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ボーンネルの開国譚2
二章 第三十話 生きる理由
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何故こんなにも、自分の思いを打ち明けられるんだ。
何故この子は、こんな私の話を真剣に聞いてくれるんだ。
何故私は今、これほどまでに幸せなんだ。
レイの頭の中からはそういった疑問が次々と出てきた。
いつの間にか自分でも気づかないうちにジンと打ち解けあっていたのだ。そしてただ自分の話を真剣に聞いてくれる小さな女の子に自分の全てを委ねていた。迷惑に思われてしまうかもしれないと考えつつも、ずっと自分の目を見ていてくれた少女から目が離せなかった。
(父親も兄もこんな真っ直ぐな目で私を見つめてくれたことなんてない)
この時間が永遠に続いてしまえばいいのに、そう心の底から思った。この瞬間、レイは嫌なことも辛いことも悲しいことも全て忘れることができたのだ。
(こんなにも心の底から笑ったのはいつぶりだろう。······母親を失って以来か)
騎士の家系に生まれたレイにとって生まれてから年の近い女の子と話すという機会はほとんどなかった。
そしてそんな会話の一つ一つが鮮明に頭に刻まれて生涯この記憶決して忘れたくない、忘れないそう思った。
(ああ、楽しい)
好きな食べ物や好きなことなどの些細なことから、生まれてから悩み続けていた家族のこと、今の自分の悩みに至るまでを気づけば全て話していた。そんな話をジンは何も嫌な顔をすることなくただ笑顔になったり、真剣な顔になったりして聞いてくれた。
「す、すまない。話し過ぎたな」
「大丈夫だよ。······でもレイお姉ちゃんは、きっと”かなしい”を一人で背負ってるんだね」
「ッ······」
(ジンは私の言いたいことをまるで知っているかのようで······ただ言いたかったことを素直に口に出してくれた。
そしてジンは、いつの間にか私が入ってしまっていた殻を破って何の躊躇いもなく近づいてきた)
「だから」
「ッ!······」
あたたかくて全てを受け止めてくれそうな何かがレイのことを包み込んだ。
「”かなしい”は一人じゃつらいから誰かと分け合うの。
だからレイお姉ちゃんの”かなしい”は私と半分こ」
その言葉を聞いた瞬間、レイの目からは自然と涙が溢れていた。母の胸の中でしか泣くことのできなかったレイはなぜかジンの胸の中で幸せの笑顔とともに泣いていた。
「うんッ、······もう、大丈夫」
言葉にできないほどの嬉しいという感情が胸の中を埋め尽くしていた。
そして同時にその存在に安心し、身を委ねていた。
(ああ、私はこの子が大好きだ)
レイの心をいつの間にか奪われていた。自分の全てを受けて止めてくれて、かわいくて、優しくて、自分よりも小さいのにとても頼れるジンに。
そしてそんな時遠くから声が聞こえてきた。
「ジーンッ!」
「あっ、ゼフじい!」
ゼフはジンのことを見つけると嬉しそうに近づいてきた。
「もう一人でどこかに行ってはダメじゃぞ、ジンに何かあったらわしゃ耐えれんわ」
「ごめんなさいゼフじい。でもレイお姉ちゃんが一緒にいてくれたの」
「おまえさんがジンのことをみておってくれたのか。すまんな助かった」
レイは慌てて涙を拭いてゼフの方を向いた。
「いいや、問題ない。寧ろ助かったのは私の方だ」
「ん?······そうか、それならよかった。 さあジンおいで、帰ろう」
「うん! またねレイお姉ちゃん」
レイはジンの手を掴んでいたかった。そしてもっとずっと、一緒に話していたかった。
「またな、ジン。·····いつかまた、逢いたい」
「うん、私もずっとレイお姉ちゃんのことを忘れないよ」
そしてもう一度ジンはレイに抱きついた。
(ああ、悔しい。でも今の私に、そんな資格なんてない)
レイはそう自分に言い聞かせ手を振っていたジンを何とか取り繕った笑顔で見送った。
ジンの姿が見えなくなった後、レイは急激な喪失感に襲われた。
まるで夢を見ていたかのようで、あれは自分が作り出した幻だったのではないか、本当は存在しなかったのかなどと考え、その場にうずくまってしまったのだ。
(いいや、私は信じてる)
レイは未だ胸に残るあたたかな温度に手を当てて自分を奮い立たせた。
そしてその日からレイの中で何かが変わったのだ。
翌日、レイは朝早くに再び稽古場まで来ていた。
稽古場にはすでにハルトがおり、朝稽古に励んでいた。
「また来たのか····少しはマシになったようだな」
レイの目は昨日までとは変わっていた。レイの中には何としてでも叶えたい目標ができたのだ。
(私はあの子を守る騎士となる。それが私の騎士になる理由であり、生きる理由だ)
この日、レイは誓ったのだ。
ーそして現在
「わっ」
ジンの近くまできたレイは思わず抱きついていた。
「ずっとッ······逢いたかったッ········」
「レイ····お姉ちゃん?」
(······覚えててくれた)
レイはその事実だけで心が満たされた。
「ここは少し場所が悪いな、話したいことは山ほどある」
そしてレイは周りの魔物達を睨みつけた。
「次この子に手を出せば、全員殺すぞ」
「!?······」
冷たく恐ろしい瞳で放たれた言葉に魔物達はひどい恐怖を覚え後ろに下がった。
「さあ、行こうジン」
何故この子は、こんな私の話を真剣に聞いてくれるんだ。
何故私は今、これほどまでに幸せなんだ。
レイの頭の中からはそういった疑問が次々と出てきた。
いつの間にか自分でも気づかないうちにジンと打ち解けあっていたのだ。そしてただ自分の話を真剣に聞いてくれる小さな女の子に自分の全てを委ねていた。迷惑に思われてしまうかもしれないと考えつつも、ずっと自分の目を見ていてくれた少女から目が離せなかった。
(父親も兄もこんな真っ直ぐな目で私を見つめてくれたことなんてない)
この時間が永遠に続いてしまえばいいのに、そう心の底から思った。この瞬間、レイは嫌なことも辛いことも悲しいことも全て忘れることができたのだ。
(こんなにも心の底から笑ったのはいつぶりだろう。······母親を失って以来か)
騎士の家系に生まれたレイにとって生まれてから年の近い女の子と話すという機会はほとんどなかった。
そしてそんな会話の一つ一つが鮮明に頭に刻まれて生涯この記憶決して忘れたくない、忘れないそう思った。
(ああ、楽しい)
好きな食べ物や好きなことなどの些細なことから、生まれてから悩み続けていた家族のこと、今の自分の悩みに至るまでを気づけば全て話していた。そんな話をジンは何も嫌な顔をすることなくただ笑顔になったり、真剣な顔になったりして聞いてくれた。
「す、すまない。話し過ぎたな」
「大丈夫だよ。······でもレイお姉ちゃんは、きっと”かなしい”を一人で背負ってるんだね」
「ッ······」
(ジンは私の言いたいことをまるで知っているかのようで······ただ言いたかったことを素直に口に出してくれた。
そしてジンは、いつの間にか私が入ってしまっていた殻を破って何の躊躇いもなく近づいてきた)
「だから」
「ッ!······」
あたたかくて全てを受け止めてくれそうな何かがレイのことを包み込んだ。
「”かなしい”は一人じゃつらいから誰かと分け合うの。
だからレイお姉ちゃんの”かなしい”は私と半分こ」
その言葉を聞いた瞬間、レイの目からは自然と涙が溢れていた。母の胸の中でしか泣くことのできなかったレイはなぜかジンの胸の中で幸せの笑顔とともに泣いていた。
「うんッ、······もう、大丈夫」
言葉にできないほどの嬉しいという感情が胸の中を埋め尽くしていた。
そして同時にその存在に安心し、身を委ねていた。
(ああ、私はこの子が大好きだ)
レイの心をいつの間にか奪われていた。自分の全てを受けて止めてくれて、かわいくて、優しくて、自分よりも小さいのにとても頼れるジンに。
そしてそんな時遠くから声が聞こえてきた。
「ジーンッ!」
「あっ、ゼフじい!」
ゼフはジンのことを見つけると嬉しそうに近づいてきた。
「もう一人でどこかに行ってはダメじゃぞ、ジンに何かあったらわしゃ耐えれんわ」
「ごめんなさいゼフじい。でもレイお姉ちゃんが一緒にいてくれたの」
「おまえさんがジンのことをみておってくれたのか。すまんな助かった」
レイは慌てて涙を拭いてゼフの方を向いた。
「いいや、問題ない。寧ろ助かったのは私の方だ」
「ん?······そうか、それならよかった。 さあジンおいで、帰ろう」
「うん! またねレイお姉ちゃん」
レイはジンの手を掴んでいたかった。そしてもっとずっと、一緒に話していたかった。
「またな、ジン。·····いつかまた、逢いたい」
「うん、私もずっとレイお姉ちゃんのことを忘れないよ」
そしてもう一度ジンはレイに抱きついた。
(ああ、悔しい。でも今の私に、そんな資格なんてない)
レイはそう自分に言い聞かせ手を振っていたジンを何とか取り繕った笑顔で見送った。
ジンの姿が見えなくなった後、レイは急激な喪失感に襲われた。
まるで夢を見ていたかのようで、あれは自分が作り出した幻だったのではないか、本当は存在しなかったのかなどと考え、その場にうずくまってしまったのだ。
(いいや、私は信じてる)
レイは未だ胸に残るあたたかな温度に手を当てて自分を奮い立たせた。
そしてその日からレイの中で何かが変わったのだ。
翌日、レイは朝早くに再び稽古場まで来ていた。
稽古場にはすでにハルトがおり、朝稽古に励んでいた。
「また来たのか····少しはマシになったようだな」
レイの目は昨日までとは変わっていた。レイの中には何としてでも叶えたい目標ができたのだ。
(私はあの子を守る騎士となる。それが私の騎士になる理由であり、生きる理由だ)
この日、レイは誓ったのだ。
ーそして現在
「わっ」
ジンの近くまできたレイは思わず抱きついていた。
「ずっとッ······逢いたかったッ········」
「レイ····お姉ちゃん?」
(······覚えててくれた)
レイはその事実だけで心が満たされた。
「ここは少し場所が悪いな、話したいことは山ほどある」
そしてレイは周りの魔物達を睨みつけた。
「次この子に手を出せば、全員殺すぞ」
「!?······」
冷たく恐ろしい瞳で放たれた言葉に魔物達はひどい恐怖を覚え後ろに下がった。
「さあ、行こうジン」
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