【完結】お暇ならショートでも。

カトラス

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燃えよ! 池さん (青春)

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 1985年 夏。





「アチョー、ホチョー」

 中学の教室に木霊する謎の奇声。



 声の主は池田こと、あだ名は【池さん】だった。



「ホチャチャ、ホワチャー」



 この奇声は先日テレビで放送されたブルースリーの映画「燃えよドラゴン」で主人公が悪漢達をジークンドーという拳法でやっつける際に発する怪鳥音と呼ばれてるものだ。



 池さんは映画の影響を受けてだろう。

 映画が放送されてから、連日に渡り、黒板前でジークンドーの型を実演していた。



 屈伸運動から足を高々と蹴り上げ、その後パンチの連打ってのが池さん流ジークンドーなのだが、パンチをするときは自分の口で「ブーン、ブーン」と風切り音まで入れる細かさがある。



 そして「アチョー」と決めの怪鳥音が発せられ、シャドーボクシングならぬ、シャドージークンドーといったわけだ。



 そんな、池さんなのだが、クラスの女生徒からは「ちょっと危ない人」って認識だったが、男子生徒からは絶大な人気があった。



 人気の理由は、怪しいってのもあるのだが、池さんの風貌だった。



 それは、顔は男前ではなかったが、目が細くて肌は色白。



 髪の毛は地毛かどうかは分からないが茶髪っぽく、どこか涼しげで何をするか分からない印象だったからだ。

 当時の男子学生にとって危ない奴かもと思わせる個性

は武器になる。



 特に池さんの個性が際立っていたのは学生服だった。



 俺の中学の制服は学ランだったのだが、池さんはデフォの学ランに満足せずに、勝手に制服を魔改造して上着は短く短ランにズボンはタックの入ったボンタンを着用して、細見の身体にとても似合っていた。



 勿論、校則違反なのだが、先生に何度注意されても、止めない気概さがあった。



 そういった訳で、風変わりな個性の持ち主こと、池さんはクラスの男子からは一目を置かれる存在で憧れみたいなものを皆が感じていた。



 勿論、俺もである。



 そんな、男子生徒の憧れだった池さん。



 出来ることならお近づき、いや友達になりたいと思っていた。



 だが、池さんは朝からジークンドーでシャドーボクシングするようで鍛錬に余念がないし、基本的にはあまり友達はいないようで孤高の人って感じがある。



 それ故に惹かれるって部分でもあった……。



 だから、なかなか喋りづらく、話しする機会がなかった。



 そんな。ある日の事。



 当時、流行っていたファミコンのゲームがあった。

 そのゲームは、60回建ての塔にナイトが登って最上階にいるお姫様を助けるっといった内容のものだったが、塔に登っていくには各階の謎を制限時間内に解かないとゲームオーバーになる鬼畜仕様なもの。



 その当時はネットの攻略サイトなどないご時世で攻略法の共有などない。



 だから謎は自力で解かないといけなかった。



 唯一、攻略法があるとしたら、同じゲームをしてるクラスメートとの情報交換のみである。



「なぁ、5階まで来たけど、どうやって鍵出すの?」

 そんな、やり取りを休憩時間にしていると、突然に池さんが話によってきた。

 

「あそこは扉の前で剣振ったら鍵――ちなみに俺は全部クリア出来るぜ」



 そのゲームきっかけで、俺は池さんと話すようになり、「今度、家来いよ」と池さんの家に遊びにいくようになった。



 そうしているうちに、俺と池さんはお互いの家に行ききし合うようになり、友情関係は深くなっていった。



 仲良くなるうちに、池さんの性格なんかも分かってくる。

 

 元々、俺自身が憧れから友達になりたいって事もあったり、ゲームが上手い池さんを褒めちぎっていたからかも知れないが、とにかく、会話をしているとマウントを取りたがるふしがあった。



 まぁ、俺自身がマウントを取られても、それほど嫌でもないから合わせていたりした。



 すると、何かにつけて、親分肌的に、「お前になんかあったら俺が助けてやる。守ってやるからなんでも相談してこいよ」



 と、どこぞのアニメのヒロインみたいな事を言ってくれるから、真に頼もしい後ろ盾を得たような気分になれる。



 その「守ってやる!」という言葉は、池さんなりの男気だと思い、本当に良い友達が出来たものだと嬉しかった。





 そんな、池さんとの友情を育んでいた時にとんでもない事が起こったのだった。





 それは、夏休みに入って間もない頃の出来事。



 俺は、自宅近くのゲーセンで隣の中学の不良に絡まれたのだ。



「お前、メンチきったやろ」

 

 ゲームしてるだけの俺に突然因縁をつけてくる不良達。

 相手はのっぽとチビという、なんとも不釣り合いな二人組だった。



 だが、頭の悪そうな不良に因縁つけられても、その時の俺は動じなかった。



 なぜなら、俺にはブルースリー、いやジークンドーの達人である池さんがいるからだ。



 あとは、こいつらを池さんに任せるように仕向ければ良いだけだ。



「別にメンチ切ってないけど、やるんならやったるで!」



 鬼に金棒がある俺は強気である。



「ほな、ここから出よか。ゲーセンやったらポリ来たら困るしな。外の河川敷行こうや」



 少しだけ、ゲーセンのある立地を説明すると、このゲーセンは専門店がひしめき合うモールの2階にあって、モールは小畑川という名のたもとに建てられていた。だから、専門店の外には公園も兼ねた河川敷があるのだ。



 だから、奴らは、人が少ない場所を選択してくる。

 本当に向こうはやる気満々のようで、迷惑この上ない。



「なぁ、お前ら二人やし、こっちも一人呼んでもええやろ?」



 ここは、池さんを召喚する手はずを整えなければいけない。



「なんや、お前。助っ人呼ぶんかいな。逃げへんのやったらいいぞ」



 との事。

 しめしめの展開。



 でも、相手は喧嘩なれしてるのか、俺が逃げないように、ゲーセン乗ってきていた俺のチャリを「物質やと」言って、自分達のチャリの車輪にチェーンをかけやがった。



「ほな、早く助っ人やらを呼んでこいや、一時間ぐらいしか待たへんで、逃げたらチャリはバラバラにする」との事。



「逃げるわけないやろ! すぐ戻るから待っとけや」



 と、俺は捨て台詞を吐くと池さんを呼びに彼の自宅に向かった。

 幸いなことに、池さんの自宅は、ここからさほど遠くなく徒歩で10分ほどの距離だった。



 夏の日差しが照りつける中、俺は「吠え面かかせたるわ」と意気込みながら早足で池さんの自宅に向かった。



 池さん宅のチャイムを鳴らすと、すぐに現れた助っ人。



 池さんは自室で扇風機に当たりながら、スイカを食べながら高校野球を見ていた。



 野球はPL学園の清原が豪快なライトスタンドに叩き込むホームランを打ち、池さんは大喜びしていた。



 池さんは兎にも角にも強いものが大好きだったりするからPL学園は推しのチームだったりする。



「ほんで、慌ててるようやけど何かあったの?」



 突然の訪問にびっくりしてるようで聞いてきた。



「実は……」



 俺はこれまでの経緯を説明した。



 池さんは、スイカを一気に食べきると、種を「ペッペッ」と吐き出すと、「任せとけ! そいつら俺のジークンドーで一気にやったる!!」



 全くにして、持つべきものは友である。

 頼もしいお言葉に俺は感嘆してしまっていた。



「そいつらはラクセーヌのゲーセンにおるんやな」



 ラクセーヌと池さんが言ったのはモールのことである。

 俺達が住んでる所は新興住宅地の洛東ニュータウンと言っていわゆるベッドタウンだ。ラクセーヌって名前の由来はフランスのセーヌ川を小畑川というドブ川に見立てて、ちょっとでもお洒落なイメージに集客させようという、モールの苦肉のネーミングといったところだった。



「そろそろ、池さん頼みますわ」



 俺は人質ならぬ、物質のチャリの事も気になったので、池さんがスイカを食べ終わるタイミングを待って切り出した。



「おー、分かった。その前にトイレ。昨日からスイカばっか食べてるから腹くだしてるんやわ」



 池さんは立ち上がると用を足しに行った。



 あんた、さっきまで、スイカ美味そうに食べてましたやん。



 と、ツッコミ入れたくなったが、池さんあっての俺だから我慢した。



 かなり、下痢気味なのか長いトイレが終わると、俺達はラクセーヌのゲーセンに向かった。





 行きすがら池さんは「ジークンドーは無敵の拳法じゃ!」



 意気揚々であった。



 ゲーセンに着くと、待ちわびたであろう頭の悪そうなノッポとチビの不良が、メンチを切っていた。



 待ってる間に奴らは、特殊警棒なる武器を持っている。



「待ちわびたで、逃げたかと思ってたわ。あと5分遅かったらチャリ解体するところやったで!」



 危ないところだった。

 チャリが壊されたら不便極まりない。



「で、そいつが助っ人って野郎か?」



 チビの方が池さんを値踏みするような視線をしながら言った。



「そうや、この人は拳法してるからな、止めるのやったら今のうちやぞ!」



 一応。絡んで因縁つけてきた奴であっても怪我されるのは可哀想だ。忠告だけはしておいてやる。



「まぁ、拳法してるか知らんけど。見た感じ弱そうやんけ」



 それを、聞いて池さんは不敵な笑みを浮かべると手首から「ポキポキ」と音を出して、二人組を威嚇していた。



 俺はこのあたりは喧嘩慣れしてるな、池さんは頼もしい気がする。



「ほな、こんな所いても、しゃーないから河川敷行こうや。勝負はどうやってつける。せーのっで、一斉にどつきあいでええやろ?」



 チビが言うように、その勝負の付け方は手っ取り早いが、それでは俺は困るのだ。



 俺は喧嘩は苦手だから、速攻に殴られてしまうと思われる。

 だから、わざわざ池さんを呼びに行き、また戻ってきてる。



「それでも、いいけど。ちょっとバトルロワイヤルみたいで荒いよな」



 強がりを言ってみたが、自分で何を提案してるのかすら分からない。



「じゃ、どうするんだ?」



 よくは分からないが、こっちのルールでやってくれそうな気がしてきた。



「だから、タイマン勝負で勝ったら、そのまま次の相手でいいじゃないかよ! そのためにこっちはわざわざ助っ人呼んできて数合わせてるだろうが!!」



 俺は意味不明な逆ギレ風に言ってみた。



 すると、相手はアホだから素直に提案を受けてくれた。



「まぁ、こっちは何でもいいけどよ。そんかわり、こっちは警棒使っていいよな。お前の助っ人は拳法やってるのだから、ハンデもらうわ」



 武器を使うとは、真に卑怯千万だが、こちらの提案を受け入れてくれた手前断りづらい。

 向こうもなかなかに強かだ。



 俺は池さんに「警棒使うとか言ってるけど……」と一応聞いて見ることにした。



 すると、池さんは動ずることもなく 「かまへん、かまへん、ジークンドーは無敵の拳法や」と涼しげに言い放った。



 流石に池さん。呼んで良かったと思わせる余裕を見せてくれる。



 そういう事でタイマン勝負の喧嘩ルールは決まった。



 あとは河川敷で池さんとアホ二人のバトルを高見の見物といったところである。



 不良達は、河川敷に向かう途中もいかに自分達がヤバいのかを自慢気に言ってくる。



「俺はこの前まで、暴力沙汰で少年院にいて出てきたところなんや、また戻ることになったら嫌やな」



 だったら喧嘩売ってくるなよ! と思う話だが奴らにしたらこれも、喧嘩の手口なのだと思った。



 ったく、こういう輩は脅しに長けていて余念はない。



 そんな事を道すがら思っていたら、決戦場の河川敷についた。

 幸か不幸かは分からないが、この場所にいるのは俺達だけだった。



「ほな、ちゃっちゃとやろか」



 チビはそう言うと、ノッポに合図した。

 どうやら、こいつらの中ではチビの方が偉いみたいだ。



「こっちは、こいつが先行くから、お前らは拳法かじってるとかいう助っ人やな。ほな、カウントダウン5秒前からいくで。0でバトル開始や」



 池さんは、それを利くと、「フォー、フォーホー」と怪鳥音を出して、飛び跳ねるように足を前後左右に華麗なステップを踏んで相手を威嚇し始めた。



 正に、教室で披露していたジークンドーの型である。



「フォアー、ホー、フォワー、アチャ」



 やかましいぐらいの鳴き声をあげる池さん。



 その姿を見て、俺は「勝ったな!」と確信する。



「5,4、3」とチビのカウントダウンがはじまった。

「フォワー」



 池さんは更にステップをカウントダウンに合わせるかのように早める。

「フォワーフォーー



「2,1」



 魅せてくれ、池さん。

 お前のジークンドーを。



 俺の脳内では、警棒をなぎ下ろしたノッポの腕を蹴り上げ、怯んだ所を踵落としで脳天直下の蹴りを決め、敵をのしてる池さんの姿が浮かんでいた。



「フォワーーー」



「0」 



 戦いが始まる刹那の時。



 バトル開始の合図と共に、俺が見たのは華麗な池さんの蹴りではなく……。





「どうも、すみませんでした」



 とノッポとチビに詫びを入れてる池さんの姿であった。



 正に、「エェッーーー」



 何で? どうした池さん。謝ってるやん。



 不良達は腹を抱えて大笑いしている。



「何がジークンドーや、このヘタレが!」



 容赦なく池さんに浴びせられる罵声。



「許してほしかったら、三回まわってワンと鳴け!」





 池さんは、こいつらの愛犬よろしく「ワン、ワン、ワン」と鳴いていた。



「おい、何ぼっとしとんねん。お前も鳴けよ。それとも、タイマンするか?」

  

 助っ人の池さんがこのような不様な状態である。



 俺も、勿論「ワンワンワン 」と思いっきり鳴いていた。

 

 俺達は、そんな犬真似だけで許されるはずもなく、「キャイーン」と言いたくなるほど、殴られた挙げ句にあり金全部カツアゲされてしまった。



 チビは帰り際に、「今度お前らに何かあったら助けたるから、警察とかにチクるなよ。ヘタレが」と言って去っていった。



 不良達がいなくなり、二人きりになると、池さんは消えそうな声で「ごめん。腹が痛かってん」と謝った。



 俺は、「かまへんよ。俺も腹が痛いのに呼び出してごめんな」と言っていた。



 あれから、数十年経った今でも俺と池さんはマブダチだったりする。



 
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