ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
49 / 240
ボーンネルの開国譚2

二章 第十一話 悔恨の集結

しおりを挟む
鬼幻郷に遥か昔から建つその建物は百鬼閣と呼ばれ、ここにはかつて大量の鬼が住み着いていた。そしてその上層階。そこにはエルムの兄、シキと骸族のクシャルドという男の二人の姿があった。

「シキよ、鬼幻郷に侵入者が確認された······分かるな」

「分かっている」

シキと話す骸族のクシャルドはコッツのように全身がガイコツの姿をしており、背丈は鬼族のシキよりもひと回り大きかった。シキはクシャルドとその短い会話を交わした後、百鬼閣を後にしたのだ。


そして集落。

ガランやイッカクは驚いていた。先程まで沈んでいたエルムがいつの間にかジンと家から出てきてその顔にはいつも通りの笑顔が戻っていたからだ。

「落ち着いたか」

「はい。クレースさん、それに皆さんも、ご心配をおかけしました。私はもう大丈夫です」

「ジン、クレース。ここは食料が不足シテル。まずはそこから始めるベキ」

ボルは集落をひと通り見てやや痩せ型の集落の鬼達の姿が気になっていたのだ。集落のある土地は他の場所に比べても痩せた土地で十分な食料を確保することが難しかった。しかしその言葉にガランや集落の鬼達は不思議そうな顔をした。

「始めるとは、いったい······」

「ここは、元々みんなの場所だったんですよね?」

「はい······以前まではそうでした」

「だったら、ただ奪われたものを取り返すだけですよ。だから私たちとここを、鬼幻郷の全てを一緒に取り戻してませんか?」

ガランはその言葉の意味を理解するのに、数秒を要した。しかし目の前のジンのまっすぐな瞳を見て、その言葉をゆっくりと言葉にできない思いとともに噛み締める。

「······ですが、ここはもうすでに、ほとんど全ての場所が占領されて10年近く経ちます。それゆえ、おそらく敵はさらに増え、その数はいまや5万を超えているでしょう。貴方様たちをッ······エルムの恩人の方々をっそんな危険な目に遭わすわけにはいきませぬっ······」

「もう10年か、ゲルオードは少し前と言っていたのだがな」

「ゲルオードは数百年くらい生きてるカラネ」

「まあさすがに5万は長期戦だな」

しかしガランの不安や心配が込められた言葉を一切気にすることなくクレースたちは平然と話を続けた。その様子を見ていたイッカクはクレース達の目の前に立つ。

「おいあんたたち、敵はあんた達の想像を遥かに超える戦力を持ってやがる。攻め込んだところで、こっちがすぐに全滅してもおかしくねえんだぞ······それに俺としても、エルムの恩人のやつには死んで欲しくねえ」

少し口下手なイッカクのその言葉は確かにジン達を思いやってのものだった。そして周りの鬼達は心に何か重たい感情を感じつつも、唇をかみしめ拳をギュッと握るが皆その言葉には同じ意見だった。

「もう、私は皆さんのことを異国の知らない人だなんて思ってません。少し見てただけでみんなが優しくてここやここにいるみんなが大好きで、それを奪われた悔しさが分かります。だからもう、ここには私の命をかけも何も惜しくない」

「ジン。私だろ?」

「わたしもお」

「えへへ、そうだったね」

ガランはジンの言葉を聞いて両手を地面について目から涙を流していた。本当はずっと言って欲しかったのだ、手を差し伸べてくれる言葉を。本当はずっと助けて欲しかったのだ、ただ優しさが邪魔をしてうまく言葉にできなかったのだ。

「ッ······どうか私たちのッ、私たちの鬼幻郷を、取り戻してくださいませッ!······」

そして、ガランがその言葉を口にする。10年前全てを失い、今も尚奪われ破壊される全てのものを守るため遂にガランは意を決したのだ。やっと差し伸べてくれたその存在にガランは全てを託したのだ。さらに、ガランに続くようにイッカクやメルト、他の鬼達も頭を下げる。全員の心が悔恨の念によって一つになり、止まってしまった時計の針を全員で動かそうとしていたのだ。

そしてその様子を伺うように一つの影が近くにあった。

(エルムっ!?)

侵入者を追跡すべく集落のすぐ近くの物陰からその様子を見ていたシキは逃したはずのエルムが集落にいたことに驚きを隠せないでいた。しかしシキは周りの様子をしばらく観察して徐々に冷静になっていく。

(なぜエルムがここにいるんだ。確かにここから出したはず······)

しかしエルムの様子を確認したシキはジン達侵入者の数を確認して素早くその場を後にした。

「クレース」

「ああ、今はもう居ないようだが」

「私が始末して参りましょうか?」

「いや、大丈夫。こっちを攻撃してくる感じはなかったから」

「かしこまりました」

「ボル、食料の件どうしよう」

「多分、どこかに食料の保管庫があるハズ。そこから奪いにイク」

「おいおい、確かに数カ所敵の保管庫に食料はあるが、そこには何百っていう敵に幹部のヤツもいやがるんだぞ」

「大丈夫、僕がトキワと二人で殴り込みに行ってクル。ジン達はここにイテ」

「ぼ、ボル様二人では流石に危険でございます。せめて集落にいる戦士を連れていって下さい」

「大丈夫、信じて待っテテ。それと、全員敵ってことでいいんダヨネ?」

「は、はい」

「よっしゃ、歩いてばかりで退屈だったんだよ。さっそく行くかボル」

「では、これをお使いください」

そう言ってガランは鬼幻郷の一部が描かれ、敵の倉庫の場所が記された地図を手渡した。

「じゃあ、気をつけてね。ここで待ってるから」

ジンの笑顔を見て二人は集落を後にする。


「照れたろ、ボル」

「チョットネ」

そして二人は地図に記された食料庫のうち一番近くにある場所まで向かうことにした。


一方、トキワ達の向かう食料庫の周りは高い塀で囲まれていた。鬼幻郷には合計で三つの食料庫が存在しこの食料庫は第二食料庫と呼ばれ、ここではヒュード【人鳥】族と呼ばれる半分人間、半分鳥の特徴を持つ種族が守護をしていた。ヒュード族は人間の顔を持っているものの、背中には翼が生えて鋭い爪を持ち、人間ではありえないような超人的な視力を持つ。

そしてここでは、ガルミューラと呼ばれるヒュード族の幹部が侵入者の報告を受け、部下のもの達に伝令を飛ばして辺りは騒がしくなっていた。

「出現したのはすぐ近くだ! 警戒を怠るな!」

ヒュード族の者は空を飛び、はるか上空から辺りの様子を偵察していた。

「ガルミューラ様! 偵察部隊から近くで怪しげな二人の人間を確認したとのことです! どうやらこちらに向かって進んでいるようで、もう間も無くここへ辿り着きます」

「二人か、どうやら知能がないようだな。 よし、空撃部隊を向かわせろ。殺しても構わん」

「ハッ!」

そしてガルミューラの指示を受け、第二食料庫から武装したヒュード族が飛び立ってトキワとボルの元へと向かっていったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...