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【第11話】『逸脱する怪人──ゲロス、制御不能』
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──ネメシス日本支部・バイオ棟臨時降着口。
真夜中、まだコンビナートの黒煙が遠くに漂う時間帯だった。
警報が鳴るでもなく、アナウンスもなく、密やかに“それ”は帰還した。
腐食性の粘液を滴らせた巨大な影。
生体触手をまとった異形の怪人、ゲロス。
その全身からは、まだ戦闘時の肉片や焼けた金属臭が漂っていた。
左右非対称にうねる第二形態の外殻は、すでに「任務後」という概念を逸脱していた。
「……帰還体、確認。警戒レベルを“シグマ”へ上昇」
オペレーターが震える声で報告する。
ゲロスの眼は誰にも向けられていない。だが、何かが“喰らえる対象か”を見定めているようだった。
係留鎖は、用意されていなかった。
理由は単純だ──拘束具を何度も腐食させているためである。
「ゲロス、聞こえているか。ここはネメシス本部だ。任務は……完遂したと見なす」
スピーカー越しに出された音声命令。
だが、ゲロスは応じない。
無言で、床を這うように施設奥へと歩を進める。
生体反応のある場所へ。血が、骨が、動きがある場所へ。
「……やはり。言語コマンド、まったく効いてない」
「制御回線、壊れてるんじゃないのか……?」
「違う。自我が……命令を、選別しはじめてる……!」
誰かがそう呟いたとき、ゲロスの触手が一斉にモニターカメラを破壊した。
反射的に警報が鳴り響く。
『全ユニットへ告ぐ。改造怪人“ゲロス”を第零研究隔離棟へ誘導せよ』
殺さず、排除せず──“隔離”。
──その後の記録は曖昧だ。
ゲロスは自ら“地下通路”を腐食させて突き進み、隔離棟へ到達。
手を下す者も、道を阻む者も、彼を止められなかった。
あくまで彼は「帰ってきただけ」だったが、その在り方はもはや“兵器”ではなかった。
隔離室の扉が閉じられたとき、バイオ棟全体に“安堵”の吐息が漏れたという。
──そして、数日後。
ドクトル・メディアスの手記には、こう記されていた。
【実験体 No.029:ゲロス】
初期設計段階を超えて“自己進化”の段階に突入。
任務後も“飢え”を維持し、エネルギー再補充を一切拒否。
命令拒絶傾向が強まり、欲求が自発駆動の指針と一致。
ゲロスはもう、私の子ではない。
だが、あれは──
『最高傑作』に、違いない。
ネメシスはゲロスを「討伐対象」として見定めることを決めたのは、この直後である。
だがその時点で、ゲロスの暴走はすでに始まっていた──己の空腹と殺意のままに、密かに牙を研いでいた。
──ネメシス日本支部・第零研究隔離棟・深夜。
隔離棟の空気は重く淀み、無機質な蛍光灯が虚ろに点滅していた。
その奥、警報と警戒色の赤が交差する中央制御室では、研究員たちが凍りついていた。
「……ゲロス、異常活動を開始……! 排気フィルター、腐蝕率120%! 限界突破してますッ!」
緊張の声が響く中、壁際の大型モニターが火花を散らし、次いで黒煙を噴き上げて爆ぜた。
瞬間、施設全体が微かに揺れる。
ズズ……ズズズ……!
重金属の床板を引き裂くような不気味な音が、通路の奥から徐々に近づいてくる。
「ば、ばかな……! 再生処理はまだ終わっていないはずだろう!? あれほどのダメージを……」
「進化しているんだ……ゲロスは、自己修復だけじゃない……!」
その声が終わる前に、腐食性の粘液が天井のダクトから降り注ぎ、研究員の一人を包み込んだ。
金属音と悲鳴が一体化し、わずか数秒で肉と骨が溶解して消える。
隔離されたはずの怪人──ゲロスは、完全に制御を逸脱していた。
しかも、以前より遥かに強靭で、知性すらも進化させているようだった。
幾本もの触手が通路を這い、壁を腐らせながら進んでいく。
カメラのひとつがその触手に捕らえられ、破壊される直前に捉えた映像──それは、ゲロスが笑っているように見える顔だった。
──同時刻、ネメシス日本支部・上層幹部会議室。
壁一面に展開されたホログラム画面には、ゲロスが隔離棟を蹂躙していく映像が映し出されていた。
幹部たちは言葉を失い、ただその異常な存在の進撃を見つめていた。
「異常進化体、もはやカテゴリーF──“災害級”に相当します」
「制御チップも完全に無効化されている……これは、兵器としての域を超えているぞ」
「これ以上放置すれば、外部に漏れる可能性も……」
会議の空気を切り裂いたのは、幹部候補イツキの声だった。
「──処分する」
短く、鋭いその一言に幹部たちの視線が集中する。
「いいのか? お前は元・ヒーローだぞ。身内に刃を向ける覚悟、あるのか」
「もう“元”だ。俺はネメシスの一員だ。それに……身内もクソもゲロスとは個人的に何もない。ただの化け物に過ぎないからな。だからネメシスが手を焼く相手なら俺が倒す。それにネメシスによって改造されてから俺は……」
隣にいた怪人ラミアが、にやりと口元を歪めた。
「あのクズ、あたしの可愛い“妹”を喰ったのよ。遊びの延長で殺したわけじゃない。あたしの誇りを、汚した」
イツキとラミアは立ち上がり、ホログラム画面を見つめながら頷いた。
■
──数年前、ネメシス日本支部・地下第三実験棟。
その区画は「花園」と呼ばれていた。
コードネーム【ラミア・シリーズ】──
人型改造怪人の実験体として生み出された少女たちが、ガラス管に浮かぶ形で整然と並び、培養されていたからだ。
どの個体も均整の取れた肉体美と、人間離れした妖艶さを持ち、戦闘特化の遺伝子強化に加えて「知能と美意識」を高水準で保つことが意図されていた。
その中で、もっとも高い共感力と統率性を持っていた個体がいた。
コード:ラミア01──
現在“ラミア”と名乗る彼女は、その姉個体【ラミア00】に懐いていた。
戦闘前の訓練中も、記憶装置の整理中も、姉の柔らかい微笑を見ていると、自分が単なる“生体兵器”であることを忘れそうになった。
「私たちは兵器であり、美しくなければ意味がないのよ」
そう口にする姉は、いつも爪先まで優雅だった。
研究員たちが「芸術」と評したのも無理はない。
──だが、そんな花園に“獣”が放たれたのは、ある実験が発端だった。
──数ヶ月後、同区画・実戦試験室。
新型の“腐食系触手怪人”のテストが、偶然にもラミア・シリーズとの同室で行われた。
その怪人の名は、ゲロス・プロトタイプ。
暴走したゲロスは制御を失い、目に入るすべてを「可食対象」と認識して襲いかかった。
悲鳴。硝子の割れる音。腐食液の飛沫と、肉を裂く音。
姉たちは、順番にその触手に捕らわれ、粘液に溶かされていった。
「……やめて、お願い」
ラミアが叫んだそのとき、姉【ラミア00】は血の涙を流しながら微笑んだ。
「逃げなさい、妹よ。あなたは……生きて」
そして触手が、彼女の頭部を貫いた。
白い液体が飛び散り、姉の身体は溶けて崩れ、ゲロスの“食事”となった。
自分だけが、生き残った──
その日から、ラミアは微笑むことをやめた。
■
──現在、ネメシス本部・作戦準備室。
イツキの隣で武装を整えるラミアの瞳に、あの記憶が甦っていた。
「おい、準備はどうだ?」
「ええ。万全よ。……あの“化け物”に、ケジメをつける時が来た」
彼女の腰から伸びる鞭状の補助アームが、音を立ててうねる。
「私の姉妹は、あんなやつの胃袋に収まるために作られたんじゃない」
イツキは無言で頷いた。
その背中に、ラミアは小さく呟く。
「──あの人の名を、忘れさせないために。私は“ラミア”であり続けるのよ」
静かに怒りを燃やす怪人。
彼女の戦いは、復讐ではない。誇りの継承だった。
「“ゲロス抹殺作戦”、開始だ」
『任務名:ゲロス排除』
討伐対象:怪人ゲロス(逸脱体・第二形態以上)
作戦責任者:幹部候補・日向イツキ、戦術怪人・ラミア
冷たい機械音声が作戦命令を読み上げる中、二人は踵を返し、出撃準備へと向かった。
ネメシスという名の狂気の組織で、かつてのヒーローと堕ちた怪人が手を組む──
その先にあるのは、破滅か、それとも新たなる“秩序”か。
だが今はただ一つ──
暴走する怪人ゲロスを止めるために、最も異端な二人が再び動き出す。
狂気の歯車は、今、音を立てて回転を始めた。
■
──某所・旧都市地下区画・作戦領域β。
地上では報じられないネメシスの“別任務”が密かに進行していた。
ターゲットは、元・国防軍研究所のAI中枢残骸。
それは、かつて旧政府が極秘裏に管理していた兵器ネットワークのキーであり、セイガン本部にとっても重大な脅威となりうる情報資産であった。
「掃討完了。エリア内の哨戒は制圧済み」
命令の報告を、滑らかな声が応える。
「ならば、後は回収と焼却処理だけね……」
怪人シェラ・ノーラが口元を歪める。
その身体は青白い義肢と複数の眼球を備えた仮面で構成され、蛇のように滑らかでありながら不気味さを宿していた。
彼女の能力は「疑似分裂神経網」と「高電圧生成」──神経を操り、対象を内部から“焼き切る”ことができるS級の戦術怪人だった。
「人間の残滓など、ゴミに過ぎない。燃え尽きればそれでいい」
周囲には、改造済み戦闘員が数十体。
任務は滞りなく進む──はずだった。
──その時、空気が変わった。
「ん……?」
誰も音を立てていない。なのに、風が揺れた。
そして、次の瞬間、戦闘員の一人が、無言で地面に崩れ落ちた。
胴体が、真っ二つになっていた。
「!? どこから……」
シェラ・ノーラが叫ぶよりも早く、二体、三体……次々に、戦闘員たちが無音で斬られていく。
「光学迷彩か……否。違う。これは――」
目を凝らすと、奥の廃ビルの屋上に、“何か”が立っていた。
全身が眩く反射する金属の装甲。
背にマントのような布を翻し、仮面の下からは人間離れした鋭い視線が覗く。
「誰……?」
その存在は、こう名乗った。
「名乗る義理はない。だが……俺は“ゴールド”だ。セイガンの“新しい正義”だ」
その声に、ノーラの中で何かが警鐘を鳴らす。
──違う、これはヒーローの気配ではない。
これは、“兵器”だ。
次の瞬間、光と音が一体となった。
まるで落雷のように降り注ぐ破壊の拳。
空気が炸裂し、シェラ・ノーラの神経ネットワークが悲鳴をあげた。
「ふざけ――ッ!」
彼女は即座に自分の神経網を散開させ、分裂体で応戦を試みる。
が、それすらも意味を成さなかった。
「遅い」
金色の閃光が、斬撃とともに彼女の分身を次々に葬っていく。
「なぜ……! S級の……この私が……!」
最後に残った本体が、破壊された右腕を抱えながら後退する。
そこに、ゴールドは一歩だけ、踏み込んだ。
それは、ただの“歩み”だった。だが彼女にとっては、死神の宣告と同じだった。
「貴様は、“命令に従って動く機械”だ。俺の敵じゃない」
――金色の拳が振り下ろされる。
衝撃が辺りを爆風ごと吹き飛ばし、地下空間に火花が散った。
──その夜、ネメシス本部の通信端末に緊急の一報が届く。
『S級怪人・シェラ・ノーラ、作戦中に戦闘不能。現場遺体未回収。殉職扱い。』
『交戦対象:未識別の金色戦士。コードネーム不明。推定戦闘力:A+~S。』
幹部会議室は沈黙に包まれた。
「また、“奴”か……セイガン・ゴールド」
その名は、ネメシスにとって未知であり、だが決して無視できぬ**“戦略級戦力”となっていた。
真夜中、まだコンビナートの黒煙が遠くに漂う時間帯だった。
警報が鳴るでもなく、アナウンスもなく、密やかに“それ”は帰還した。
腐食性の粘液を滴らせた巨大な影。
生体触手をまとった異形の怪人、ゲロス。
その全身からは、まだ戦闘時の肉片や焼けた金属臭が漂っていた。
左右非対称にうねる第二形態の外殻は、すでに「任務後」という概念を逸脱していた。
「……帰還体、確認。警戒レベルを“シグマ”へ上昇」
オペレーターが震える声で報告する。
ゲロスの眼は誰にも向けられていない。だが、何かが“喰らえる対象か”を見定めているようだった。
係留鎖は、用意されていなかった。
理由は単純だ──拘束具を何度も腐食させているためである。
「ゲロス、聞こえているか。ここはネメシス本部だ。任務は……完遂したと見なす」
スピーカー越しに出された音声命令。
だが、ゲロスは応じない。
無言で、床を這うように施設奥へと歩を進める。
生体反応のある場所へ。血が、骨が、動きがある場所へ。
「……やはり。言語コマンド、まったく効いてない」
「制御回線、壊れてるんじゃないのか……?」
「違う。自我が……命令を、選別しはじめてる……!」
誰かがそう呟いたとき、ゲロスの触手が一斉にモニターカメラを破壊した。
反射的に警報が鳴り響く。
『全ユニットへ告ぐ。改造怪人“ゲロス”を第零研究隔離棟へ誘導せよ』
殺さず、排除せず──“隔離”。
──その後の記録は曖昧だ。
ゲロスは自ら“地下通路”を腐食させて突き進み、隔離棟へ到達。
手を下す者も、道を阻む者も、彼を止められなかった。
あくまで彼は「帰ってきただけ」だったが、その在り方はもはや“兵器”ではなかった。
隔離室の扉が閉じられたとき、バイオ棟全体に“安堵”の吐息が漏れたという。
──そして、数日後。
ドクトル・メディアスの手記には、こう記されていた。
【実験体 No.029:ゲロス】
初期設計段階を超えて“自己進化”の段階に突入。
任務後も“飢え”を維持し、エネルギー再補充を一切拒否。
命令拒絶傾向が強まり、欲求が自発駆動の指針と一致。
ゲロスはもう、私の子ではない。
だが、あれは──
『最高傑作』に、違いない。
ネメシスはゲロスを「討伐対象」として見定めることを決めたのは、この直後である。
だがその時点で、ゲロスの暴走はすでに始まっていた──己の空腹と殺意のままに、密かに牙を研いでいた。
──ネメシス日本支部・第零研究隔離棟・深夜。
隔離棟の空気は重く淀み、無機質な蛍光灯が虚ろに点滅していた。
その奥、警報と警戒色の赤が交差する中央制御室では、研究員たちが凍りついていた。
「……ゲロス、異常活動を開始……! 排気フィルター、腐蝕率120%! 限界突破してますッ!」
緊張の声が響く中、壁際の大型モニターが火花を散らし、次いで黒煙を噴き上げて爆ぜた。
瞬間、施設全体が微かに揺れる。
ズズ……ズズズ……!
重金属の床板を引き裂くような不気味な音が、通路の奥から徐々に近づいてくる。
「ば、ばかな……! 再生処理はまだ終わっていないはずだろう!? あれほどのダメージを……」
「進化しているんだ……ゲロスは、自己修復だけじゃない……!」
その声が終わる前に、腐食性の粘液が天井のダクトから降り注ぎ、研究員の一人を包み込んだ。
金属音と悲鳴が一体化し、わずか数秒で肉と骨が溶解して消える。
隔離されたはずの怪人──ゲロスは、完全に制御を逸脱していた。
しかも、以前より遥かに強靭で、知性すらも進化させているようだった。
幾本もの触手が通路を這い、壁を腐らせながら進んでいく。
カメラのひとつがその触手に捕らえられ、破壊される直前に捉えた映像──それは、ゲロスが笑っているように見える顔だった。
──同時刻、ネメシス日本支部・上層幹部会議室。
壁一面に展開されたホログラム画面には、ゲロスが隔離棟を蹂躙していく映像が映し出されていた。
幹部たちは言葉を失い、ただその異常な存在の進撃を見つめていた。
「異常進化体、もはやカテゴリーF──“災害級”に相当します」
「制御チップも完全に無効化されている……これは、兵器としての域を超えているぞ」
「これ以上放置すれば、外部に漏れる可能性も……」
会議の空気を切り裂いたのは、幹部候補イツキの声だった。
「──処分する」
短く、鋭いその一言に幹部たちの視線が集中する。
「いいのか? お前は元・ヒーローだぞ。身内に刃を向ける覚悟、あるのか」
「もう“元”だ。俺はネメシスの一員だ。それに……身内もクソもゲロスとは個人的に何もない。ただの化け物に過ぎないからな。だからネメシスが手を焼く相手なら俺が倒す。それにネメシスによって改造されてから俺は……」
隣にいた怪人ラミアが、にやりと口元を歪めた。
「あのクズ、あたしの可愛い“妹”を喰ったのよ。遊びの延長で殺したわけじゃない。あたしの誇りを、汚した」
イツキとラミアは立ち上がり、ホログラム画面を見つめながら頷いた。
■
──数年前、ネメシス日本支部・地下第三実験棟。
その区画は「花園」と呼ばれていた。
コードネーム【ラミア・シリーズ】──
人型改造怪人の実験体として生み出された少女たちが、ガラス管に浮かぶ形で整然と並び、培養されていたからだ。
どの個体も均整の取れた肉体美と、人間離れした妖艶さを持ち、戦闘特化の遺伝子強化に加えて「知能と美意識」を高水準で保つことが意図されていた。
その中で、もっとも高い共感力と統率性を持っていた個体がいた。
コード:ラミア01──
現在“ラミア”と名乗る彼女は、その姉個体【ラミア00】に懐いていた。
戦闘前の訓練中も、記憶装置の整理中も、姉の柔らかい微笑を見ていると、自分が単なる“生体兵器”であることを忘れそうになった。
「私たちは兵器であり、美しくなければ意味がないのよ」
そう口にする姉は、いつも爪先まで優雅だった。
研究員たちが「芸術」と評したのも無理はない。
──だが、そんな花園に“獣”が放たれたのは、ある実験が発端だった。
──数ヶ月後、同区画・実戦試験室。
新型の“腐食系触手怪人”のテストが、偶然にもラミア・シリーズとの同室で行われた。
その怪人の名は、ゲロス・プロトタイプ。
暴走したゲロスは制御を失い、目に入るすべてを「可食対象」と認識して襲いかかった。
悲鳴。硝子の割れる音。腐食液の飛沫と、肉を裂く音。
姉たちは、順番にその触手に捕らわれ、粘液に溶かされていった。
「……やめて、お願い」
ラミアが叫んだそのとき、姉【ラミア00】は血の涙を流しながら微笑んだ。
「逃げなさい、妹よ。あなたは……生きて」
そして触手が、彼女の頭部を貫いた。
白い液体が飛び散り、姉の身体は溶けて崩れ、ゲロスの“食事”となった。
自分だけが、生き残った──
その日から、ラミアは微笑むことをやめた。
■
──現在、ネメシス本部・作戦準備室。
イツキの隣で武装を整えるラミアの瞳に、あの記憶が甦っていた。
「おい、準備はどうだ?」
「ええ。万全よ。……あの“化け物”に、ケジメをつける時が来た」
彼女の腰から伸びる鞭状の補助アームが、音を立ててうねる。
「私の姉妹は、あんなやつの胃袋に収まるために作られたんじゃない」
イツキは無言で頷いた。
その背中に、ラミアは小さく呟く。
「──あの人の名を、忘れさせないために。私は“ラミア”であり続けるのよ」
静かに怒りを燃やす怪人。
彼女の戦いは、復讐ではない。誇りの継承だった。
「“ゲロス抹殺作戦”、開始だ」
『任務名:ゲロス排除』
討伐対象:怪人ゲロス(逸脱体・第二形態以上)
作戦責任者:幹部候補・日向イツキ、戦術怪人・ラミア
冷たい機械音声が作戦命令を読み上げる中、二人は踵を返し、出撃準備へと向かった。
ネメシスという名の狂気の組織で、かつてのヒーローと堕ちた怪人が手を組む──
その先にあるのは、破滅か、それとも新たなる“秩序”か。
だが今はただ一つ──
暴走する怪人ゲロスを止めるために、最も異端な二人が再び動き出す。
狂気の歯車は、今、音を立てて回転を始めた。
■
──某所・旧都市地下区画・作戦領域β。
地上では報じられないネメシスの“別任務”が密かに進行していた。
ターゲットは、元・国防軍研究所のAI中枢残骸。
それは、かつて旧政府が極秘裏に管理していた兵器ネットワークのキーであり、セイガン本部にとっても重大な脅威となりうる情報資産であった。
「掃討完了。エリア内の哨戒は制圧済み」
命令の報告を、滑らかな声が応える。
「ならば、後は回収と焼却処理だけね……」
怪人シェラ・ノーラが口元を歪める。
その身体は青白い義肢と複数の眼球を備えた仮面で構成され、蛇のように滑らかでありながら不気味さを宿していた。
彼女の能力は「疑似分裂神経網」と「高電圧生成」──神経を操り、対象を内部から“焼き切る”ことができるS級の戦術怪人だった。
「人間の残滓など、ゴミに過ぎない。燃え尽きればそれでいい」
周囲には、改造済み戦闘員が数十体。
任務は滞りなく進む──はずだった。
──その時、空気が変わった。
「ん……?」
誰も音を立てていない。なのに、風が揺れた。
そして、次の瞬間、戦闘員の一人が、無言で地面に崩れ落ちた。
胴体が、真っ二つになっていた。
「!? どこから……」
シェラ・ノーラが叫ぶよりも早く、二体、三体……次々に、戦闘員たちが無音で斬られていく。
「光学迷彩か……否。違う。これは――」
目を凝らすと、奥の廃ビルの屋上に、“何か”が立っていた。
全身が眩く反射する金属の装甲。
背にマントのような布を翻し、仮面の下からは人間離れした鋭い視線が覗く。
「誰……?」
その存在は、こう名乗った。
「名乗る義理はない。だが……俺は“ゴールド”だ。セイガンの“新しい正義”だ」
その声に、ノーラの中で何かが警鐘を鳴らす。
──違う、これはヒーローの気配ではない。
これは、“兵器”だ。
次の瞬間、光と音が一体となった。
まるで落雷のように降り注ぐ破壊の拳。
空気が炸裂し、シェラ・ノーラの神経ネットワークが悲鳴をあげた。
「ふざけ――ッ!」
彼女は即座に自分の神経網を散開させ、分裂体で応戦を試みる。
が、それすらも意味を成さなかった。
「遅い」
金色の閃光が、斬撃とともに彼女の分身を次々に葬っていく。
「なぜ……! S級の……この私が……!」
最後に残った本体が、破壊された右腕を抱えながら後退する。
そこに、ゴールドは一歩だけ、踏み込んだ。
それは、ただの“歩み”だった。だが彼女にとっては、死神の宣告と同じだった。
「貴様は、“命令に従って動く機械”だ。俺の敵じゃない」
――金色の拳が振り下ろされる。
衝撃が辺りを爆風ごと吹き飛ばし、地下空間に火花が散った。
──その夜、ネメシス本部の通信端末に緊急の一報が届く。
『S級怪人・シェラ・ノーラ、作戦中に戦闘不能。現場遺体未回収。殉職扱い。』
『交戦対象:未識別の金色戦士。コードネーム不明。推定戦闘力:A+~S。』
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「また、“奴”か……セイガン・ゴールド」
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何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
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そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
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※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
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【簡単な流れ】
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【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
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