完結『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』

カトラス

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【第20話】『食欲と祈り──怪物として、生きる』

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──セイガン本部・旧医療棟、地下第弐手術室。

 薄暗い室内に、機械の駆動音と生体モニターの不規則な警告音が交差していた。ベッドに拘束されているのは、かつて“セイガンブルー”と呼ばれた男──レン。だが今、その眼差しにはもう、光は宿っていない。

「……本当に、いいのかね?」

 執刀医、九頭が手術台の傍らに立ち、金属製の器具を指で弄びながら訊いた。

 レンは躊躇いなく、震えた声で答えた。

「もう、走れないんだ。守れないんだ……。このままじゃ、サクラを……。だから……お願いだ……“兵器”にしてくれ」

 九頭はその言葉を聞いて、満足げに嗤った。

「いいだろう。君の覚悟に、応えてやろう」

 手術灯が白く点灯し、機械アームが唸りを上げて稼働を始める。冷たい麻酔液が静脈に注がれると、レンの視界が一瞬にして歪んだ。

「さあ、レン君。君の新しい“疾走”は、ここから始まる……地獄の第一歩だ」

 ──次の瞬間、彼の意識は奈落に落ちた。

 

 目覚めは、惨劇だった。

 視界は赤黒く滲み、耳鳴りが金属音のように頭蓋に響く。痛みはない。ただ──“飢え”だけがあった。

 視線を下に向けたレンは、自身の身体の変貌に凍りついた。

 腕部には無数の管とケーブルが這い、青く脈打つ動脈が露出している。胸部には装甲が組み込まれ、かつての人間らしい曲線は消えていた。

 足は、義足にも似た構造物に差し替えられていた。それは“走る”ための脚などではない──“追い詰めて殺す”ための武器だった。

「……何だ、これは……」

 呻くように呟いたレンに、九頭の声が響く。

「成功だよ。生体エネルギー反応は安定している。適合率も高い。まるで、君の身体がそれを待っていたかのようだ」

 レンは、自らの胸元に目を落とす。

 そこには──赤黒い瘤のような“器官”が、脈動していた。

「その器官は、ゲロスのDNAをベースに構築した“生体吸収コア”だ。生きた人間の血液か、骨髄を直接吸収することでエネルギーを得る」

 吐き気が込み上げる。だが吐けるものは、もう血液でも胃液でもない。すべてが“燃料”に変換されていた。
 「サクラにもゲロスのDNAをサービスしておいたよ」

「俺も……ゲロスやサクラと……同じに……?」

 九頭は淡々と、カルテに記録を書きつけながら言った。

「君たちは対なんだよ。サクラは吸血種に近い設計。君は“強襲兵装型”。ふたりでなら、どんな敵でも排除できる──完璧なツインユニットだ」

 レンの手が震える。もう、血も涙もない身体でも、心はまだ残っていた。

「……俺は……ヒーローだったんだ……」

「過去の栄光に縋るな、レン君。君は今や、“ネメシスに喰われた英雄”だよ」

 冷笑と共に、九頭は背を向けた。

 孤独な実験室の片隅で、レンはひとり、誰にも気づかれず、ゆっくりと泣いた。涙ではなく、ただ赤い体液を流しながら。

 ──かつての“ブルー”は死んだ。

 生まれたのは、“生体強襲兵装型戦闘兵・レン=コード:Blue-R”。

 彼が再び戦場に出る時、それはもう、誰かを守るためではない。

 それは──人であることの最後の誇りを、喰い破る戦いだった。

そして、レンはセイガンの戦闘兵器と化した己を試すかのように初陣に立つ。


──セイガン本部・地下討伐区画 第7収容層。

 サイレンが鳴り響いていた。

「警告。危険個体“スローター・ギブズ”収容違反。速やかに戦闘対応を──」

 その怪人は、本来なら処分予定だった旧世代の失敗作。暴走と共に、看守8名、研究者4名を瞬く間に切り裂いた。

 機関部の通路には、頭部のない白衣、内臓の露出した警備兵が無残に転がる。

 生存者ゼロ。完全封鎖不能。

 ──そこに、ひとりの“兵器”が送り込まれた。

 

 《戦闘記録開始──認証コード:Blue-R》

 黒光りする戦闘義足で鉄の床を蹴り、レンは影のように通路を駆ける。その体躯はもはや“人”のそれではない。スーツではなく、身体そのものが戦闘装備だった。

 血の臭いが、鼻腔を灼いた。

 そして──現れた。

「グアアアアアアアアァァアア!!」

 スローター・ギブズ。

 全身を剥き出しの筋肉で覆われ、四本の腕には回転する骨刃が埋め込まれている。口元は人間の頭蓋で歯列が形成されており、目はない。だが、殺意だけは圧倒的に濃かった。

 ギブズが突進した。

 レンは一瞬、背中にあるブレードユニットを起動。刃が展開し、右腕に装着される。

 ──瞬間、斬った。

 ズバァッ!

 ギブズの右前腕が、断面から爆ぜた血と共に吹き飛ぶ。

 だが怪人は怯まない。傷口から飛び出した筋線維がムチのように襲いかかってくる。

「遅い……!」

 レンはそのまま逆回転で左脚を振り上げ、骨刃付きの踵でギブズの膝をへし折った。

 悲鳴と同時に、ギブズが体勢を崩す。

 そこに、レンは跳びかかった。

 両腕を十字に組み──背中のコアが露出する。

 ギュギュギュギュィィィン……!!

 ──咬みついた。

 吸収器官がギブズの胸部を穿ち、直接心臓に管を差し込む。

「グアア……や……やめ……グ、グブ……!」

 ギブズの筋肉が痙攣し、目のない顔が引き攣る。

 吸収は止まらない。骨が砕け、内臓が圧縮され、血液が逆流し、ギブズの体は“干からびて”いった。

 ボキッ……バキ……ジュルジュル……ギャァァァァ──……ッ

 わずか十数秒後。

 そこに残っていたのは、ミイラのように干からびた肉塊と、血で濡れた床だけだった。

 

 ──《戦闘終了。対象排除完了》

 無機質な自動アナウンスが響く。

 呼吸を整えながら、レンは静かに血の滴る掌を見つめた。

 その手が、かつて“仲間を守るためのもの”だったことを、誰が信じるだろうか。

 

 通路の先で、戦闘支援員が震えながら現れる。

「……お、お疲れ様で、す……ブルーさん……」

 レンはその声に答えず、ただフードを深く被り、背を向けた。

 脇腹からは、吸収器官がうっすらと脈打っている。

 まるで、次の“餌”を待っているかのように。

 

 ──これが、“生き延びるための初陣”だった。

 そして、ここからが“血にまみれた英雄譚”の始まりでもあった。

──セイガン本部・隔離観察室。

 レンは鏡を見ていた。

 蒼白の肌、青く光る瞳、うっすらと浮かび上がる神経配線。
 “それ”はもう、かつて自分が知っていた“レン”ではなかった。

 腕の血管に沿うように走る金属管が、時折ぴくりと脈を打つ。
 それが、自分が“まだ動ける”という唯一の証明だった。

 ──サクラを守るためだった。

 自分は弱かった。
 ゲロスに敗れ、彼女を支えきれず、何もできなかった。
 そして今……自分はその“怪物の遺伝子”で生きている。

「これで、本当に……良かったのか……?」

 呟きは虚空に溶ける。

 

──その夜、セイガン本部・西側監視塔。

 パトロール中の隊員が、突如叫び声を上げた。

「うああああああっ!!」

 駆け寄った先にあったのは、壁に叩きつけられた衛兵の死体。
 顔面は圧壊し、腹部は大きく裂かれ、そこからは何かを引き裂いたような肉片が床に散っていた。

 その中央に、血まみれの男が立っていた。

 ──レンだった。

 フードを深く被ったその姿は、まるで人を喰らう野獣のようで。

「……まただ……くそ……っ」

 目の焦点が定まらない。
 血の匂いが脳を焼き、骨の芯から身体が痺れていた。

 気がついた時には、警棒を握る衛兵を壁に叩きつけていた。

「やめろ……やめろ……俺は……こんなはずじゃ……!」

 脳裏に、ゲロスの咆哮が響く。

 ──強者を喰らえ、血を啜れ。それがお前の本能だ。

 目の奥で、青い光が赤に染まりかけていた。

 

 その時──。

「レン……!」

 鋭く、しかし震えた声が、闇を裂いた。

 振り返ると、そこにはサクラがいた。

 虚ろな瞳のまま、彼女はレンに駆け寄る。

「レン……もう、やめて……お願い……あなたまで、化け物にならないで……」

 ──その声が。

 彼の心に、かろうじて残っていた“人間”を呼び戻した。

 

「……サクラ……」

 震える手で、レンは自分の顔を覆った。

 爪が食い込み、血が滲む。

 ──そうだ、俺は。

 俺は、誰かを守りたくてここまで来たんだ。

 守るために、怪物になったんじゃない。
 誰かを喰らうために、戦ったわけじゃない。

 やっとの思いで、レンはその場に膝をついた。

「俺は……サクラを……これ以上……傷つけたくない……」

 その声は、泣いているように聞こえた。

 

──後日、レンは一時的な任務停止処分を受けた。

 だが、サクラだけは、彼の手を取った。

「……人間として戻れないなら、せめて、怪物にならないように……」

 その言葉は、レンの心に静かに、深く染みこんだ。

 夜の風が、ふたりの影を長く伸ばしていた。

 いつしか“正義”の色だった青は、
 深く、迷いの“夜”の色に沈んでいった。



──セイガン本部・旧医療棟 地下格納庫。

 ひと気のない深夜、鉄の扉が軋みを立てて閉じた。冷たい蛍光灯の下、裸足の少女がゆらりと歩く。
 白衣の下に着ていた制服は血に染まり、彼女──サクラの頬はこけ、青白い肌に赤い瞳だけが異様に輝いていた。

「……また、食べちゃった……」

 彼女の手から滴るのは、まだ温かい血液。手のひらを見つめ、震える指でそれを拭ったが、拭っても拭っても渇きは消えなかった。

「わかってるのに……止まらない……止まれない……」

 ゲロスの遺伝子を組み込まれた改造手術の影響で、サクラは今や“人間”としての限界を越えた存在だった。
 水も、栄養も、人工血液すら意味を成さない。

 ──必要なのは“生きた人間”の血肉。

 彼女の体内では、ゲロスの遺伝子が夜ごとに疼き、渇きを訴えた。

──同時刻、セイガン本部 第三研究棟・小会議室。

「……四人目、だな。ミイラ化した変死体」

 レンの声は低く、重い。
 目の前には数人の医療部隊士官が集まっていた。

「全員、サクラと勤務中に接触していた医療スタッフだった」

「吸血された……ってことか?」

 スタッフの問いに、誰も明言はしなかった。ただ、全員が沈黙の中で頷いた。

「……あのとき、彼女を助けたのは間違いじゃなかったと思いたい」

 レンの言葉には自責の色がにじむ。

「でも、これ以上犠牲が出るなら……いずれ、彼女自身も壊れる」

「九頭ドクターは何か言ってるのか?」

「“最高機密”の一点張りだ。明らかに、何かを隠している」

 部屋の空気がさらに重くなる。
 サクラが怪物になりつつある──それは確実だった。

──その夜、旧医療棟・屋上。

 夜風に髪を揺らしながら、サクラは屋上の手すりに寄りかかっていた。
 遠くに見える街の灯りをぼんやり眺める。

「……怖いよ、レン……ほんとは、わたし、もう人間じゃないんだよね」

 隣に立つレンは、黙って彼女の冷えた手を握る。

「でも……医療スタッフさんがね……“おかえり”って言ってくれたの」

 その言葉だけが、怪物になりかけた少女を人間に留めていた。

「ううん……もう、わたし、人の血を吸わなきゃ生きられないのに……」

 ぽつりと落ちた言葉と共に、頬に涙が流れる。

 祈るように、すがるように。

 ──それでも、私は人間でいたい。

 それが、サクラが毎夜繰り返す“祈り”だった。

 月の光が、彼女の紅い瞳を静かに照らしていた。



※※

皆さま、いつも本作『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』を読んでくださって本当にありがとうございます!

この物語、地味に100話超えを視野に入れた長編構成となっておりまして、毎回ド派手に爆破したり、元仲間をざまぁしたり、怪人が溶かしたり、ヒーローがトラウマになったりと、作者の精神力をゴリゴリに削る重労働でございます(愛ゆえに)。

ですが、そんな深夜テンションで戦っている私を救ってくれるのが――そう、あなたの「お気に入り登録」や「感想」なんです!

お気に入りボタンを押す→作者のやる気ゲージが1本回復!
感想を送る→作者、涙を流しながら紅茶をすする!


皆さまの反応が、この物語を完走させる最大の燃料です!
書籍化も夢見つつ、今日もキーボードをカタカタ鳴らしながら、戦隊と怪人と陰謀を混ぜまくったストーリーを全力で執筆中。

今後も「まさかの展開」「読者の予想を裏切るキャラの掘り下げ」「怪人の無駄にグロい手術シーン」など盛りだくさんでお届け予定ですので、どうぞ応援よろしくお願いします!

どうか……どうかお気に入りを……
(作者、そっと正座)
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