ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
81 / 240
ボーンネルの開国譚3

三章 第二話 ジンとお酒

しおりを挟む
「美味しい! こんな美味しい飲み物飲んだことないです!」

エルムは果樹園で飲んだ初めてのジュースに目を輝かせほっぺに手を当てた。

「それはよかったですわ、エルムちゃんたくさん飲んでいってくださいね」

「はい! ありがとうございます」

するとそこへパールとガルを抱えたジンとレイが入ってきた。

「ジン様! ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりましたわ」

「ごめんね忙しい時に。それとこっちはレイだよ」

「いえいえジン様が迷惑だなんて、お顔を見れただけで満足です。初めましてレイさん。これからよろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」

「ジンおいで。レイ、お前姿が見えなかったがまさかジンの家に侵入とかしてないだろうな」

ギクッ—

「お前その反応······」

「いや、まあお前には関係のないことだろ。私は満足したからなそれで構わない」

レイは吹っ切れたようにしてそう自慢げに話した。

「クレースも私の家によく侵入してるでしょ」

「二人ともわるい、ジンはわたしの」

「あはは、まあとりあえずレイは何を飲む?」

「そうだな、私は······」

レイはメニューを見て固まった。そして聞いたことのないようなメニューの数々に思考が停止し、頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

「そのぉジンと······一緒のもので」

「ガルとパールはミルクでよかった?」

「うん、そうする!」

「バゥッ!」

「かしこまりました、少々お待ちを」

「みんな宴の準備楽しそうだね、私たちも飲んだらすぐに手伝いに行こっか」

「そういえば、エルムとレイは今日どうする? 多分今日は宴があるからまだ家が完成できないと思うんだけど·。よかったら私の家に来ない? ちょっと狭いんだけど」

「ああ、もちろん!」

「いいんですか! 私、ジンお姉ちゃんの家がいいです!」

「では私もそうする、レイが何をするか分からないからな」

「お待たせしました、アップルジュースとミルクですわ」

「これが、ジュース······」

レイは初めて見るジュースに不思議そうな顔をした。生まれてからジュースというものに接点がなかった上に今までお酒すらも飲んだこともなかったのだ。そして恐る恐る口に入れたレイはガッと目を見開きゴクリと飲み込んだ。

「おいしい·····」

「よかったぁ、美味しいよねアップルジュース」

「ウフフ、気に入って頂けてよかったですわ」

「宴の準備、夜までに間に合いそうかな?」

「ああ、ゼフも張り切っていたからな。同時並行でボルたちが建設も行なっているようだ」

「ん? エルムどうかしたの?」

エルムはもじもじと何かを言いたそうにして下を俯いた。

「何でも言っていいんだよ、私にできることなら何でもするから」

「その、私も料理をつくってみたいです。私もジンお姉ちゃんみたいに料理ができるようになりたいです」

「ほう、いいじゃないか。料理担当といえばヴァンのところに行くか」

「そうだね、じゃあ取り敢えず行こっか。ありがとうね、リエル、ルース」

「はい、いってらっしゃいませ。また来てくださいね」

果樹園を出た後、外は盛り上がり活気に湧いていた。宴の準備としてヴァンとコッツを中心として大量の食べ物を作るグループ、ボルを中心として建設作業をするグループ、エルダンとガルミューラを中心として会場づくりをするグループに分かれて各種族が関係なく準備を楽しんでいた。

「······そういうことなんだ、コッツ」

「分かりました、エルムさんですね。私もまだまだ未熟ですがよろしくお願いします。ではこちらでやってみましょうか」

「じゃあ私たちも一緒にしよっかな」

そこに疲れたような顔も見せずグゥーっと伸びをしながらヴァンが集会所から出てきた。

「そういうことなら頼むぜ。さっきトキワの兄貴とリンギルが狩りに行ったからもうちょっとで戻ってくるはずだ。」

「あれ、ボル何つくってるの?」

「この際だから公共施設も整えておいたほうがいいかなとオモッテ。広場に噴水と公園をつくっテル。宴の準備はヒュード族に任せテル」

「おーいッ! 持ってきたぜヴァン!」

するとそこに狩りを終えたトキワとリンギルが戻ってきた。トキワの近くには巨大な牛や魚だけでなく、さまざまな山の幸が乗った巨大な荷車があった。

「ありがとよ兄貴、リンギル。よし! じゃあ早速やるか」


その後全員で食事の準備をし、待ちに待った宴を迎える。

「みんな準備ありがとう! みんなお腹空いてると思うから思う存分飲んで食べて楽しんでね! それじゃあ······」

「「カンパァーイッ!!!」」

乾杯の音頭とともに辺りの盛り上がりは最高潮に達する。
するとどこからともなくヒューッという音とともに何かが夜空に打ち上がる。

その音で皆は空に目をやり次の瞬間、巨大な音とともに夜空に美しい花火が煌めいた。

「わぁ! きれい······」

「ゼフか、姿を見ないと思ったら······さすがだな」

「ガハハハハッ!!! 美味いぞ! 我の舌に合うな!!」

そんなことは関係ないとばかりに閻魁は食事にがっついていた。

「閻魁、それはエルムが頑張ってつくったからちゃんと味わって食べなよ」

「うむ、そうだったのか。やるではないかエルム」

それを聞いて閻魁はゆっくりと噛み締めるようにエルムの作った魚料理を食べた。

「そ、そうですか······嬉しいです」

エルムは恥ずかしそうに顔を赤らめながら美味しそうに自分の作った食べ物を食べる閻魁たちに幸福感を覚えた。

(わたし······)

「レイ、どう? 楽しいでしょ?」

「ああ、祭りというものは聞いたことがあったが······その、楽しいな」

「よかった。でもレイはお酒飲めるんだね、二杯目?」

「ああ、これはお酒だったのか。てっきり昼に飲んだアップルジュースだと」

レイは気にせずさらにグビグビとお酒を飲んでいった。

そんなお酒を飲んでも全く平気なレイとは対照的にガルミューラは酔い潰れ、いつものクールなキャラがすっかり壊れていた。

「おぉい、トキうぁもっと飲めッ! まだまだ宴は始まったばきゃりだぞッ」

「ああそうだよ、まだ始まったばかりなのになんでお前はこんな酔ってんだよ」

「あぁあ? 私の、どこがよってぇるっていうんだ」

「それが酔ってるんだよ」

「ごめんトキワお兄ちゃん、お姉ちゃんはお酒がとっても弱くて」

「俺は止めたんっすよ、トキワさん! あとは頼むっす!」

スタンクは我関せずといった顔でニカッと笑うとどこかへいってしまった。

「はぁ、おいおいまじかよ。お前それ何杯目だ?」

ガルミューラが右手に持っていたグラスにはまだ半分以上たっぷりとお酒が入っていた。

「············」

「お姉ちゃんまだ一口しか飲んでない」

「何で飲んでんだよッ!!」

「だめぇ、なのか?······」

「おいおい、今度はどうしたんだよ」

ガルミューラの酒癖の悪さにため息を吐きながらもトキワはその後もだるそうに付き合った。そんな二人の姿をみてミルは笑顔でその場から離れたのだった。



「クレース、何をしとるんじゃ?」

花火を打ち終えたゼフはインフォルとともにお酒を飲み少し顔を赤くしながらクレースにそう聞いた。クレースは何やら鼻歌を歌いながらモコモコのパジャマを畳んでいたのだ。

「今日はジンの家に泊まるからな、そういえばジンは······ あっいたいた」

クレースがジンを見た時ちょうどジンは何かを口にしていた。

「おいクレース、ありゃあ······」

ゼフはジンの持っていたグラスを見て「あっ」という顔をする。

「ジンちゃん! それは!」

ジンはその飲み物を口にすると一瞬だけ顔がポッと赤くなった。

「ジン··········? どうしたんだッ!?」

するといきなり、ジンは下を俯いてうとうとし始めた。そしてゆっくり顔を上げると目の前にいたレイの胸に向かってバッと抱きついた。

「ッ!!?」

「レ~イ~だっこぉ」

「「!!???」」

いきなりのジンの行動に周りの視線が一瞬にして集まった。クレースとパールに加えてゼグトスが大慌てでその場に駆け寄っていった。

「もっとギュッてしてぇ」

「ああああ、ああわわわ、分かった。こうか」

「レイ、もしかしてジンの持ってるそれは、酒か?」

「いいい、いやっ、たたた確か普通の」

顔を真っ赤にしながらレイは自分の手に持ったグラスを見た。

「あっ、いいいい、入れ替わってる!」

「あ、クレースだぁ。クレースぅ、だっこしてぇ」

それを聞くなりクレースはバッとジンを抱きかかえお姫様抱っこをした。

「もうねむたい、でもとなりでなでなでしてくれないとねむれない」

((かっ、かわいい))

「あぁあかわいいなぁジン、そうかぁ眠たいかぁ。一緒に寝ようなぁ。その前に一緒にお風呂に入ろうなぁ~よしよし~」

デレッデレになった顔でクレースはジンの頭を優しく撫でた。

「えへへぇ、うん、しょうする」

そしてクレースの胸に顔を埋めるとジンはそのまま眠ってしまった。

「クレースさん、お願いです! もう少しだけ見させてください!!」

「おうジンは酔うと随分変わるのだな。ガハハハ! つまりお酒の強さは我の方が上ということだな!!」

「ジンお姉ちゃん、かわいい」

「わたしもジンにあまえてもらう」

「お、おいクレース。今日ジンは私と寝るんだぞ」

「フッ、早い者勝ちだろ。では私はこれで、後片付けは頼んだぞ」

「リョウカイ。ゆっくり寝させてアゲテ」

そしてクレースはジンを抱きかかえてレイとパールと一度集会所の温泉まで戻っていった。

「ジンは相変わらずお酒にめっぽう弱いのうインフォル」

「せやなあ、ほんであの状態のジンちゃんは意味わからんぐらいかわええなあ」

一同は幸せな気分になりながらも宴は夜通し続いたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...