ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚2

二章 第二十四話 死の交響曲

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ジャスパーが生み出したその結晶は力を溜め込むように暗く光って上空に止まっていたまま解放の時を待っていた。
その魔力は時間を追うごとに禍々しく増大していき結晶の光は徐々に中心に収縮していく。 

「クレース、ボル大丈夫かな?」


「ジン様、どうやらボルさんのいらっしゃるあたりに極級魔法が放たれたようです。あまりうまく魔力を練れていないようですが」

同じタイミングでパールとゼグトスの二人は極級魔法の発動に気付いていた。
だが、ジンもクレースもそれにトキワも焦った様子を見せることなく、平然と足を進める。

「大丈夫だ、ボルだから」


「ボルがいるから大丈夫」

「まあ俺が戦うならならボルに魔法は使わねえな」

三人は確信を持って信じきったようにそう言った。そこに疑う余地はなく三人はただ前に進む。
そんな中ジャスパーはニヒルな笑顔を見せて杖を上空に向けた。
そして傭兵達は違和感を感じて辺りを少し警戒する。

「おい······あれって」

そんな中、後衛にいた傭兵の一人が不気味な結晶を発見する。その声に他のもの達も空を見上げ、皆不思議そうな顔を見せた。

「ジャスパーさん、あれは?」

「心配する必要はありません。攻撃を続けなさい」

しかし誰もボルの間合いに入り込めずにただ吹き飛ばされていた。
その光景を見て流石の傭兵達も攻撃が次第に鈍っていき、攻撃の手も緩まっていく。

(やはり、役に立ちませんね。囮として使うのが吉でしょう)

ジャスパーは暗い顔でその結晶に杖を向ける。
それに呼応して結晶は来るべき時を迎える。死の交響曲デット・シンフォニアは闇属性の極級魔法である。
この魔法では結晶の中に込められた魔力の波が時間とともに威力を増し解放とともに発動者の指定する範囲内に死の音色が運ばれる。その音は精神へと干渉し急激な幻覚症状を見せる。そしてその凄まじい幻覚症状に精神を崩壊させられた後、魂が抜き取られ絶命してしまうのだ。

ボルは地面に置いていたゼルタスを再び握りしめた。

「苦しめ、そしてただの肉片と化すがいい」

その時、ボルは四方八方から向かってきた傭兵達を全員吹き飛ばして魔法の範囲外まで追いやった。
猛烈な勢いで迫ってくる深い紅色の衝撃波はボルの周りを囲い込むようにして死の音色を運んでくる。
しかしボルは動じる様子も見せずゼルタスを天に掲げる。
ボルの『意思のある武器』であるゼルタスは魔法を吸収、そして溜め込んだ魔法を自身のものにできるという特性を持っている。そのため、ヒュード族の空撃部隊からの合体魔法にも平然として耐えてみせたのだ。

しかし、ジャスパーはその光景を見て不気味に笑う。

「どうやらそのハンマーは魔法を吸い取ってしまうようですね。ですが死の交響曲の精神への干渉は魔法とは別に作用するのですよッ!」

魔法に気が付かず再びボルの方へと近づいた数名の傭兵は範囲内に入ってしまい、その音を体に浴びる。

「グァああああッ!!!」

その瞬間、傭兵は頭を抱えて叫び声をあげてその場で身悶える。

「近づかナイデ」

敵であるボルの声に傭兵達はピタリと足を止めた。
そしてボルは虚ろな目をしてその場に立ち止まった。そんなボルは飛んできた音を直に浴びる。
音はボルを包みこんで、ボルの周りを埋め尽くす。

「さあ、精神ともに滅びなさいッ!!」

ジャスパーの狂ったような行動に周りにいた傭兵達も動揺する。

ーしかし、

「!?」

死の交響曲が終わりを迎えた後、その場にボルは立っていた。

「一体何をしたッ!!」

その姿にジャスパーから笑みは消えボルの方を向いて大声をあげる。
ボルの顔は元に戻り、虚ろな目は元に戻る。

「感情を空にしただけ」

「なッ」

死の交響曲の唯一の弱点は極端に知能が低いような魔物、もしくは一切の感情を持たないような生物には幻覚作用が引き起こされないということである。そのためボルは敵に囲まれる戦場のど真ん中で何も考えず、感情を空っぽにしてその場に立ったのだ。
そして元に戻ったボルは、すでに絶命し地面に伏せる傭兵達を見つめた。

「お前はジンとは正反対ダ。ジンなら何があっても故意に仲間を傷つけたりシナイ」

「な、何を言っているのです。この者達は大した囮にもならず自ら死んでいっただけですよ」

ボルは拳を強く握りしめてジャスパーの元へと歩みを進めた。
その道に傭兵は立ち塞がることなく、恐れるように後ろに引き下がる。

「何をしているお前達ッ! こいつを止めろ!!」

しかし、傭兵達は誰一人としてボルの歩みを止めることはない。

「クソッ! 役立たずどもが!!」

ジャスパーは杖を構え一瞬で魔力を練り上げた。

「!?」

魔法を放とうとしたが目の前にボルの姿は見えない。
辺りを見渡そうとした瞬間、右耳の感覚が失われたような感覚とともに頭の中ががグラッと揺れた。

「ジゴウジトク」

左耳でうっすらとその声が聞こえた後、ジャスパーの意識はぷつりと切れてしまったのであった。
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