ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚

第二十二話 鬼帝ゲルオード

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ゲルオードが現れると、先ほどまで俯いていた閻魁が空中に止まるゲルオードを見るために顔を上げた。
両者はしばらく黙って睨み合い、禍々しい妖力同士が干渉し合う。
今まさに世界一の妖力のぶつかり合いが繰り広げられていたのだ。
衝撃波を伴ったその睨み合いはしばらくすると止み両者が同時に妖力を引っ込めた。

「久しいな閻魁、妖力は衰えておらんようだな」

「フンッ—見たくない顔が現れおったな」

二人が睨み合っている最中、集落で用を終えたトキワたちが合流していた。

「おう、こっちは面白いことになってんな」

「あ、あはは。そっちは大丈夫だった?」

「ウン。大したことなカッタ」

後ろで余裕ぶっていたダロットはその会話を聞いて少し焦りを見せていた。

(チッ、アイツらもうやられやがったのか、それに鬼帝は反則だろうがよぉ)

「閻魁よ、悪いがもう一度眠ってもらうぞ」

ゲルオードは右手に妖力を溜め込み、左手には魔力を溜め込む。
右手の妖力を魔力に流し込むと二つは反発し合うことなく相乗効果を生み出した。
深い赤色の魔力。鬼帝の象徴とも言える魔力だった。

「閻魁の封印には周りに構っている余裕はない、すまんが巻き込むぞ」

言い放ったゲルオードは右手をゆっくりと前に突き出す。

大紅蓮ダイグレン

その動作とは対照的にゲルオードの真横から灼熱の光線が発射された。
ゲルオードの魔力が練られた超高速の光線。
威力は閻魁の妖力と魔力では防ぎようがないほどだった。

「ジン、おいで」

クレースはジンを覆うように抱きかかえ光線から距離を取った。
光線は辺りの温度を一瞬で上げ閻魁へと真っ直ぐ飛来する。

しかしその刹那、ゆっくりと目で光線の軌道を確認し怒りの表情を浮かべる者がいた。

逢魔時おうまがとき

「······ッ!!」

ゼグトスは一瞬悪魔のような姿になり、閻魁だけでなく辺り一体を根こそぎ削り取るようなその光線を最も簡単に掻き消したのだ。あまりに突然の出来事、その場にいたものは固まった。

「ジン様が火傷を負われれば、どうするおつもりで?」

丁寧な口調ながらも、ブチギレたようなゼグトスがゲルオードに眼を飛ばす。

(あの姿にあの技······)

その眼をじっくりと見ながらゲルオードは驚きと興奮を含んだ笑みを浮かべていた。

「あ、ありがとうゼグトス」

怒気を孕んでいたその顔はジンの声を聞いた途端笑顔に戻った。

「いえいえ! 私に礼など必要ありません」

「ゲルオード。お主、力が弱まったか」

閻魁は眼前で起こったことに驚いた様子を見せることもなかった。

「すまんかったな、少し昂っておったわ」

ゲルオードはジンたちの方を向き軽く謝罪すると再び閻魁の方を向き直した。

「だが安心しろ、お前は昔のように再び封印してやる」

「我はもう二度と封印される気はなどないッ」

閻魁は鉈を地面に突き刺すと強烈な魔力を自身の手に集中させる。

「あのような退屈な空間、我はもう耐えれんッ」

自身の魔力を圧縮し作り出した魔力弾に強力な妖力を流し込み、その上から強烈な回転を加える。
その回転により妖力はさらに魔力弾と融合し、威力を増加させた。

妖々慟哭ヨウヨウドウコク

放たれた魔力弾は妖力を帯びて、ゲルオードに近づくにつれて速度と回転数が増した。

「これ程とはな」

ゲルオードは鞘から巨大な太刀を抜いた。
鬼帝が所持する意思のある武器、阿修羅アシュラ——鬼帝を象徴する太刀である。

鬼帝門キテイモン

刀身に紅い妖力を纏わせ阿修羅を地面に突き刺した。
地面は応えるように揺れ地響きを立て始める。

「見るのは久しぶりだな」

地面からは凄まじい妖力を帯びた門が出現した。
その門は鬼族で鬼帝のみが使うことの許された最強の守護結界である。
閻魁が放った魔力弾は鬼帝門に到達する頃には初めの何十倍もの威力を誇っていた。

鬼帝門は周りに存在するありとあらゆるものの妖力と魔力を収縮させる。一方、妖々慟哭には鬼帝門の収縮速度とほぼ同速度で魔力、妖力が覆い被せられていた。互いの威力が拮抗し周囲の木々や魔物までもが吹き飛ばされていき、あたりには爆風が巻き起こる。

「まずいな、このままでは集落ごと消えかねん」

「あれほど警告したのですが」

ゼグトスは再び臨戦態勢に入った。

「待って、ゼグトス」

「はい!」

しかしそう言われすぐさま後ろに引き下がった。

「私が止める」

「ジン······」

クレースは止めようかと少し逡巡したが、何とか抑えた。
心配が半分、しかしジンに対する絶対的な信頼がそれをよしとしていた。

純白の髪をなびかせ、少女は剣を優しく握りしめる。
深紅の瞳は見るものを魅了し目の前の衝撃を打ち消すかのように周囲の視線を集めた。身にまとう神々しい雰囲気は辺りの恐ろしい状況を一瞬のうちに変えていく。
誰もが息を呑む中、少女は一人歩みを進めた。
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