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ボーンネルの開国譚
第十四話 やっぱり、大好き
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ミーナの話を聞き終えた頃、なぜか胸がいっぱいで涙が溢れていた。
「どうしてしあわせな妖精さんなの?」
パールは目に涙を浮かべながらそう聞いた。
「それはですね、大切な人を笑顔にできたからですよ」
「大切な人?」
「私にとっては、パール様がその大切な人です。だからパール様、私はあなたを笑顔にするためなら悪魔にだってなりますよ」
悪魔と対をなす天使にとって、その言葉はひどく重たい言葉だった。だがミーナが言ってくれたその一言はまわりから相手にされず悲しい思いをしてきたパールにとって言葉にならないほど嬉しいものだったのだ。
「でも悪魔はだめ。 だってミーナはわたしの大切」
ミーナはとても嬉しそうにして少し照れていた。
「でもパール様はたまに自分の心の中に天使と悪魔が出てきませんか?」
「うん、悪魔イジワル。天使やさしい。でも迷っちゃう」
「はい。確かに心の中で善悪を考えたときどっちが勝つかはわかりません。でも天使が勝った分、その人は成長し、優しくなります。逆に悪魔が勝った分、人はたくさん失敗して経験を積みます。だから私は悪魔が完全に悪いとは思いません」
「じゃあ私もそう思う」
話が終わると一緒にベッドに寝転んで二人で抱き合って眠りについた。
************************************
次の日、ミーナに連れられて天界の大きな広場に魔法の練習をしにいった。
「今日はなんの魔法を教えてくれるの?」
「そうですねえ······実はパール様の魔力は他の天使に比べてもとても大きいんです。だから今日は魔法を上手く制御する方法をお教えします」
パールの魔力は通常の天使の持つ魔力とは比べ物にならないほどであり、それどころかほとんどの女神の魔力をも超えていたのだ。
「わかった」
ミーナはいつにも増して真剣な顔でパールに魔力操作を教えた。
「パール様にとっては魔力操作が一番大事ですから、頑張りましょうね」
「うん!!」
広場で引き続き魔力操作の練習をしている途中、側を通った天使たちは口々に陰口を言っているようだった。
「あの天使か······あいつだけ」
「楽しそうにしやがって······」
パールは周りに自分の悪口を言われていることは知らなかったが、ミーナだけがパールをかわいそうな目で見ていた。時折声が聞こえないように場所を移動させたりあやすふりをして耳を塞いだりする。そのためパールにとっては幸せなミーナとの時間を過ごせていた。
「どうしたの? ミーナ」
「いいえ、なんでもありませ······」
ミーナが笑顔でそう笑いかけた時だった。真っ白な光がパールの頬をかすめる。
「······えっ」
何が起こったのかが分からなかった。
ただ目の前を見ると先程まで笑顔で話しかけてくれていたミーナが血を流して倒れている。
「ミーナッ!!」
昨日ミーナによって蹴り飛ばされた青年の天使がパールを殺そうと攻撃を仕掛けていたのだ。
ミーナの呼吸は小さくなっていく中パールは何も出来ず必死に肩を揺らす。
しかし周りにいてその光景を見ていた天使たちは誰一人としてミーナ助けようとはしなかった。
「ミーナ! 回復魔法教えて、すぐに元気にするから!!」
「に······げて」
パールにはなぜミーナがそんなことを言うのかがわからなかった。
ただ助けたい、その一心だった。
涙で目に映るミーナの顔がぼやける中、何度もその名前を叫んだ。
「いやぁだッ! どこにも行かないで!! 先に······行かないで······ミーナがいなくなったら····わたし独りになる」
「っ———」
ミーナの目から堰を切ったように涙が溢れ出た。
(独りになる····そうだ。パール様は私がいなくなれば独りになる。私がいなくなれば誰がご飯を作ってあげるの。私がいなくなれば誰が寝かせてあげるの。誰がパール様を守ってあげられるの)
目の前にいるミーナの呼吸は弱くなっていく。
それが耐えられずパールは一気に自分の手に魔力を込めた。
「いけ······ませんっ! にげ······」
涙を浮かべるミーナは焦ったように、それでいてとても悲しそうにパールを見つめ言葉を発しようとする。
だが、意識が薄れ上手く言葉がでない。喉に必死に力を込めれば込めるほど、意識は薄れていく。
そしてミーナの薄れゆく意識の中を一瞬にしてある気持ちが埋め尽くしていった。
(パール様。初め私はあなたのことが嫌いでした。だって、あなたのせいであの方は死んでしまうのだから。あなたの代わりにあの方は呪いにかかってしまったのだから。だけど····どうしてなんですか。どうしてあなたは私の料理をあんなにも美味しそうに食べてくれるんですか。どうしてあなたは私を頼ってくれるんですか。どうして······私を『大切』と言ってくれるんですか。······どうして私はあなたのことが······)
「泣かないで······パール様」
ミーナは今にも消えそうな声でそう言った。
その言葉を聞いて、パールは涙を必死に堪えた。
「もう泣かない。だから······死なないで」
(もっと色々なことを教えてあげたいっ。もっとあの可愛いらしい寝顔を見ていたい。もっといっぱいの料理を作ってあげたい。もっと······生きたい、ごめんなさい。私はあなたを幸せにしてあげられなかった)
「パール······様」
「ミーナっ」
「そんな·······悲しい顔を、しないで。笑って」
「うん·····笑う。 だからミーナも、これからも一緒にッ!」
目に大粒の涙を含んだまま、パールはくしゃくしゃの笑顔でそう言った。
「よかった······私も、妖精さんになれました」
(間違ってなんかいませんでした。やっぱりあなたが····大好きです)
次の瞬間、広場は崩れ落ちパールは下界に落ちていった。
「どうしてしあわせな妖精さんなの?」
パールは目に涙を浮かべながらそう聞いた。
「それはですね、大切な人を笑顔にできたからですよ」
「大切な人?」
「私にとっては、パール様がその大切な人です。だからパール様、私はあなたを笑顔にするためなら悪魔にだってなりますよ」
悪魔と対をなす天使にとって、その言葉はひどく重たい言葉だった。だがミーナが言ってくれたその一言はまわりから相手にされず悲しい思いをしてきたパールにとって言葉にならないほど嬉しいものだったのだ。
「でも悪魔はだめ。 だってミーナはわたしの大切」
ミーナはとても嬉しそうにして少し照れていた。
「でもパール様はたまに自分の心の中に天使と悪魔が出てきませんか?」
「うん、悪魔イジワル。天使やさしい。でも迷っちゃう」
「はい。確かに心の中で善悪を考えたときどっちが勝つかはわかりません。でも天使が勝った分、その人は成長し、優しくなります。逆に悪魔が勝った分、人はたくさん失敗して経験を積みます。だから私は悪魔が完全に悪いとは思いません」
「じゃあ私もそう思う」
話が終わると一緒にベッドに寝転んで二人で抱き合って眠りについた。
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次の日、ミーナに連れられて天界の大きな広場に魔法の練習をしにいった。
「今日はなんの魔法を教えてくれるの?」
「そうですねえ······実はパール様の魔力は他の天使に比べてもとても大きいんです。だから今日は魔法を上手く制御する方法をお教えします」
パールの魔力は通常の天使の持つ魔力とは比べ物にならないほどであり、それどころかほとんどの女神の魔力をも超えていたのだ。
「わかった」
ミーナはいつにも増して真剣な顔でパールに魔力操作を教えた。
「パール様にとっては魔力操作が一番大事ですから、頑張りましょうね」
「うん!!」
広場で引き続き魔力操作の練習をしている途中、側を通った天使たちは口々に陰口を言っているようだった。
「あの天使か······あいつだけ」
「楽しそうにしやがって······」
パールは周りに自分の悪口を言われていることは知らなかったが、ミーナだけがパールをかわいそうな目で見ていた。時折声が聞こえないように場所を移動させたりあやすふりをして耳を塞いだりする。そのためパールにとっては幸せなミーナとの時間を過ごせていた。
「どうしたの? ミーナ」
「いいえ、なんでもありませ······」
ミーナが笑顔でそう笑いかけた時だった。真っ白な光がパールの頬をかすめる。
「······えっ」
何が起こったのかが分からなかった。
ただ目の前を見ると先程まで笑顔で話しかけてくれていたミーナが血を流して倒れている。
「ミーナッ!!」
昨日ミーナによって蹴り飛ばされた青年の天使がパールを殺そうと攻撃を仕掛けていたのだ。
ミーナの呼吸は小さくなっていく中パールは何も出来ず必死に肩を揺らす。
しかし周りにいてその光景を見ていた天使たちは誰一人としてミーナ助けようとはしなかった。
「ミーナ! 回復魔法教えて、すぐに元気にするから!!」
「に······げて」
パールにはなぜミーナがそんなことを言うのかがわからなかった。
ただ助けたい、その一心だった。
涙で目に映るミーナの顔がぼやける中、何度もその名前を叫んだ。
「いやぁだッ! どこにも行かないで!! 先に······行かないで······ミーナがいなくなったら····わたし独りになる」
「っ———」
ミーナの目から堰を切ったように涙が溢れ出た。
(独りになる····そうだ。パール様は私がいなくなれば独りになる。私がいなくなれば誰がご飯を作ってあげるの。私がいなくなれば誰が寝かせてあげるの。誰がパール様を守ってあげられるの)
目の前にいるミーナの呼吸は弱くなっていく。
それが耐えられずパールは一気に自分の手に魔力を込めた。
「いけ······ませんっ! にげ······」
涙を浮かべるミーナは焦ったように、それでいてとても悲しそうにパールを見つめ言葉を発しようとする。
だが、意識が薄れ上手く言葉がでない。喉に必死に力を込めれば込めるほど、意識は薄れていく。
そしてミーナの薄れゆく意識の中を一瞬にしてある気持ちが埋め尽くしていった。
(パール様。初め私はあなたのことが嫌いでした。だって、あなたのせいであの方は死んでしまうのだから。あなたの代わりにあの方は呪いにかかってしまったのだから。だけど····どうしてなんですか。どうしてあなたは私の料理をあんなにも美味しそうに食べてくれるんですか。どうしてあなたは私を頼ってくれるんですか。どうして······私を『大切』と言ってくれるんですか。······どうして私はあなたのことが······)
「泣かないで······パール様」
ミーナは今にも消えそうな声でそう言った。
その言葉を聞いて、パールは涙を必死に堪えた。
「もう泣かない。だから······死なないで」
(もっと色々なことを教えてあげたいっ。もっとあの可愛いらしい寝顔を見ていたい。もっといっぱいの料理を作ってあげたい。もっと······生きたい、ごめんなさい。私はあなたを幸せにしてあげられなかった)
「パール······様」
「ミーナっ」
「そんな·······悲しい顔を、しないで。笑って」
「うん·····笑う。 だからミーナも、これからも一緒にッ!」
目に大粒の涙を含んだまま、パールはくしゃくしゃの笑顔でそう言った。
「よかった······私も、妖精さんになれました」
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