完結 元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』

カトラス

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第60話 『君がくれた世界――そして、未来へ』

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 漆黒の雲を突き抜けた飛行部隊は、空を駆け抜け、アイル・セリオールの中枢へと迫った。



 「――電撃来るよ! 全員、魔防結界強化して!」

 美優の叫びと同時に、上空から紫電が走る。

 空間が歪み、雷光が渦巻く中、彼女の祈りが部隊全体を包み、光の盾が激しい衝撃を吸収した。



 「くそ、これがアドラカスの力か……!」

 俺は甲板の端から睨む。あの巨大な浮遊城――いや、“災厄の王”が根を下ろすこの地そのものが、敵意を持って俺たちに牙を剥いているようだった。



 アイル・セリオールの心臓部、黒き玉座の間。

 そこに君臨するのは、禍々しい気配をまとい、血のように紅い瞳を輝かせたアドラカス。

 その姿は魔王というよりも、“絶望そのもの”だった。



 「これより先、生きて貫く者は誰もいない。ここで貴様たちの物語は終わる」

 重く低い声が空間そのものを震わせた。



 「そんなこと、させない!」

 美優が前に出る。光が彼女の杖の先に集まり、希望の祈りが城内に満ちる。



 「俺たちは、終わらせに来たんじゃない……生かすために来たんだ!」

 俺も一歩を踏み出す。

 その隣にはレオンがいた。剣を構え、すでに戦いの熱を全身にまとっている。



 「隼人、行こう。ここが最後の戦場だ」

 「……ああ、わかってる。未来のために、すべてを斬り拓く」



 世界の終わりは、静寂の中で始まった。



 俺たちが《アイル・セリオール》の中央大広間へと突入したとき、その空間には不気味なまでの静けさが満ちていた。



 闇に沈む天井。浮遊する石像のような魔物たち。

 その中央に、玉座に腰掛けた『災厄の王』アドラカスがいた。



 全身を黒く染める鎧。禍々しい紋様が刻まれ、仮面の奥からは異質な力がにじみ出ていた。



 「……よくぞここまで辿り着いたな、異邦の者どもよ」



 低く、地鳴りのような声が玉座から響く。

 その声だけで、空間が震えた。



 「ここで終わらせてやる。お前が壊したこの世界を」



 ヴェルが魔導刻印を起動し、背後から青白い光が奔る。巨大な魔力の奔流がアドラカスに向けて解き放たれた。

 俺は前に出て、剣を構える。仲間たちが背中を預けるように広がる。



 アドラカスはゆっくりと立ち上がった。

 その動作ひとつで、周囲の空間が歪んでいく。



 「くるぞ!」

 レオンの叫びと同時に、戦端が開かれた。



 第一撃。アドラカスの手から放たれた漆黒の魔弾が、空間を裂いて直撃する──寸前、美優の結界魔法が展開され、衝撃波を相殺。



 「お願い、みんな……生きて!」

 美優の声に呼応し、ヴェルの詠唱が空間に奔る。

 「《連鎖干渉結界・反射式展開》!」



 反射された魔弾が周囲の魔物に跳ね返り、爆発が巻き起こる。



 「俺の番だ!」

 レオンが地を蹴り、空中から剣を振り下ろす。だがアドラカスはまるで重力を操るかのように周囲を圧縮、レオンの動きを封じ込めた。



 「ぐっ……重力干渉だと……!」



 「押し通れ、ベルン!」

 「おうよッ!」

 ベルンが巨大な盾を構え、力任せに重力の渦を突き抜けて突撃。



 その隙をついて、俺はアドラカスの懐へと切り込んだ。

 剣を閃かせ、斬りつける──が、手応えはなかった。



 「空間遷移……!」



 アドラカスの姿は、まるで影のように歪んで消える。

 次の瞬間、俺の背後にその気配が現れた。



 「隼人ッ!」

 美優の声が届いたその瞬間、俺の身体は光に包まれた。

 《神聖加護・瞬転》――転移と同時に癒しの魔力が俺を守った。



 「……助かった」



 「まだ終わらないわ。ここからが本番よ」



 その言葉通り、アドラカスは真の姿を顕した。



 鎧が砕け、内部から禍々しい触手と魔核のような輝きが顕現する。

 「これが……災厄の核……!」



 空間そのものが崩壊し始める中、俺たちは最後の連携に賭けた。



 レオンの剣が先陣を切り、ヴェルが弱点を解析、美優が補助を張り、ベルンが前線を守る。

 そして俺は、すべての攻撃の中心に飛び込んだ。



 「これで終わりだ、アドラカスッ!」



 渾身の一撃が、災厄の核を貫いた。



 閃光とともに、世界は音を失った。



 やがて、崩れゆく都市の中心に、俺たちの勝利だけが静かに残された。



 ――これは、災厄を終わらせた者たちの、ひとつの終章だった。



 世界は、静かだった。



 あの黒き浮遊都市アイル・セリオールの中心で、俺たちは立ち尽くしていた。

 アドラカスが断末魔の咆哮を残し、空に崩れ落ちてから、どれほどの時間が過ぎたのか分からない。

 瓦礫と血と、焦げた魔素の匂いが立ち込める戦場に、風が吹いている。



 重力が戻った都市は、ゆっくりと下降を始めていた。

 歪みを正すように、世界が呼吸を取り戻していく。



 「……終わった、のか?」



 俺は呟いた。

 手にした剣は、砕けていた。アドラカスの核を貫いたあの瞬間、魔力の奔流に耐えきれず折れたのだ。



 すぐ隣、美優が膝をつき、祈るように手を組んで空を見上げていた。

 「神様……ありがとう……。みんな、よく生きてくれた……」



 彼女の瞳には涙が浮かんでいた。

 でも、それは悲しみじゃない。生き残った者だけが流せる、尊いものだった。



 レオンは、崩れた玉座の前で天を仰ぎ、ぼそっと呟いた。

 「……あいつも、ようやく解放されたんだな。アルセリス……。お前の未来は、もう誰にも汚させねえよ」



 彼の背中は、どこか寂しげで、それでも凛としていた。

 仲間を討ち、世界を救った男の姿だった。



 ヴェルは、壁に寄りかかりながら震える手でメモ帳をめくっていた。

 「……これが、全ての魔導技術の終着点だとしたら。僕は……何を学べばよかったんだ……」



 彼の声はかすかに震えていた。

 魔法を追い、知を求め続けた少年が、恐ろしい真実の結末を目の当たりにして、問いかけている。



 ベルンは、瓦礫を除けながら生存者を探していた。

 「おーい!誰か、まだ息してるヤツいねぇのか!ここで終わりじゃねぇぞ!」



 強くて、優しい男だ。

 戦いのあとも、彼の中の“守る者”としての矜持は失われていなかった。



 そして、俺──隼人は。



 俺はこの世界に転移して、数えきれないほどの選択をしてきた。

 看守として囚人と向き合い、仲間と共に戦い、勇者や聖女と肩を並べ、世界の命運を背負った。



 「これが……俺の生きる意味だったのか……?」



 問いかけは、誰にも向けられていない。

 ただ、静まり返った空に、俺自身の魂が問い返してくる。



 答えはまだ出ない。

 だけど、俺たちは生き延びた。

 この世界は、まだ終わっていない。



 アドラカスが残した歪み。失われた者たち。崩れた秩序。

 これから立て直していくのは、俺たちだ。



 そのためにも、進まなければならない。



 ふと、美優が立ち上がり、俺に微笑んだ。



 「ねえ、隼人……一緒に、未来を作ろう」



 俺は彼女の手を握り返し、小さく頷いた。



 「……ああ。終わりじゃねぇ。ここが、始まりだ」

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