ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
23 / 240
ボーンネルの開国譚

第二十三話 鬼対人

しおりを挟む
 
「クレース、とめないの?」

 優しく頭を撫でられた後ガルの背中に乗せられたパールはジンの後ろ姿を心配そうに見つめていた。

「安心しろ、あの子が止めると言ったんだ」

 クレースは何も心配した様子を見せることなく、ただ目の前の遠のいていく小さな背中を誇らしげに見つめていた。

 ジンの小さな体は目の前の爆風に飛ばされることなく嵐の中心に向かって近づいていき、徐々にその足は速くなっていく。そして閻魁は自分のすぐ近くを通るその小さな存在に気づき目を見開いた。

「お、おい。危ないぞ人間」

 閻魁の言葉を気にすることなく、さらに速度をあげたジンは鬼帝門まで辿り着いた。
 ゲルオードの視界にもその姿が目に入り、驚愕する。
 常人ならば身体が容易に消し飛ぶような距離まで来ていた。
 妖力を持っていない者がこの渦に入れば普段触れないような過剰な量の妖力に体は耐えきれなくなってしまうからだ。

 爆風が吹き荒れる中空に飛び上がると、ロードを強く握りしめる。
 空中においても姿勢はブレずその視界は眼前に広がる衝突を捉えた。

「いくよ、ロード」

 静かに呟き身体は下を向いた。

「ッ———!?」

 目の前の魔力が生ぬるく感じるほどの異常な魔力がジンの周りへと解放される。
 しかし魔力は広がることなくロードに集約され、すぐさまその刀身は白く輝き光沢を帯びた。
 ロードを握りしめたまま、ジンは鬼帝門の遥か上から急降下を始める。

(ありえんッ)

 二人の考えていることは同じだった。
 鬼帝と災厄、その両者がたった一人から目を離せないでいたのだ。

理のロウ歪曲ディストーション!」

 理のロウ歪曲ディストーション——それは対象物の次元を歪ませる空間系の魔法である。
 触れたものの理さえも歪めるその魔法をゲルオードは知っていた。
 だが使えるものを実際に目の当たりにしたことはなかったのだ。

 妖々慟哭の回転が一瞬で止まり、互いに干渉しあっていた魔力と妖力は刹那に霧散する。それに従いあたりに吹き荒れる暴風がすぐさま治まった。

「ハァッ!?」

 ジンのことを目で追っていた閻魁は呆然とし口をポカンと開けていた。
 閻魁に向かっていたゲルオードの注意は全てジンへと向かう。
 理由は明白、鬼族最強の守護結界である鬼帝門は跡形もなく消え去っていたのだ。

「お前が······やったのか?」

 目の前で見ていたはずが思わずそう聞いていた。
 鬼帝の驚く顔を見てクレースがニヤリと笑う。

「うん。でもこれ以上暴れられると被害が酷くなるからもうやめてくれない?」

「ハッハッハッ、これは驚いた。鬼帝門が破られたのは今まで一度しかなかったのだがな」

 しかしゲルオードは非常に好戦的な鬼である。そのため、今回の閻魁復活を感じ取ると他の用事を全て放り出して一番にここまで来たのだ。そのゲルオードが目の前の底が知れないような強者に興味を抱かないはずもない。
 笑みは次第に興奮に、その興奮は目の前にいる強者と戦いたいという単純な欲望へと変化していた。

 次の瞬間、ロードと阿修羅がぶつかり合い刀身が火花を散らしていた。

「アイツッ——」

 落ち着いていたはずのゼグトスは怒りを剥き出しにするが手を出そうとはしない。
 クレース達も同様。今手を出すことはジンを信用していないも同然であったからだ。

(これも止めるか、一体何者だ······)

 ゲルオードが答えを得る間もなく、視界には剣先が迫っていた。
 大地を抉るような踏み込み。警戒して見ていたその姿は視界から消え去った。

「ッ!!」

 次の瞬間、ゲルオードは背後から鬼気迫る気配を感じる。
 反射的に身体は動きその気配から距離を取った。
 小さな人族の少女と戦っている、その感覚は既にゲルオードの中から消え去っていた。

 すぐさま間合いまで詰め寄られ、ゲルオードは上半身をのけぞらせる。
 剣は目先を通り過ぎ風が髪の毛を揺らした。
 周りから見ればその光景はジンのいた場所からゲルオードに向かって稲光が走ったよう。

 刀身に凄まじい妖力を纏った炎を付与し薙ぎ払った。

(重いッ!!······)

 だが阿修羅は受け止められピタリと止まる。

「ッ———」

 細く小さな手から振りかざされたその一撃にゲルオードの手は痺れる。

(いつぶりだ、この興奮は)

 興奮を含んだ笑みは浮かべ、ゲルオードは一瞬で距離をとる。
 ゲルオードほどの練度があれば魔力、妖力を使い分け枯渇することはない。
 一瞬で両腕に妖力を込めた魔力弾を撃ち放った。

 常人には視認不可の速度。
 だが軽く顔を傾け最も簡単に魔力弾を避ける。
 ジンの持つ常人離れした反射神経。
 空を切った魔力弾は地面に被弾し砂埃が舞った。

 砂埃により生まれた死角からジンの背後をとり、ゲルオードは本気でジンの背中を突き刺しにいく。
 完全なる死角をついた一撃。しかし剣先が届く直前、ゲルオードの全身に寒気が走った。

「············」

 抵抗する気さえも起こらない見透かされたような紅い瞳。
 自身の放っていたものなど矮小に感じるほどの凄まじい覇気にゲルオードは死を感じた。

(今行けば、間違いなく)

「もうやめない? 私に提案があるんだけど」

 優しい少女の声にゲルオードは何故か安心していた。

「······ああ、それがいい」

 そして一人取り残されていた閻魁はようやく開いていた口を閉じてジンの方を向いた。

「うん、やっぱりそうしよ」

 確信したような顔。対して閻魁はどんな顔をしていいのか分からず固まっていた。

「閻魁、私の仲間にしていい?」

 その言葉に外から見ていたトキワやクレースは嬉しそうに笑い、ゼグトスはいまだ戦いの余韻に浸っていた。

「そうだな······こちらとしては一向に構わん。おそらく其方では閻魁など脅威でも何でもないだろう」

「うん、なら後は任せて」

 二人は閻魁の目の前で口約束を交わす。
 しかしその状況で当事者の閻魁はひとり困惑していた。

「ま、待て。我抜きで勝手に話を進めるな」

 話が終わったと一息ついていたゲルオードは「はぁ」っとため息をついた。

「今のお前ではこの者には勝てんぞ、もう一度封印されたくなければ言う通りにしろ」

 ゲルオードは辺りを見渡し小さく笑みを浮かべた。

(······この者たちはそこが知れん。正直戦い続ければ地面に倒れているのは我であったな。我が国の総力で戦っても正直勝てるかどうか分からん)

 ゲルオードの

「では、忙しいので帰るな」

 急に崩れた口調でゲルオードがそう言った。

「ま、待てゲルオード。我との決着がまだッ——

 閻魁の言葉をゲルオードは無視しジンの方を向いた。

「ジンと言ったか、ではこいつは任せたぞ。いずれお主とは同じ立場で語り合う気がする」

 ゲルオードはそう言い残して元いた方角へと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...