完結 元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』

カトラス

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第17話 ベルン、孤独な誓いと意外な過去

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 明け方前、監獄の中庭はまだ薄暗く、湿った空気が地面にまとわりついていた。石畳を踏みしめる音が、静けさの中でやけに大きく響く。



 俺は見回りの途中で、いつもより早く厨房裏にいるベルンを見つけた。



「……おはよう、ベルン。こんな時間に何してるんだ?」



 声をかけると、巨大な背中がゆっくりと振り返った。



「隼人か。……寝られなくてな。皿を洗ってた」



 鉄鍋を持つ手が、いつになく丁寧に動いていた。彼は一見粗野だが、調理や洗濯などの作業には妙に几帳面なところがある。



「皿、もう十分に洗っただろ。それに厨房当番は今日、別の班だったはずだ」



「……まあな。でも、今は身体を動かしてないと、考えすぎちまって」



 ベルンは作業を止め、腰を下ろした。俺も彼の隣に腰を下ろす。



「考えすぎる? 密告のことか?」



「……ああ。オレさ、誰かが裏切ってるって話が出たとき、自分でもちょっと不安になっちまった。けどな……俺は違う。絶対に違うって、自分で言いたくてさ」



「信じてるよ、ベルン」



「ありがとな。でも、それだけじゃねぇ。実は──俺、勝手に調べてたんだ。誰が厨房の物資を勝手に動かしてたのか」



「なんだって?」



「ほら、少し前から食材の帳簿が合わないって言ってただろ。最初は記録ミスかと思ってた。でも、どうも意図的に抜かれてた節がある」



「誰がやった?」



「それが……わからねぇ。でも、ひとつ気になるのは、厨房の鍵。合鍵を誰かが作ってた可能性がある。鍛冶経験のある囚人がいるって、ナナが言ってたろ」



 ベルンの声には、怒りではなく、静かな決意がにじんでいた。



「……ベルン。お前、もしかして過去に、こういうことがあったのか?」



 しばしの沈黙のあと、彼は口を開いた。



「……俺、昔は農場で働いてた。家族もいた。けどな──ある日、弟が盗みを働いた。俺はそれを隠して、自分が罪を被った」



「……身代わりに?」



「ああ。弟はまだ若かったし、俺が行けば家は守られると思った。でも……それ以来、家族は俺と縁を切った」



 そのとき、彼の瞳に浮かんだ光は、確かに過去の痛みだった。



「朝は早く、夜明け前から鶏を追って、畑を耕して、雨の日も風の日も……。麦を育てるのが俺の仕事だった。家族の誰よりも体を動かして、黙々と働いてたよ。正直、誇りだったんだ。自分の手で食卓が満たされるのが」



「……それがある日、一晩で崩れた?」



「ああ。弟が隣村の倉庫から食糧を盗んだと聞かされた時は、頭が真っ白になった。親父も母ちゃんも、弟を庇って泣いてたよ。だから、俺が手を挙げた。“俺がやった”ってな」



「家族のために、か……」



「けど、その選択が間違ってた。村の信用は失われ、俺は投獄され、家族は……俺を避けた。まるで疫病神みたいにな」



 ベルンは拳を固く握った。



「だから、もう誰かのために“誤った正義”は振るわねぇ。この監獄で同じことを繰り返したら……もう、自分を許せなくなる」



「ベルン……」



「だから隼人、お前がやろうとしてる“更生”──俺は信じてる。でも、もし揺らいだら、俺がぶん殴ってでも止めるからな」



 思わず吹き出しそうになった。だが、同時に心の奥が熱くなった。



「……ありがとう、ベルン。頼もしいよ」



「へっ、言ってろ。さ、皿洗い再開すっか。汚ねぇ鍋の方が、頭使わなくて済む」



 そう言って立ち上がるベルンの背は、まるで岩山のように頼もしかった。

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