ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚

第二十六話 ドキドキ! 湯けむり○人事件

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しばらくして舞台は温泉、男湯には五人の人影があった。
そしてここでは今、熱き漢たちの仁義をかけた戦いの火蓋が切って落とされようとしていのだ。

「おい、ターゲットは女風呂にいるか?」

トキワはいつになく真剣な顔で周りに話しかける。

「ええ、先ほど食事を終えたジンさんたちに加えて、エルシアさんルースさんリエルさんのエルフの皆さんが入っていくのを確認しました。先ほどまでレストランにおりましたので、皆さんの動きは完全に把握しております。ね? ヴァンさん」

そしてコッツは最もらしい顔でそう返事をした。

「あ、ああ。でもバレたらやばくねえか。特にクレースとかにバレたら洒落にならない気がするぜ」

その言葉にトキワはまだまだだなといった顔でヴァンを見た。

「フン、何をいまさら。覚悟は······出来ている」

(これは、本気で······)

ヴァンはある意味尊敬した目でトキワのいつになく真剣な顔を見て、ゆっくりと考え込むように下を向いた。そんな三人に加えてその場には何も言われずに連れてこられたリンギルと温泉に浸ってみたいと言って一緒に来た閻魁の姿があった。

「ガハハ、我は温泉が初めてであるぞ。楽しみだな」

「何かと思えば、大体察しはついた。悪いが俺は降りるぞ」

何も理解していない閻魁は入る前からタオルを頭に乗せて張り切り、ある程度察しのついたリンギルは呆れたような顔をする。

「チッチッチッ、あまいぜ兄弟。ルースとリエルのあの美しいマウンテンをお前は見たくないのか」

トキワの耳元で囁かれた甘い言葉にリンギルは息を呑む。

「そうだそうだー。メガマウンテンだぞー」

完全に闇落ちしたヴァンが自我を失ったようにそう言った。

「そうですよリンギルさん。作戦の時間は限られています。さぁさぁ、はやくいきましょう」

コッツはそう言ってリンギルの背中を無理矢理に押した。

「そうだそうだ温泉だぞ」

そして一人何も理解しないまま作戦が決行される。

一方、女湯。

広々とした空間に心地よい湯加減のお湯が張られ、女性陣は皆で気持ちよさそうに肩まで浸かっていた。

「ジン、だっこ」

パールはそう言ってジンに抱っこをせがんできた。

「パールは甘えん坊さんだね」

そして真っ白な二人が肌を寄せ合った。

「えへへ」

クレースが羨ましそうに見る中、幸せそうに笑うパールはしばらくするとそのままジンの胸の中で安心した顔で目を瞑った。

「あ、寝ちゃったね」

ジンはパールがのぼせないように魔法で状態異常を緩和させた。

「それにしても気持ちいいですわね。シュレールの森では体験できないような気持ち良さですわ」

「本当そうね。こんな気持ちのいい温泉に入るのは初めてだわ」

リエルとルースは気持ちよさそうに大きく手を広げた。

「私もそう思う。それにみんなでお風呂に入るのは楽しいね」

こうして、至って幸せな温泉の風景が見られた女湯とは対照的に男湯では緊迫した雰囲気が漂っていた。女湯の仕切りの向こうでは真剣な面持ちのトキワが作戦を確認していた。

トキワはいきなりどこから出てきたのかわからない紙を周りに見せた。

「いいか兄弟たち。これはこの温泉の設計図だ。この作戦で重要なのは仕切りをうまくつかうことだな。まず俺が魔法で男湯から発せられる音を完全に遮断する······」

リンギルのなぜこいつが設計図を持っているのだという疑問は口に出されることなくトキワは淡々と説明を続けた。
そしてその横で閻魁は一人湯船に浸かり、気持ちよさそうにする。

「そしてリンギル、お前が向こうの注意を引くんだ」

「俺がか!?」

その言葉にトキワはすぐ近くにあった茂みを指差す。

「あれだ、男湯と同じく女湯にもああいう茂みがあるんだがお前が向こうの茂みを魔法で揺らして音を立てるんだ。そうすれば注意が引ける」

「ですがトキワさん、それでは少しの間しか時間が稼ぎませんよ」

するとトキワが何かの塊を見せてきた。

「これはそこの仕切りと同じ材質のものだ。俺はリンギルが注意を引いている時間で即座に同じ色の壁を女湯側の仕切りのそばにつくる。この時仕切りと壁の間に俺たちが入れるようにするんだ。そしてこれは俺とっておきの素材、魔力に反応して自由に穴を開けたりできる代物だ」

「なんて素晴らしい作戦なんだ。やっぱりあんたは天才だぜ!!」

トキワの作戦にヴァンは感動し、トキワを羨望の眼差しで見つめる。

「それではさっそく実行しましょう」

こうして男湯での作戦が実行されようとしていた。

ー女湯。

女湯には閻魁の一人で楽しそうに笑う声が響いていた。

「あいつは一人で何をはしゃいでおるのだ」

「いいえ、先ほど男湯に入っていく複数の人影が見えましたよ」

「うん、私も見た」

その時、近くにあった茂みが突然音を立てて揺れた。この瞬間、リンギルが完全に共犯者になったのだ。

「誰だッ!」

「待ってクレース、ガルが反応するはずだよ」

ガルは茂みの方を一切警戒せず湯船でぷかぷかと浮かんでいた。

「茂みに魔力の干渉が感じられますわ、それにこれはエルフによる魔法でございます」

「大丈夫、そこからは強い魔力が感じられない。敵はいないよ」

(げっ、気づかれてる)

仕切りと作り出した壁の間にいるトキワだけでなく、他の三人も焦る。

「ジンどうした? 仕切りの方なんか向いて」

「なにか違和感がない? 微弱だけど魔力を感じる」

「確かに、そう言われてみれば······」

クレースはニヤリと笑う。

「なるほど、のぞきだなそれも無駄に手の込んだ。ジンがいるというのに許せん。······殺すか」

クレースの目はギラリと光って、仕切りの方を見る。

(このクレースの目はマジだ。小さい頃、わたしを助けてくれた時と同じ雰囲気がする)

一方、トキワがつくった壁と仕切りの間のスペースで四人の漢たちが女湯の様子を伺っていた。

「クソッ、勘づきやがったか」

「トキワの兄貴、どうする?」

なぜかヴァンはすでにトキワを兄貴呼びしている。

「いいや、まだ諦めるのははやいぜ、俺の魔法でこちらの音は遮断されている、安心しな」

「や、やはりやめておかないか、禍々しい殺意を感じる」

リンギルは自分の体中から汗が噴き出るのを感じた。まるで自分の汗が自我をもってこの危険な場から逃げ出すように、そして同時に最近感じとった最も禍々しい、ある獣人のオーラを強く感じた。

「何をおっしゃるんですかリンギルさん、死ぬときは一緒ですよ」

コッツはなぜか死ぬ覚悟をしていた。

焦った様子のトキワに一同はゴクリと息を呑み、緊張した面持ちで作った壁を見つめる。

「も、もうだめだ。このままじゃ……」

ヴァンは大粒の悔し涙を流す。光を失った絶望の顔でヴァンは膝をつく。
だが、ひとりこの状況でも諦めないものがいた。

「結果を出す前に泣くんじゃねぇ、努力が逃げちまうぜ」

「「ハッ!」」

トキワのその言葉を聞き、その場の全員が息を吹き返す。

「そうですよ、トキワさんの今までの努力を無駄にはできません。それに、仮に壁が壊されたとしても······見えるんですよッ!!」

「「ハッ!!」」

「フッ、気づいてしまったか。この作戦の奥の手をッ!」

それに伴い、女湯との間にあった一枚の壁にヒビが入る。

「構えろ!そして大きく目を開けて聖域に集中するんだ!」

四人は大きく目を見開いて一点を集中する。
ヒビは大きくなりそしてついに聖域の姿が露わになる……

そして光からは何かが確認される。

「が、ガル?」

ガルはちょこんと座ってトキワたちの方を見つめていた。

「バウっ」

ガルがそう吠えた瞬間、何かがカランコロンッと音を立てて落ちた。
トキワが横を見ると三つあったはずの頭が一つなくなっていることに気づく。

「っ、ぎゃぁあああーッ!!」

そこにはヴァンの悲鳴が鳴り響いた。
コッツの頭が下に落ちていたのだ。そして目の前にはしっかりと服を着て威雷をもったクレースが立っていた。

「度胸があるやつらだな、今から三秒だけ時間をやろう。せいぜい逃げ回れ」

その声を聞くなり三人は慌てて後ろを振り返った。

「いち、」

その瞬間、理不尽なカウントダウンを聞いた三人は頭から倒れ込み気絶してしまった。

「いやあ~極楽極楽~」

そして何事もなかったようにお風呂を楽しむ閻魁をよそに四人は最悪の結末を迎えてしまったのであった。

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