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ボーンネルの開国譚
第二十五話 初めての感情
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改めて、エルダンは集落にいた剛人族を連れてお礼を言いにきた。
「仲間の者から聞きました。ジン殿が鬼帝までも追い払い、この者たちを守ってくれたと」
エルダンはいつの間にかジンに対して敬語を使うようになっていた。
(ええ、別にゲルオードは自分から帰っただけなんだけど)
だが剛人族のものは皆ジンのことを羨望の眼差しで見てくる。
「まあな」
なぜかクレースは自分のことを言われたかのようにドヤ顔を見せてそう言った。
「いや、そのなんというか納得してもらった後は勝手に帰ったというか······」
「いいえ、あのまま戦っていればジン様が勝っておりました。見ていて本当に惚れ惚れ致しました」
そうゼグトスは横入れをしてきて突然エルダンに戦いの状況を細かく話す。
「そ、そうかそれはすごいな」
途中で遮るようにエルダンが話すと、ゼグトスは言い足りなさそうにするが、渋々後ろに下がった。
「そういえばどうして建国の件を知ってたの?」
「クレースから聞きまして、正直なところ初めは無理だと思いましたが、今ではもう難しいとも思いません」
エルダンはそう真っ直ぐな目で言った。
「ああ、今思い出したが改めて剛人族の住居をここの近くに建てなくてはな」
クレースの言葉に剛人族は皆、驚いた顔をする。
「いや、流石にそこまで迷惑をかけるわけにはいかない」
「お前たちも遠くに住めば何かと不便だろ。人手もあるんだから数日あれば終わる」
エルダンたちは申し訳なさそうな顔をしていたが、結局最後には折れてくれて、すぐ近くの場所で剛人族の住居を建設することが決まった。
そしてしばらくすると、総合室にエルシアが入ってきた。
「ジン様、お久しぶりです」
エルシアは丁寧にお辞儀をする。
「久しぶり、エルシア。エピネールの方はどう?」
ゼグトスがエピネール城をもぬけの殻状態にしたあと、エルシアに城のことを全て任せていたのだ。
「ええ、宝物庫の中身や貴重な絵画など全て調べておきました。ほとんどを換金しましたのでこちらをご覧ください」
そう言ってエルシアが渡してきた紙には押収した様々なお宝の数々の名前やそれがどれくらいの値段で売れたのかなどが丁寧に書かれていた。
そして最後のページには今回得た資金がズラリと書かれていた。
光金貨 10枚
大金貨 22600枚
金貨 300000枚
銀貨 3400000枚
銅貨 40000000枚
「うわ、すごいね光金貨まであるんだ」
貨幣は世界共通で光金貨1枚が大金貨1000枚、そして大金貨以下はそれぞれ100枚で一つ上の硬貨になる。光金貨は流通も少なく、市場にもほとんど出回らないので,かなり珍しいものなのだ。
「さすがは一国だっただけあるな、これだけあれば建国にも足りるだろ」
「でも資材はどこから集めようかな。流石にこれ以上はシュレールの森からだけだと限界があるし」
「ご心配には及びません、バーガル王国からの仕入れルートは確保しておりますのでお任せを」
「さすがエルシア、じゃあ押収したものの使い道は全て任せるよ」
「かしこまりました。では、失礼致します。ご尊顔を拝見できて嬉しく思います」
エルシアはうっとりするような顔でジンを見てそのまま部屋をあとにした。そしてエルシアが部屋を出て行くと、入れ替わるようにボルが入ってきた。
「ジン、剛人族の居住用建物は材料さえあればもうできルヨ。あとはなんの建物をつくればイイ?」
ボルはクレースから事前に話を聞いていたのだ。
「そうだな~、なんだかリラックスできるスペースをつくりたいな。みんなが集まれてゆっくりできるみたいな。それに果樹園を作るのも面白そうだと思うんだけど、どう?」
「わかった、任せてオイテ」
「さすがジンだな。ボル、じゃあこの前話した私とジンの家を······」
「いりません」
そうジンは即答し、パールはぷくりと膨れてクレースを見る。
「クレースはジンにくっつきすぎ。ジンは私と住んでるの、あげない」
「ではパール、お前の家をボルに建ててもらってはどうだ?」
「ヤッ!」
パールは顔を赤くしてジンの腕に抱きつく。
「まあ、剛人族の件はひとまず解決したから国づくりに集中だね。ボルよろしく」
「まかセテ。じゃあできたらまた報告しにクルネ」
そう言ってボルは部屋を後にした。そしてジンはその後ゼフのいる鍛冶場までいった。
「おお、ジンや、来てくれて嬉しいぞ」
鍛冶場に着くと、ゼフは閻魁と楽しそうにしゃべっていた。
「閻魁も一緒なんだ、二人は知り合いなの?」
「いいや、だがこの者とは馬が合っての。それにこの者はジンの自慢話ばかりしておるぞ」
「そうなんだ、ちょうど閻魁の場所を聞きにゼフじいに会いにきたんだよ」
「ほう、我を探しておったとは、して何用だ」
「家いらない?」
閻魁は突然のジンの言葉に少し驚いた様子を見せた。
「我に家か、まあ必要ではあるな。我今日泊まる場所ねぇし」
「じゃあ決まりだね後でボルに詳しい話を聞いといて」
(ごめんボル! 頼んだ!)
こうしてこの日は建物の建設をみんなでやることにした。
剛人族もエルフもみんなで一緒に建設作業をする。
エルフは木材を魔法で器用に操って、仲間を失った剛人族も生きていることを噛みしめるように嬉し涙を流しながら作業を行っていた。
「クレース、そこの木材と釘とって」
「気をつけるんだぞジン、無理はするな」
あたりには笑い合ったり、指示を飛ばしたりと様々な声が響き渡る。そこには種族間のいざこざや差別などもなく、文化の違いなどのしがらみも存在していなかった。そしてただただ皆が楽しそうに目の前の作業を行う。
その光景を見て閻魁は何かはわからないが、感じたことのないような感情が自分の胸をグッと押し上げてくるのを感じた。その感情が今の閻魁には理解できなかった。だがなぜか失いたくはないその感情をそっと胸の中にしまっておいたのだ。
ジンはまず今日泊まる場所がない閻魁の家ををつくることにした。
そして同時並行で剛人族の住居を建設していた。閻魁は大きな鬼の状態になって資材を運ぶのを手伝っていた。
「案外楽しいものだな。我、新発見」
作業を進めていた途中、そこに大きな声が聞こえてきた。
「お~い、みんな飯だぞ~休憩だ~」
コッツとヴァンは疲れたみんなのために大量の食事を持ってきた。
その食事を見て全員の目が輝く。
「おう、飯だ! 俺によこせー!」
トキワがヴァンとコッツの方に走っていく前に閻魁が割り込んできた。
「おい、でっかいの! その姿で食うんじゃねえよ!全員分なくなるだろ」
「けっ! うるさいわ。わかっておる!」
閻魁は人型になるとトキワと共にヴァンたちの持ってきた食事にがっつく。
「うまいぞ、我の舌に合うとはなかなかではないか」
そう言って閻魁はガハハハと大きな笑い声を辺りに響かせる。
「待て、ブタどもが! 他のやつにも残しておかんか」
「「ぶほぉうッッ!」」
クレースに二人とも顔面をぶたれて大人しくなる。
「そうだよ二人とも、他のみんなが食べられないよ」
その姿を見て辺りにいるみんなが笑顔になり、皆で食事を楽しむ。
「ねえクレース、私は国づくりを始めて本当によかった。協力してくれる、一緒に歩いてくれる仲間がこんなにもいるんだから」
ジンは周りをゆっくりと見渡しながらそう言った。
「ああ、だがこれから少し大変になるかもしれん。鬼帝のやつがここの存在を知ってしまったからな。それに······気づいていたか」
「うん、確かに気配を感じた。雰囲気的には戦闘に長けている感じはなかったよ」
「だが今考えても仕方がないな、だが何が起こったとしてもまずは私を頼れ。全てをかけて助けてやるから」
恥ずかしげもなく堂々と言われた言葉を聞いて少し照れながらも嬉しそうにするジン。しかし誰よりも幸せそうなのはその姿を見ていたゼフであった。
「見てるか、ジンは、お前さんたちのかわいい子は、ここまで成長したぞ」
ゼフはこみ上げてくる感情を抑えつつも優しく、笑顔でジンを見る。
そして食事の後もしばらく作業は続けられ、閻魁の家と剛人族の家がいくつか完成したのであった。
そして夜。ジンはガル、パール、クレースそして後ろからつけてきたゼグトスと共に集会所のレストランに来ていた。
「いらっしゃいませ。今日はお疲れ様でした」
コッツはカラカラと骨を鳴らしながら嬉しそうに近づいてきた。
「コッツもお疲れ様、私は飲み物だけ飲みにきたんだ。アップルジュースちょうだい」
「わたしもジンとおなじの」
「私はまだ食い足りんな、ガルも食うだろ?」
「バウッ!」
全員が椅子に座ると厨房からヴァンが出てきた。
「おう! よくきたな。俺のとっておきの肉料理振舞ってやんよ」
「ああ、では私とガルの分で二つ頼もう」
「任せろ、ちょっと待ってな」
ヴァンはそう言って厨房に戻っていった。
「そういえば、ジンはどうしてアップルジュースが好きなの」
「どうしてかなあ。理由はわからないけど、美味しいからかな······かな?」
「ジンが小さな時、私がジンに初めてアップルジュースを飲ませたんだ。その時のジンの顔ときたら…… ものすごくかわいかったなぁ」
クレースは昔のことを思い出して顔を綻ばせる。
「そういえば、そうだったかもしれないね」
「ジンが好きならわたしも好き」
パールはそう言ってジンの腕に抱きついた。
それを見てクレースが引き剥がそとする。
ちょうどそのタイミングでヴァンが料理を運んできた。
「おいおい、じゃれあうのはそのくらいにしろ。俺の飯が冷めちまう」
ヴァンは自慢げな顔で料理を持ってきた。
「おお!」
一同はヴァンの持ってきた料理に釘付けとなる。
厚みのあるお肉がじっくりと焼かれ、ヴァン特製のソースがが食欲をそそる香りを出していた。ガルはヴァンが皿を置くなり美味しそうにお肉にがっついた。その瞬間ガルの顔がほころび、一口さらにもう一口とがっついていく。
「うまそうに食うな、どれ……」
クレースが肉を口に入れた途端、体全体が幸福感につつまれる感じがした。
「わたしも食べたい!」
パールは目を輝かせてクレースのお皿からお肉を取ろうとする。
「仕方ないな、ほら口をあけろ」
パールは口をいっぱいに開けて笑顔でクレースの方を向く。
クレースはパールの口に優しくお肉をあーんするとパールは白いほっぺたを手で押さえ、幸せそうな顔をする。
「ジン、私もあーんしてあげようか」
「ふうぇッ!?」
「先ほどから食べたそうに見ていたではないか、ほらあーん」
クレースはデレッデレの顔でジンにあーんをしてきた。
(こ、これは仕方ない)
「はむっ」
クレースは興奮してもう一口と言ってくる。
「お、美味しい」
パールは最終的にクレースの頼んだお肉の半分も食べてしまった。
そうしてレストランでの楽しいひと時を過ごしたのであった。
「仲間の者から聞きました。ジン殿が鬼帝までも追い払い、この者たちを守ってくれたと」
エルダンはいつの間にかジンに対して敬語を使うようになっていた。
(ええ、別にゲルオードは自分から帰っただけなんだけど)
だが剛人族のものは皆ジンのことを羨望の眼差しで見てくる。
「まあな」
なぜかクレースは自分のことを言われたかのようにドヤ顔を見せてそう言った。
「いや、そのなんというか納得してもらった後は勝手に帰ったというか······」
「いいえ、あのまま戦っていればジン様が勝っておりました。見ていて本当に惚れ惚れ致しました」
そうゼグトスは横入れをしてきて突然エルダンに戦いの状況を細かく話す。
「そ、そうかそれはすごいな」
途中で遮るようにエルダンが話すと、ゼグトスは言い足りなさそうにするが、渋々後ろに下がった。
「そういえばどうして建国の件を知ってたの?」
「クレースから聞きまして、正直なところ初めは無理だと思いましたが、今ではもう難しいとも思いません」
エルダンはそう真っ直ぐな目で言った。
「ああ、今思い出したが改めて剛人族の住居をここの近くに建てなくてはな」
クレースの言葉に剛人族は皆、驚いた顔をする。
「いや、流石にそこまで迷惑をかけるわけにはいかない」
「お前たちも遠くに住めば何かと不便だろ。人手もあるんだから数日あれば終わる」
エルダンたちは申し訳なさそうな顔をしていたが、結局最後には折れてくれて、すぐ近くの場所で剛人族の住居を建設することが決まった。
そしてしばらくすると、総合室にエルシアが入ってきた。
「ジン様、お久しぶりです」
エルシアは丁寧にお辞儀をする。
「久しぶり、エルシア。エピネールの方はどう?」
ゼグトスがエピネール城をもぬけの殻状態にしたあと、エルシアに城のことを全て任せていたのだ。
「ええ、宝物庫の中身や貴重な絵画など全て調べておきました。ほとんどを換金しましたのでこちらをご覧ください」
そう言ってエルシアが渡してきた紙には押収した様々なお宝の数々の名前やそれがどれくらいの値段で売れたのかなどが丁寧に書かれていた。
そして最後のページには今回得た資金がズラリと書かれていた。
光金貨 10枚
大金貨 22600枚
金貨 300000枚
銀貨 3400000枚
銅貨 40000000枚
「うわ、すごいね光金貨まであるんだ」
貨幣は世界共通で光金貨1枚が大金貨1000枚、そして大金貨以下はそれぞれ100枚で一つ上の硬貨になる。光金貨は流通も少なく、市場にもほとんど出回らないので,かなり珍しいものなのだ。
「さすがは一国だっただけあるな、これだけあれば建国にも足りるだろ」
「でも資材はどこから集めようかな。流石にこれ以上はシュレールの森からだけだと限界があるし」
「ご心配には及びません、バーガル王国からの仕入れルートは確保しておりますのでお任せを」
「さすがエルシア、じゃあ押収したものの使い道は全て任せるよ」
「かしこまりました。では、失礼致します。ご尊顔を拝見できて嬉しく思います」
エルシアはうっとりするような顔でジンを見てそのまま部屋をあとにした。そしてエルシアが部屋を出て行くと、入れ替わるようにボルが入ってきた。
「ジン、剛人族の居住用建物は材料さえあればもうできルヨ。あとはなんの建物をつくればイイ?」
ボルはクレースから事前に話を聞いていたのだ。
「そうだな~、なんだかリラックスできるスペースをつくりたいな。みんなが集まれてゆっくりできるみたいな。それに果樹園を作るのも面白そうだと思うんだけど、どう?」
「わかった、任せてオイテ」
「さすがジンだな。ボル、じゃあこの前話した私とジンの家を······」
「いりません」
そうジンは即答し、パールはぷくりと膨れてクレースを見る。
「クレースはジンにくっつきすぎ。ジンは私と住んでるの、あげない」
「ではパール、お前の家をボルに建ててもらってはどうだ?」
「ヤッ!」
パールは顔を赤くしてジンの腕に抱きつく。
「まあ、剛人族の件はひとまず解決したから国づくりに集中だね。ボルよろしく」
「まかセテ。じゃあできたらまた報告しにクルネ」
そう言ってボルは部屋を後にした。そしてジンはその後ゼフのいる鍛冶場までいった。
「おお、ジンや、来てくれて嬉しいぞ」
鍛冶場に着くと、ゼフは閻魁と楽しそうにしゃべっていた。
「閻魁も一緒なんだ、二人は知り合いなの?」
「いいや、だがこの者とは馬が合っての。それにこの者はジンの自慢話ばかりしておるぞ」
「そうなんだ、ちょうど閻魁の場所を聞きにゼフじいに会いにきたんだよ」
「ほう、我を探しておったとは、して何用だ」
「家いらない?」
閻魁は突然のジンの言葉に少し驚いた様子を見せた。
「我に家か、まあ必要ではあるな。我今日泊まる場所ねぇし」
「じゃあ決まりだね後でボルに詳しい話を聞いといて」
(ごめんボル! 頼んだ!)
こうしてこの日は建物の建設をみんなでやることにした。
剛人族もエルフもみんなで一緒に建設作業をする。
エルフは木材を魔法で器用に操って、仲間を失った剛人族も生きていることを噛みしめるように嬉し涙を流しながら作業を行っていた。
「クレース、そこの木材と釘とって」
「気をつけるんだぞジン、無理はするな」
あたりには笑い合ったり、指示を飛ばしたりと様々な声が響き渡る。そこには種族間のいざこざや差別などもなく、文化の違いなどのしがらみも存在していなかった。そしてただただ皆が楽しそうに目の前の作業を行う。
その光景を見て閻魁は何かはわからないが、感じたことのないような感情が自分の胸をグッと押し上げてくるのを感じた。その感情が今の閻魁には理解できなかった。だがなぜか失いたくはないその感情をそっと胸の中にしまっておいたのだ。
ジンはまず今日泊まる場所がない閻魁の家ををつくることにした。
そして同時並行で剛人族の住居を建設していた。閻魁は大きな鬼の状態になって資材を運ぶのを手伝っていた。
「案外楽しいものだな。我、新発見」
作業を進めていた途中、そこに大きな声が聞こえてきた。
「お~い、みんな飯だぞ~休憩だ~」
コッツとヴァンは疲れたみんなのために大量の食事を持ってきた。
その食事を見て全員の目が輝く。
「おう、飯だ! 俺によこせー!」
トキワがヴァンとコッツの方に走っていく前に閻魁が割り込んできた。
「おい、でっかいの! その姿で食うんじゃねえよ!全員分なくなるだろ」
「けっ! うるさいわ。わかっておる!」
閻魁は人型になるとトキワと共にヴァンたちの持ってきた食事にがっつく。
「うまいぞ、我の舌に合うとはなかなかではないか」
そう言って閻魁はガハハハと大きな笑い声を辺りに響かせる。
「待て、ブタどもが! 他のやつにも残しておかんか」
「「ぶほぉうッッ!」」
クレースに二人とも顔面をぶたれて大人しくなる。
「そうだよ二人とも、他のみんなが食べられないよ」
その姿を見て辺りにいるみんなが笑顔になり、皆で食事を楽しむ。
「ねえクレース、私は国づくりを始めて本当によかった。協力してくれる、一緒に歩いてくれる仲間がこんなにもいるんだから」
ジンは周りをゆっくりと見渡しながらそう言った。
「ああ、だがこれから少し大変になるかもしれん。鬼帝のやつがここの存在を知ってしまったからな。それに······気づいていたか」
「うん、確かに気配を感じた。雰囲気的には戦闘に長けている感じはなかったよ」
「だが今考えても仕方がないな、だが何が起こったとしてもまずは私を頼れ。全てをかけて助けてやるから」
恥ずかしげもなく堂々と言われた言葉を聞いて少し照れながらも嬉しそうにするジン。しかし誰よりも幸せそうなのはその姿を見ていたゼフであった。
「見てるか、ジンは、お前さんたちのかわいい子は、ここまで成長したぞ」
ゼフはこみ上げてくる感情を抑えつつも優しく、笑顔でジンを見る。
そして食事の後もしばらく作業は続けられ、閻魁の家と剛人族の家がいくつか完成したのであった。
そして夜。ジンはガル、パール、クレースそして後ろからつけてきたゼグトスと共に集会所のレストランに来ていた。
「いらっしゃいませ。今日はお疲れ様でした」
コッツはカラカラと骨を鳴らしながら嬉しそうに近づいてきた。
「コッツもお疲れ様、私は飲み物だけ飲みにきたんだ。アップルジュースちょうだい」
「わたしもジンとおなじの」
「私はまだ食い足りんな、ガルも食うだろ?」
「バウッ!」
全員が椅子に座ると厨房からヴァンが出てきた。
「おう! よくきたな。俺のとっておきの肉料理振舞ってやんよ」
「ああ、では私とガルの分で二つ頼もう」
「任せろ、ちょっと待ってな」
ヴァンはそう言って厨房に戻っていった。
「そういえば、ジンはどうしてアップルジュースが好きなの」
「どうしてかなあ。理由はわからないけど、美味しいからかな······かな?」
「ジンが小さな時、私がジンに初めてアップルジュースを飲ませたんだ。その時のジンの顔ときたら…… ものすごくかわいかったなぁ」
クレースは昔のことを思い出して顔を綻ばせる。
「そういえば、そうだったかもしれないね」
「ジンが好きならわたしも好き」
パールはそう言ってジンの腕に抱きついた。
それを見てクレースが引き剥がそとする。
ちょうどそのタイミングでヴァンが料理を運んできた。
「おいおい、じゃれあうのはそのくらいにしろ。俺の飯が冷めちまう」
ヴァンは自慢げな顔で料理を持ってきた。
「おお!」
一同はヴァンの持ってきた料理に釘付けとなる。
厚みのあるお肉がじっくりと焼かれ、ヴァン特製のソースがが食欲をそそる香りを出していた。ガルはヴァンが皿を置くなり美味しそうにお肉にがっついた。その瞬間ガルの顔がほころび、一口さらにもう一口とがっついていく。
「うまそうに食うな、どれ……」
クレースが肉を口に入れた途端、体全体が幸福感につつまれる感じがした。
「わたしも食べたい!」
パールは目を輝かせてクレースのお皿からお肉を取ろうとする。
「仕方ないな、ほら口をあけろ」
パールは口をいっぱいに開けて笑顔でクレースの方を向く。
クレースはパールの口に優しくお肉をあーんするとパールは白いほっぺたを手で押さえ、幸せそうな顔をする。
「ジン、私もあーんしてあげようか」
「ふうぇッ!?」
「先ほどから食べたそうに見ていたではないか、ほらあーん」
クレースはデレッデレの顔でジンにあーんをしてきた。
(こ、これは仕方ない)
「はむっ」
クレースは興奮してもう一口と言ってくる。
「お、美味しい」
パールは最終的にクレースの頼んだお肉の半分も食べてしまった。
そうしてレストランでの楽しいひと時を過ごしたのであった。
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