完結『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』

カトラス

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【第40話】『選ばれなかった者たちの矜持』

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 黄昏の空を背に、小型ネメシス拠点〈シグマ・スパイン〉の輪郭が浮かび上がっていた。鉄条網に囲まれ、監視塔が無言でそびえ立つ。老朽化した研究棟のような構造は、ネメシスの中でも最下級の位置づけにある小規模な基地だった。

 その静寂を、ひとつの影が切り裂いた。

 漆黒のボディスーツ。脈打つように赤いフォトンラインが浮かび、戦闘用のフルフェイスマスクからは無機質な音声が漏れる。

「……戦闘評価、開始する」

 セイガン・漆黒(ブラック)。コードネーム《デモナス》。

 彼は本来、奇襲・制圧を主とした戦隊運用を想定されていた。だが今回の任務は“単独”——つまり、試験的な実戦投入である。

 基地内で警報が鳴る。

「誰か来たぞ! 警備班、応答しろ!」

 「……あれは、何だ……ヒーローか?」

 怪人たちは混乱しながらも、武器を手にして応戦しようと動いた。

 しかし、次の瞬間だった。

 赤い閃光が走り、最前線にいた怪人の首が斜めに切断された。

 笑っているように見えたのは、切断面の筋肉が痙攣していたためだった。

「……対象個体、脊椎破断完了。次、頭部摘出試行」

 デモナスはその様を、まるで観察者のように見つめ、記録用データベースへ入力していく。

 怪人の叫びが響く前に、さらに一体が瞬時に解体された。

 それは、殺戮というより、分解作業に近かった。

 そして——

「装甲リミッター、解錠……第二形態、開放許可」

 彼の装甲が音を立てて割れ、内部から現れたのは有機的で異様なフォルム。両腕からは拷問器具のような器官が伸び、胸元では“何か”が脈動している。

 ──第二形態《サクリフィクス・コード》。

 制御の限界を超えたこの姿は、拷問を主とする近接殺戮形態。

 捕らえた怪人に対し、口を裂き、舌を縫い、声帯を破壊する。そして耳孔には微細な音波装置を埋め込み、逃げ場のない痛覚のループへと誘う。

 声を上げることすら許されぬまま、怪人は白目を剥いて絶命した。

「……苦痛閾値、上限突破。興味深い。次は、視覚器官の実験だ」

 彼は静かに、怪人の眼球を摘出した。

 その手には怒りも、憐れみもなかった。ただ、科学者的な“好奇心”だけが存在していた。

 その日、基地にいた怪人は——一体も生存しなかった。

 逃げようとした者は、足を裂かれ、背骨を折られ、そして“記録された”。


◆報告書(抜粋)

 作戦名:デモナス初期性能テスト【ΩS-B1】
  結果:対象拠点、生体反応ゼロ。完全壊滅。
  殲滅手法:拷問・制圧・映像記録(倫理審査保留中)
  備考:第二形態《サクリフィクス・コード》使用確認済。
  評価:極めて優秀。制御には監視者を要す。


 燃え上がる〈シグマ・スパイン〉を背に、デモナスは空を見上げていた。

「……気持ちいいとは言わない。だが、生きてると感じた」

 その言葉に“人間性”はなかった。だが、“何か”が、彼の奥底で目覚めつつあった。

 それが、善悪どちらの芽なのかは、まだ誰にもわからない。



 伏地エリープ地帯──かつてネメシスが建てた小規模研究基地。その廃墟に、夕暮れの風がざわめいていた。
 セイガンによる制圧作戦の一環として、この拠点の殲滅が決定されたが、送り込まれたのはたった一人だった。

「ここが舞台ね。だったら、主役は……私!」

 ショッキングピンクの戦闘スーツに身を包んだ少女、カマリナが両腕を広げて風を抱くように基地へと足を踏み入れる。

 今回の任務は表向きには旧式怪人が巣食う基地の制圧。
 だがその真の目的は、カマリナの第二形態──異形の力の制御試験であり、同時に彼女の殺戮性能を図る“実験投入”だった。

「ねぇ、見ててよ……セイガンの新しいピンク、どれだけ素敵かって」

 その言葉を合図に、地面を突き破って現れたのは、ネメシスが遺した旧式の怪人部隊。
 ガタついたフレームに鋭利な義手、歯車のような歯列を持つ異形の兵──その数、十数体。

「ふぅん、ダサいな。じゃ、始めよっか」

 カマリナはゆっくりとマスクを外し、その瞳の奥に宿った“異形”が輝きを増す。

 ピンクのスーツが軋みながら割れ、内側からカマキリのような鋭利な前脚がせり出していく。
 外郭装甲が剥がれ、白くしなやかな身体が、異様なまでに艶やかな肉体へと変貌していく。

「……リミット、解除」

 第二形態、発動。

 カマリナは舞うように跳躍し、一体目の怪人の頭部を高速回転する斬撃で粉砕する。
 続けて、触手のように伸びた腕で二体目を引き寄せ、瞳孔を見開いたままの怪人の顔を指先でなぞった。

「こわい? それとも……期待してる?」

 その声は甘く囁くようでありながら、背筋を凍らせるような冷たさを含んでいた。
 次の瞬間、その指は額を貫き、ゆっくりと抜かれた。
 怪人は音もなく崩れ落ちる。

 そして次の一体に向かって──今度は笑いながら、脳内に寄生虫を注入するような特殊な動きを見せる。
 怪人の目が虚ろに揺れ、数秒後、自らの頭部を壁に叩きつけて絶命した。

「自分の意志じゃないの。私の中の“お友だち”が、お願いしただけ」

 笑うカマリナの背に、まるで虫の羽のような幻影が揺れる。

【報告書抜粋】
件名:カマリナ第一任務戦闘データ
出典:セイガン観測班Ω-13
要点:
・敵勢力殲滅までの所要時間:3分21秒
・目視確認における生存敵数:ゼロ
・戦闘中、音声記録に“笑い声”と“呼吸の乱れ”が混入
・複数体に対する“非即死性損壊”が確認され、心理的拷問の可能性
・戦闘終了後、対象は「やりすぎたかも?」と発言──

 基地の中で、怪人たちの断末魔が悲鳴を上げていた。
 カマリナの鋭利な爪が、怪人の頭部を“演奏”するように弾き、その内部の中枢を丁寧に破壊していく。

「いい音するね……もっと、鳴いて?」

 通信設備が一斉に沈黙した時、彼女はくるりと舞うように振り返った。

「誰か見てた? これが“ピンク”の新しい使い方よ」

 遺されたのは、血飛沫の代わりに黒い液体が飛び散る惨劇。
 壁に叩きつけられた怪人の断面は、まるで花弁のように開いていた。

「ふふ、楽しかった……。でも、まだ足りないな。もっと派手な舞台、用意してくれない?」

 その微笑みは、ヒーローのそれではなかった。

 カマリナ、初任務──
 それは、観客なき劇場で演じられた、冷たい殺戮の舞。
 やがて彼女は、さらなる“観客”を求め、次の舞台へと向かうことになる。
 そしてその背には、セイガンの名が刻まれていた。



 本部地下、セイガンの第零研究棟──そこは、通常の職員すら立ち入りを禁じられた、機密中の機密区画。

 その最奥、気温12度・湿度26%に管理された鋼鉄の部屋で、一人の男が無数のモニターを見つめていた。

 九頭博士。

 戦慄の天才。かつて“科学者”と“屠殺者”の境界を踏み越えた異端の男は、今やセイガン科学部門の中枢に君臨していた。

 目の前のスクリーンには、二つの戦闘映像が並んでいた。

 一つは、漆黒のヒーロー《デモリス》が敵の怪人どもを瞬時に切り裂き、焼き焦がし、時に笑いながら捻り潰す姿。

 もう一つは、艶やかなピンクの戦闘服から変態し、残酷な優美を纏って敵を“演奏”するように弄ぶ《カマリナ》の舞台。

 九頭は端末のスイッチを押し、電子報告書の音声読み上げモードを起動させた。

「──報告対象:コードネーム《デモリス》および《カマリナ》の初戦闘試験。敵性怪人群計31体中、即死確認12体、拷問痕確認17体。心理的自壊による戦闘不能2体……」

 しばらく無言だった九頭が、ふいにくつくつと笑い出す。

「はは……いいね。実に、いい出来だ……! まさに“芸術”の域に達している」

 彼は椅子から立ち上がり、カマリナの報告書の一文を読み上げた。

「《敵の頭部に寄生型の神経体を注入し、幻覚・幻聴の末に自死に誘導》……ふふ。人体を“自発的に壊させる”という発想、やはり天才的だ。よくぞ、私の理論をここまで昇華したものだな……」

 そして今度はデモリスの報告書へ目を移す。

「《第二形態に移行後、敵個体に対し“咀嚼音の模倣”を伴う異常な拷問手法を実行。対象は脳機能を維持したまま、約三十二秒後に死亡》……うむ、これぞ真の意味での“制裁者”だ」

 九頭の目は、もはや狂気の光を湛えていた。

「英雄とは、人を救う者ではない。“支配”し、“恐れさせる”存在こそが、真のヒーローだ」

 彼は顎に手を当て、微笑を深める。

「……これで、ようやく“あの方”にも面目が立つ。L計画を超えた新たなもの……完璧な出だしじゃないか」

 そして、その目はふと遠くを見るように細められた。

「……問題は、そう。“旧時代のヒーロー”ども。レンやサクラ、そして──日向イツキ。あの男だけは、やはり……」

 九頭は静かに笑い、そして操作端末を閉じた。

 戦闘データはすでに次なる怪人開発の素材となる。
 彼の狂気は止まらない。
 これが、彼の“新時代のヒーロー創造”計画の序章にすぎないと知る者は、まだ誰もいなかった。



 地下第零研究棟、機密階層“Z層”。

 かつてネメシスの科学者だったドクトル・メディアスから強奪、あるいは献上されたL-Disaster計画。その設計図と遺伝子因子をもとに、九頭博士は静かに独自の研究を進めていた。

 名目上は「戦力補強のための補助計画」。だが、その実態は──

 《L-Extinction計画》
 ──“人類とヒーロー文明の終焉”をテーマに、倫理と信仰を無視した新型怪人の開発構想であった。

 九頭は制御室の暗がりで独り言を漏らす。

「Ω-Zion計画……あれはあくまで“選ばれた神の系譜”としてネメシスが創る神格存在だ。ふん、貴族趣味が過ぎる」

 彼は冷笑する。

「こちらは違う。L-Disasterは“人間の性”を具現化した怪人群……私はそれをさらに進化させ、“人間そのものの不完全性”を“兵器化”する」

 モニターに映るのは、奇形的な脳構造を持つ人型試作体。
 “感情の暴走”や“依存”“快楽回路の強化”といった、生理的にタブーとされる部分が露骨に肥大化した、あまりにも異常な怪人群。

 計画名:L-Extinction01《デモリス》
 計画名:L-Extinction02《カマリナ》
 ──いずれも、ドクトルが設計したL計画に基づき、「残虐性と執着性を最大限引き出した異形」として完成した存在。

 だが九頭はもう満足していない。

「足りない……まだ足りない。やはり“愛”が必要か」

 彼の手元には一枚の生存者写真があった。

 少女。元アイドルの二名。かつて戦地慰問に訪れ、そのまま失踪したと報告されている“素材”。

「“愛に狂う怪人”……人間の愛情が持つ最大の暴力性を宿す存在を作れれば、セイガンもネメシスも、そしてヒーローという幻想すら塗り替えられる」

 九頭は静かに注射器を手に取る。
 内容物は、ドクトルが遺した三号体《ルクシィア》の神経制御因子──快楽中枢に寄生し、幻惑と自己崩壊をもたらす危険物。

 照明が赤く点滅し、実験室の扉が重く閉ざされた。

「さあ、始めよう。“ヒーローの皮をかぶった、最も人間的な怪物”を……」

 この日、九頭は宣言する。
 ──L計画は終わってなどいない。
 それは新たな怪物の系譜、L-Extinction(絶滅)計画として今なお生きている。

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