51 / 62
第50話 『決別の剣──未来を選ぶために』
しおりを挟む
登場人物紹介(第1話~第50話時点)
■眞嶋 隼人ましま・はやと
【主人公/元エリート刑務官・異世界転移者】
日本で刑務官として働いていたが、刺殺事件により命を落とし、異世界の監獄島ガランツァへと転移。正義感と矜持を胸に、腐敗した監獄を改革すべく立ち上がる。
戦闘能力は人並みだが、洞察力と交渉力、そして人を見捨てない“芯の強さ”が武器。
異世界でもなお「更生と信頼」の信念を貫く、現場主義の理論派。
■メルク
【囚人/元パン職人】
冤罪で投獄された気弱な青年。隼人と最初に信頼関係を築いた囚人であり、更生活動の象徴的存在。パン作りを再び目指し、改革の実験的プロジェクトで活躍。
心優しく純朴だが、芯は強い。物語の前半の良心であり、希望。
■ベルン・タルカ
【囚人→協力者/元兵士系】
オーガの血を引く大柄な囚人。見た目に反して穏やかで家庭的。料理と育児が得意。かつて家族を守るため罪を背負った過去を持ち、現在は隼人の右腕的ポジション。
戦闘能力は高く、豪腕タイプの接近戦が得意。
■ジリア
【囚人/謎多き男】
端正な容貌とミステリアスな雰囲気を持つ囚人。寡黙だが知識と観察力に優れ、隼人の監獄改革にたびたび助言を与える。
一時は反体制的な立場だったが、徐々に隼人に共感し協力者に。
《黒の烙印》を背負った元反体制の工作員。
■ナナ・ユリエル
【看守/中性的ハーフエルフの青年】
真面目で優秀、冷静な性格を持つ新人看守。数少ない“まともな”ガランツァの職員。
隼人を尊敬し、共に改革を進めるパートナー。実は高い魔法適性を持ち、後に“ソーサラーの資質”を見出される。
■ガルバ・ドラン
【監獄島所長/ドワーフ】
普段は酒と惰性にまみれた無気力な老人だが、実は過去に大きな“正義”を語っていた人物。
視察後、帝都への報告の旅を経て変化し、再び“守るべき島”のために立ち上がる。
情に厚く、現場を知る管理者として覚醒する後半のキーマン。
■ロト・ギャンベル
【上級看守/堕落の象徴】
強面で横暴。責任回避と権威主義の塊。
視察前後の事件で失墜、後に魔物の餌食となり、アンデッド化して登場する衝撃の結末を迎える。
■クルス・ミラージュ
【査察官/帝国直属・冷酷エリート】
監獄の更生制度を数字で裁く“鉄面の処刑官”。再教育を「コスト」と断じる合理主義者。
しかし冷徹な面の奥には、隼人の改革を「希望」と見ている節もあり、物語が進むにつれ変化の兆しも。
■レオン=グレイアッシュ
【勇者/封印されていた伝説の英雄】
かつて魔王を討ち滅ぼした勇者。今は地下ダンジョンで石化して眠っていたが、隼人たちによって覚醒。
剣と魔法を操る万能戦士。口は悪く乱暴者だが、仲間思いで信頼厚い。
魔王戦後の因縁から心を閉ざしていたが、隼人たちと再び戦う決意を固める。
■綾瀬 美優あやせ・みゆ
【聖女/異世界転移者・元看護師】
現代日本では看護師だったが、ウイルス蔓延の中で命を落とし、この世界に転移。
“癒しと浄化”の奇跡の力を持つ聖女として帝都で崇拝されていた。
隼人とは過去に同じ職場で働いた関係で、信頼と想いを共有するヒロインポジション。
高位回復スキルの持ち主で、パーティの要として活躍。
■ヴェル・カーティス
【魔導士/若き天才術師】
冷静沈着な理論派魔導士。元は帝都の学術機関所属。
現在はレオンたちと共に行動し、“魔力の歪み”を感知する魔法解析のスペシャリスト。
戦闘時は魔術による遠隔攻撃・結界展開などを担う。
■アルセリス
【かつての勇者の仲間/現在は魔王の器】
かつてレオンと共に魔王を討伐した天才魔導士。
だがその際、魔王の意志が体内に憑依し、長い年月をかけて理性を蝕まれていく。
本来は穏やかで知的な人物だったが、狂気と理性の狭間で彷徨う存在へと変貌。
仲間に討たれることを“救い”として望み、レオンと隼人に未来を託す。
魔導工房の最奥、薄闇に沈んだ玉座の間。
俺たちは、ついにたどり着いた。
あの玉座に座るのは、かつての仲間──アルセリス。
だが、もう彼の姿は"人間"ではなかった。
額には赤黒い魔紋、身を覆う瘴気が生者のものではないと告げている。
それでも、あの目にはまだ、微かな理性の光が宿っていた。
「……来たか、レオン。隼人……それに、美優」
その声は、昔と同じだった。
静かで、穏やかで、どこか諦めを帯びていて。
レオンが、俺の隣で歯を食いしばっていた。
俺は前に出て、ゆっくり言葉を紡いだ。
「何故、俺と美優の名前を知っている?」
アルセリスに聞いてみたが答えは返ってこなかった。
「……お前、まだ……自我を保ってるのか」
「……ああ。でも、長くはもたん」
アルセリスは立ち上がり、胸元を露わにする。
そこに刻まれた深紅の魔紋が脈動し、異様な光を放っていた。
「ここを、レオン。お前の剣で突いてくれ」
美優が小さく息を呑み、ベルンとヴェルもその場に立ちすくむ。
「ふざけんなよ……!」
レオンが吼える。
「それがお前の望みなのか!? そんな終わり方……俺が許せるわけねぇだろ!」
「だからこそ、レオンに頼む。お前たちなら……俺の分も、前に進める」
アルセリスの微笑みが、余計に苦しかった。
「……救う方法は、本当にないのか」
俺は最後の希望にすがるように聞いた。
「ない。俺自身が一番わかってる。このままでは……俺は、“魔王”になる」
静かな、けれど決定的な言葉だった。
その場が凍りつくような沈黙に包まれる。
美優の瞳に、涙が浮かんだ。
「あなたは……最後まで、自分を責めるのね」
「責めるさ。知を持ち、誤った。……その罪は、俺自身が背負う」
そして、レオンに向かって一歩を踏み出す。
「頼む。……友として、終わらせてくれ」
レオンの剣が震えていた。
それでも、彼は必死に顔を上げた。
俺は、そっとレオンの肩に手を置いた。
「……全部、お前一人に背負わせねぇよ。これは、俺たち全員の問題だ」
レオンの目が俺を見る。
その中に、少しだけ光が戻った気がした。
「……一緒に終わらせよう。俺たちの過去を」
「ハヤト…」
俺の名を、まだ人間の声で呼んだ。
アルセリスの身体が歪み、瘴気が吹き荒れる中、それでも彼の瞳だけは人のままだった。
レオンの剣が突き立てられたその瞬間──。
魔紋から閃光のような魔力が奔った。
アルセリスの胸元から、黒く渦巻く“何か”が音もなく這い出す。
それは煙のようでありながら、確かに意思を持った魔そのもの──かつての"魔王"の残滓だった。
俺は息を呑んだ。
それはただの呪いでも、憑依でもない。
まるで長いあいだアルセリスの意識の奥に潜み、時を待っていたかのような……純粋な悪意。
それが空気を裂き、耳を劈く叫び声を上げる。
悲鳴とも怒声ともつかない、あらゆる感情の呪詛が混ざり合った声だった。
「ぬ……け……ぬける……ッ、ぐぅうぅっ!!」
アルセリスの顔が歪み、身体が反り返る。
魔の影が抵抗するように、彼の四肢を締めつけた。
だが、レオンの剣から放たれる聖なる輝きが、それを断ち切る。
美優が、崩れそうな膝を支えながら祈った。
「……癒しの光よ、彼の魂を護って……」
その声に応じるように、眩い光が彼女の掌から溢れ、アルセリスの身体を包み込む。
それは、ただの回復魔法ではなかった。
彼の"人間"としての部分だけを、確かに護る優しい光だった。
ヴェルが詠唱を重ねる。
「精神遮断障壁、展開。感応経路遮断、干渉解呪──!」
高密度の魔力がアルセリスの周囲を囲み、闇を引き剥がすように動く。
アルセリスの中から、煙のごとき魔の気配がさらに抜け出す。
それはもはや影の巨人のような形を成し、牙を剥いて俺たちを睨んだ。
だが、その眼には知性がなかった。
狂気と憎悪、それだけを燃料にしてきた魂の残滓。
「ア……ァァアアアァァァァァッ!!」
断末魔。
その叫びと共に、魔王の影が砕け散り、光の粒となって消えていった。
静寂。
アルセリスの身体が崩れ落ちる。
レオンがすぐに抱き留める。
「……まだ、生きてる」
「魔王は……抜けたんだ」
アルセリスの唇が微かに動く。
「……俺は、許される資格は……ないが……ありがとう……」
その言葉と共に、彼はゆっくりと意識を手放した。
だがその顔には、確かな安堵の表情が浮かんでいた。
かつての仲間を、俺たちは救った。
それは戦いの終わりではない。
けれど確かに、ひとつの"闇"を越えた瞬間だった。
こうして、かつての仲間アルセリスとの決別は果たされた。
未来を、選ぶために。
アルセリスに剣を突き刺した時に俺の心の中に彼の声が聞こえてきた。
それは、アルセリスに質問した応えだった。
──彼が最後に、俺たちの名前を呼んだのには理由がある。
魔王の意思に侵食されつつも、アルセリスは“過去”を探っていた。
彼は魔導知識の探求者であり、封印される前、監獄島に眠る勇者レオンの存在と、異世界から転移してきた人間の記録を知った。
監獄島で“異質な魔力の流れ”を辿り、俺と美優の転移痕跡を感知していたのだ。
だからこそ、封印された意識の中で、俺たちを覚えていた。
……理屈ではない。
かつての仲間として、彼は俺たちを“信じていた”のだと思う。
※※
ここまでのあらすじ
元エリート刑務官・眞嶋隼人ましま・はやとは、職務中の刺殺事件をきっかけに、異世界の孤島監獄「ガランツァ監獄島」へと転移する。そこは囚人も看守も腐敗し、暴力と支配が蔓延る“ブラック監獄”だった。
最下級看守として任じられた隼人は、戸惑いながらも持ち前の職業倫理と正義感で「囚人の更生」という理想を貫こうとする。冤罪で投獄された元パン職人メルク、寡黙な大男ベルン、美貌の謎多き囚人ジリア、そしてハーフエルフの新人看守ナナ──信頼できる仲間たちとの出会いを経て、腐敗した監獄に“改革の風”を起こし始める。
一方、上級看守ロト・ギャンベルら保守派は、その動きを警戒。内部密告や暴動計画による妨害を企てる。隼人は彼らの企みに立ち向かいながらも、「教育と信頼による更生」という信念を曲げることはなかった。
やがて帝都からの査察団が到来。冷徹な査察官クルスは「再教育はコスト」と断じ、改革の成否を“数値”で測ろうとする。帝都の思惑と、現場の理想が激しくぶつかる中、隼人たちは囚人と看守が力を合わせて非公式プレゼンを実施。その成果は評価され、ガランツァに“希望”の兆しが生まれる。
だが、帝都は突如として“魔物の大軍”に襲われ、壊滅。命からがら脱出した視察団の報せにより、世界が崩れ始めていることが判明する。地下封印が崩れ始め、魔物が監獄島をも襲撃。地下ダンジョンには、かつて魔王を討った“勇者レオン”が石化状態で眠っていた。
封印を解かれたレオンは、口は悪いが確かな実力を持つ剣と魔法の使い手。レオンはかつての仲間──魔導士アルセリスが魔王の残滓に憑かれ、今や“新たな魔王”として世界を蝕んでいる可能性を語る。
帝都に潜入した隼人、レオン、美優(聖女となった元看護師で隼人の旧知)、ヴェル(魔導士)、ベルンの5人は、廃墟と化した帝都で次々と魔物に立ち向かいながら、魔導工房へと辿り着く。
数々の戦闘、幻影、そして試練の果てに待っていたのは、理性をかろうじて残したまま、魔王に呑まれたアルセリスの姿だった。
そして第50話──
「決別の剣」の名のもと、隼人たちはアルセリスを“討つことで救う”という苦渋の選択を下す。
剣が貫かれ、魔王の意志はアルセリスの身体から離れ去り──
かつての仲間を、ようやく“救う”ことができたのだった。
だが、これは終わりではない。
失われた帝都を取り戻す戦いは、いよいよ“本章”へと向かっていく──!
■眞嶋 隼人ましま・はやと
【主人公/元エリート刑務官・異世界転移者】
日本で刑務官として働いていたが、刺殺事件により命を落とし、異世界の監獄島ガランツァへと転移。正義感と矜持を胸に、腐敗した監獄を改革すべく立ち上がる。
戦闘能力は人並みだが、洞察力と交渉力、そして人を見捨てない“芯の強さ”が武器。
異世界でもなお「更生と信頼」の信念を貫く、現場主義の理論派。
■メルク
【囚人/元パン職人】
冤罪で投獄された気弱な青年。隼人と最初に信頼関係を築いた囚人であり、更生活動の象徴的存在。パン作りを再び目指し、改革の実験的プロジェクトで活躍。
心優しく純朴だが、芯は強い。物語の前半の良心であり、希望。
■ベルン・タルカ
【囚人→協力者/元兵士系】
オーガの血を引く大柄な囚人。見た目に反して穏やかで家庭的。料理と育児が得意。かつて家族を守るため罪を背負った過去を持ち、現在は隼人の右腕的ポジション。
戦闘能力は高く、豪腕タイプの接近戦が得意。
■ジリア
【囚人/謎多き男】
端正な容貌とミステリアスな雰囲気を持つ囚人。寡黙だが知識と観察力に優れ、隼人の監獄改革にたびたび助言を与える。
一時は反体制的な立場だったが、徐々に隼人に共感し協力者に。
《黒の烙印》を背負った元反体制の工作員。
■ナナ・ユリエル
【看守/中性的ハーフエルフの青年】
真面目で優秀、冷静な性格を持つ新人看守。数少ない“まともな”ガランツァの職員。
隼人を尊敬し、共に改革を進めるパートナー。実は高い魔法適性を持ち、後に“ソーサラーの資質”を見出される。
■ガルバ・ドラン
【監獄島所長/ドワーフ】
普段は酒と惰性にまみれた無気力な老人だが、実は過去に大きな“正義”を語っていた人物。
視察後、帝都への報告の旅を経て変化し、再び“守るべき島”のために立ち上がる。
情に厚く、現場を知る管理者として覚醒する後半のキーマン。
■ロト・ギャンベル
【上級看守/堕落の象徴】
強面で横暴。責任回避と権威主義の塊。
視察前後の事件で失墜、後に魔物の餌食となり、アンデッド化して登場する衝撃の結末を迎える。
■クルス・ミラージュ
【査察官/帝国直属・冷酷エリート】
監獄の更生制度を数字で裁く“鉄面の処刑官”。再教育を「コスト」と断じる合理主義者。
しかし冷徹な面の奥には、隼人の改革を「希望」と見ている節もあり、物語が進むにつれ変化の兆しも。
■レオン=グレイアッシュ
【勇者/封印されていた伝説の英雄】
かつて魔王を討ち滅ぼした勇者。今は地下ダンジョンで石化して眠っていたが、隼人たちによって覚醒。
剣と魔法を操る万能戦士。口は悪く乱暴者だが、仲間思いで信頼厚い。
魔王戦後の因縁から心を閉ざしていたが、隼人たちと再び戦う決意を固める。
■綾瀬 美優あやせ・みゆ
【聖女/異世界転移者・元看護師】
現代日本では看護師だったが、ウイルス蔓延の中で命を落とし、この世界に転移。
“癒しと浄化”の奇跡の力を持つ聖女として帝都で崇拝されていた。
隼人とは過去に同じ職場で働いた関係で、信頼と想いを共有するヒロインポジション。
高位回復スキルの持ち主で、パーティの要として活躍。
■ヴェル・カーティス
【魔導士/若き天才術師】
冷静沈着な理論派魔導士。元は帝都の学術機関所属。
現在はレオンたちと共に行動し、“魔力の歪み”を感知する魔法解析のスペシャリスト。
戦闘時は魔術による遠隔攻撃・結界展開などを担う。
■アルセリス
【かつての勇者の仲間/現在は魔王の器】
かつてレオンと共に魔王を討伐した天才魔導士。
だがその際、魔王の意志が体内に憑依し、長い年月をかけて理性を蝕まれていく。
本来は穏やかで知的な人物だったが、狂気と理性の狭間で彷徨う存在へと変貌。
仲間に討たれることを“救い”として望み、レオンと隼人に未来を託す。
魔導工房の最奥、薄闇に沈んだ玉座の間。
俺たちは、ついにたどり着いた。
あの玉座に座るのは、かつての仲間──アルセリス。
だが、もう彼の姿は"人間"ではなかった。
額には赤黒い魔紋、身を覆う瘴気が生者のものではないと告げている。
それでも、あの目にはまだ、微かな理性の光が宿っていた。
「……来たか、レオン。隼人……それに、美優」
その声は、昔と同じだった。
静かで、穏やかで、どこか諦めを帯びていて。
レオンが、俺の隣で歯を食いしばっていた。
俺は前に出て、ゆっくり言葉を紡いだ。
「何故、俺と美優の名前を知っている?」
アルセリスに聞いてみたが答えは返ってこなかった。
「……お前、まだ……自我を保ってるのか」
「……ああ。でも、長くはもたん」
アルセリスは立ち上がり、胸元を露わにする。
そこに刻まれた深紅の魔紋が脈動し、異様な光を放っていた。
「ここを、レオン。お前の剣で突いてくれ」
美優が小さく息を呑み、ベルンとヴェルもその場に立ちすくむ。
「ふざけんなよ……!」
レオンが吼える。
「それがお前の望みなのか!? そんな終わり方……俺が許せるわけねぇだろ!」
「だからこそ、レオンに頼む。お前たちなら……俺の分も、前に進める」
アルセリスの微笑みが、余計に苦しかった。
「……救う方法は、本当にないのか」
俺は最後の希望にすがるように聞いた。
「ない。俺自身が一番わかってる。このままでは……俺は、“魔王”になる」
静かな、けれど決定的な言葉だった。
その場が凍りつくような沈黙に包まれる。
美優の瞳に、涙が浮かんだ。
「あなたは……最後まで、自分を責めるのね」
「責めるさ。知を持ち、誤った。……その罪は、俺自身が背負う」
そして、レオンに向かって一歩を踏み出す。
「頼む。……友として、終わらせてくれ」
レオンの剣が震えていた。
それでも、彼は必死に顔を上げた。
俺は、そっとレオンの肩に手を置いた。
「……全部、お前一人に背負わせねぇよ。これは、俺たち全員の問題だ」
レオンの目が俺を見る。
その中に、少しだけ光が戻った気がした。
「……一緒に終わらせよう。俺たちの過去を」
「ハヤト…」
俺の名を、まだ人間の声で呼んだ。
アルセリスの身体が歪み、瘴気が吹き荒れる中、それでも彼の瞳だけは人のままだった。
レオンの剣が突き立てられたその瞬間──。
魔紋から閃光のような魔力が奔った。
アルセリスの胸元から、黒く渦巻く“何か”が音もなく這い出す。
それは煙のようでありながら、確かに意思を持った魔そのもの──かつての"魔王"の残滓だった。
俺は息を呑んだ。
それはただの呪いでも、憑依でもない。
まるで長いあいだアルセリスの意識の奥に潜み、時を待っていたかのような……純粋な悪意。
それが空気を裂き、耳を劈く叫び声を上げる。
悲鳴とも怒声ともつかない、あらゆる感情の呪詛が混ざり合った声だった。
「ぬ……け……ぬける……ッ、ぐぅうぅっ!!」
アルセリスの顔が歪み、身体が反り返る。
魔の影が抵抗するように、彼の四肢を締めつけた。
だが、レオンの剣から放たれる聖なる輝きが、それを断ち切る。
美優が、崩れそうな膝を支えながら祈った。
「……癒しの光よ、彼の魂を護って……」
その声に応じるように、眩い光が彼女の掌から溢れ、アルセリスの身体を包み込む。
それは、ただの回復魔法ではなかった。
彼の"人間"としての部分だけを、確かに護る優しい光だった。
ヴェルが詠唱を重ねる。
「精神遮断障壁、展開。感応経路遮断、干渉解呪──!」
高密度の魔力がアルセリスの周囲を囲み、闇を引き剥がすように動く。
アルセリスの中から、煙のごとき魔の気配がさらに抜け出す。
それはもはや影の巨人のような形を成し、牙を剥いて俺たちを睨んだ。
だが、その眼には知性がなかった。
狂気と憎悪、それだけを燃料にしてきた魂の残滓。
「ア……ァァアアアァァァァァッ!!」
断末魔。
その叫びと共に、魔王の影が砕け散り、光の粒となって消えていった。
静寂。
アルセリスの身体が崩れ落ちる。
レオンがすぐに抱き留める。
「……まだ、生きてる」
「魔王は……抜けたんだ」
アルセリスの唇が微かに動く。
「……俺は、許される資格は……ないが……ありがとう……」
その言葉と共に、彼はゆっくりと意識を手放した。
だがその顔には、確かな安堵の表情が浮かんでいた。
かつての仲間を、俺たちは救った。
それは戦いの終わりではない。
けれど確かに、ひとつの"闇"を越えた瞬間だった。
こうして、かつての仲間アルセリスとの決別は果たされた。
未来を、選ぶために。
アルセリスに剣を突き刺した時に俺の心の中に彼の声が聞こえてきた。
それは、アルセリスに質問した応えだった。
──彼が最後に、俺たちの名前を呼んだのには理由がある。
魔王の意思に侵食されつつも、アルセリスは“過去”を探っていた。
彼は魔導知識の探求者であり、封印される前、監獄島に眠る勇者レオンの存在と、異世界から転移してきた人間の記録を知った。
監獄島で“異質な魔力の流れ”を辿り、俺と美優の転移痕跡を感知していたのだ。
だからこそ、封印された意識の中で、俺たちを覚えていた。
……理屈ではない。
かつての仲間として、彼は俺たちを“信じていた”のだと思う。
※※
ここまでのあらすじ
元エリート刑務官・眞嶋隼人ましま・はやとは、職務中の刺殺事件をきっかけに、異世界の孤島監獄「ガランツァ監獄島」へと転移する。そこは囚人も看守も腐敗し、暴力と支配が蔓延る“ブラック監獄”だった。
最下級看守として任じられた隼人は、戸惑いながらも持ち前の職業倫理と正義感で「囚人の更生」という理想を貫こうとする。冤罪で投獄された元パン職人メルク、寡黙な大男ベルン、美貌の謎多き囚人ジリア、そしてハーフエルフの新人看守ナナ──信頼できる仲間たちとの出会いを経て、腐敗した監獄に“改革の風”を起こし始める。
一方、上級看守ロト・ギャンベルら保守派は、その動きを警戒。内部密告や暴動計画による妨害を企てる。隼人は彼らの企みに立ち向かいながらも、「教育と信頼による更生」という信念を曲げることはなかった。
やがて帝都からの査察団が到来。冷徹な査察官クルスは「再教育はコスト」と断じ、改革の成否を“数値”で測ろうとする。帝都の思惑と、現場の理想が激しくぶつかる中、隼人たちは囚人と看守が力を合わせて非公式プレゼンを実施。その成果は評価され、ガランツァに“希望”の兆しが生まれる。
だが、帝都は突如として“魔物の大軍”に襲われ、壊滅。命からがら脱出した視察団の報せにより、世界が崩れ始めていることが判明する。地下封印が崩れ始め、魔物が監獄島をも襲撃。地下ダンジョンには、かつて魔王を討った“勇者レオン”が石化状態で眠っていた。
封印を解かれたレオンは、口は悪いが確かな実力を持つ剣と魔法の使い手。レオンはかつての仲間──魔導士アルセリスが魔王の残滓に憑かれ、今や“新たな魔王”として世界を蝕んでいる可能性を語る。
帝都に潜入した隼人、レオン、美優(聖女となった元看護師で隼人の旧知)、ヴェル(魔導士)、ベルンの5人は、廃墟と化した帝都で次々と魔物に立ち向かいながら、魔導工房へと辿り着く。
数々の戦闘、幻影、そして試練の果てに待っていたのは、理性をかろうじて残したまま、魔王に呑まれたアルセリスの姿だった。
そして第50話──
「決別の剣」の名のもと、隼人たちはアルセリスを“討つことで救う”という苦渋の選択を下す。
剣が貫かれ、魔王の意志はアルセリスの身体から離れ去り──
かつての仲間を、ようやく“救う”ことができたのだった。
だが、これは終わりではない。
失われた帝都を取り戻す戦いは、いよいよ“本章”へと向かっていく──!
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
不遇スキル「わらしべ長者」で殺せぬ勇者 〜魔力ゼロでも無双します〜
カジキカジキ
ファンタジー
スキル「わらしべ長者」って何ですか?
アイテムを手にすると、スキル「わらしべ長者」が発動し、強制イベントになるんです。
これ、止めること出来ないんですか?!
十歳のスキル授与で「わらしべ長者」を授かった主人公アベルは幼い頃から勇者への憧れが強い子供だった、憧れていたスキル「勇者」は引っ込み思案の友達テツが授かり王都へと連れて行かれる。
十三歳になったアベルは自分のスキル「わらしべ長者」を使いながら冒険者となり王都を目指した。
王都に行き、勇者のスキルを得た友達に会いたいと思ったからだ。
魔物との戦争が行われているはずの王都は、平和で市民は魔物なんて全く知らずに過ごしていた。
魔物のいる南の地を目指すため、王立学園へと入学するアベル、勇者になった友達の行方は、アベルのスキルはどう進化して行くのか。
スキルを駆使して勇者を目指せ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
扉絵は、AI利用したイラストです。
アベルとニヤ、イヅミのFA大歓迎です!!
描いて下さる絵師さんも募集中、要相談Xにて。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる