」
川口は、ほどなくしてコンビ二に到着すると、辺りを見渡して誰も見ていないことを確認してから、傘を傘立てに置いた。幸いにも傘は、すぐに手から離れてくれた。
そして、傘の主の言ったことを守るように、目をつぶって全速力で走って逃げた。
目をつぶって走ったものだから、道路に飛び出す川口である。
川口の耳からはけたたましいクラクションの音が……。
慌てて目を開くと、そこには大型トラックが迫っていた……。
コンビ二の傘立てには、主を失ったビニール傘がぽつりと置かれている。
そこに、憂鬱な表情をした青年が傘を見つめてつぶやいた。
「こんな、ぼろっちい傘、盗んでも誰も文句は言わないだろう」
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる