ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚

第十三話 しあわせな妖精

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 ある時、一人の女神の光から天使が生まれた。

真っ白な髪に小さな身体。その天使はあたたかい光の中から出てきた。幼女はおぼつかない動きで女神に近づき満面の笑みで女神を見上げる。

「あぁぅ」

 天使の笑み。女神はその笑みを目に焼きつけた。
 そして何も言うことなくその場から立ち去った。

「あぅぅ····」

 少女は手を伸ばすが届かない。理由もなくその人物に触れたかった。
 だが生まれたばかりのその少女には目の前の女神を引き止める術など持ち合わせてはいなかったのだ。

「愛してる······パール」

 まだ意味すら分からないはずが、何故かその言葉を聞いた幼女の目には涙があふれていた。


 ************************************


「パール様、おはようございます」

「おはよ、ミーナ」

 天使パールの友達は、ミーナという身の回りのお世話をしてくれる彼女ただ一人であった。天使に生まれたからといって初めから何もかもができるというわけではない。言語の習得から魔法の使い方など、その他様々なことを全て彼女が教えてくれたのだ。

 だがパールには一つ心配していることがあった。ミーナ以外、自分が話しかけた誰もが全く相手をしてくれず、ただ冷たい目であしらわれるのだ。パールはそれが悲しかった。

「ねえミーナ。どうしてみんなしゃべってくれないの?」

「みんなパール様があまりにもかわいいらしいので嫉妬してらっしゃるんですよ」

 そう聞いても、いつもミーナは優しい笑顔で同じことを言う。だがパールにはミーナがいればそれで十分だった。悲しくてもミーナがつくる料理はいつも美味しくて食べていて幸せになる。悲しくてもミーナはいつも頭を撫でながら抱きしめて一緒に眠ってくれる。

 天使の住む地は地上から遥か上空に存在し天界と呼ばれる。

 ある日、パールはひとりで道を歩いていた。いつものように向けられるのは周りからの冷たい視線。だがもう気にならかった。その視線もミーナのことを考えれば耐えられた。

 だがその時一人の青年がパールの前でピタリと足を止める。
 青年の顔には苛立ちが見え、パールの前に立ってはるか上から蔑むようにその顔を見下ろした。

 パールにとってこんな状況は初めてだった。

「お前のせいでッ·····」

 誰かに話しかけることはあるがミーナ以外に話しかけられることなどない。そのため少し緊張した。
 そして感じたのは怒り。だがなぜその青年が自分に怒っているのか、それが全く分からずにそのまま通り過ぎようとする。

 しかし青年はそのまま過ぎ去ろうとするパールの右手を強く掴んだ。

「や、やめて」

 掴まれた右手に痛みを感じ言うが青年は何も言わず周りにいた者も無視する。

「やめなさい!!」

 パールの細い腕をさらに強く握りしめようとした瞬間、青年は鈍い音とともに吹っ飛ばされ勢いでパールから手が離れた。

「ミーナ!」

 安心した顔でミーナに抱きつくと強く抱きしめ返して頭を撫でてくれた。

「大丈夫ですか、パール様ッ」

 ミーナに蹴り飛ばされてこちらを睨んでくる青年を睨み返す。

「あんただってそうだろ····偽善者がッ」

 青年はそう言い残しその場を離れた。あたりには多くの天使がいたがこんな時は誰もそれ以上関わろうとはしない。そのため二人はそのまま家に帰ることにしたのだ。

「まあ、こんなに赤くしてかわいそうに」

 先ほどつかまれて赤くなった腕の部分にミーナは治癒魔法をかけてくれた。
 温かく心地が良い。酷いことをされた後でもミーナがかけてくれた魔法はすぐに心を癒した。

「わたしはもう大丈夫。ミーナは大丈夫?」

「ええ、私はあの男を蹴り飛ばしただけですから」

 ミーナはそう言って笑った。いつものようにミーナのあたたかくて美味しいご飯を食べた後、二人でベットの上に座る。ミーナはいつものように髪の毛を優しくとかしながら喋りかけてきてくれた。

「パール様は幸せな妖精のお話はご存知ですか?」

「しあわせな妖精? しらない」

「では、今日の夜はこのお話を······」

 夜寝る時にミーナはよく話をしてくれる。
 背中を優しく撫でながら心地のいい声で話してくれるその時間が大好きだった。
 そしてミーナはいつものようにお話を始めてくれた。


 ************************************


 昔々あるところに、綺麗な羽を持つ人間嫌いの妖精がいました。
 ひとりぼっちのその妖精は小さな森の中に住んでいました。

 そんなある日のことです。その森に一人の少年が入ってきました。
 妖精はびっくりしましたがすぐに話しかけたりはしません。
 いつもなら人間が嫌いな妖精はイタズラをします。でもその時は何もしませんでした。 

 その少年は来る日も来る日も一人で森に入ってきては、森のことを考えて適度な量の食材や木材、そして薬草をとって帰っていきます。人間嫌いな妖精でしたが、いつしかその少年が森に来てその姿を見ることが面白くなっていました。そして妖精は一度少年に話しかけてみることにしたのです。

「ねえねえそこの人間」

 その言葉を聞いて少年はあたりを見回すと妖精を見つけました。

「もしかして、妖精さんですか?」

「そうだよ。人間が嫌いな妖精さ。でも君は普通の人間と違うみたいだね。食材や木材はそんなに取らないのに、どうして薬草だけそんなに必死にいつも探しているんだい?」

「僕のお母さんが病気なんだ。それで薬草がないと死んじゃうから」

 少年の言葉に妖精は少し驚きました。こんなにも優しい人間がいるのだと。
 生まれて初めてそう感じたのです。

 それからというもの少年は毎日森に訪れて妖精とお話をしました。今までずっと一人だった妖精はそれがとても嬉しくて、いつしか妖精にとってその少年は大切な存在になっていました。

 しかしある日、いつものように森に来て笑顔を見せる少年の顔は少し暗かったのです。
 それを見た妖精は心がモヤモヤしました。人間が嫌いなはずの妖精は何故か少年の暗い顔を見るのが悲しかったのです。

「どうしたんだい」

 そう聞くと、少年は下を俯いてゆっくりと口を開きました。

「あのね、お母さんは薬草が効いているっていつも笑顔で言うんだけど、最近体調がさらに悪くなっているみたいで。きっと僕を心配させないようにそう言ってるだけなんだ。僕、お母さんに死んでほしくないよ。ずっと生きててほしい」

 少年の話を聞き妖精はさらに悲しい気持ちになりました。今までずっと一人だった妖精にとって少年はもうかけがえのない存在になっていたのです。だから妖精は、少年が悲しむのは耐えられませんでした。

 肩を落として帰る少年の姿を見て妖精はあることを決心したのです。

 翌日、少年は満面の笑みで森の妖精に会いにきました。
 少年の母親は今日の朝になって目が覚めるとすっかり元気になっていたのです。
 少年はそれが嬉しくて嬉しくて妖精の姿を必死に探します。

 けれどももう、そこに妖精はいませんでした
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