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ボーンネルの開国譚2
二章 第三十七話 破壊と破壊
しおりを挟むレグルスを握るレイの顔には少し焦りの表情が見えた。
(おそらく、今まで戦ってきた相手で一番厄介だろうな)
(ああ、分かっている。だが後ろにジンがいるんだ。それだけで何も怖くない)
レグルスを再び強く握りしめ、レイは目の前で異様な雰囲気を醸し出すイルマーダのことをじっと睨んだ。
その瞳には僅かの恐怖心もなくただイルマーダのことを注意深く観察する。そして再び攻撃を仕掛けようとするその時だった。
「——ッ!!」
突然、イルマーダの足元が光り始めた。
そしてその場からイルマーダが飛び立とうとした瞬間、黒く紫色の妖力が全身を囲い込むように出現しそこから出現した無数の手がイルマーダを掴んだ。その妖力は身体全体を覆うように一瞬にして広がりイルマーダは地面に叩き潰される。
「小賢しいッ!!······ッ!」
すぐに妖力を振り払ったイルマーダに畳みかけるように空中から何者かが刀を突き刺した。
刀は紙一重で胸への攻撃を避けたイルマーダの皮膚を掠め、イルマーダが崩れた姿勢から繰り出したカウンターをその人物は体を捻り回避し、空中で姿勢を変えて距離をとった。
「シキッ!?」
その場に現れたのはエルムの兄であるシキであった。
「あれが、エルムのお兄ちゃん」
「ほう、隙をついたようだったが残念だったなッ······」
イルマーダに落ち着くような暇も与えず、シキは高速で刀を突き刺した。それと同時に足場に妖力のトラップを設置し、そこから出現した紫色の手がイルマーダを押さえつけるように足元をグッと掴んだ。
イルマーダは徐々に後ろに下がっていき、時間を追うごとにシキの猛撃は素早く、重たくなっていく。
「—鬼族風情がぁあああアアアッ!!!」
イルマーダは雄叫びを上げ魔力を解き放ち、一度シキとの距離を離す。
「—ッ!」
しかし辺りを見回したイルマーダはすぐに危険を察知する。その周りにはイルマーダを囲い込むように大量の妖力が込められた封印札が設置されていたのだ。
「クソッ、誘導していたのか」
イルマーダはすぐに飛び立つが再び大量の手に足元を掴まれてその場に止まった。
「眠れ、永遠に」
封印札は紫色の妖力を帯びて瞬く間にイルマーダの周りに空間を作り出し、その空間内に強力な重力場が発生した。
イルマーダは押し潰されながらも必死に立ち上がろうとするが、地面に叩き潰される。
「シキ、お前これほどの力······」
「後にしろ、今はこいつを封印する」
イルマーダは徐々に力を弱めていき、一度ピタリと止まった。
そしてそのまましばらく動かず、ただ重たい重力に押し潰されていった。
「様子がおかしい」
シキはその光景をみて警戒をさらに強めた。
すると、押し潰されていたイルマーダは顔に不適な笑みを浮かべ、手の中に黒い何かを発生させる。
「仕方ない、使うか」
それを握りつぶすと、身体全身を覆うようにして今度は黒い何かがイルマーダの体内に入っていった。
「まさか······」
次の瞬間、シキの展開した封印術は黒く禍々しいオーラに押し返され同時に封印札が破れ散った。
「離れろ!!」
シキのその声を聞いてガルは倒れていたへリアルとトウライごとジン達を背中に乗せてその場から一瞬にして離れた。
瞬く間にイルマーダのいた場所から異様な魔力が溢れ出し、高速で遠くに離れていくガルに近づいていく。
「ロード・オブ・ヴォイド(虚無の支配者)」
生み出された虚無空間にガルの周りの魔力は全て吸い込まれすぐ近くから爆風が発生する。
しばらくして激しい魔力の波は収まり、徐々に渦の中心にいたイルマーダの姿が見えてきた。
「ほう、これが”破壊衝動”か。力がみなぎるぞ」
イルマーダはグッと拳を握り締めて内に秘めた魔力量が急激に増加しているのを感じた。
そのオーラは先ほどよりもさらに邪悪で強大なものになっていたのだ。
(やっぱり、閻魁からでた破壊衝動を奪ったんだ)
「破壊衝動に意思を奪われてない」
「なるほど、さっきの閻魁のやつか」
そんな中、シキは再びイルマーダに向かって鋭く刀を突き刺した。
「つまらぬ」
「——ッ!」
イルマーダにまっすぐ向かっていったシキの刀はイルマーダの拳により無残にも先端から粉々に壊れていった。
「シキッ! 一人で突っ込むな!!」
しかし、レイのその声にも耳を貸さずシキは背中に刺していたもう一本の刀を素早く引き抜いた。
そして疾風の如くイルマーダまでの間合いをつめたシキに応じてイルマーダは拳に魔力を込めた。
イルマーダはシキに向かってを正面から素早く突きを繰り出したが、器用に刀で威力を分散させ、シキの瞳は開いた脇腹を捉える。そして腰に仕組んでいた小太刀を一瞬で取り出し、その脇腹に高速で突き刺した。
「グッ······」
しかしその攻撃を読んでいたようにイルマーダは体を回転させ、回し蹴りをくらわしそのままシキを数十メートルほど吹っ飛ばした。激痛に耐えつつ地面に刀を突き刺しながら衝撃で後ろ下がっていくシキにイルマーダはさらに間合いを詰める。
「消え失せろッ!!」
魔力が込められたその拳は全く反応ができないほどの速度でシキの顔めがけて繰り出された。
「「ッ——!!」」
しかし、激しい金属音とともにイルマーダの拳はシキの目の前でピタリと止まった。
そして目の前の状況がよく理解できないままイルマーダは焦りと驚きが混じり合った顔でゆっくりと顔を横に向けた。
「後は任せて、嘘つきなお兄さん」
シキは呆気にとられたような顔で二人の間に立つジンのことを見つめた。
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