完結『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』

カトラス

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【第11話】『逸脱する怪人──ゲロス、制御不能』

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 ──ネメシス日本支部・バイオ棟臨時降着口。

 真夜中、まだコンビナートの黒煙が遠くに漂う時間帯だった。

 警報が鳴るでもなく、アナウンスもなく、密やかに“それ”は帰還した。

 腐食性の粘液を滴らせた巨大な影。
 生体触手をまとった異形の怪人、ゲロス。

 その全身からは、まだ戦闘時の肉片や焼けた金属臭が漂っていた。
 左右非対称にうねる第二形態の外殻は、すでに「任務後」という概念を逸脱していた。

 

「……帰還体、確認。警戒レベルを“シグマ”へ上昇」

 オペレーターが震える声で報告する。
 ゲロスの眼は誰にも向けられていない。だが、何かが“喰らえる対象か”を見定めているようだった。

 係留鎖は、用意されていなかった。
 理由は単純だ──拘束具を何度も腐食させているためである。

 

「ゲロス、聞こえているか。ここはネメシス本部だ。任務は……完遂したと見なす」

 スピーカー越しに出された音声命令。
 だが、ゲロスは応じない。

 無言で、床を這うように施設奥へと歩を進める。
 生体反応のある場所へ。血が、骨が、動きがある場所へ。

「……やはり。言語コマンド、まったく効いてない」

「制御回線、壊れてるんじゃないのか……?」

「違う。自我が……命令を、選別しはじめてる……!」

 誰かがそう呟いたとき、ゲロスの触手が一斉にモニターカメラを破壊した。
 反射的に警報が鳴り響く。

『全ユニットへ告ぐ。改造怪人“ゲロス”を第零研究隔離棟へ誘導せよ』

 殺さず、排除せず──“隔離”。

 ──その後の記録は曖昧だ。

 ゲロスは自ら“地下通路”を腐食させて突き進み、隔離棟へ到達。
 手を下す者も、道を阻む者も、彼を止められなかった。
 あくまで彼は「帰ってきただけ」だったが、その在り方はもはや“兵器”ではなかった。

 隔離室の扉が閉じられたとき、バイオ棟全体に“安堵”の吐息が漏れたという。

 

 ──そして、数日後。

 ドクトル・メディアスの手記には、こう記されていた。

【実験体 No.029:ゲロス】

初期設計段階を超えて“自己進化”の段階に突入。

任務後も“飢え”を維持し、エネルギー再補充を一切拒否。

命令拒絶傾向が強まり、欲求が自発駆動の指針と一致。

ゲロスはもう、私の子ではない。

だが、あれは──

『最高傑作』に、違いない。

 

 ネメシスはゲロスを「討伐対象」として見定めることを決めたのは、この直後である。
 だがその時点で、ゲロスの暴走はすでに始まっていた──己の空腹と殺意のままに、密かに牙を研いでいた。

──ネメシス日本支部・第零研究隔離棟・深夜。

 隔離棟の空気は重く淀み、無機質な蛍光灯が虚ろに点滅していた。
 その奥、警報と警戒色の赤が交差する中央制御室では、研究員たちが凍りついていた。

「……ゲロス、異常活動を開始……! 排気フィルター、腐蝕率120%! 限界突破してますッ!」

 緊張の声が響く中、壁際の大型モニターが火花を散らし、次いで黒煙を噴き上げて爆ぜた。
 瞬間、施設全体が微かに揺れる。

 ズズ……ズズズ……!

 重金属の床板を引き裂くような不気味な音が、通路の奥から徐々に近づいてくる。

「ば、ばかな……! 再生処理はまだ終わっていないはずだろう!? あれほどのダメージを……」

「進化しているんだ……ゲロスは、自己修復だけじゃない……!」

 その声が終わる前に、腐食性の粘液が天井のダクトから降り注ぎ、研究員の一人を包み込んだ。
 金属音と悲鳴が一体化し、わずか数秒で肉と骨が溶解して消える。

 隔離されたはずの怪人──ゲロスは、完全に制御を逸脱していた。
 しかも、以前より遥かに強靭で、知性すらも進化させているようだった。

 幾本もの触手が通路を這い、壁を腐らせながら進んでいく。
 カメラのひとつがその触手に捕らえられ、破壊される直前に捉えた映像──それは、ゲロスが笑っているように見える顔だった。

──同時刻、ネメシス日本支部・上層幹部会議室。

 壁一面に展開されたホログラム画面には、ゲロスが隔離棟を蹂躙していく映像が映し出されていた。
 幹部たちは言葉を失い、ただその異常な存在の進撃を見つめていた。

「異常進化体、もはやカテゴリーF──“災害級”に相当します」

「制御チップも完全に無効化されている……これは、兵器としての域を超えているぞ」

「これ以上放置すれば、外部に漏れる可能性も……」

 会議の空気を切り裂いたのは、幹部候補イツキの声だった。

「──処分する」

 短く、鋭いその一言に幹部たちの視線が集中する。

「いいのか? お前は元・ヒーローだぞ。身内に刃を向ける覚悟、あるのか」

「もう“元”だ。俺はネメシスの一員だ。それに……身内もクソもゲロスとは個人的に何もない。ただの化け物に過ぎないからな。だからネメシスが手を焼く相手なら俺が倒す。それにネメシスによって改造されてから俺は……」

 隣にいた怪人ラミアが、にやりと口元を歪めた。

「あのクズ、あたしの可愛い“妹”を喰ったのよ。遊びの延長で殺したわけじゃない。あたしの誇りを、汚した」

 イツキとラミアは立ち上がり、ホログラム画面を見つめながら頷いた。



──数年前、ネメシス日本支部・地下第三実験棟。

 その区画は「花園」と呼ばれていた。

 コードネーム【ラミア・シリーズ】──
 人型改造怪人の実験体として生み出された少女たちが、ガラス管に浮かぶ形で整然と並び、培養されていたからだ。

 どの個体も均整の取れた肉体美と、人間離れした妖艶さを持ち、戦闘特化の遺伝子強化に加えて「知能と美意識」を高水準で保つことが意図されていた。
 その中で、もっとも高い共感力と統率性を持っていた個体がいた。

 コード:ラミア01──
 現在“ラミア”と名乗る彼女は、その姉個体【ラミア00】に懐いていた。
 戦闘前の訓練中も、記憶装置の整理中も、姉の柔らかい微笑を見ていると、自分が単なる“生体兵器”であることを忘れそうになった。

「私たちは兵器であり、美しくなければ意味がないのよ」

 そう口にする姉は、いつも爪先まで優雅だった。
 研究員たちが「芸術」と評したのも無理はない。
 ──だが、そんな花園に“獣”が放たれたのは、ある実験が発端だった。

 

 ──数ヶ月後、同区画・実戦試験室。

 新型の“腐食系触手怪人”のテストが、偶然にもラミア・シリーズとの同室で行われた。
 その怪人の名は、ゲロス・プロトタイプ。

 暴走したゲロスは制御を失い、目に入るすべてを「可食対象」と認識して襲いかかった。

 悲鳴。硝子の割れる音。腐食液の飛沫と、肉を裂く音。
 姉たちは、順番にその触手に捕らわれ、粘液に溶かされていった。

「……やめて、お願い」

 ラミアが叫んだそのとき、姉【ラミア00】は血の涙を流しながら微笑んだ。

「逃げなさい、妹よ。あなたは……生きて」

 そして触手が、彼女の頭部を貫いた。
 白い液体が飛び散り、姉の身体は溶けて崩れ、ゲロスの“食事”となった。

 自分だけが、生き残った──
 その日から、ラミアは微笑むことをやめた。



 ──現在、ネメシス本部・作戦準備室。

 イツキの隣で武装を整えるラミアの瞳に、あの記憶が甦っていた。

「おい、準備はどうだ?」

「ええ。万全よ。……あの“化け物”に、ケジメをつける時が来た」

 彼女の腰から伸びる鞭状の補助アームが、音を立ててうねる。

「私の姉妹は、あんなやつの胃袋に収まるために作られたんじゃない」

 イツキは無言で頷いた。
 その背中に、ラミアは小さく呟く。

「──あの人の名を、忘れさせないために。私は“ラミア”であり続けるのよ」

 静かに怒りを燃やす怪人。
 彼女の戦いは、復讐ではない。誇りの継承だった。

「“ゲロス抹殺作戦”、開始だ」

『任務名:ゲロス排除』
討伐対象:怪人ゲロス(逸脱体・第二形態以上)
作戦責任者:幹部候補・日向イツキ、戦術怪人・ラミア

 冷たい機械音声が作戦命令を読み上げる中、二人は踵を返し、出撃準備へと向かった。

 ネメシスという名の狂気の組織で、かつてのヒーローと堕ちた怪人が手を組む──

 その先にあるのは、破滅か、それとも新たなる“秩序”か。

 だが今はただ一つ──

 暴走する怪人ゲロスを止めるために、最も異端な二人が再び動き出す。

 狂気の歯車は、今、音を立てて回転を始めた。



──某所・旧都市地下区画・作戦領域β。

 地上では報じられないネメシスの“別任務”が密かに進行していた。
 ターゲットは、元・国防軍研究所のAI中枢残骸。
 それは、かつて旧政府が極秘裏に管理していた兵器ネットワークのキーであり、セイガン本部にとっても重大な脅威となりうる情報資産であった。

「掃討完了。エリア内の哨戒は制圧済み」

 命令の報告を、滑らかな声が応える。

「ならば、後は回収と焼却処理だけね……」

 怪人シェラ・ノーラが口元を歪める。

 その身体は青白い義肢と複数の眼球を備えた仮面で構成され、蛇のように滑らかでありながら不気味さを宿していた。
 彼女の能力は「疑似分裂神経網」と「高電圧生成」──神経を操り、対象を内部から“焼き切る”ことができるS級の戦術怪人だった。

「人間の残滓など、ゴミに過ぎない。燃え尽きればそれでいい」

 周囲には、改造済み戦闘員が数十体。
 任務は滞りなく進む──はずだった。

 

──その時、空気が変わった。

「ん……?」

 誰も音を立てていない。なのに、風が揺れた。
 そして、次の瞬間、戦闘員の一人が、無言で地面に崩れ落ちた。

 胴体が、真っ二つになっていた。

「!? どこから……」

 シェラ・ノーラが叫ぶよりも早く、二体、三体……次々に、戦闘員たちが無音で斬られていく。

 

「光学迷彩か……否。違う。これは――」

 目を凝らすと、奥の廃ビルの屋上に、“何か”が立っていた。

 全身が眩く反射する金属の装甲。
 背にマントのような布を翻し、仮面の下からは人間離れした鋭い視線が覗く。

「誰……?」

 その存在は、こう名乗った。

 

「名乗る義理はない。だが……俺は“ゴールド”だ。セイガンの“新しい正義”だ」

 その声に、ノーラの中で何かが警鐘を鳴らす。

 ──違う、これはヒーローの気配ではない。
 これは、“兵器”だ。

 

 次の瞬間、光と音が一体となった。

 まるで落雷のように降り注ぐ破壊の拳。
 空気が炸裂し、シェラ・ノーラの神経ネットワークが悲鳴をあげた。

「ふざけ――ッ!」

 彼女は即座に自分の神経網を散開させ、分裂体で応戦を試みる。
 が、それすらも意味を成さなかった。

「遅い」

 金色の閃光が、斬撃とともに彼女の分身を次々に葬っていく。

「なぜ……! S級の……この私が……!」

 最後に残った本体が、破壊された右腕を抱えながら後退する。
 そこに、ゴールドは一歩だけ、踏み込んだ。

 それは、ただの“歩み”だった。だが彼女にとっては、死神の宣告と同じだった。

「貴様は、“命令に従って動く機械”だ。俺の敵じゃない」

 ――金色の拳が振り下ろされる。
 衝撃が辺りを爆風ごと吹き飛ばし、地下空間に火花が散った。

 

──その夜、ネメシス本部の通信端末に緊急の一報が届く。

『S級怪人・シェラ・ノーラ、作戦中に戦闘不能。現場遺体未回収。殉職扱い。』
『交戦対象:未識別の金色戦士。コードネーム不明。推定戦闘力:A+~S。』

 幹部会議室は沈黙に包まれた。

「また、“奴”か……セイガン・ゴールド」

 その名は、ネメシスにとって未知であり、だが決して無視できぬ**“戦略級戦力”となっていた。



 

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