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【第10話】『死線を超えて──灰色の光、黒き戦場に差す』
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──東洋コンビナート埠頭、午前零時過ぎ。
ゲロス第二形態の咆哮が、湾岸都市の静寂を震わせた。
全身が腐蝕性粘液で覆われ、脈動する無数の触手が空を裂く。
その中央に鎮座する、異形の瞳──それが“新たな怪人”として進化したゲロスの姿だった。
「ぐっ……マコトッ!」
ピンク・サクラの悲鳴が、夜の空気を裂いた。
セイガン・イエロー──マコトの体が、触手によって空中に吊るされていた。
「これが……正義の……っ、末路かよ……」
砲台義手から最後の炸裂弾を放ったマコトは、爆炎の中に消えた。
触手に絡まれた四肢が音を立てて引きちぎられ、黒煙に紛れて肉片が宙に舞う。
「マコトオオオオ!!」
サクラが叫び、弓を引くも、触手の一本が防御をかいくぐり、彼女の胴体を弾き飛ばした。
瓦礫に打ちつけられた彼女は、呻きながらも再び立ち上がろうとする。
「まだ、やれる……っ」
だが、ゲロスの触手が四方から迫り、地面を砕きながら迫ってきた。
一本がサクラの足を絡め取り、次いでもう一本が彼女の胸元を締めつける。
「やめろッ……っ!」
だが、ゲロスはにやりと笑うように、ぬめる触手をサクラの喉元から腹部、太ももへと這わせていく。
その表面に密生した微細な吸盤が、じゅうじゅうと音を立てて彼女の体液とエネルギーを吸い上げ始めた。
「ひっ……いや……ぁ……っ!」
全身を侵食するような不快な刺激と力の搾取。サクラの意識が薄れていく。
グリーンが庇うように割って入る。
「下がれ、サクラァァ!」
その声を最後に、グリーンの体は無数の触手に巻きつかれ、
圧迫されて骨ごと粉砕される音が鳴り響いた。
「なぜ……俺たちが……!?」
サクラはその場に崩れ落ち、血の涙を流しながら叫んだ。
だが、もう何も止められない──この怪物を、止められる者など。
そのとき。
「灰色の光、此処にあり──セイガン・シルバー、朝倉ユウト。参上」
白銀のスーツを纏い、疾風のごとく降り立った一人の男。
ゲロスの触手が襲いかかる瞬間、ユウトは真空波のごとき一撃でそれを切り払った。
サクラの前に立ちはだかるようにして構えを取る。
「これ以上、仲間は死なせない。全員──撤退だ」
「ユウト……来てくれた……のか……」
薄れゆく意識の中で、サクラは最後にその背中を見た。
セイガン・シルバーの剣が、触手を斬り裂き、
仲間の亡骸と瀕死の者たちを背負いながら、ゲロスとの戦場を後にする。
──それは、勝利ではない。
だが、希望の灯火が絶えぬ限り、抗う者は消えない。
黒き夜の中、灰色の光が、戦場に刻まれていた。
■
焼け焦げた瓦礫の匂いが立ちこめる、東洋コンビナート埠頭。
嵐のような戦闘の余波が、潮風に混じって肌を刺した。
セイガン・ピンク──サクラは、崩れた鉄骨の影に身を横たえていた。
呼吸ひとつすら、肺を針で貫かれるように痛い。
「マコト……」
かすれる声で呼んだその名に、返事はない。
彼女の右手は、何も掴めぬ空を彷徨っている。
数分前まで、そこには確かに彼がいた。イエローの義手が、触手の奔流に呑まれるまで──
あの咆哮、あの腐蝕。
あれはもはや怪人の域を超えていた。
──ゲロス、第二形態。
サクラの両足はすでに感覚を失い、スーツの下には無数の裂傷。
だが最も彼女を蝕んでいたのは、身体に取りついた一本の触手だった。
太く、脈動し、吸盤のような器官が彼女の腹部と首筋に吸い付き、
断続的に生命エネルギーを搾取していた。
「んっ……やめ、て……っ」
呻くサクラの視界が滲む。
触手は皮膚を通して内部を探り、神経と生体エネルギーの流れを正確に読み取りながら、
栄養素とエネルギーを吸い上げていく。
生体のリズムを壊される恐怖。
自分がただの“素材”として消費されていくという、異様な実感。
それでもサクラは、必死に意識を繋いだ。
(私は……まだ、終わってなんか……)
その瞬間、視界の奥で閃光が走った。
風のように駆け抜ける影──銀の戦士が、触手を斬り落とした。
「……朝倉……ユウト……?」
サクラの目が見開かれる。
彼は無言でサクラの前に立ち、護るように剣を構えた。
新たな触手が襲いかかるが、そのすべてを切り払い、爆風を巻き起こしながら立ち続ける。
その背中は、大きくて、温かくて、
あの頃──セイガンに希望があった頃の光景を思い出させた。
「ごめんね……ユウト……あたし……まだ、ちゃんと戦えてない……」
意識が沈む。
銀の光だけが、暗闇のなかで揺れていた。
──そして、彼女の祈りもまた。
(正義がどんなに壊れても……誰かの命を救うことだけは、偽りじゃない)
サクラの祈りは、夜空のどこかで、誰かに届いていた。
腐食した瓦礫の煙が夜の闇に立ちこめる湾岸コンビナート地帯。
雨はすでに上がっていたが、大地には血と泥が混じり、戦場の匂いを強く残していた。
「セイガン・シルバー、朝倉ユウト。戦場に到着──!」
疾風のように降り立った銀色の戦士は、立ち尽くすピンク・サクラの前に仁王立ちし、
その銀の剣を一閃させた。
弾け飛ぶゲロスの触手、血液にも似た紫黒の液体が辺りに飛び散る。
そのときだった──
爆音とともに、遠方から装甲車両のエンジン音が響いた。
湾岸の資材置き場から、白い塗装のジープが2台、砂塵を巻き上げて突入してきた。
「シルバー! 歩兵部隊だ、後方支援班!」
ジープから降り立ったのは、セイガン本部直属の歩兵中隊。
装甲ベストに身を包み、強化ライフルを携えた彼らがゲロスに一斉射撃を浴びせる。
「総員、援護射撃! 怪人を足止めしろッ!」
数十丁の銃口が火を吹き、ゲロスの外殻を次々と貫いていく。
だが、それは文字通り“足止め”にすぎなかった。
ゲロスはその巨躯をのけぞらせ、怒りの咆哮を上げた。
次の瞬間、何本もの触手が地面から跳ね上がり、歩兵たちを容赦なく貫いた。
「ぎゃああああああああっ!!」
「ひ、人が……吸われて……っ!」
触手に捕らえられた兵士たちは、内部のエネルギーを瞬時に吸い尽くされ、
わずか数秒で干からびたミイラへと変わり果てた。
それでも歩兵部隊は恐れず応戦し、戦場に文字通り命の時間を稼ぐ──
「今だ……撤収用ジープ、後方へまわせ!」
シルバーの叫びに応え、もう一台のジープが急停止し、ドアを開けた。
彼は崩れ落ちたサクラを抱き上げ、車内に乗せる。
そのすぐ後ろには、負傷したグリーンのハルトも運び込まれ、
運転席には支援兵がハンドルを握る。
銃撃の合間に、死地から帰還したかつての仲間たちが次々と乗り込む。
「これで全員か!?」
「イエローは……」
誰かが呟いたその言葉は、誰の耳にも届かなかった。
マコトの亡骸は、すでに触手により原型を失っていたからだ。
「全車両、出ろッ!!」
その号令とともに、ジープのエンジンが唸りを上げた。
タイヤが腐食液の水たまりを切り裂き、ジグザグに逃走ルートを走り抜ける。
後方では、まだ歩兵たちがゲロスの前に立ちはだかっていた。
すでに勝ち目がないとわかっていても、最後の一秒を稼ぐために。
「全員、無事で帰ってくれ……頼むぞ、セイガン……」
一人の兵士が、銃身を構えたまま呟いたその声は、
爆発音と断末魔の叫びにかき消されていった。
──撤退完了。
ジープは工業区域を抜け、セイガン本部へと滑り込む。
その背後で、ゲロスの咆哮が、月にまで届くように響き渡っていた。
■
戦いの嵐が吹き荒れた東洋コンビナート埠頭。
その地にネメシスの怪人・ゲロスが投入されたのは、単なる戦力誇示ではなかった。
──それは、「補給路の断絶」という明確な軍事目的のための作戦だった。
埠頭に面したこの巨大工業地帯は、実はセイガン本部の戦闘スーツ整備部門と、
最新兵装の試験用エネルギー資材を搬入する重要な“補給基点”の一つだった。
表向きは国防省直轄の無人物流基地。
だが、その実態は、ディープステートの庇護を受けた「セイガン戦隊専用の兵装補給ルート」だったのである。
「ここを抑えられれば、戦隊の兵装整備スケジュールは大幅に遅れる」
ネメシス作戦室──
幹部候補であるイツキが、戦術ホロマップを前にしたブリーフィングで静かに呟いた。
「最新型強化スーツ『セイガンMk-V』の試験型も、このエリアで組み立て中との情報がある。破壊できれば、今後半年は新型の投入は不可能になる」
その報告に、ドクトル・メディアスが口元を歪めて笑った。
「……つまり、敵の“未来”を潰す作戦だな。素晴らしい。ゲロスには相応しい舞台だ」
ゲロスの投入は、「都市制圧兵器」の性能試験を兼ねていた。
腐蝕触手による物理・生体の同時破壊。
特殊金属に対する耐性と再生能力のデータ収集。
そして、何より──“正義”という概念に対する実戦的検証。
一方、セイガン本部では、事態を重く見ていた。
「奴らの狙いは、この補給路の封鎖だ。ここを落とされたら、前線の各支部に補給できなくなる」
セイガン司令部で、司令官が地図を叩いた。
「このエリアは、我々の生命線に直結している。絶対に守り抜け」
そのため、戦隊全員が集結し、“待ち伏せ”という異例の作戦を採用したのだった。
しかし──敵は予想以上だった。
ネメシスはこのコンビナートを“実験場”と見なし、
怪人ゲロスに加え、戦闘員部隊、さらに予備戦力まで動かしていたのだ。
加えて、戦隊の連携不足、イエローの未完成な武装義肢、
サクラの精神的不安定さ、グリーンの守勢過多……。
そのすべてが、「戦力差」という現実の中で、血に染まっていった。
この作戦は、結果としてセイガン戦隊の主力の多くを失わせ、
ネメシスに「勝てる」という手応えを与えるきっかけとなった。
だが同時に、シルバー=朝倉ユウトの介入、歩兵部隊の勇敢な支援、そして撤退成功により、
“壊滅”は免れたとも言える。
コンビナート制圧作戦──それは、
「戦場の空気が変わった」ことを、すべての当事者に知らしめた一夜だった。
正義は負ける。
悪は笑う。
だが、誰もがまだ、決定的な勝者にはなれない。
この日を境に、セイガンもネメシスも、互いの戦いが「遊び」ではなく、
国家の命運を左右する“戦争”であることを実感し始めていた。
翌朝、都市上空を旋回するドローン報道機のカメラが、
東洋コンビナート埠頭の黒煙を捉えていた。
破壊された倉庫群、溶け崩れた鉄骨、焼け焦げた兵装ユニット。
だがそこに、セイガン戦隊の姿も、ネメシスの怪人の痕跡も、映ってはいなかった。
──それが、“政府の報道方針”だった。
「昨夜、東洋湾岸工業地帯にて火災が発生。原因は老朽化した電力ユニットのショートとみられ、関係者はすでに調査を……」
ニュースキャスターは無表情に原稿を読み上げる。
市民は誰もが知っていた──この国のメディアは、真実を映さない。
SNSでは一部の住民が“爆音”“怪物のような影”“謎の閃光”を投稿していた。
だが、数分と経たぬうちにその投稿はすべて削除され、アカウントごと凍結されていった。
「ネメシスという名称の拡散は禁止ワードです。
セイガン戦隊の実在に関する書き込みは偽情報として処理されます」
それは、ディープステート検閲法案による自動削除AIの働きだった。
一方、国会では緊急非公開会議が開かれていた。
「補給基地が破壊された……!どうするつもりだ!」
「民衆には一切知らせるな。ネメシスの存在は“ただの反政府テロ”で押し通す」
「セイガンの損耗率は……? あの怪人、ゲロスという奴は……本当に制御されているのか?」
「制御? そんなもの、必要ない。正義とは、勝った側が名乗るものだろう?」
その言葉に、誰もが黙った。
ここに集う者は、“新日本連邦政府”の上層部。
表では国民のためと謳いながら、裏ではネメシス同様に、歪な目的を追う連中だった。
ディープステートにより編成されたこの政府は、
民衆支配のための“正義”を掲げてセイガン戦隊を運用しながら、
一方でネメシスの存在を都合のいい“恐怖”として利用する──。
そのシナリオは、今も裏で進行していた。
そして、庶民の間では別の噂が静かに広まり始めていた。
「最近、正義の戦隊が現れるたびに、町が壊される……」
「誰が本当に俺たちを守ってるんだ……?」
報道されぬ真実が、沈黙という形で街を包んでいく。
その夜、ネメシス本部ではモニターに映された報道の空白を見て、イツキが呟いた。
「なるほど。どちらも“見せたくない”という点では、正義も悪も同じか」
ドクトル・メディアスが嗤う。
「正義とは、記録されなければ存在しない。
悪とは、記録されても忘れられるものだ。──面白いだろう?」
こうしてまたひとつ、“記憶されぬ戦争”が終わった。
誰も知らないまま、誰も咎めることなく。
だが──この国は、確実に壊れていっていた。
※※
皆さま、いつも本作『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』を読んでくださって本当にありがとうございます!
この物語、地味に1話あたり5000文字で50話超えを視野に入れた長編構成となっておりまして、毎回ド派手に爆破したり、元仲間をざまぁしたり、怪人が溶かしたり、ヒーローがトラウマになったりと、作者の精神力をゴリゴリに削る重労働でございます(愛ゆえに)。
ですが、そんな深夜テンションで戦っている私を救ってくれるのが――そう、あなたの「お気に入り登録」や「感想」なんです!
お気に入りボタンを押す→作者のやる気ゲージが1本回復!
感想を送る→作者、涙を流しながら紅茶をすする!
皆さまの反応が、この物語を完走させる最大の燃料です!
書籍化も夢見つつ、今日もキーボードをカタカタ鳴らしながら、戦隊と怪人と陰謀を混ぜまくったストーリーを全力で執筆中。
今後も「まさかの展開」「読者の予想を裏切るキャラの掘り下げ」「怪人の無駄にグロい手術シーン」など盛りだくさんでお届け予定ですので、どうぞ応援よろしくお願いします!
どうか……どうかお気に入りを……
(作者、そっと正座)
ゲロス第二形態の咆哮が、湾岸都市の静寂を震わせた。
全身が腐蝕性粘液で覆われ、脈動する無数の触手が空を裂く。
その中央に鎮座する、異形の瞳──それが“新たな怪人”として進化したゲロスの姿だった。
「ぐっ……マコトッ!」
ピンク・サクラの悲鳴が、夜の空気を裂いた。
セイガン・イエロー──マコトの体が、触手によって空中に吊るされていた。
「これが……正義の……っ、末路かよ……」
砲台義手から最後の炸裂弾を放ったマコトは、爆炎の中に消えた。
触手に絡まれた四肢が音を立てて引きちぎられ、黒煙に紛れて肉片が宙に舞う。
「マコトオオオオ!!」
サクラが叫び、弓を引くも、触手の一本が防御をかいくぐり、彼女の胴体を弾き飛ばした。
瓦礫に打ちつけられた彼女は、呻きながらも再び立ち上がろうとする。
「まだ、やれる……っ」
だが、ゲロスの触手が四方から迫り、地面を砕きながら迫ってきた。
一本がサクラの足を絡め取り、次いでもう一本が彼女の胸元を締めつける。
「やめろッ……っ!」
だが、ゲロスはにやりと笑うように、ぬめる触手をサクラの喉元から腹部、太ももへと這わせていく。
その表面に密生した微細な吸盤が、じゅうじゅうと音を立てて彼女の体液とエネルギーを吸い上げ始めた。
「ひっ……いや……ぁ……っ!」
全身を侵食するような不快な刺激と力の搾取。サクラの意識が薄れていく。
グリーンが庇うように割って入る。
「下がれ、サクラァァ!」
その声を最後に、グリーンの体は無数の触手に巻きつかれ、
圧迫されて骨ごと粉砕される音が鳴り響いた。
「なぜ……俺たちが……!?」
サクラはその場に崩れ落ち、血の涙を流しながら叫んだ。
だが、もう何も止められない──この怪物を、止められる者など。
そのとき。
「灰色の光、此処にあり──セイガン・シルバー、朝倉ユウト。参上」
白銀のスーツを纏い、疾風のごとく降り立った一人の男。
ゲロスの触手が襲いかかる瞬間、ユウトは真空波のごとき一撃でそれを切り払った。
サクラの前に立ちはだかるようにして構えを取る。
「これ以上、仲間は死なせない。全員──撤退だ」
「ユウト……来てくれた……のか……」
薄れゆく意識の中で、サクラは最後にその背中を見た。
セイガン・シルバーの剣が、触手を斬り裂き、
仲間の亡骸と瀕死の者たちを背負いながら、ゲロスとの戦場を後にする。
──それは、勝利ではない。
だが、希望の灯火が絶えぬ限り、抗う者は消えない。
黒き夜の中、灰色の光が、戦場に刻まれていた。
■
焼け焦げた瓦礫の匂いが立ちこめる、東洋コンビナート埠頭。
嵐のような戦闘の余波が、潮風に混じって肌を刺した。
セイガン・ピンク──サクラは、崩れた鉄骨の影に身を横たえていた。
呼吸ひとつすら、肺を針で貫かれるように痛い。
「マコト……」
かすれる声で呼んだその名に、返事はない。
彼女の右手は、何も掴めぬ空を彷徨っている。
数分前まで、そこには確かに彼がいた。イエローの義手が、触手の奔流に呑まれるまで──
あの咆哮、あの腐蝕。
あれはもはや怪人の域を超えていた。
──ゲロス、第二形態。
サクラの両足はすでに感覚を失い、スーツの下には無数の裂傷。
だが最も彼女を蝕んでいたのは、身体に取りついた一本の触手だった。
太く、脈動し、吸盤のような器官が彼女の腹部と首筋に吸い付き、
断続的に生命エネルギーを搾取していた。
「んっ……やめ、て……っ」
呻くサクラの視界が滲む。
触手は皮膚を通して内部を探り、神経と生体エネルギーの流れを正確に読み取りながら、
栄養素とエネルギーを吸い上げていく。
生体のリズムを壊される恐怖。
自分がただの“素材”として消費されていくという、異様な実感。
それでもサクラは、必死に意識を繋いだ。
(私は……まだ、終わってなんか……)
その瞬間、視界の奥で閃光が走った。
風のように駆け抜ける影──銀の戦士が、触手を斬り落とした。
「……朝倉……ユウト……?」
サクラの目が見開かれる。
彼は無言でサクラの前に立ち、護るように剣を構えた。
新たな触手が襲いかかるが、そのすべてを切り払い、爆風を巻き起こしながら立ち続ける。
その背中は、大きくて、温かくて、
あの頃──セイガンに希望があった頃の光景を思い出させた。
「ごめんね……ユウト……あたし……まだ、ちゃんと戦えてない……」
意識が沈む。
銀の光だけが、暗闇のなかで揺れていた。
──そして、彼女の祈りもまた。
(正義がどんなに壊れても……誰かの命を救うことだけは、偽りじゃない)
サクラの祈りは、夜空のどこかで、誰かに届いていた。
腐食した瓦礫の煙が夜の闇に立ちこめる湾岸コンビナート地帯。
雨はすでに上がっていたが、大地には血と泥が混じり、戦場の匂いを強く残していた。
「セイガン・シルバー、朝倉ユウト。戦場に到着──!」
疾風のように降り立った銀色の戦士は、立ち尽くすピンク・サクラの前に仁王立ちし、
その銀の剣を一閃させた。
弾け飛ぶゲロスの触手、血液にも似た紫黒の液体が辺りに飛び散る。
そのときだった──
爆音とともに、遠方から装甲車両のエンジン音が響いた。
湾岸の資材置き場から、白い塗装のジープが2台、砂塵を巻き上げて突入してきた。
「シルバー! 歩兵部隊だ、後方支援班!」
ジープから降り立ったのは、セイガン本部直属の歩兵中隊。
装甲ベストに身を包み、強化ライフルを携えた彼らがゲロスに一斉射撃を浴びせる。
「総員、援護射撃! 怪人を足止めしろッ!」
数十丁の銃口が火を吹き、ゲロスの外殻を次々と貫いていく。
だが、それは文字通り“足止め”にすぎなかった。
ゲロスはその巨躯をのけぞらせ、怒りの咆哮を上げた。
次の瞬間、何本もの触手が地面から跳ね上がり、歩兵たちを容赦なく貫いた。
「ぎゃああああああああっ!!」
「ひ、人が……吸われて……っ!」
触手に捕らえられた兵士たちは、内部のエネルギーを瞬時に吸い尽くされ、
わずか数秒で干からびたミイラへと変わり果てた。
それでも歩兵部隊は恐れず応戦し、戦場に文字通り命の時間を稼ぐ──
「今だ……撤収用ジープ、後方へまわせ!」
シルバーの叫びに応え、もう一台のジープが急停止し、ドアを開けた。
彼は崩れ落ちたサクラを抱き上げ、車内に乗せる。
そのすぐ後ろには、負傷したグリーンのハルトも運び込まれ、
運転席には支援兵がハンドルを握る。
銃撃の合間に、死地から帰還したかつての仲間たちが次々と乗り込む。
「これで全員か!?」
「イエローは……」
誰かが呟いたその言葉は、誰の耳にも届かなかった。
マコトの亡骸は、すでに触手により原型を失っていたからだ。
「全車両、出ろッ!!」
その号令とともに、ジープのエンジンが唸りを上げた。
タイヤが腐食液の水たまりを切り裂き、ジグザグに逃走ルートを走り抜ける。
後方では、まだ歩兵たちがゲロスの前に立ちはだかっていた。
すでに勝ち目がないとわかっていても、最後の一秒を稼ぐために。
「全員、無事で帰ってくれ……頼むぞ、セイガン……」
一人の兵士が、銃身を構えたまま呟いたその声は、
爆発音と断末魔の叫びにかき消されていった。
──撤退完了。
ジープは工業区域を抜け、セイガン本部へと滑り込む。
その背後で、ゲロスの咆哮が、月にまで届くように響き渡っていた。
■
戦いの嵐が吹き荒れた東洋コンビナート埠頭。
その地にネメシスの怪人・ゲロスが投入されたのは、単なる戦力誇示ではなかった。
──それは、「補給路の断絶」という明確な軍事目的のための作戦だった。
埠頭に面したこの巨大工業地帯は、実はセイガン本部の戦闘スーツ整備部門と、
最新兵装の試験用エネルギー資材を搬入する重要な“補給基点”の一つだった。
表向きは国防省直轄の無人物流基地。
だが、その実態は、ディープステートの庇護を受けた「セイガン戦隊専用の兵装補給ルート」だったのである。
「ここを抑えられれば、戦隊の兵装整備スケジュールは大幅に遅れる」
ネメシス作戦室──
幹部候補であるイツキが、戦術ホロマップを前にしたブリーフィングで静かに呟いた。
「最新型強化スーツ『セイガンMk-V』の試験型も、このエリアで組み立て中との情報がある。破壊できれば、今後半年は新型の投入は不可能になる」
その報告に、ドクトル・メディアスが口元を歪めて笑った。
「……つまり、敵の“未来”を潰す作戦だな。素晴らしい。ゲロスには相応しい舞台だ」
ゲロスの投入は、「都市制圧兵器」の性能試験を兼ねていた。
腐蝕触手による物理・生体の同時破壊。
特殊金属に対する耐性と再生能力のデータ収集。
そして、何より──“正義”という概念に対する実戦的検証。
一方、セイガン本部では、事態を重く見ていた。
「奴らの狙いは、この補給路の封鎖だ。ここを落とされたら、前線の各支部に補給できなくなる」
セイガン司令部で、司令官が地図を叩いた。
「このエリアは、我々の生命線に直結している。絶対に守り抜け」
そのため、戦隊全員が集結し、“待ち伏せ”という異例の作戦を採用したのだった。
しかし──敵は予想以上だった。
ネメシスはこのコンビナートを“実験場”と見なし、
怪人ゲロスに加え、戦闘員部隊、さらに予備戦力まで動かしていたのだ。
加えて、戦隊の連携不足、イエローの未完成な武装義肢、
サクラの精神的不安定さ、グリーンの守勢過多……。
そのすべてが、「戦力差」という現実の中で、血に染まっていった。
この作戦は、結果としてセイガン戦隊の主力の多くを失わせ、
ネメシスに「勝てる」という手応えを与えるきっかけとなった。
だが同時に、シルバー=朝倉ユウトの介入、歩兵部隊の勇敢な支援、そして撤退成功により、
“壊滅”は免れたとも言える。
コンビナート制圧作戦──それは、
「戦場の空気が変わった」ことを、すべての当事者に知らしめた一夜だった。
正義は負ける。
悪は笑う。
だが、誰もがまだ、決定的な勝者にはなれない。
この日を境に、セイガンもネメシスも、互いの戦いが「遊び」ではなく、
国家の命運を左右する“戦争”であることを実感し始めていた。
翌朝、都市上空を旋回するドローン報道機のカメラが、
東洋コンビナート埠頭の黒煙を捉えていた。
破壊された倉庫群、溶け崩れた鉄骨、焼け焦げた兵装ユニット。
だがそこに、セイガン戦隊の姿も、ネメシスの怪人の痕跡も、映ってはいなかった。
──それが、“政府の報道方針”だった。
「昨夜、東洋湾岸工業地帯にて火災が発生。原因は老朽化した電力ユニットのショートとみられ、関係者はすでに調査を……」
ニュースキャスターは無表情に原稿を読み上げる。
市民は誰もが知っていた──この国のメディアは、真実を映さない。
SNSでは一部の住民が“爆音”“怪物のような影”“謎の閃光”を投稿していた。
だが、数分と経たぬうちにその投稿はすべて削除され、アカウントごと凍結されていった。
「ネメシスという名称の拡散は禁止ワードです。
セイガン戦隊の実在に関する書き込みは偽情報として処理されます」
それは、ディープステート検閲法案による自動削除AIの働きだった。
一方、国会では緊急非公開会議が開かれていた。
「補給基地が破壊された……!どうするつもりだ!」
「民衆には一切知らせるな。ネメシスの存在は“ただの反政府テロ”で押し通す」
「セイガンの損耗率は……? あの怪人、ゲロスという奴は……本当に制御されているのか?」
「制御? そんなもの、必要ない。正義とは、勝った側が名乗るものだろう?」
その言葉に、誰もが黙った。
ここに集う者は、“新日本連邦政府”の上層部。
表では国民のためと謳いながら、裏ではネメシス同様に、歪な目的を追う連中だった。
ディープステートにより編成されたこの政府は、
民衆支配のための“正義”を掲げてセイガン戦隊を運用しながら、
一方でネメシスの存在を都合のいい“恐怖”として利用する──。
そのシナリオは、今も裏で進行していた。
そして、庶民の間では別の噂が静かに広まり始めていた。
「最近、正義の戦隊が現れるたびに、町が壊される……」
「誰が本当に俺たちを守ってるんだ……?」
報道されぬ真実が、沈黙という形で街を包んでいく。
その夜、ネメシス本部ではモニターに映された報道の空白を見て、イツキが呟いた。
「なるほど。どちらも“見せたくない”という点では、正義も悪も同じか」
ドクトル・メディアスが嗤う。
「正義とは、記録されなければ存在しない。
悪とは、記録されても忘れられるものだ。──面白いだろう?」
こうしてまたひとつ、“記憶されぬ戦争”が終わった。
誰も知らないまま、誰も咎めることなく。
だが──この国は、確実に壊れていっていた。
※※
皆さま、いつも本作『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』を読んでくださって本当にありがとうございます!
この物語、地味に1話あたり5000文字で50話超えを視野に入れた長編構成となっておりまして、毎回ド派手に爆破したり、元仲間をざまぁしたり、怪人が溶かしたり、ヒーローがトラウマになったりと、作者の精神力をゴリゴリに削る重労働でございます(愛ゆえに)。
ですが、そんな深夜テンションで戦っている私を救ってくれるのが――そう、あなたの「お気に入り登録」や「感想」なんです!
お気に入りボタンを押す→作者のやる気ゲージが1本回復!
感想を送る→作者、涙を流しながら紅茶をすする!
皆さまの反応が、この物語を完走させる最大の燃料です!
書籍化も夢見つつ、今日もキーボードをカタカタ鳴らしながら、戦隊と怪人と陰謀を混ぜまくったストーリーを全力で執筆中。
今後も「まさかの展開」「読者の予想を裏切るキャラの掘り下げ」「怪人の無駄にグロい手術シーン」など盛りだくさんでお届け予定ですので、どうぞ応援よろしくお願いします!
どうか……どうかお気に入りを……
(作者、そっと正座)
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スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
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この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
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