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ボーンネルの開国譚2
二章 第二十八話 永遠の愛
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上半身のみが現れたその巨大な骸骨は城壁をも超えるような大きさを誇っていた。「骸の王」と呼ばれるその骸骨は威厳のある出立ちに加え、えも言えぬような異質な魔力を纏い、ある世界からこの世に現れたのだ。
「うぉおおおッ!!」
「クシャルド様ぁ、やっちまえ!!」
撤退をしていた兵士たちはその姿を見て歓喜の声を上げる。しかしそんな中クシャルドはただ一人召喚体を気にすることなく警戒するような顔でパールの方を向いていた。そして兵士たちは撤退する足を止めて目の前の光景に釘付けになる。
「お前達! 死にたくなければ撤退しろ!!」
クシャルドのその必死の叫び声にグラトンは只事ではない何かを感じた。
「お前達、クシャルドの命令が聞けんのか!! ここに止まるものは俺が全員蹴散らすぞ!!!」
それを聞いて立ち止まっていた兵士たちは急いで骸の王の後ろから離れた場所まで撤退する。
(もしあの魔法が本物ならば、骸の王はただの防御壁に過ぎん)
クシャルドは裕に百年を超える時を生きている。そんなクシャルドは目の前でパールが生み出していた魔法に心当たりがあったのだ。
(おそらくあの魔法は、女神のみが使用できる七つの最上位魔法の一つ『アモル・アエテルヌス』。
私がまだ、”肉体”を持っていた頃、『女神の粛清』が起こった時に一度だけ見たことがある。あの少女が生み出した光はあの時私が感じ取ったものとほぼ同質。しかし、なぜ······)
「クレース、もうげんかい」
パールは手の中に生み出した魔法を維持するのが精一杯の状態になっていた。
「ああ、丁度いいくらいの的が出来たな。どこにでも投げていいぞ、威雷で軌道を変えてあのデカブツにぶつける」
「クレース、本当にダイジョウブ?」
「任せろ」
「······行くよ······ッ!」
パールは光の玉を手から話すとその反動で尻餅をついた。しかしその軌道は上空を向き、骸の王からは遠く離れた場所に放たれる。
(間違いない、あれは本当に)
パールからその魔法が放たれた瞬間、クシャルドは確信した。
「ごめんなさい、クレース。上にズレた」
「問題ない」
そしてクレースは少し助走をつけてバキッという地面がひび割れる音と共に上空に飛び上がる。
飛び立ったクレースは威雷を抜刀すると真っ直ぐにその光の元へと向かっていった。
「なっ」
「何やってんだあいつ」
その光景を見て辺りはざわめくが一番驚いていたのはクシャルドであった。
(正気か!? 人間の体が触れれば、一瞬にして消え去るぞ!!)
その驚きを口に出すことなく、クシャルドはただ光の玉に向かっていくクレースに釘付けとなっていた。
そしてクレースは上空でさらに加速する。
空気抵抗など感じさせないようにただただ加速し、いつの間にかパールの放った光の玉の前方にまで辿り着いた。
そして両手持ちをした威雷の剣先を光に向け視界には骸の王を捉える。
「フゥ······」
一瞬の静寂の後、クレースは背中から勢いをつけて威雷を前に振りかざした。
常人では一生かかっても辿り着くことの出来ない鍛え上げられた芸術のような筋肉。
そこからの波動が激しく波打つように刀を伝わる。
威雷の刀身と光の玉が触れ、空気中には重たい衝撃波が四方八方に広がっていく。
威力は拮抗してその場に二つが止まる。
そして威雷から発生した黒雷が光の玉を徐々に侵食し始めた。
(このくらいか?)
クレースは激しい衝撃波が飛び交う中、雷で威力を調整し骸の王へと向かう軌道を計算していたのだ。
(ボルさん、クレースさんは本当にただの獣人ですか?)
(正直ワカラナイ。でも僕達じゃカテナイ。味方でヨカッタ)
そして光の玉は上へと向かう勢いを失いその場に静止した。
クレースは閉じていた目を大きく開けて再び筋肉に力を込める
「おぅらぁあああアアアーッ!!!」
その叫び声と共に光の玉は向きを変え、骸の王の元へと向かっていった。
(ハァ!? 軌道を変えただと! ありえない、ありえんッ!!)
クシャルドは何も口に出さずただ棒立ちになり信じたくないような、しかし目の前で実際に起こっている事実を見つめる。
「逃げろーッ!! 百鬼閣まで退けぇえーッ!!」
同じように放心状態となっていたグラトンは我に帰り一斉に周りに指示を飛ばす。
「「うわぁあああ!!!」」
兵士たちの余裕はすでに消え失せ、太陽のような玉が雷を帯びながら向かってきた。
「ボル!」
「リョウカイ」
ボルはゼルタスは再び握りしめて地面を叩いた。
「隔てろ、ガルドのカベ」
ボルは再びガルドの壁を生み出し、骸の王の後ろにいたクシャルドたちを庇うように壁はそびえ立った。
そして一瞬にして光の玉は骸の王にまで近づき、骸の王は両手を前に出しそれを受け止めようとする。
「ガァアアアアア!!!」
しかしながら光の玉は骸の王を溶かすように徐々にその巨体を消滅させる。
そして骸の王を破壊しながら少し下に軌道を変えた光の玉は地面にぶつかった。
地面は激しい轟音とともに大穴を開けてボルが形成したガルドの壁にヒビが入るとその後一斉に崩れ去った。
そしてようやく、勢いを消したその光の玉は静かに空中に霧散した。
(ありえない)
クシャルドは放心し、兵士たちは腰を抜かし口を開ける。
(死んでいた、間違いなく)
グラトンや兵士たちはその日初めて死というものを実際に感じたのだった。
「よかったぁ、これでジンもなでなでしてくれる」
「少し力み過ぎたか」
「セーフ」
骸の王とクシャルドの召喚した骸骨兵達は一撃によって壊滅したのであった。
その頃、ジンは無事に三階層まで上がってきていた。
「今のはパールの? あれ、クレース?」
異様な量の魔力を感じ少し気になったが今は目の前に集中し、辿り着いた三階で辺りの様子を見回す。
辺りには知能を持たない巨大な魔物達が徘徊する無法地帯となっていた。強者の命令にしか従わないような凶暴な魔物達が辺りをうろつく中、ジンは警戒しながらそっと様子を見た。
すると偶然、目玉が一つの巨大な魔物と目があってしまった。
「あっ」
「ぐギャァああアアア!!」
ジンを見つけた魔物の叫び声に応じて一斉に巨大な魔物達が向かって来た。
そしてそのタイミングで丁度四階からレイが降りてきた。
「ん? 何事だ。 まさか侵入者か?」
レイは騒がしく暴れ回っていた魔物達が気になりその渦へと近づいていく。
そしてその瞳は魔物達の中心にいる少女を捉える。
その瞬間、レイはいつの間にか右手に持っていた剣を落とした。
「あっ····あぁああ」
自然と声が出てレイは一瞬にして頭が真っ白になる。
そして何故かレイは言葉にならない感情を胸にいつしか涙を目に浮かべていた。
声を振り絞って話しかけたいが、どうにも喉がゆうことをきかない。
そして落とした剣を気にすることもなく、レイはその少女の元へと無意識に駆け出していたのだった。
「うぉおおおッ!!」
「クシャルド様ぁ、やっちまえ!!」
撤退をしていた兵士たちはその姿を見て歓喜の声を上げる。しかしそんな中クシャルドはただ一人召喚体を気にすることなく警戒するような顔でパールの方を向いていた。そして兵士たちは撤退する足を止めて目の前の光景に釘付けになる。
「お前達! 死にたくなければ撤退しろ!!」
クシャルドのその必死の叫び声にグラトンは只事ではない何かを感じた。
「お前達、クシャルドの命令が聞けんのか!! ここに止まるものは俺が全員蹴散らすぞ!!!」
それを聞いて立ち止まっていた兵士たちは急いで骸の王の後ろから離れた場所まで撤退する。
(もしあの魔法が本物ならば、骸の王はただの防御壁に過ぎん)
クシャルドは裕に百年を超える時を生きている。そんなクシャルドは目の前でパールが生み出していた魔法に心当たりがあったのだ。
(おそらくあの魔法は、女神のみが使用できる七つの最上位魔法の一つ『アモル・アエテルヌス』。
私がまだ、”肉体”を持っていた頃、『女神の粛清』が起こった時に一度だけ見たことがある。あの少女が生み出した光はあの時私が感じ取ったものとほぼ同質。しかし、なぜ······)
「クレース、もうげんかい」
パールは手の中に生み出した魔法を維持するのが精一杯の状態になっていた。
「ああ、丁度いいくらいの的が出来たな。どこにでも投げていいぞ、威雷で軌道を変えてあのデカブツにぶつける」
「クレース、本当にダイジョウブ?」
「任せろ」
「······行くよ······ッ!」
パールは光の玉を手から話すとその反動で尻餅をついた。しかしその軌道は上空を向き、骸の王からは遠く離れた場所に放たれる。
(間違いない、あれは本当に)
パールからその魔法が放たれた瞬間、クシャルドは確信した。
「ごめんなさい、クレース。上にズレた」
「問題ない」
そしてクレースは少し助走をつけてバキッという地面がひび割れる音と共に上空に飛び上がる。
飛び立ったクレースは威雷を抜刀すると真っ直ぐにその光の元へと向かっていった。
「なっ」
「何やってんだあいつ」
その光景を見て辺りはざわめくが一番驚いていたのはクシャルドであった。
(正気か!? 人間の体が触れれば、一瞬にして消え去るぞ!!)
その驚きを口に出すことなく、クシャルドはただ光の玉に向かっていくクレースに釘付けとなっていた。
そしてクレースは上空でさらに加速する。
空気抵抗など感じさせないようにただただ加速し、いつの間にかパールの放った光の玉の前方にまで辿り着いた。
そして両手持ちをした威雷の剣先を光に向け視界には骸の王を捉える。
「フゥ······」
一瞬の静寂の後、クレースは背中から勢いをつけて威雷を前に振りかざした。
常人では一生かかっても辿り着くことの出来ない鍛え上げられた芸術のような筋肉。
そこからの波動が激しく波打つように刀を伝わる。
威雷の刀身と光の玉が触れ、空気中には重たい衝撃波が四方八方に広がっていく。
威力は拮抗してその場に二つが止まる。
そして威雷から発生した黒雷が光の玉を徐々に侵食し始めた。
(このくらいか?)
クレースは激しい衝撃波が飛び交う中、雷で威力を調整し骸の王へと向かう軌道を計算していたのだ。
(ボルさん、クレースさんは本当にただの獣人ですか?)
(正直ワカラナイ。でも僕達じゃカテナイ。味方でヨカッタ)
そして光の玉は上へと向かう勢いを失いその場に静止した。
クレースは閉じていた目を大きく開けて再び筋肉に力を込める
「おぅらぁあああアアアーッ!!!」
その叫び声と共に光の玉は向きを変え、骸の王の元へと向かっていった。
(ハァ!? 軌道を変えただと! ありえない、ありえんッ!!)
クシャルドは何も口に出さずただ棒立ちになり信じたくないような、しかし目の前で実際に起こっている事実を見つめる。
「逃げろーッ!! 百鬼閣まで退けぇえーッ!!」
同じように放心状態となっていたグラトンは我に帰り一斉に周りに指示を飛ばす。
「「うわぁあああ!!!」」
兵士たちの余裕はすでに消え失せ、太陽のような玉が雷を帯びながら向かってきた。
「ボル!」
「リョウカイ」
ボルはゼルタスは再び握りしめて地面を叩いた。
「隔てろ、ガルドのカベ」
ボルは再びガルドの壁を生み出し、骸の王の後ろにいたクシャルドたちを庇うように壁はそびえ立った。
そして一瞬にして光の玉は骸の王にまで近づき、骸の王は両手を前に出しそれを受け止めようとする。
「ガァアアアアア!!!」
しかしながら光の玉は骸の王を溶かすように徐々にその巨体を消滅させる。
そして骸の王を破壊しながら少し下に軌道を変えた光の玉は地面にぶつかった。
地面は激しい轟音とともに大穴を開けてボルが形成したガルドの壁にヒビが入るとその後一斉に崩れ去った。
そしてようやく、勢いを消したその光の玉は静かに空中に霧散した。
(ありえない)
クシャルドは放心し、兵士たちは腰を抜かし口を開ける。
(死んでいた、間違いなく)
グラトンや兵士たちはその日初めて死というものを実際に感じたのだった。
「よかったぁ、これでジンもなでなでしてくれる」
「少し力み過ぎたか」
「セーフ」
骸の王とクシャルドの召喚した骸骨兵達は一撃によって壊滅したのであった。
その頃、ジンは無事に三階層まで上がってきていた。
「今のはパールの? あれ、クレース?」
異様な量の魔力を感じ少し気になったが今は目の前に集中し、辿り着いた三階で辺りの様子を見回す。
辺りには知能を持たない巨大な魔物達が徘徊する無法地帯となっていた。強者の命令にしか従わないような凶暴な魔物達が辺りをうろつく中、ジンは警戒しながらそっと様子を見た。
すると偶然、目玉が一つの巨大な魔物と目があってしまった。
「あっ」
「ぐギャァああアアア!!」
ジンを見つけた魔物の叫び声に応じて一斉に巨大な魔物達が向かって来た。
そしてそのタイミングで丁度四階からレイが降りてきた。
「ん? 何事だ。 まさか侵入者か?」
レイは騒がしく暴れ回っていた魔物達が気になりその渦へと近づいていく。
そしてその瞳は魔物達の中心にいる少女を捉える。
その瞬間、レイはいつの間にか右手に持っていた剣を落とした。
「あっ····あぁああ」
自然と声が出てレイは一瞬にして頭が真っ白になる。
そして何故かレイは言葉にならない感情を胸にいつしか涙を目に浮かべていた。
声を振り絞って話しかけたいが、どうにも喉がゆうことをきかない。
そして落とした剣を気にすることもなく、レイはその少女の元へと無意識に駆け出していたのだった。
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