ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚2

二章 第三十二話 ベインの違和感

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レイとジンはガルの背中の上に乗って百鬼閣のさらに上階へと向かっていた。

「ガルはすごいでしょ。レイお姉ちゃんは見るの初めてだったよね」

「ああ、ガルというのか、こんなに大きな狼は初めて見た」

「バゥッ!」

「うん、いつもは私が持てるくらいの大きさなんだよ」

「そうなのか、後で見てみたいな」

レイはジンとの会話の中で自分でも気付かないうちに自然な笑顔を見せていた。
閻魁が味方になったことやゲルオードと戦ったという話をジンから聞いたレイは何故か何も驚かなかった。
ただジンと話しているのが幸せでそんなことは関係なかったのだ。

「それでね、今はボーンネルっていう場所で国づくりをしててたくさんの人が協力してくれてるんだ」

「そうか、それは楽しそうだな」

「それでなんだけど······レイお姉ちゃんも、私と一緒に来ない?」

「ッ······いい····のか?」

「うん、もちろんだよ。あの時、小さかった私はレイお姉ちゃんに何もできなかったから。だから今度は一緒に行こ。
わがままかもしれないけど、私は一緒来て欲しい」

そんなジンの言葉を一語一語噛み締め、レイは俯いた。

(何も出来なかっただって? そんなはずない。あの時から私の生きる理由はジンだけだから。私が騎士を目指せたのはジンが理由をつくってくれたから。だから、私の全てを貴方だけにあげる)

そして顔をあげ、レイはずっと出来なかった眩しいほどの笑顔を見せた。

「もちろん、ありがとうジン」

「よかったぁ、これでもうずっと一緒だね」

その笑顔を見てレイの複雑に絡み合っていた心の闇は最も簡単に解けていったのだ。


そしてその後もガルのおかげで順調に百鬼閣を登っていった。

「あそこだな」

四階から五階に繋がる道を見つけ、そこへ近づくにつれてガルの毛が逆立ってきた。

「結界があるみたいだから壊してくるね」

(ロード、お願い)

「待てジン、おそらくそれはヘリアルの結界でっ······!?」

レイが何かをいう前に5階全体を覆っていたヘリアルの結界は最も簡単に壊れ、その瞬間不気味な力が肌をかすめた。

(あの時から感じていたが、今はもうこれほどの魔力が)

そしてヘリアルは結界が壊されたことに気付き、一度龍化を解いた。

「俺が結界を解くつもりだったが、どうやらその必要はなかったようだな」

天井が開け空が見えるその場では依然として自我を失い破壊衝動に呑まれた閻魁が暴れ回っていた。

「あれが、閻魁か」

トウライはジンの横に立つレイを見つけると警戒するような姿勢を見せた。

「レイ、寝返ったのか」

トウライの言葉にレイは呆れるように笑う。

「裏切るだと? 初めからお前達のことなど仲間と思ってなどいない。それに下劣な嘘をついていたのはお前達の方だろ。全部この子から聞いた」

「フッ、今更知ったのか。だが閻魁を暴れさせればお前達などどうでもよい」

(アレ、このヘリアルっていう人どこかであったような)

トウライはレイの方を向いて刀を構えた。それに応じてレイは意思のある武器である「レグルス」という名のハルバードを背中から抜いた。そしてレイは自分よりも大きなハルバードを片手で軽々と持ち上げ、自信に満ちた顔でトウライを見つめた。

「レイ、閻魁のことは私に任せて」

「····ああ、分かった」

(レイ、お前さんの笑顔なんて初めて見たぞ)

(ああ、やっとこの子のために戦える。······負ける気がしない)

(おう、任せてときな)

「お前と戦うのは初めてであったのう。残念じゃが、殺す気で行かせてもらうぞ」

「来い、老兵が」

そしてトウライとレイの激しい戦いが始まった。

「お前はどうする気だ。この状態の閻魁に近づく気か?」

「ちょっとここで待っててね、ガル」

(きっと力を取り戻した時に、何かが一緒に入り込んだんだ)

魔魁玉を吸収した閻魁はかつての妖力に加え、破壊衝動と憎悪の念取り込んだ。そのため今の閻魁の意識は心の奥深くにしまわれ、憎悪の念を胸にただただ破壊行動を行なっていたのだ。
そしてジンは暴れ回る閻魁へと、ゆっくりと近づいていった。

(すぐに、目を覚まさせる)


一方、鬼の社で一人になっていたベインはあることを考え込んでいた。

(魔魁玉から意識を逸らすのは久しぶりだけど、この違和感はなんだ)

魔魁玉への警戒がなくなったベインは、他の細かな部分の変化に敏感になっていた。
そのためそベインは今まで気づかなかったことに対して徐々に意識が向くようになっていたのだ。

「おかしい、この数百年ほど僕はここで一人だったはずなのに」

ベインはこの違和感の原因がわかっていた。だがそんな話はあり得ないと自分に言い聞かせ、他の原因を考える。
だがどれだけ考えてもこの違和感の正体は一つしか考えられない。

「いつからだ。幻術をかけられたのは」
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