ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
71 / 240
ボーンネルの開国譚2

二章 第三十三話 破壊衝動

しおりを挟む
ヘリアルは人型の姿で空中に止まり、ジンと閻魁の様子を観察していた。

(今の奴は完全に破壊衝動に呑み込まれている。おそらく精神に語りかけることは不可能だろうな)

閻魁はただひたすらに暴れ回り、あたりの目に入ったものを次々と破壊していた。
その姿はまさに災厄そのものであり、かつてギルゼンノーズで破壊をし尽くした”閻魁”がそこにはいたのだ。

(これは私の知ってる閻魁じゃない。本当の閻魁は子どもっぽくて、抜けてて、それでいて真っ直ぐで優しい)

ジンは小さな体で巨大な姿の閻魁に近づいていく。

(ん?······気のせいか?)

その時、へリアルは妙な違和感を感じた。
ヘリアルの下で暴れ回る閻魁は無差別にありとあらゆるものを壊していた。
しかしながら閻魁はゆっくりと近づいていたジンの周りをまるで故意に避けるようにして移動していたのだ。

(やはりあの娘が現れてから明らかに動きが鈍っているな。破壊衝動に閻魁の意識が干渉しているというのか。
 だとすれば、厄介だな······それにあの人間)

ヘリアルは高度を下げてジンの少し上の辺りまで下がってきた。
ジンを見るその目からは一切の油断が感じられず、完全なる警戒体制をとったへリアルは一瞬のうちに右手へ魔力を集中させた。そしてその魔力は燃え上がるように赤く、激しく渦を巻く。

「ジークフレア」

へリアルから放たれたそのジークフレアはまさに太陽そのもののように辺りの温度を上げて時間と共に巨大化していった。洗練されたへリアルの魔力はジークフレアの魔力密度を最大限まで引き上げ、空気を揺らす。

「よいのかレイ? あの状況ではお主が大事そうにしていた小娘は死ぬぞ」

しかしレイはさらに距離を詰めてトウライの体制を崩す。
巨大なハルバードとレイの剛力にトウライの刀は弾き返され、トウライの腕に強烈な痺れが走った。

「····グハァッ!」

さらに体制を崩され隙ができた脇腹に重たい拳が繰り出され、トウライの体は軽々と遠くまで吹き飛ばされた。

「ジンが任せろと言ったんだ。舐めるなよ、私の全てであるあの子を」

へリアルから放たれたジークフレアは轟音とともにジンへと向かっていった。

(この魔法は······)

しかし、魔法がジンに放たれたタイミングで突然閻魁はピタリと動きを止めた。
ジークフレアをじっと見つめた閻魁は地面を強く蹴ってその巨体は空を飛んだのだ。

「なっ」

閻魁は空中で拳に妖力を纏わせる。そして目の前のジークフレアとは比にならないような強大な妖力を纏ったその拳は最も簡単にジークフレアを掻き消した。

閻魁は爆風と轟音とともに着地し、その目はすぐ前にいたジンのことをはっきりと捉えた。

「ガァアアアアアあああッ!!!!」

閻魁の中では破壊衝動と元の意識が混じり合い反発していた。
両者は拮抗し、ひどくけたたましいような叫び声とともに閻魁はその場で悶える。

苦しそうに顔を歪め、その感情を発散させるように閻魁は再びその巨体で暴れ回った。

しかしジンは暴れ回る閻魁の足元まで近づいて、足に触れた。
すると閻魁は落ち着いたように再び動きを止め、ゆっくりと下にいるジンを見た。

「帰るよ、閻魁」

その言葉に閻魁は呆気に取られたような顔を見せた。その瞬間、閻魁の身体から何かが一瞬姿を現し、刹那のうちに空気中に霧散したのだ。

そして閻魁は下を俯き、ニヤリと口角を上げた。

「······我、ふっかぁーつッ!!」

「おかえり、閻魁」

「おう、ジン。すまんな少し破壊衝動のやつを抑えるのに時間がかかった」

「なんじゃとっ!? 破壊衝動じゃぞ!」

「どうした、トウライ。だから舐めるなと言っただろ」

「トウライ! さっさと終わらせろッ!」

その叫びとともにヘリアルは龍化する。鋭い牙と黒く硬い爪を生やし、漆黒の翼を羽ばたかせたへリアルはおぞましいほどの雄叫びを上げた。

「止む終えん。龍人族最強たる龍化の力を見せてやろう」

(やっぱり、そうだ)

その時、ジンはあることを確信したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...