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第14話 隼人、孤立!? 疑惑と真実のはざまで
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密告文が出回った翌日から、俺を見る周囲の目は明らかに変わった。
食堂では、箸を止めたまま俺を見つめる者。通路では、声を潜めて噂を交わす者。雑用室では、仲間だったはずの囚人たちが視線を逸らしていた。
壁に背を預けて立つと、まるで空気が重たくなる。俺の存在自体が、監獄の秩序を揺るがす存在になってしまったのかと錯覚しそうになる。
そんな中、夜の雑用室に一人ぽつんと座る影が目に入った。
「……メルク?」
声をかけると、彼は驚いたように肩を跳ねさせ、それから無理に笑みを作った。
「あ、隼人さん……こんな時間に……」
「お前こそ、寝なくて大丈夫か?」
俺が向かいに腰を下ろすと、メルクは目を伏せて小さく息を吐いた。
「……その、密告文のことですけど……本当に、あれは……でたらめ、なんですよね?」
蝋燭の淡い光が、彼の不安げな表情を照らしていた。
俺はしばらく黙ったまま、メルクの目を見つめ返した。そしてゆっくりと頷く。
「ああ。あんな文書、事実を歪めた悪意そのものだ」
メルクは顔を上げたが、その目にはまだ迷いがあった。
「僕……信じてますよ。でも……皆が口を閉ざしていくのを見てると……僕まで怖くなって……」
彼の手は膝の上でぎゅっと握られ、指先が白くなっていた。
「僕は、自分のやってきたことが、本当に正しかったのか分からなくなるんです。隼人さんがいなかったら、きっと僕はここで……壊れていた。でも、だからこそ……あの言葉が本当じゃなかったらどうしようって……そんなこと、思いたくないのに……心のどこかで、ぐらついて……」
声が震え、視線が宙をさまよっている。
メルクは人一倍繊細で、優しい青年だ。だからこそ、こういう揺れに真っ先に呑まれる。俺は静かに言葉を返した。
「……それでもこうして話してくれてる。十分だよ、メルク。俺たちが始めた“更生”は、お前みたいな奴がいたから意味を持ったんだ。パンくず事件のとき、お前は……一歩踏み出した。あれは俺が強制したんじゃない。お前自身の意思だった」
メルクは涙ぐみながら、微かに笑った。
「隼人さんが止めてくれたあの日……“怒鳴る前に、話をしろ”って言ってくれたあの言葉、ずっと覚えてます。……だから、僕は信じてます」
その言葉が、何よりの救いだった。
その夜、ナナと当直の交代をした帰り道、彼女も俺の異変に気づいたようだった。
「……元気なさそうね」
彼女の声は、普段よりも柔らかかった。
「囚人たちの視線が冷たくてさ。正直、こたえるよ」
俺がぼやくと、ナナは小さく苦笑して肩をすくめた。
「まぁ……密告の効果は絶大だったみたいね。でも、それだけ影響力がある証拠でもある。あなたの動きが、誰かにとって脅威になってるってこと」
「それって、光栄ってやつか?」
「もちろん。……でも、孤独を感じるのは当然よ。あなたが正しいことをしてても、それに賛同するのは簡単じゃない」
俺は立ち止まり、夜の空を仰いだ。監獄の高い塀の向こうに、わずかに星が瞬いている。
「もしこの中に、本当に裏切り者がいたら──俺、どうすればいいんだろうな」
ナナは少しだけ黙って、それからふわりと笑った。
「裏切られる覚悟がある人だけが、人を信じられる。……そういうものよ。私も、あなたの味方でいる覚悟はある。裏切られても、後悔しない」
その言葉に、胸が熱くなった。
「……ありがとう、ナナ」
彼女は軽く手を振って歩き出しながら、背中越しに言った。
「さ、明日も雑用室、動かすんでしょ? 背中ばっか見せてないで、ちゃんと前向いてね」
俺はその背中を見つめながら、静かに拳を握りしめた。
疑惑と不信の渦中で──それでも俺は、信じてくれる仲間たちのために、前を向くしかない。
食堂では、箸を止めたまま俺を見つめる者。通路では、声を潜めて噂を交わす者。雑用室では、仲間だったはずの囚人たちが視線を逸らしていた。
壁に背を預けて立つと、まるで空気が重たくなる。俺の存在自体が、監獄の秩序を揺るがす存在になってしまったのかと錯覚しそうになる。
そんな中、夜の雑用室に一人ぽつんと座る影が目に入った。
「……メルク?」
声をかけると、彼は驚いたように肩を跳ねさせ、それから無理に笑みを作った。
「あ、隼人さん……こんな時間に……」
「お前こそ、寝なくて大丈夫か?」
俺が向かいに腰を下ろすと、メルクは目を伏せて小さく息を吐いた。
「……その、密告文のことですけど……本当に、あれは……でたらめ、なんですよね?」
蝋燭の淡い光が、彼の不安げな表情を照らしていた。
俺はしばらく黙ったまま、メルクの目を見つめ返した。そしてゆっくりと頷く。
「ああ。あんな文書、事実を歪めた悪意そのものだ」
メルクは顔を上げたが、その目にはまだ迷いがあった。
「僕……信じてますよ。でも……皆が口を閉ざしていくのを見てると……僕まで怖くなって……」
彼の手は膝の上でぎゅっと握られ、指先が白くなっていた。
「僕は、自分のやってきたことが、本当に正しかったのか分からなくなるんです。隼人さんがいなかったら、きっと僕はここで……壊れていた。でも、だからこそ……あの言葉が本当じゃなかったらどうしようって……そんなこと、思いたくないのに……心のどこかで、ぐらついて……」
声が震え、視線が宙をさまよっている。
メルクは人一倍繊細で、優しい青年だ。だからこそ、こういう揺れに真っ先に呑まれる。俺は静かに言葉を返した。
「……それでもこうして話してくれてる。十分だよ、メルク。俺たちが始めた“更生”は、お前みたいな奴がいたから意味を持ったんだ。パンくず事件のとき、お前は……一歩踏み出した。あれは俺が強制したんじゃない。お前自身の意思だった」
メルクは涙ぐみながら、微かに笑った。
「隼人さんが止めてくれたあの日……“怒鳴る前に、話をしろ”って言ってくれたあの言葉、ずっと覚えてます。……だから、僕は信じてます」
その言葉が、何よりの救いだった。
その夜、ナナと当直の交代をした帰り道、彼女も俺の異変に気づいたようだった。
「……元気なさそうね」
彼女の声は、普段よりも柔らかかった。
「囚人たちの視線が冷たくてさ。正直、こたえるよ」
俺がぼやくと、ナナは小さく苦笑して肩をすくめた。
「まぁ……密告の効果は絶大だったみたいね。でも、それだけ影響力がある証拠でもある。あなたの動きが、誰かにとって脅威になってるってこと」
「それって、光栄ってやつか?」
「もちろん。……でも、孤独を感じるのは当然よ。あなたが正しいことをしてても、それに賛同するのは簡単じゃない」
俺は立ち止まり、夜の空を仰いだ。監獄の高い塀の向こうに、わずかに星が瞬いている。
「もしこの中に、本当に裏切り者がいたら──俺、どうすればいいんだろうな」
ナナは少しだけ黙って、それからふわりと笑った。
「裏切られる覚悟がある人だけが、人を信じられる。……そういうものよ。私も、あなたの味方でいる覚悟はある。裏切られても、後悔しない」
その言葉に、胸が熱くなった。
「……ありがとう、ナナ」
彼女は軽く手を振って歩き出しながら、背中越しに言った。
「さ、明日も雑用室、動かすんでしょ? 背中ばっか見せてないで、ちゃんと前向いてね」
俺はその背中を見つめながら、静かに拳を握りしめた。
疑惑と不信の渦中で──それでも俺は、信じてくれる仲間たちのために、前を向くしかない。
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