ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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中央教会編

四章 第一話 ウッドマンと剣帝の使者

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レイの故郷であるギルメスド王国には人類の最高権力である中央王権教会、一般には中央教会と呼ばれる場所が存在する。この中央教会は魔物をランク付けし、魔物の強さの基準というものを初めてつくりだした存在でもある。
そしてこの中央教会が他国から警戒され、人類最高権力と言われるのはこの地を治める剣帝、「バリオンド・ベオウルフ」の存在が大きい。ベオウルフはその実力と誰よりも民を愛するその思いにより剣帝まで成り上がった実力者である。

「そのゲルオードが気に入ってるやつってのはどこのどいつだ?」

「はい、ボーンネルで新たに誕生したジンという名の王にございます。ですが、 ベオウルフ様がお気になさるほどではないでしょう」

「ボーンネルのジン······か。まああいつが認めるほどのやつだ。それなりには見所がありそうだな」

「報告によれば、どうやらすでにエピネールを支配下に入れたようです」

「ああ、エピネール商会があるところか。まああそこは商会以外は無能だからな。それと閻魁もボーンネルに行ったてのは本当か?」

「それに関しては未だはっきりとはしませんが、鬼帝が関わっているためその可能性は高いかと」

「なるほどな······ちっと興味が湧いてきたな。ロンダートの奴が暇そうだったな。あいつに向かわせろ」

「かしこまりました」


そしてボーンネル。

「そうだよね、エピネールにいた国民をどうしようか」

正式に隣国にあったエピネールと併合した今、エピネールに住んでいた国民たちはボーンネルの国民となる。しかし突然国民に説明をしたところで国民を不安にさせてしまうだけなのだ。

「ですがジン様、ご心配には及びません。国民の重税が消え去り、貴族たちが失脚したのは全てジン様方のおかげだと私が国民に流布しておりました。ですので今回の件を国民たちは快く受け入れる姿勢のようです。それに、ジン様とクレース様はエピネールの一件以来、いい意味でかなりの有名人ですからご安心を」

「そうだったんだ。でも突然生活が変わるのも嫌がるかもしれないからとりあえずは公共施設の整備とエピネールの人の要望に答えてできる限りのことはしてあげられるようにお願い」

「かしこまりました、お任せください」

王様になってからかなり大変になるかと思ったけど、みんなが助けてくれるから思っていたより忙しくはなかった。寧ろもっとたくさんのことをやりたいという私の要望に答えてみんなが動いてくれてさらに生活が楽しくなっていったのだ。
しかし何よりも嬉しいと思ったのは種族同士が垣根を超えて仲良くしていること。これが本当に嬉しいのだ。

「ん? 今誰かいたような気が······」

(じ····ン·····?)

(やっぱり誰かいた気がする)

「どうしたジン?」

「ちょっと外に出てくるね」

「一緒に行こうか?」

「大丈夫。すぐ戻るよ」

集会所から出て気配が感じた方へと向かっていった。

(シュレールの森の方か)

「······木?」

ゆっくりと歩いていくと目の前にお尻をフリフリとさせながら慌てたようにシュレールの森に向かって走っていく小さな木のようなものが見えた。

「おーい!」

「ハッ!」

呼びかけると一瞬だけこっちを向いて再び焦ったように小さな体で急いで走っていった。本人は頑張って走っているつもりのようだったが、一歩がとても小さかったので、少し走るとすぐに追いついた。そしてその木はビクりと体を震わせて両手を上げた。

「こんにちは」

笑顔で話しかけるとその木はハッとした顔とともに口をモゴモゴとさせた。

「じン」

「そうだよ私の名前はジン。初めまして、そんなに怖がらなくていいよ。あなたのお名前は?」

「ごめんなさい。ぼく誰?」

「······し、知らない」

「ぼくも知らない。つけて」

「じゃあ、ブレンドとか?」

「うん。それ」

波長があったように天然二人の会話はスムーズに進んだ。他に誰かいればおそらくあまりの脈絡の無さに会話はここまでスムーズには続かなかっただろう。

「ぼくひとり。一緒に住む?」

「うん、いいよ」

それを聞くとブレンドはジンに小さな手をバッと広げ抱きかかえてアピールをしてきた。そしてその小さな体を抱きかかえるとそのまま一度集会所に戻っていった。

「······ということがあったんだ。それでこの子がブレンドだよ」

「ほう、こりゃあわしも見るのは久しぶりじゃな。木人族ウッドマンと呼ばれる種族じゃ。木の根から生まれるが、一つの森に一匹でも現れればかなり珍しいものじゃぞ。非常に警戒心が強い種族で有名じゃがよく見つけたな」

「私は初めて見たぞ。珍しい種族なんだな」

「リンギルたちも?」

「はい、話は聞いたことがありますが実際に見るのは初めてです」

「うう、取れちゃう」

「あっ、ごめんなさい」

パールが引っ張ったブレンドの体は伸縮性を持っているようで自由自在に伸び縮みした。

「ブレンドはいつも何食べてるの?」

「これおいしい」

「えっ」

そう言うとブレンドは自分の手をムシャムシャと食べ始めた。しかし感覚がないのか何も痛そうな様子を見せず平気な顔で自分の右手の枝を食べ続ける。

「ブレンド、それは食べ物じゃなくて自分だよ。うーん、これなんか食べてみたらどうかな」

とれたばかりの新鮮なリンゴをブレンドに差し出すと、不思議そうな顔をして小さな口でむしゃりとかじり付いた。
硬そうなリンゴを噛み切れたことに自慢げな顔をしながら、ブレンドはむしゃむしゃと音を立ててゆっくりとリンゴを咀嚼した。

「じゃあこれ好き」

「よかった、もう自分の手は食べちゃダメだよ」

「うぃ」

ブレンドはその後もむしゃむしゃとリンゴを食べ続けた。
その後、しばらくテクテクと集会所のジンの部屋を歩いて疲れるとそのまま眠ってしまった。

「ジン、少しいいか?」

「どうしたのレイ?」

「おそらくだが、ギルメスド王国からここに偵察しに来ているものがいる」

「ギルメスド王国ってレイの····」

「そうだ。少しだが昔に見たことのある紋章が盾に見えた。スタンダートというギルメスド王国で私のアルベリオン一族と同じく有名な騎士の家系だ」

「わざわざどうしたんだろ。何か知ってる?」

「いいや、正直意図は分からないがあそこの奴らはあまり好かない。剣帝に媚びへつらうものが多いからな」

するとドアが開きエルフのものが入ってきた。

「ジン様、ギルメスド王国からジン様に会いたいという方がいます」

「随分大胆だな、馬鹿なのか」

「わかった」

そのまま外に出ると何やら大柄の男が集会所から少し離れた場所に横柄な態度で立っており、その横には護衛と思われるものたちが何人かついていた。そしてその様子が気になり多くのものが作業を中断して近くまで来ていたのだ。

「フンッ、なんだここは、魔物ばかりがおるではないか。同じ空気を吸いたくないものだ」

「ロンダート様、仮にもベオウルフ帝王閣下の御命令です。失礼のないようにお願い致します」

「分かっておる。ん? 獣人だったか?」

ロンダートというその男はジンの横にいたクレースを見つけると近づいていった。

「おい獣人、お前がジンというものか?」

クレースはそれを聞くと「あ?」という嫌な顔をしてロンダートを睨んだ。

「我は偉大なるスタンダート一族の騎士、ロンダートである。この度は剣帝ベオウルフ様の勅令によりこの場に参った。光栄に思うが良い」

「お前のことなどどうでもいい。それにジンならこっちだ。私なんかと間違えるな」

ロンダートは一回首を傾げるとニヤリと口角を上げた。

「······クッ、クハハハハハッ!! 冗談ならかなり面白いものだな。こんな小娘が王だと? さすが小国だな、それならばそこいらの平民でも王になれそうだな。ああ愉快愉快ッ!」

ロンダートがそう口にした次の瞬間、辺りの空気が凍りついた。
そして圧迫するような周りからの視線に思わずロンダートと護衛の者たちの息が詰まる。

「ッ——!!」

一瞬のうちに周囲の魔力濃度が上昇し、重たい威圧感が空気を揺らした。
爆風とともに龍化したラルカとエルバトロスは怒りの雄叫びを上げ、巨大化した閻魁からの激しい威圧がロンダートを一気に呑み込む。
極大の魔力弾を右手に持ったゼグトスの隣では「炎」と「「ゼルタス」を力強く握りしめたトキワにボルが怒りの表情でギロリと睨み、怒気が現れた顔つきを見せた。
そしてクレースとレイは爆発寸前の怒りを抑えながらロンダートの首筋まで剣を突きつけ、完全にブチギレた顔で尻餅を着いたロンダートにさらなる圧をかけた。

「今からでもお前の国と私一人で戦争するか?」

尻餅をついたロンダートはそのまま恐怖の顔を浮かべながら、荒い息で後退りをした。

(死ぬッ!! こんなバケモノがおるとは聞いていないぞッ!?)

さらに息遣いが激しくなり自然とロンダートの体が震え上がった。

「はい、みんなここでは暴力禁止だよ」

しかしその重たい雰囲気はジンの言葉で何も無かったようにスッと止んだ。

(た、たった一言で······)

「おいお前、ジンに感謝しろよ。我が本気を出せばお前など今すぐにでも殺れるぞ」

「は······はい」

「お前はスタンダートの名を汚した。騎士として恥じろ」

「ッ············」

「失礼致しましたッ!! こちらの方の御無礼を心からお詫びします。ベオウルフ様直属の私が代わりに謝罪致します」

その護衛は深々と頭を下げ、魂が抜けたようなロンダートを起こし上げた。

「どうかこの方をお許しください。また日を改めて訪問させて頂きます······さあ行きますよロンダート様」

そしてロンダートを連れ、護衛の者たちはそのまま帰っていく。

「部下の方が優秀だな。それにしても腹が立つ」

「ええ、全くです。ジン様、どういたしましょう。ご命令とあらば中央教会を壊滅させることも可能ですが」

「だ、ダメだよ。気にしてないからさ」

「ジン、ギュッてしてあげる」

「ありがとうパール」

「にしてもあいつ、こけすぎじゃねえか?」

すたすたと歩くロンダートは歩く度に何かに引っかかって何度も派手に転んだ。

「ブレンド?」

ブレンドはジンの方を向いてニッコリと笑いガッツポーズをした。

「やったぜ」

どうやら魔法で植物を操ってロンダートの足を引っ掛けていたのだ。

「おっ、なんだあいつ。知り合いか?」

「うん。ブレンドだよ。おいで」

名前を呼ばれるとブレンドは嬉しそうに小さな足で一生懸命駆け寄ってきた。

「木人族ウッドマンっていう種族みたい。かわいいでしょ」

「うむ、これはワシも初めて見たのう。ジンちゃんに懐いておるみたいじゃ」

「ぼくブレンド。うぃ」

ブレンドのお陰で辺りは笑いに包まれ、すっかりと元の様子に戻っていったのだった。
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