ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚2

二章 第二十九話 レイの過去

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魔物達は幹部であるレイに気づき、自然に道を開けていく。

「····? 襲ってこない」

レイは自分が目に涙を浮かべているのにも気づかずただ無我夢中に目の前のジンの元へと走り、近づくにつれその足は速くなっていく。。そしてレイの姿を見たジンも大きく目を見開いた。

(やはり、幻などではなかった。本当にいたんだ、本当にッ)

そしてこの時、レイは胸の高まる感情とともに辛い過去と消して失いたくない思い出を思い出したのだ。


今からおよそ8年前。レイはこの時まだ百鬼閣にはおらず、エピネール国があった場所よりも少し北に位置するギルメスド王国という国に暮らしていた。ギルメスド王国は南に位置したエピネール国よりも遥かに大国でありレイはその国に古くから存在するアルベリオン一族という騎士の一族の元に生まれた。アルベリオン一族はギルメスド王国でも一二を争う騎士の家系であり、レイは幼い頃から厳しい訓練を受けていた。

「レイッ! この年になっても何故お前はこんなこともできない!! お前は誇り高きアルベリオン一族の名を汚す気か!」

レイの父親は小さい頃から少し歳の離れた兄よりもレイに厳しくあたっていた。レイはそんな父親が苦手であったが渋々言うことを聞いていたのだ。

(いつもこうだ。小さい頃からずっとこの言葉ばかり)

幼い頃のレイにとって厳しい修行をなんとか乗り越えられたのは母親の存在があったからだ。小さかったレイは父親の厳しい修行の中では泣かなかった。その代わり優しい母親の温かい胸の中でだけ涙を流せたのだ。
しかし、レイの母親は数年前に急死し、レイはしばらく涙を流すことができなかった。

(私は騎士になんてなりたくない、なる理由がない。なのに何故そんなものになる必要があるのだ)

これはレイの本音であった。しかしながら父の前でこの言葉を発するといつも一族のことを話題に出されひどく叱られてしまう。

(母さんのいない今、この剣は誰のために振るえばいいんだ。この体で誰を守ればいいんだ)

唯一、騎士になる理由をつくってくれた母親がいなくなったレイにとって日々の修行などただ強制され仕方なくやっているのものであった。だが自分自身にこれは宿命なのだと言い聞かせ今までなんとかやってきたのだ。

そしてそんなある日、いつものように稽古場へと向かうとそこには兄のハルトと父親が立っていた。

「レイ、今日はハルトと一騎討ちをしろ。結果は見えているが、不甲斐ない試合を見せるなよ」

「······分かりました」

結果は見えているが、という言葉にほんの少しの苛立ちを覚えつつレイは木刀を手に取った。

ハルトはレイよりも背丈が大きく力も大きい。そんな力の差がはっきりとしている兄と戦えと言われたがレイは正直に言ってどうでもよかった。

二人は正面に向き合って木刀を握る。ハルトは真剣な顔でレイを見つめ、お互いに構えの姿勢を取った。
そして父が真ん中に立ち、少しの間静寂が空間を満たす。

「始めッ!!」

その声に応じて二人は同時に一歩目を強く踏み出し互いの木刀が激しく音を立てた。
二人の真ん中で木刀はせめぎ合い、揺れ動く。

「お前には騎士の資格がない。理由も無しにこのまま続けるのであればやめてしまえ」

ハルトの言葉に血が出るほどに唇を強く噛んでレイは俯いた。

「私だって好きでやっているわけじゃないッ! お前に何がわかる!!」

レイは木刀に力を強く込めて激しい口調で言い返した。
しかしハルトは抜いていた力を出すように木刀を強く握りしめ、レイを体ごと弾き飛ばした。

「ならば、お前に続ける理由はない」

兄の冷たい言葉にレイは悔しくてたまらなかった。しかし今の自分には何もできず、尻餅をついてしまった体をゆっくりと起こした。

「ああ分かったよ」

そう言ってレイは扉の方に向かう。

「待てレイッ!」

父親の言葉を無視してレイは稽古場から出ていった。

(続ける理由? そんなものとうの昔に失った。私だってこんな所に生まれたくなかった。お母さんと二人きりで暮らして、普通の女の子としての人生を歩みたかった。勝手に私を巻き込んだのはお前達だろ)

レイはしばらく歩き、夕日が反射しオレンジ色になった川の前で腰を下ろした。

(お母さん、逢いたいよ。逢って抱きしめてもらいたい)

レイは母親の温かい記憶を思い出しながらそこで目を瞑った。


そこから少しの間眠りについていたレイは目覚めると共に体に違和感を感じた。

(ん? なんだこの感触は)

右半身に何かが触れてているような感覚がしてゆっくりと目を開ける。

「なっ」

レイの横には一人の少女が寄り掛かりながら気持ち良さそうに眠っていたのだ。

(こ、この場合どうするのが正解なんだ?)

体験したことのないような経験に戸惑いつつもトントンっと優しく手で触れて起こしてみる。

「おい、どうした?」

少女は目を開けてレイのことを見ると一瞬で顔を赤らめて可愛らしい笑顔で照れた。
そしてそれを見たレイの頭には衝撃が走った。

騎士として生まれた自分が体験したことのないような胸がキュンとするような感覚を感じたのだ。

(こ、これが可愛いというやつか?)

レイは自分の中で当てはまる言葉を探しつつも話しかけてみた。

「こんなところで一人か?」

「その、迷子になっちゃって」

「そうか、私と母親を間違えたのか?」

「うんうん、違うよ。なんというかお姉さん、悲しそうだったから」

「ッ······」

レイは見知らぬ少女に図星を突かれ少し困惑したがなんとか冷静に保った。

「私はレイだ。名前はなんというんだ?」

「私はジン。大丈夫? レイお姉ちゃん」

(この少女から感じる感覚はなんだ。ずっと前に感じたことのある感覚だ)

「ああ、大丈夫だ。一緒に両親を探そう、おいで」

「うんうん、私の両親はもういないの。それにここにいればいずれ見つけてくれるから大丈夫」

「そうか、それは失礼した。······その、どうして私が悲しいと?」

人見知りのレイはいつの間にかジンに話しかけていた。理由は分からなかったがレイは何故か安心したのだ。そしてまるで母親といた時の感覚を思い出し、ゆっくりと少女の方を向いた。
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