ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚2

二章 第十四話 吉兆と凶兆

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集落ではエルムの家周りを掃除する閻魁、イッカク、エルム、それに他の鬼族のグループと、集落にあった割と大きな調理場でジンが調理をしてそれをパール、クレース、ゼグトスがお手伝い(覗き)をするグループの二つに分かれていた。

エルムの家は中だけでなく、外もあまり手入れされていなかったようで、雑草が足に絡まってくるほどだった。

「ふぅ、我も料理をしたかったが、こちらも楽しそうだな」

「閻魁さん、私の家の掃除なんかを手伝ってもらって本当にありがとうございます」

「まあ任せろ。我はこう見えても昔、鬼族の者から破壊の王と言われていたのでな、大船に乗った気持ちでいろ」

破壊はしないで欲しいと思いつつも、皆エルムの家を綺麗にするために集まっていた。そしてエルムやイッカクたちは埃まみれとなった家の中を掃除するために中へと入っていった。その後、閻魁は地面に膝をついて体を丸め、意外と熱心に無秩序に生えていた雑草を抜き始めた。

「ぬぅぉおおおおッ!」

「なあ、閻魁さんってあのあの閻魁さんだよな」

「ああ、たぶん」

その光景を見ていた周りの鬼達の閻魁に対する見方は確かに変わろうとしていたのだ。


そして一方、集落の調理場でエプロン姿のジンは包丁を握っていた。その姿を何もせずにクレースとゼグトスはじっと見つめていた。

「ジン、エプロン似合ってる。かわいい」

「えへへ、ありがとうパール、パールも手伝ってくれる?」

「うん!」

慣れた手付きで野菜を切り分け、ゼグトスに頼んで何かを持ってきてもらった。そして大きな鍋に先ほど切った具沢山の野菜や牛怒のゴロゴロとした大きなお肉とともにそれを入れると、辺りには食欲をそそる香りが広がる。

「ジン様、それはいったい?」

「シチューと呼ばれるものです。このシチューはとても栄養価が高くてそれに食べると身体中があたたまるんですよ。お口に合うかは分かりませんが食べてみてください」

その匂いは集落に広がり少し離れた場所にいた閻魁もその匂いに気づく。そしてジンやクレースたちは集落のもの達に振る舞うため丁寧にお皿にシチューを取り分けた。大鍋の前にはいつの間にか行列ができ、シチューを受け取って若干初めてみる料理に戸惑いながらも口に運んだ鬼族達は驚きの声を上げる。

「こんなうまい飯、いつぶりだッ!」

「おい、ちゃんと味がするぞ!! それにちゃんと噛める!」

美味しさの表現の仕方はそれぞれであったが、皆ジンの作ったシチューに夢中になって全員がお皿いっぱいに盛られたシチューを一瞬で平らげた。

「わ、我も、ジン我もッ!!」

少し遅れてエルムを肩に乗せた閻魁が焦りながら走ってきた。

「おい閻魁、先にここの者だ。お前は歯止めが効かんだろ」

「む、むぅ······仕方ないな。エルム食ってもいいぞ」

「はぁ、お前は作ってないだろ」

その後やってきたイッカクやメルトも一緒に皿を受け取り、3人は不思議そうにシチューを見つめながらも口に入れると皆揃ってぱあっと顔が輝いた。

「ジンお姉ちゃん、とってもおいしいです! ありがとうございます」

「よかったぁ、たくさんあるからいっぱい食べてね。閻魁もいいよッ······」

その前にエルムからお皿を受け取りいつの間にか大きな口を開けてまるで子どものように口いっぱいにシチューを頬張っていた。

「はぁ、やはり疲れた後に食う飯というのはよいものだな」

「ゼグトス、お前は食べないのか?」

いつの間にか五杯分ほどの空のお皿を前にし、口の近くにシチューをつけたクレースは何やら逡巡した様子のゼグトスにそう聞いた。

「い、いや私にはあまりにも勿体無いので、専用の異空間に保管させていただきました」

「ぜ、ゼグトスも食べてね。たくさんあるからさ」

「はい、では少しだけ」

ゼグトスは申し訳なさそうにシチューを口に運ぶと、いつも平静を装っていた顔が珍しく少し崩れ顔には笑顔が溢れた。それほどまでに美味しかったのだ。そうして食事を楽しむ皆のもとにボルとトキワが袋を持って帰ってきた。

「お~うジン。シチュー作ったのか俺にもちょっとくれー!」

「食材は調達デキタヨ。多分これで当分の間はアンシン」

「二人ともお疲れ様。たくさん食べてね」

集落の雰囲気はほんの少し前までとは比べ物にならないほど明るくなり、具合の悪く寝込んでいた鬼達もすっかりと元気を取り戻した。そしてその光景を見ていたガランの顔には自然と笑みが溢れる。

(この方達なら······本当に)

ガランはこの瞬間確かな希望を胸に抱いたのだ。ガランは久しぶりに見た皆の笑顔に心が躍った。それは奪われる存在であり続けたガランにとっては一生望めなかったものなのだ。

ーだがまるでそれを嘲笑うかのようにガランの希望は、たった一つの出来事によって崩れ去ってしまうのであった。
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