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【第39話】『新戦隊、覚醒前夜の制圧』
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ネメシス研究第七施設。夜の帳に包まれたその空間は、時折、装置の駆動音が響く以外は凍てつくような静寂に沈んでいた。白亜のドーム型ホール──そこに配置されたガラス床の下には、青白く脈動する有機ケーブル群が這い回り、壁一面に配置されたモニターには膨大な戦闘データが無作為に走っていた。
その中心に、真紅のローブをまとった青年──アドレー=ノアが立っていた。整った顔立ちに不自然な無表情。氷のような灰色の瞳は虚空を見つめ、何かを計算するように微動だにしない。
「神を模す……とは、言い過ぎか」
彼のつぶやきが、無人の空間に吸い込まれていく。ホログラムパネルを指でなぞると、《Ω-Zion計画》と刻まれた赤いファイルが浮かび上がる。
「L計画……それは未熟だった。暴走、自我、逸脱──人間的すぎた。だが、神は揺れない」
背後には、すでに試作体が立っていた。人の形を保ちつつ、生命感の欠片も感じられない、ただそこに存在するだけの器──
「Z-CORE:感情と論理の完全分離。
Ω-SKIN:自己治癒皮膚。
HEAVEN-CHAIN:遠隔制御遮断。
E-TERA DRIVE:魂の複製保存……」
その名は《Ω-Zion》。
ネメシスが神へと至る“進化の計画”。
そのとき、静かに扉が開く。
「また、君か」
アドレーが目を上げると、イツキとラミアが入ってきた。以前の初対面以来、二度目の顔合わせだった。
「ノア……あんたがこの研究を継いだって聞いた。だが──どこまでやる気だ?」
イツキの声には、警戒と苛立ちが混じっていた。
アドレーは首をわずかに傾げて微笑を浮かべる。
「君たちはネメシスの中心だった。だが──弱い。矛盾と情緒の塊だ。だから私は、君たちを“神に近いヒーロー”に変えてやろうと思っている」
「……冗談じゃない」
ラミアが言葉をかぶせた。
「そんなの、強化でも進化でもない。人格の消去だわ。意思も魂も、ただのコードに置き換えるつもり?」
「そうとも言える。だが、それが“生き残る”ということだ。ネメシスは、もう綺麗事だけじゃやっていけない」
アドレーの言葉は冷たく、しかし理論的だった。
「今やセイガンにはL計画由来の怪人ヒーローがいる。彼らは“正義”を装いながら我々を狩る。ならば、我々は“神”となって迎え撃つまで」
「……自分を神と呼ぶ気か?」
イツキが吐き捨てるように言った。
「いや、私は“神の模倣者”さ」
アドレーはあくまで静かに返した。
照明が、わずかに脈打つ。
試作怪人たちの輪郭がゆっくりと浮かび上がる。
「これが、次の時代のネメシス。L計画は過去。これからはΩ-Zion計画だ」
イツキとラミアは、互いに短く視線を交わす。
そしてイツキが低くつぶやいた。
「──俺たちの“生き残り方”は、自分たちで決める」
だがその言葉に、アドレーは応えなかった。
彼の視線は、すでに“次”を見ていた。
《Ω-Zion計画》──それは神を模し、怪物を超える存在を生み出す計画。
そしてその胎動は、すでに始まっていた。
■
深夜、ネメシスの廃棄研究棟第九セクター。かつて封鎖されたはずの隔離ラボに、再び手術灯が灯っていた。
唸るモーター音。軋む鉄製の手術台。その中央に拘束されているのは、かつて慰問アイドルグループ「Chroma*Bloom」のセンターを務めていた少女、ミユキ・アサクラだった。
彼女の華奢な身体は、生体制御コードで縫いとめられ、無数の管とセンサーが肌を貫いていた。目隠しと口枷、そして白く濁った涙痕が彼女の絶望を物語っている。
「……ふふ、素晴らしい。まさに“生ける標本”だ」
暗闇の中、響くのは狂気を帯びた男の声。ドクトル・メディアス──かつてL計画を主導していた科学者。今は亡命し、セイガン側に囚われている身だが、これは過去の記録である。
手術用マニピュレーターが唸りを上げ、彼の手元で椎骨の破片がピンセットによって摘まれ、培養槽へと投入される。骨を削るカリカリとした音がラボの壁に反響した。
「カマキリの脊椎連結構造と、人間の神経節の反応速度を……んふふ、もっと溶け合え」
ミユキの頭蓋が解放され、露わになった脳内では、既に“寄生神経虫(パラサイト・ネウロワーム)”がうごめいていた。
「……うた……いたい……」
かすれた声が、彼女の唇から漏れた。
「そうだ、歌ってくれ。君の声帯には、増幅共鳴装置をつけてある。観客が血を流すほど、美しい歌になるぞ」
ドクトルは恍惚とした表情で、声帯を切開し、金属質の音叉状装置を埋め込んだ。その瞬間、声帯の一部が焼け焦げ、黒煙が立ち上る。
焼ける肉の匂い、沸騰する血液、崩壊する瞳孔。ミユキの脳波は暴走し、神経信号が手術台全体に伝播していく。
次の瞬間、彼女の背部から甲殻のような緑色の外骨格がせり出した。
カマキリを思わせる鋭利な前肢、複眼化した両目。その奥底には、かすかに“誰か”が見つめているような異様な光があった。
「……観客、は……どこ……?」
その声はまだミユキだった。
だが、ドクトルは狂気の笑みを浮かべて頷いた。
「これで完成だ。ゲロス、ルクシィア、そして君──L計画の傑作の系譜が、いま結実する。君は“舞台”に出ていい。さあ、幕を上げよう……」
この実験記録は、のちにネメシスの内部情報から漏洩した断片映像の一つである。
映像に映る彼女──カマリナ・エクリュは、まだ美しさの名残を保ちながら、静かな舞台の中央でこう呟いていた。
「お客さま……立たないでください……今から、“本番”です」
その直後、カメラが暗転する。
レンズに映った最後の光景は、嗤うドクトルの血塗れの手と、焼け焦げたマイクだった。
この怪物には“第二形態”が存在する。
普段は戦隊ヒーロー然とした美しい姿で、民衆の前に現れる。
だがリミッターが外れた瞬間──真の姿、雌のカマキリを模した凶悪な拷問体へと変貌する。
名はカマリナ・エクリュ。
彼女は、ドクトル・メディアスの意思と狂気が生み出し九頭が引き継つぐ、最後の“芸術”だった。
■
地下司令ブロック。セイガン本部でもっともアクセス制限の厳しいセクションに、レンとサクラは招集された。
薄暗い廊下を進む彼らの前で、電磁ロックが何重にも解除される音が重く響いた。
「……なんだよ、ここ。まるで監獄じゃねぇか」
レンが眉をひそめて呟くと、隣のサクラは口を引き結んだまま黙っていた。
最後のゲートが開いたとき、冷たい無機質な空間に、二つの人影が静かに立っていた。
一人は全身を艶のない漆黒の装甲で覆った長身の男。マスクの奥から、燃え尽きたような視線がレンたちを射抜く。
もう一人は、過剰なまでに鮮やかなショッキングピンクの戦闘スーツに身を包んだ少女。
その顔にはかつて見たことのある微笑が浮かんでいたが──目だけが、深い虚無をたたえていた。
「紹介しよう」
九頭ドクターが姿を現すと、ゆっくりと彼らの間に立った。
「こちらが“セイガン・漆黒(くろ)”こと《デモナス》。
そして“セイガン・ショッキングピンク”、コードネーム《カマリナ》だ」
「……は?」
レンが目を見開く。
サクラも、驚きに小さく息を呑んだ。
デモナスは沈黙したまま、わずかに視線を向ける。
一方のカマリナは、一歩だけ前へ進み、軽く頭を下げた。
「こんにちは。お久しぶり……かしら、サクラ先輩?」
その声に、サクラの手が震える。
どこかに“ミユキ”の面影があった。
だが──目の奥に宿るものは、人間のものではない。
「……何をしたんだ、こいつらに」
レンが九頭に詰め寄る。
「怪人だろ? お前がまた勝手に……!」
「勝手? フッ、勝手なのは君たちだよ」
九頭は平然と返した。
「ネメシスは変貌した。旧時代の戦術では勝てん。
ならばこちらも、“旧ヒーロー”では通用しない」
九頭は一歩踏み出し、スクリーンに映し出されるネメシスの現況を示す。
「《Ω-Zion計画》──それは新生ネメシスの胎動だ。
君たちレンとサクラに、そしてこのデモナスとカマリナを加えた《新・セイガン》がそれに抗う唯一の刃となる」
「……共闘しろってか。こいつらと?」
レンの声には警戒と怒りが滲んでいた。
だが──サクラは一歩、カマリナへ近づいた。
「……あなた、まだ……“ミユキ”の歌、覚えてる?」
カマリナは、かすかに微笑んだ。
「もちろん。“血の中に咲いた希望の旋律”──でしょ?」
サクラの目が潤む。
その横で、デモナスが重く口を開いた。
「……命令は従う。だが、俺たちに近づくな。
いつ“制御”が外れるかわからない」
その声には、どこか自嘲と恐れが混ざっていた。
レンは口を閉ざしたまま、彼らを見つめ──やがて、小さく頷いた。
「……共闘ってなら、俺たちも覚悟を決めるさ。
ただし、もし裏切るようなことがあったら……」
レンはゆっくりと腰のホルスターから武器を抜いた。
「容赦はしねぇからな、九頭」
「その時は喜んで《実験結果》として処理してくれたまえ」
九頭は笑った。
その笑みは、戦いの始まりではなく、新たな“戦隊”の幕開けを告げるものだった。
■
黒雀地帯──ネメシスの巨大拠点のひとつ。旧式怪人たちの補給拠点でもあるその施設に、突如として落雷のような轟音が響き渡った。
地面を這う煙、崩れる金属音。廃墟寸前の構造体に、ただひとつ、鮮烈な色彩が割り込む。
「よっ、諸君。そろそろ“戦隊ごっこ”の時間だ」
先頭に立つのは、黒い戦闘スーツを纏った青年──セイガン・ブルー、レン。
背後には、爆音を伴って転送ポータルが開く。そこから現れたのは、桃色の装甲に身を包んだサクラ。そして──さらにふたり。
「セイガン・セイガン漆黒──デモナス、行く」
低い声と共に前に出たのは、黒き騎士のような佇まいの男。戦闘特化型強化兵士、デモナス。
その隣では、鮮やかなショッキングピンクのヒーロースーツが、まるで踊るように舞う。
「うふふ、ピンクは“かわいい”だけじゃないんだよ?」
それが、新ヒーロー──セイガン・ショッキングピンク、カマリナ。
四人のヒーローが揃った瞬間、拠点中枢に向けて攻撃が開始された。
「突入! 目標はネメシス中枢の制圧、ついでに“悪趣味な怪人ども”の掃除だ」
レンの号令と同時に、壁面が破砕される。サクラの超音波砲が貫通孔を開け、デモナスが無言で飛び込む。
「この程度で……拠点? お笑いだな」
デモナスの剣が光を引き、旧型怪人が悲鳴を上げる暇もなく両断された。
「ヒーローって、優しいと思ってた? 甘いよ」
カマリナは歌うように呟き、音響攻撃で敵の感覚器を麻痺させる。その隙にサクラの銃撃が火を吹く。
「撃破確認。次!」
中枢に向かう通路は、既に怪人の死骸で埋まりつつあった。
「レン先輩、ここの掃除って……ちょっと刺激強すぎじゃない?」
「ま、掃除は派手にやらないとね。カマリナ、楽しんでるか?」
「うん、もう少し壊したいな」
無邪気に笑うカマリナの瞳は、どこか“別の何か”を感じさせた。
そして、制御中枢が見えたその瞬間。
「突入──終わらせるぞ」
デモナスの鋭い声と同時に、最後の扉が吹き飛ぶ。
そこにいたのは、ネメシスの旧式幹部怪人数体。だが戦闘は一瞬だった。
サクラが爆弾を投げ、レンが突撃し、カマリナの音声が敵の脳に直接届く。
最後にはデモナスの一閃が、幹部ごと天井を割った。
「……完了。ネメシス、また一つ終わったな」
レンがため息交じりにヘルメットを外し、髪をかき上げる。
「でも……これはまだ前哨戦だよ。ネメシスはもっと奥深くに、腐った核を持ってる」
サクラの視線が、どこか遠くを見ていた。
「私たちはヒーローだ。でも、“戦い方”は選ばせてもらうよ」
カマリナがその小さな手を握ると、音が空気に震える。
彼女たちは、まだ第二形態にはなっていない。
だが──この時点で既に、ネメシスの旧式怪人は壊滅。
新セイガン、覚醒前夜の圧倒的な勝利だった。
その中心に、真紅のローブをまとった青年──アドレー=ノアが立っていた。整った顔立ちに不自然な無表情。氷のような灰色の瞳は虚空を見つめ、何かを計算するように微動だにしない。
「神を模す……とは、言い過ぎか」
彼のつぶやきが、無人の空間に吸い込まれていく。ホログラムパネルを指でなぞると、《Ω-Zion計画》と刻まれた赤いファイルが浮かび上がる。
「L計画……それは未熟だった。暴走、自我、逸脱──人間的すぎた。だが、神は揺れない」
背後には、すでに試作体が立っていた。人の形を保ちつつ、生命感の欠片も感じられない、ただそこに存在するだけの器──
「Z-CORE:感情と論理の完全分離。
Ω-SKIN:自己治癒皮膚。
HEAVEN-CHAIN:遠隔制御遮断。
E-TERA DRIVE:魂の複製保存……」
その名は《Ω-Zion》。
ネメシスが神へと至る“進化の計画”。
そのとき、静かに扉が開く。
「また、君か」
アドレーが目を上げると、イツキとラミアが入ってきた。以前の初対面以来、二度目の顔合わせだった。
「ノア……あんたがこの研究を継いだって聞いた。だが──どこまでやる気だ?」
イツキの声には、警戒と苛立ちが混じっていた。
アドレーは首をわずかに傾げて微笑を浮かべる。
「君たちはネメシスの中心だった。だが──弱い。矛盾と情緒の塊だ。だから私は、君たちを“神に近いヒーロー”に変えてやろうと思っている」
「……冗談じゃない」
ラミアが言葉をかぶせた。
「そんなの、強化でも進化でもない。人格の消去だわ。意思も魂も、ただのコードに置き換えるつもり?」
「そうとも言える。だが、それが“生き残る”ということだ。ネメシスは、もう綺麗事だけじゃやっていけない」
アドレーの言葉は冷たく、しかし理論的だった。
「今やセイガンにはL計画由来の怪人ヒーローがいる。彼らは“正義”を装いながら我々を狩る。ならば、我々は“神”となって迎え撃つまで」
「……自分を神と呼ぶ気か?」
イツキが吐き捨てるように言った。
「いや、私は“神の模倣者”さ」
アドレーはあくまで静かに返した。
照明が、わずかに脈打つ。
試作怪人たちの輪郭がゆっくりと浮かび上がる。
「これが、次の時代のネメシス。L計画は過去。これからはΩ-Zion計画だ」
イツキとラミアは、互いに短く視線を交わす。
そしてイツキが低くつぶやいた。
「──俺たちの“生き残り方”は、自分たちで決める」
だがその言葉に、アドレーは応えなかった。
彼の視線は、すでに“次”を見ていた。
《Ω-Zion計画》──それは神を模し、怪物を超える存在を生み出す計画。
そしてその胎動は、すでに始まっていた。
■
深夜、ネメシスの廃棄研究棟第九セクター。かつて封鎖されたはずの隔離ラボに、再び手術灯が灯っていた。
唸るモーター音。軋む鉄製の手術台。その中央に拘束されているのは、かつて慰問アイドルグループ「Chroma*Bloom」のセンターを務めていた少女、ミユキ・アサクラだった。
彼女の華奢な身体は、生体制御コードで縫いとめられ、無数の管とセンサーが肌を貫いていた。目隠しと口枷、そして白く濁った涙痕が彼女の絶望を物語っている。
「……ふふ、素晴らしい。まさに“生ける標本”だ」
暗闇の中、響くのは狂気を帯びた男の声。ドクトル・メディアス──かつてL計画を主導していた科学者。今は亡命し、セイガン側に囚われている身だが、これは過去の記録である。
手術用マニピュレーターが唸りを上げ、彼の手元で椎骨の破片がピンセットによって摘まれ、培養槽へと投入される。骨を削るカリカリとした音がラボの壁に反響した。
「カマキリの脊椎連結構造と、人間の神経節の反応速度を……んふふ、もっと溶け合え」
ミユキの頭蓋が解放され、露わになった脳内では、既に“寄生神経虫(パラサイト・ネウロワーム)”がうごめいていた。
「……うた……いたい……」
かすれた声が、彼女の唇から漏れた。
「そうだ、歌ってくれ。君の声帯には、増幅共鳴装置をつけてある。観客が血を流すほど、美しい歌になるぞ」
ドクトルは恍惚とした表情で、声帯を切開し、金属質の音叉状装置を埋め込んだ。その瞬間、声帯の一部が焼け焦げ、黒煙が立ち上る。
焼ける肉の匂い、沸騰する血液、崩壊する瞳孔。ミユキの脳波は暴走し、神経信号が手術台全体に伝播していく。
次の瞬間、彼女の背部から甲殻のような緑色の外骨格がせり出した。
カマキリを思わせる鋭利な前肢、複眼化した両目。その奥底には、かすかに“誰か”が見つめているような異様な光があった。
「……観客、は……どこ……?」
その声はまだミユキだった。
だが、ドクトルは狂気の笑みを浮かべて頷いた。
「これで完成だ。ゲロス、ルクシィア、そして君──L計画の傑作の系譜が、いま結実する。君は“舞台”に出ていい。さあ、幕を上げよう……」
この実験記録は、のちにネメシスの内部情報から漏洩した断片映像の一つである。
映像に映る彼女──カマリナ・エクリュは、まだ美しさの名残を保ちながら、静かな舞台の中央でこう呟いていた。
「お客さま……立たないでください……今から、“本番”です」
その直後、カメラが暗転する。
レンズに映った最後の光景は、嗤うドクトルの血塗れの手と、焼け焦げたマイクだった。
この怪物には“第二形態”が存在する。
普段は戦隊ヒーロー然とした美しい姿で、民衆の前に現れる。
だがリミッターが外れた瞬間──真の姿、雌のカマキリを模した凶悪な拷問体へと変貌する。
名はカマリナ・エクリュ。
彼女は、ドクトル・メディアスの意思と狂気が生み出し九頭が引き継つぐ、最後の“芸術”だった。
■
地下司令ブロック。セイガン本部でもっともアクセス制限の厳しいセクションに、レンとサクラは招集された。
薄暗い廊下を進む彼らの前で、電磁ロックが何重にも解除される音が重く響いた。
「……なんだよ、ここ。まるで監獄じゃねぇか」
レンが眉をひそめて呟くと、隣のサクラは口を引き結んだまま黙っていた。
最後のゲートが開いたとき、冷たい無機質な空間に、二つの人影が静かに立っていた。
一人は全身を艶のない漆黒の装甲で覆った長身の男。マスクの奥から、燃え尽きたような視線がレンたちを射抜く。
もう一人は、過剰なまでに鮮やかなショッキングピンクの戦闘スーツに身を包んだ少女。
その顔にはかつて見たことのある微笑が浮かんでいたが──目だけが、深い虚無をたたえていた。
「紹介しよう」
九頭ドクターが姿を現すと、ゆっくりと彼らの間に立った。
「こちらが“セイガン・漆黒(くろ)”こと《デモナス》。
そして“セイガン・ショッキングピンク”、コードネーム《カマリナ》だ」
「……は?」
レンが目を見開く。
サクラも、驚きに小さく息を呑んだ。
デモナスは沈黙したまま、わずかに視線を向ける。
一方のカマリナは、一歩だけ前へ進み、軽く頭を下げた。
「こんにちは。お久しぶり……かしら、サクラ先輩?」
その声に、サクラの手が震える。
どこかに“ミユキ”の面影があった。
だが──目の奥に宿るものは、人間のものではない。
「……何をしたんだ、こいつらに」
レンが九頭に詰め寄る。
「怪人だろ? お前がまた勝手に……!」
「勝手? フッ、勝手なのは君たちだよ」
九頭は平然と返した。
「ネメシスは変貌した。旧時代の戦術では勝てん。
ならばこちらも、“旧ヒーロー”では通用しない」
九頭は一歩踏み出し、スクリーンに映し出されるネメシスの現況を示す。
「《Ω-Zion計画》──それは新生ネメシスの胎動だ。
君たちレンとサクラに、そしてこのデモナスとカマリナを加えた《新・セイガン》がそれに抗う唯一の刃となる」
「……共闘しろってか。こいつらと?」
レンの声には警戒と怒りが滲んでいた。
だが──サクラは一歩、カマリナへ近づいた。
「……あなた、まだ……“ミユキ”の歌、覚えてる?」
カマリナは、かすかに微笑んだ。
「もちろん。“血の中に咲いた希望の旋律”──でしょ?」
サクラの目が潤む。
その横で、デモナスが重く口を開いた。
「……命令は従う。だが、俺たちに近づくな。
いつ“制御”が外れるかわからない」
その声には、どこか自嘲と恐れが混ざっていた。
レンは口を閉ざしたまま、彼らを見つめ──やがて、小さく頷いた。
「……共闘ってなら、俺たちも覚悟を決めるさ。
ただし、もし裏切るようなことがあったら……」
レンはゆっくりと腰のホルスターから武器を抜いた。
「容赦はしねぇからな、九頭」
「その時は喜んで《実験結果》として処理してくれたまえ」
九頭は笑った。
その笑みは、戦いの始まりではなく、新たな“戦隊”の幕開けを告げるものだった。
■
黒雀地帯──ネメシスの巨大拠点のひとつ。旧式怪人たちの補給拠点でもあるその施設に、突如として落雷のような轟音が響き渡った。
地面を這う煙、崩れる金属音。廃墟寸前の構造体に、ただひとつ、鮮烈な色彩が割り込む。
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背後には、爆音を伴って転送ポータルが開く。そこから現れたのは、桃色の装甲に身を包んだサクラ。そして──さらにふたり。
「セイガン・セイガン漆黒──デモナス、行く」
低い声と共に前に出たのは、黒き騎士のような佇まいの男。戦闘特化型強化兵士、デモナス。
その隣では、鮮やかなショッキングピンクのヒーロースーツが、まるで踊るように舞う。
「うふふ、ピンクは“かわいい”だけじゃないんだよ?」
それが、新ヒーロー──セイガン・ショッキングピンク、カマリナ。
四人のヒーローが揃った瞬間、拠点中枢に向けて攻撃が開始された。
「突入! 目標はネメシス中枢の制圧、ついでに“悪趣味な怪人ども”の掃除だ」
レンの号令と同時に、壁面が破砕される。サクラの超音波砲が貫通孔を開け、デモナスが無言で飛び込む。
「この程度で……拠点? お笑いだな」
デモナスの剣が光を引き、旧型怪人が悲鳴を上げる暇もなく両断された。
「ヒーローって、優しいと思ってた? 甘いよ」
カマリナは歌うように呟き、音響攻撃で敵の感覚器を麻痺させる。その隙にサクラの銃撃が火を吹く。
「撃破確認。次!」
中枢に向かう通路は、既に怪人の死骸で埋まりつつあった。
「レン先輩、ここの掃除って……ちょっと刺激強すぎじゃない?」
「ま、掃除は派手にやらないとね。カマリナ、楽しんでるか?」
「うん、もう少し壊したいな」
無邪気に笑うカマリナの瞳は、どこか“別の何か”を感じさせた。
そして、制御中枢が見えたその瞬間。
「突入──終わらせるぞ」
デモナスの鋭い声と同時に、最後の扉が吹き飛ぶ。
そこにいたのは、ネメシスの旧式幹部怪人数体。だが戦闘は一瞬だった。
サクラが爆弾を投げ、レンが突撃し、カマリナの音声が敵の脳に直接届く。
最後にはデモナスの一閃が、幹部ごと天井を割った。
「……完了。ネメシス、また一つ終わったな」
レンがため息交じりにヘルメットを外し、髪をかき上げる。
「でも……これはまだ前哨戦だよ。ネメシスはもっと奥深くに、腐った核を持ってる」
サクラの視線が、どこか遠くを見ていた。
「私たちはヒーローだ。でも、“戦い方”は選ばせてもらうよ」
カマリナがその小さな手を握ると、音が空気に震える。
彼女たちは、まだ第二形態にはなっていない。
だが──この時点で既に、ネメシスの旧式怪人は壊滅。
新セイガン、覚醒前夜の圧倒的な勝利だった。
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「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
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そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
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※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
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