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ボーンネルの開国譚3

三章 第八話 そして王となる

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この日、ボーンネルに住む各種族の代表たちが長い間を経てようやく一つの場所に集まることとなった。
それぞれの種族は数名の付き添いのものに加え、龍人族からはエルバトロスとラルカが、エルフ族からはリンギル、リエル、ルースの三人が、剛人族はエルダンが、そして骸族からはクシャルドに加えハバリとギルスという骸族のものがくることになった。

「もう少しでクシャルドが骸族のものを連れてくるそうだ」

「わかった。ラルカたちはもう少しかかりそう?」

「ああ、少し距離があるからな。こちらの準備はもうできてるからあとは待つだけだ」

「ジン、クシャルドが戻ってキタヨ」

「わかった。すぐに行くよ」

集会所から外に出るとクシャルドの連れてきた骸族のものたちは物珍しそうに辺りを見回していた。

「クシャルド様、ここは見たことのないようなものばかりですね。仰っていた通り素晴らしい場所だ」

「クシャルド様、あちらで手を振っていらっしゃる方は?······」

「あの方がジン様だ。少し待っててくれ」

軽装で長身のハバリは少し離れた場所で手を振っていたジンの姿を見つけた。そしてクシャルドもジンを見つけると急いでジンの方へと駆け寄っていった。

「ジン様、お待たせいたしました。我が同胞の者たちを連れて参りました。あちらの二人が先日魔力波で通信をしていたハバリとギルスでございます」

「そうだったんだ。会うのは初めてだね、わざわざ来てくれてありがとうね」

「いえいえ、クシャルド様のおっしゃっていた通りお美しい方で。私がハバリでこちらがギルスでございます」

「ジン様、もう龍人族の方たちは来ていますか?」

「うんうん、もう少しかかりそうだからあっちでご飯たべてくる? エルフと剛人族もあっちにいるから少し話せると思うよ」

「そうでしたか。お心遣い感謝致します。ではそうさせて頂きます」

そして骸族たちはクシャルドに連れられてそのままヴァンのレストランに向かって行った。

「それで閻魁、どうして隠れてるの?」

ギクッ——

「ま、まあ大した意味はないぞ。別にお主がいつもより少し緊張しておるから様子を見に来たわけではない」

「あはは、ありがとう。大丈夫だよ」

閻魁はもう一度ジンの方を向いて少し照れくさそうな顔を見せ、口を開いた。

「ジン、お主は他の者よりも感情を表に出さないようにするのが得意だと我は知っておるぞ」

「ッ—」

閻魁は変なところで敏感だ。こう見えて私や他のみんなが気づかないようなことに気付いたりする不思議な力を持っている。

(もしかして顔に出てたかな)

「我は、人間など到底生きられないほどの長い時を生きておる。だからお前は、まだ我に比べれば赤子同然なのだ。だがなジン、お前はこの我が認めるほどの何かを持っておる、それだけは確かなのだ。長き時を生きた我が今まで見たことのないようなものをな。だから誇れ、鬼帝ゲルオードが、そしてこの我が認めたお前自身を」

そしてガッと腕を組んで今度はジンの顔をしっかりと見つめた。

「この閻魁がはっきりと言ってやろう。 お前は、王に相応しい」

その顔はいつになく真剣でその目はいつになく真っ直ぐだった。

「······ありがとう。うれしい」

少し照れながら笑うジンの顔を見て閻魁はニカッと口角を上げた。

(そうだ、常に笑っておればいい。お前のようないるだけで周りをこのような感情にするものを我は知らん。······もし神とやらがおるのならば感謝するぞ、こやつと会わせてくれたことを)

「ではな、気負うなよ」

そして閻魁はそのままいつものように大きくお腹を鳴らしてご飯を食べに行った。

「フッ、少し顔が和らいだか? 可愛いのは変わりないが」

「うん。やっぱり優しいね、閻魁」

少し落ち着いた心でその後もしばらく待っていると強大な魔力とともに巨大な存在が近づいてきた。

「キタ」

「おう、ありゃあすげえ迫力だな。全員龍化してんじゃねえか」

巨大な龍の姿をしたエルバトロスとラルカが仲間を数名の仲間を引き連れながらやって来たのだ。バサリっという大きな音と巨大な翼から出る大風を辺りに発生させながらエルバトロスたちはジンたちの目の前にゆっくりと降りてきた。

「ジン様っ!」

ラルカは龍化を解くと嬉しそうな顔ですぐに駆け寄ってきてそのままバッと抱きついた。
それに続き他の者たちも龍化を解いていく。

「お待たせして申し訳ありません。エルバトロス様、こちらがジン様ご本人ですわ」

(ラルカ懐きすぎじゃね?)

「実際にお会いするのは初めてですな。お初にお目にかかります、改めましてワシが龍の里を治める龍人族の長、エルバトロスであります。本日はお招き頂き感謝致します······あ、昨日話した通り、ワシにはタメ口でオッケーで、ジンちゃん」

「え、エルバトロス様、いつの間にそんな仲良く」

「こちらこそ初めまして。わざわざ来てくれてありがとう。実は昨日の夜も話してたからね、優しそうな人って分かってたよ」

「そ、そうでしたか。それはよかったです」

そしてラルカは昨日ジンに言っていたことが杞憂だったことにホッとした。各種族で軽く挨拶を交わすとようやく四種族が一つの場所に集まった。ボルが設計した大きな丸テーブルは自由自在に直径を変え、大人数がその丸テーブルを囲むようにして座った。

「ジンちゃん、ラルカから閻魁がいると聞いたのだが本当か?」

「ああ、閻魁ならジッとしてられない子だから外で遊ばしてる」

「そうじゃったか、本当だったのだな。すまんなでは始めてくれ」

「うん。じゃあ改めて、みんな来てくれてありがとう。見た感じ、みんな仲良さそうでよかったよ。私は初め、この国で争いが無くなるために王になろうって決めから今の感じがとっても嬉しい。だから正直、みんなが仲良くなっちゃったら王様になる必要なんてないかなって思ってたんだ」

そう、それは嘘偽りのない本音だった。目的が達成されればわざわざ王になる必要はないのだ。

「······ジン」

「だけど·······みんなと暮らして、建物を建てたり、美味しい料理を食べたり、温泉に入ったり、宴をしたり、一緒に寝たりして改めて思ったよ。本当に幸せだって、だから私のわがままだけど、この幸せがずっと続いて欲しい。もっとたくさんのみんなと色々なことをしてみたい。だから私は王になっても、統治なんてするつもりは無いんだ。ただ楽しく暮らしたい······だからその代わり、王として絶対に誰も苦しませたり、悲しませたりしない。必ず、全員を幸せにする。
そしてそれが、王になる私の覚悟だよ」

「「ッ—」」

その言葉を聞いて皆はゴクリと息を呑む。後ろいたゼグトスは体を打ち震わせ、クレースは無意識に目に涙を浮かべていた。ジンの言葉とその覚悟は確実にその場にいたもの全員の胸に届いたのだ。

「ハッハッハッ!」

そしてその空間をエルバトロスの大きな笑い声が包み込んだ。

「よく言ったジンちゃん、ワシは一向に構わんぞ。ますます気に入った」

「だから言ったでしょうエルバトロス様。ジン様は素晴らしい御方なのですよ」

「ジン様、私たち骸族もぜひ貴方様の元へ」

「我らは元よりジン様に忠誠を誓っております。これからも我らの王として一生の忠誠を」

「そうです。剛人族の俺たちも貴方様に一生の忠誠を」

「みんな······ありがとう」

「ではジンちゃん。ワシらもここで暮らしても良いのか? 正直言って龍の里は魔力濃度が高くて若いものが暮らしにくいのだ」

「もちろん。ハバリとギルスもここで暮らさない?」

「ええ、是非とも。こちらからお願い致します」

「じゃあこれからはみんな一緒だね」

「よし。では私がここに宣言させてもらう。
 今日この時より、ジンをボーンネルに住む全種族の王とする」

クレースの声に続いて皆はその場で頭を下げた。
こうして、ジンはボーンネルの王となったのであった。
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