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【第41話】『総帥は正義を裏切った──コードネーム:レヴェレーション』
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1947年7月、ニューメキシコ州ロズウェル近郊。
日が沈んだ砂漠は、夜になると急激に冷え込む。
その夜、米陸軍航空隊所属の中尉クレイン・マクガバンは、臨時任務として出動命令を受けていた。
「気象観測気球の墜落」という公式説明を受けた彼は、武装小隊を引き連れて現地に向かう。
だが、砂漠に散乱していたのは、どう見ても気球の破片ではなかった。
銀白色に鈍く光る合金。
幾何学模様の刻まれた断片。
そして、半ば地面に埋まった流線形の巨大構造物――まるで“生き物の器官”のように、有機的な膨らみを持った機体だった。
「……軍の試作機か? いや、違う。これは……」
クレインは部下に命じて周囲を警戒させ、自ら機体の傍へと歩み寄った。
そのときだ。砂の中で、何かが“もぞり”と動いた。
「隊長! 生体反応……いや、そいつ、生きてます!」
兵士の叫びに、彼は一瞬、躊躇した。
そこに横たわっていたのは、人ではなかった。
痩せた四肢、異常に大きな黒目、薄灰色の皮膚――それは、明らかに“地球上の生命”ではなかった。
だが、恐怖よりも先に訪れたのは、奇妙な感覚だった。
まるで頭の中を何かが撫でてくるような、柔らかく、そして異常に鋭い意識の侵入。
「──言葉は不要。私の声は、君の思考に届いている」
声ではなかった。
それは“思念”だった。直接、脳に流れ込んでくる膨大な情報と、問いかけ。
「私は敵ではない。滅びるのは、我々ではない。……君たちのほうだ」
「……なぜ俺に、こんな……!」
「君の精神が“開いていた”。だから、私の最後の“鍵”を託す」
その瞬間、クレインの脳内で、視界が“解放”された。
時空の歪み、光の波長、感情の震え――あらゆるものが“波”として視え始める。
兵士たちが恐れ、銃を構え、彼に叫ぶ声さえも、彼には“ゆがみ”と“共鳴”として伝わった。
そして、異星生命体は静かに目を閉じた。
「君は……フォース・カインドだ。第四種の証人。そして、伝承者だ」
その場に崩れ落ちるようにして、クレインは膝をついた。
――こうして彼は、“人類初の完全接触者”となった。
のちにこの事件は完全に隠蔽され、「気象観測気球の破損」として処理された。
関係者は転属、あるいは失踪。報道も一切許されなかった。
だが、クレインの中には“確かに何かが宿った”。
心の声を読む力。
未来の断片を垣間見る直感。
空間にひそむ“異常”を察知する知覚。
彼は“兵士”でありながら、“観察者”へと進化していた。
それが、彼の後の選択に大きな影を落とすことになる。
正義とは何か。
支配とは何か。
そして、誰が“人類”なのか。
■
息が詰まるような静寂だった。
ネバダ州の乾いた風が、廃屋の窓から吹き抜ける。
夕暮れ、監視任務。味方は遠方、無線は沈黙。
クレインはひとり、拳銃の手入れをしながら考えていた。
数日前のこと。あの夜のこと。ロズウェルの夜に、あの“存在”と接触してから、彼の世界は少しずつ、確実に変わり始めていた。
音が歪む。
誰かの声が、遠くから届くような感覚。
時折、目に映る景色が波打つように揺らぐ。
(幻覚か? それとも――)
カチ、と安全装置を戻しながら、彼はふと気づく。
向かいの部屋に、人影があった。
だが、その“存在”が“敵”か“味方”か――
その前に、“波”が視えた。
空気が震える。
怒りのような。焦りのような。赤黒く滲む“衝動”が、まるで煙のように部屋から漂ってくる。
(あれは……人殺しの前の波だ)
クレインはゆっくり立ち上がった。銃を構えず、深く呼吸を整える。
脳内に、熱が集まる感覚。
何かが“共鳴”する――相手の思考が、感情が、“波”として脳に触れてくる。
――「見つかったら、やるしかねぇ……逃げられない、もう……」
――「どうせ、俺の命なんて……」
(これは……声じゃない。思念か)
理解ではない。
同情でもない。
ただ、“そのまま”を感じ取った。
クレインはゆっくりと扉の前に立ち、低く言った。
「そこにいるのは、兵士か。それとも……誰かを恐れて逃げてきた人間か?」
返事はない。だが、“波”が変化した。
濁った怒りの中に、小さな“怯え”の波が混じる。
「俺は撃たない。……撃たせるな」
静かな間。
やがて、扉が軋む音とともにゆっくりと開いた。
中から出てきたのは、まだ少年のような顔をした若い男だった。
軍服の名残、擦り切れたブーツ。右手に握った拳銃は、力なく下がっていた。
「……どうして、わかったんだよ」
「感じた。お前の“波”がな」
男は理解できないといった顔をしたが、それ以上、何も言わなかった。
ただ銃をゆっくりと床に置き、両手を上げた。
クレインはその場に立ち尽くし、ようやく確信する。
(これは武器じゃない。だが、銃より速く届く)
この力が、何なのかは分からない。
だが少なくとも――“誰かの心”に、届くことはできる。
その夜、報告書には「未武装の逃亡者を確保」とだけ書かれた。
共鳴のことは、誰にも話さなかった。話せるものではなかった。
クレインは独りで知っていた。
この力は、戦場に向かう者ではなく、戦場の外で誰かを救おうとする者のためにこそある。
それは、銃弾ではない“正義”の波。
彼が初めて掴んだ、“人間の叫びに触れる力”だった。
──あの日から、すべてが変わった。
ロズウェルの夜。墜落現場の砂塵の中で、クレイン・マクガバンは“人ではない何か”と出会い、共鳴した。
異星生命体の思念が、彼の脳に触れ、波を刻み込んだ。
そして目を覚ましたときには、もう“何かが視えていた”。
人の声は震え、感情は波となって流れ込んでくる。
空間のひずみや歪み、言葉ではない“情報”が、思考を超えて脳内に降り注ぐ。
それは祝福ではなかった。むしろ、呪いに近いものだった。
軍は、あの事件を「気象観測気球の破損」と発表した。
現場にいた者たちには、徹底した情報統制が敷かれた。
──だが、それだけでは終わらなかった。
任務後、クレインのまわりから“人”が消えていった。
あの夜、共に異星体を目撃した兵士。
残骸を回収した工兵。
通信記録を一瞬だけ覗いた通信士。
彼らは数日から数週間のうちに、病死、事故死、行方不明という形で“処理”された。
最初は偶然かと思った。だが、四人目が“家ごと爆破された”時点で、クレインは理解した。
──これは口封じだ。
彼も何度か“事故”に見せかけて殺されそうになった。
車のブレーキが効かなかった夜、ホテルのガス管が漏れていた朝、任務中に“誤って”撃たれた狙撃。
だが、彼は生き残った。
“波”が教えてくれた。
銃口が自分を狙う数秒前の空気の震え。
殺気が肌にまとわりつく感覚。
空間が歪むほどの“死意”が、彼には視えていた。
彼はそのたび、ぎりぎりで身をかわし、生き延びた。
次第に、政府は彼を“消す”ことをあきらめた。
その代わりに、彼のもとへ特殊任務が届くようになった。
「機密回収」「異常個体の捕獲」「心理干渉対象の監視」。
最初は任務内容さえ意味がわからなかった。
だが、あるとき上官がこう言った。
「君の“能力”は、我々の持ち得ない戦力だ。コードネームを与える。……レヴェレーション(啓示)と呼ぼう」
それが彼の新たな名だった。
名前は消され、本籍は偽装され、戸籍すら存在しない。
彼は“記録上存在しない兵士”として、裏任務を渡り歩くようになった。
そのころには、共鳴能力はさらに深化していた。
嘘は“濁った波”となって視えた。
殺意は“赤黒く渦巻く光”として脳内に入り込んできた。
そして、あるときは“未来の断片”を直感として捉えるようにもなった。
人が死ぬ直前の“空気”の違和感。
何かが起こる数秒前の、“空間の呼吸”。
それは科学でも直感でもない、“共鳴”だった。
それが、正義だったのか。
それとも、ただ軍に利用されるだけの“機能”だったのか。
クレインはまだ分からなかった。
ただひとつ、確かなのは――
あの日、自分は“人ではないもの”と繋がり、人であることの意味を問われたのだ。
彼はその答えを、今も探している。
政府に与えられた名前、レヴェレーション。
だが彼にとってそれは、“選ばれし者”ではなく、“知ってしまった者”への烙印にすぎなかった。
■
かつて俺は、"消される側"だった。
いまは違う。
この手で、歴史そのものを“消す側”になっていた。
あれから幾年が経ったのか、もはや正確な記録もない。
任務は淡々と与えられた。形式上は機密文書の護送、失踪者の追跡、国家機能に関わる施設の防衛。
だが実態は、世界の“裏”にあるものを整える、調律者のような仕事だった。
1963年――
ケネディの名が消された日も、俺はそこにいた。
「非協力的だ。誰かが引き金を引く」
そう命じられたのは俺ではなかったが、照準と角度の“歪み”を調整したのは俺だった。
それは銃撃ではない。波の“構造”だった。
1969年――
アポロ計画。
人類が月面に立ったことになっているあの日、俺は地下深くのバンカーにいた。
月ではなく、エリア51のスタジオにて、“現実の代替”が撮影されていた。
それは“信仰”の演出だった。
俺の役目は、“疑問”という波をすべて消すこと。
思考を整え、真実の上に嘘をかぶせること。
気づけば、エリア51の創設プロジェクトそのものにも俺は関わっていた。
異星から来た破片、死にかけた生物、時間の流れが乱れる“穴”。
そして――俺自身も。
ある日、能力が進化した。
正確に言えば、壊れた。
時間の流れが“掴める”ようになった。
波が完全に静止したとき、俺はひとりだけ、動いていた。
音が止まり、色が消え、風が凍る中、俺だけが歩いた。
時間を止めるというより、時間の“枠外”に立つ感覚。
人間の存在座標から、一歩だけズレた場所に入るようなものだった。
その頃からだった。
誰でもない“何か”の声が、時折、囁くようになった。
──お前は、世界の支配者になれる。
──すべての波を止め、すべての真実を塗り替えろ。
──共鳴とは支配だ。選ばれた者だけが持つ力だ。
俺は、それを黙って聞いていた。
そんなある日、命令系統の上層が変わった。
もはや政府ですらなかった。
国の上に立つ、名前すら持たぬ“連中”――軍産複合体。
武器と情報と資金で世界を回す者たち。
マスコミを握り、大統領を操り、国家を“運営”する裏の組織だった。
俺は、その最深部にまで関わった。
否、連中は俺を"使おうとした"のだ。
共鳴能力を、予知と暗殺と群衆支配に応用するために。
そして創設されたのが――「セイガン」だった。
ヒーローという皮をかぶった兵器管理機関。
連中が“正義”という言葉を盾に、民衆を導き、戦争を演出するための装置。
俺は……耐えられなかった。
もはや“能力”ではなく、“意志”が汚される。
共鳴の本質は理解だ。支配ではない。
あの夜に出会った異星の存在は、そんなことのために力を渡したわけではなかった。
だから、俺はすべてを置いて去った。
名前も、地位も、記録も。
“レヴェレーション”というコードネームすら、今は誰も使わない。
今も連中はセイガンを動かし、次なる兵器を作り出している。
だがその裏で、俺は違う時の淵に身を置いている。
波を読む者として、静かにすべてを視ている。
この世界がどこへ向かうのか。
次に共鳴すべき声が、どこから響いてくるのか。
まだ終わってはいない。
“彼ら”が知らない波が、今もどこかで揺れている。
その答えを求めて、クレインは後に名を捨て、姿を隠し、“総帥”となる。
すべては――あのロズウェルの夜から始まったのだった。
日が沈んだ砂漠は、夜になると急激に冷え込む。
その夜、米陸軍航空隊所属の中尉クレイン・マクガバンは、臨時任務として出動命令を受けていた。
「気象観測気球の墜落」という公式説明を受けた彼は、武装小隊を引き連れて現地に向かう。
だが、砂漠に散乱していたのは、どう見ても気球の破片ではなかった。
銀白色に鈍く光る合金。
幾何学模様の刻まれた断片。
そして、半ば地面に埋まった流線形の巨大構造物――まるで“生き物の器官”のように、有機的な膨らみを持った機体だった。
「……軍の試作機か? いや、違う。これは……」
クレインは部下に命じて周囲を警戒させ、自ら機体の傍へと歩み寄った。
そのときだ。砂の中で、何かが“もぞり”と動いた。
「隊長! 生体反応……いや、そいつ、生きてます!」
兵士の叫びに、彼は一瞬、躊躇した。
そこに横たわっていたのは、人ではなかった。
痩せた四肢、異常に大きな黒目、薄灰色の皮膚――それは、明らかに“地球上の生命”ではなかった。
だが、恐怖よりも先に訪れたのは、奇妙な感覚だった。
まるで頭の中を何かが撫でてくるような、柔らかく、そして異常に鋭い意識の侵入。
「──言葉は不要。私の声は、君の思考に届いている」
声ではなかった。
それは“思念”だった。直接、脳に流れ込んでくる膨大な情報と、問いかけ。
「私は敵ではない。滅びるのは、我々ではない。……君たちのほうだ」
「……なぜ俺に、こんな……!」
「君の精神が“開いていた”。だから、私の最後の“鍵”を託す」
その瞬間、クレインの脳内で、視界が“解放”された。
時空の歪み、光の波長、感情の震え――あらゆるものが“波”として視え始める。
兵士たちが恐れ、銃を構え、彼に叫ぶ声さえも、彼には“ゆがみ”と“共鳴”として伝わった。
そして、異星生命体は静かに目を閉じた。
「君は……フォース・カインドだ。第四種の証人。そして、伝承者だ」
その場に崩れ落ちるようにして、クレインは膝をついた。
――こうして彼は、“人類初の完全接触者”となった。
のちにこの事件は完全に隠蔽され、「気象観測気球の破損」として処理された。
関係者は転属、あるいは失踪。報道も一切許されなかった。
だが、クレインの中には“確かに何かが宿った”。
心の声を読む力。
未来の断片を垣間見る直感。
空間にひそむ“異常”を察知する知覚。
彼は“兵士”でありながら、“観察者”へと進化していた。
それが、彼の後の選択に大きな影を落とすことになる。
正義とは何か。
支配とは何か。
そして、誰が“人類”なのか。
■
息が詰まるような静寂だった。
ネバダ州の乾いた風が、廃屋の窓から吹き抜ける。
夕暮れ、監視任務。味方は遠方、無線は沈黙。
クレインはひとり、拳銃の手入れをしながら考えていた。
数日前のこと。あの夜のこと。ロズウェルの夜に、あの“存在”と接触してから、彼の世界は少しずつ、確実に変わり始めていた。
音が歪む。
誰かの声が、遠くから届くような感覚。
時折、目に映る景色が波打つように揺らぐ。
(幻覚か? それとも――)
カチ、と安全装置を戻しながら、彼はふと気づく。
向かいの部屋に、人影があった。
だが、その“存在”が“敵”か“味方”か――
その前に、“波”が視えた。
空気が震える。
怒りのような。焦りのような。赤黒く滲む“衝動”が、まるで煙のように部屋から漂ってくる。
(あれは……人殺しの前の波だ)
クレインはゆっくり立ち上がった。銃を構えず、深く呼吸を整える。
脳内に、熱が集まる感覚。
何かが“共鳴”する――相手の思考が、感情が、“波”として脳に触れてくる。
――「見つかったら、やるしかねぇ……逃げられない、もう……」
――「どうせ、俺の命なんて……」
(これは……声じゃない。思念か)
理解ではない。
同情でもない。
ただ、“そのまま”を感じ取った。
クレインはゆっくりと扉の前に立ち、低く言った。
「そこにいるのは、兵士か。それとも……誰かを恐れて逃げてきた人間か?」
返事はない。だが、“波”が変化した。
濁った怒りの中に、小さな“怯え”の波が混じる。
「俺は撃たない。……撃たせるな」
静かな間。
やがて、扉が軋む音とともにゆっくりと開いた。
中から出てきたのは、まだ少年のような顔をした若い男だった。
軍服の名残、擦り切れたブーツ。右手に握った拳銃は、力なく下がっていた。
「……どうして、わかったんだよ」
「感じた。お前の“波”がな」
男は理解できないといった顔をしたが、それ以上、何も言わなかった。
ただ銃をゆっくりと床に置き、両手を上げた。
クレインはその場に立ち尽くし、ようやく確信する。
(これは武器じゃない。だが、銃より速く届く)
この力が、何なのかは分からない。
だが少なくとも――“誰かの心”に、届くことはできる。
その夜、報告書には「未武装の逃亡者を確保」とだけ書かれた。
共鳴のことは、誰にも話さなかった。話せるものではなかった。
クレインは独りで知っていた。
この力は、戦場に向かう者ではなく、戦場の外で誰かを救おうとする者のためにこそある。
それは、銃弾ではない“正義”の波。
彼が初めて掴んだ、“人間の叫びに触れる力”だった。
──あの日から、すべてが変わった。
ロズウェルの夜。墜落現場の砂塵の中で、クレイン・マクガバンは“人ではない何か”と出会い、共鳴した。
異星生命体の思念が、彼の脳に触れ、波を刻み込んだ。
そして目を覚ましたときには、もう“何かが視えていた”。
人の声は震え、感情は波となって流れ込んでくる。
空間のひずみや歪み、言葉ではない“情報”が、思考を超えて脳内に降り注ぐ。
それは祝福ではなかった。むしろ、呪いに近いものだった。
軍は、あの事件を「気象観測気球の破損」と発表した。
現場にいた者たちには、徹底した情報統制が敷かれた。
──だが、それだけでは終わらなかった。
任務後、クレインのまわりから“人”が消えていった。
あの夜、共に異星体を目撃した兵士。
残骸を回収した工兵。
通信記録を一瞬だけ覗いた通信士。
彼らは数日から数週間のうちに、病死、事故死、行方不明という形で“処理”された。
最初は偶然かと思った。だが、四人目が“家ごと爆破された”時点で、クレインは理解した。
──これは口封じだ。
彼も何度か“事故”に見せかけて殺されそうになった。
車のブレーキが効かなかった夜、ホテルのガス管が漏れていた朝、任務中に“誤って”撃たれた狙撃。
だが、彼は生き残った。
“波”が教えてくれた。
銃口が自分を狙う数秒前の空気の震え。
殺気が肌にまとわりつく感覚。
空間が歪むほどの“死意”が、彼には視えていた。
彼はそのたび、ぎりぎりで身をかわし、生き延びた。
次第に、政府は彼を“消す”ことをあきらめた。
その代わりに、彼のもとへ特殊任務が届くようになった。
「機密回収」「異常個体の捕獲」「心理干渉対象の監視」。
最初は任務内容さえ意味がわからなかった。
だが、あるとき上官がこう言った。
「君の“能力”は、我々の持ち得ない戦力だ。コードネームを与える。……レヴェレーション(啓示)と呼ぼう」
それが彼の新たな名だった。
名前は消され、本籍は偽装され、戸籍すら存在しない。
彼は“記録上存在しない兵士”として、裏任務を渡り歩くようになった。
そのころには、共鳴能力はさらに深化していた。
嘘は“濁った波”となって視えた。
殺意は“赤黒く渦巻く光”として脳内に入り込んできた。
そして、あるときは“未来の断片”を直感として捉えるようにもなった。
人が死ぬ直前の“空気”の違和感。
何かが起こる数秒前の、“空間の呼吸”。
それは科学でも直感でもない、“共鳴”だった。
それが、正義だったのか。
それとも、ただ軍に利用されるだけの“機能”だったのか。
クレインはまだ分からなかった。
ただひとつ、確かなのは――
あの日、自分は“人ではないもの”と繋がり、人であることの意味を問われたのだ。
彼はその答えを、今も探している。
政府に与えられた名前、レヴェレーション。
だが彼にとってそれは、“選ばれし者”ではなく、“知ってしまった者”への烙印にすぎなかった。
■
かつて俺は、"消される側"だった。
いまは違う。
この手で、歴史そのものを“消す側”になっていた。
あれから幾年が経ったのか、もはや正確な記録もない。
任務は淡々と与えられた。形式上は機密文書の護送、失踪者の追跡、国家機能に関わる施設の防衛。
だが実態は、世界の“裏”にあるものを整える、調律者のような仕事だった。
1963年――
ケネディの名が消された日も、俺はそこにいた。
「非協力的だ。誰かが引き金を引く」
そう命じられたのは俺ではなかったが、照準と角度の“歪み”を調整したのは俺だった。
それは銃撃ではない。波の“構造”だった。
1969年――
アポロ計画。
人類が月面に立ったことになっているあの日、俺は地下深くのバンカーにいた。
月ではなく、エリア51のスタジオにて、“現実の代替”が撮影されていた。
それは“信仰”の演出だった。
俺の役目は、“疑問”という波をすべて消すこと。
思考を整え、真実の上に嘘をかぶせること。
気づけば、エリア51の創設プロジェクトそのものにも俺は関わっていた。
異星から来た破片、死にかけた生物、時間の流れが乱れる“穴”。
そして――俺自身も。
ある日、能力が進化した。
正確に言えば、壊れた。
時間の流れが“掴める”ようになった。
波が完全に静止したとき、俺はひとりだけ、動いていた。
音が止まり、色が消え、風が凍る中、俺だけが歩いた。
時間を止めるというより、時間の“枠外”に立つ感覚。
人間の存在座標から、一歩だけズレた場所に入るようなものだった。
その頃からだった。
誰でもない“何か”の声が、時折、囁くようになった。
──お前は、世界の支配者になれる。
──すべての波を止め、すべての真実を塗り替えろ。
──共鳴とは支配だ。選ばれた者だけが持つ力だ。
俺は、それを黙って聞いていた。
そんなある日、命令系統の上層が変わった。
もはや政府ですらなかった。
国の上に立つ、名前すら持たぬ“連中”――軍産複合体。
武器と情報と資金で世界を回す者たち。
マスコミを握り、大統領を操り、国家を“運営”する裏の組織だった。
俺は、その最深部にまで関わった。
否、連中は俺を"使おうとした"のだ。
共鳴能力を、予知と暗殺と群衆支配に応用するために。
そして創設されたのが――「セイガン」だった。
ヒーローという皮をかぶった兵器管理機関。
連中が“正義”という言葉を盾に、民衆を導き、戦争を演出するための装置。
俺は……耐えられなかった。
もはや“能力”ではなく、“意志”が汚される。
共鳴の本質は理解だ。支配ではない。
あの夜に出会った異星の存在は、そんなことのために力を渡したわけではなかった。
だから、俺はすべてを置いて去った。
名前も、地位も、記録も。
“レヴェレーション”というコードネームすら、今は誰も使わない。
今も連中はセイガンを動かし、次なる兵器を作り出している。
だがその裏で、俺は違う時の淵に身を置いている。
波を読む者として、静かにすべてを視ている。
この世界がどこへ向かうのか。
次に共鳴すべき声が、どこから響いてくるのか。
まだ終わってはいない。
“彼ら”が知らない波が、今もどこかで揺れている。
その答えを求めて、クレインは後に名を捨て、姿を隠し、“総帥”となる。
すべては――あのロズウェルの夜から始まったのだった。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
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しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
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※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
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【原題】
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