ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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中央教会編

四章 第二話 洗って返してくれるらしい

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「それで、恥を晒したってわけか」

「······はい。本当に申しわけありません」

ギルメスド王国に帰ったロンダートはベオウルフ直属の護衛の報告により窮地に立たされていた。

(クソッ、勝手に言いやがって。それに聞いてないぞ、あんなバケモノ)

「お前も一応スタンダートの騎士だ。そんなお前が手も足もでなかったのか?」

「は、はい。どうやら閻魁がいるというのは本当のようです。それに龍化が可能な龍人族が二匹もおりました」

「······そうか。それでジンというやつはどうだった」

「一見すると、何の気迫もないただの少女の姿をしておりましたが、あの化け物連中の怒りがその少女の一声だけで収まりました。ただ他の者たちの印象が強かったゆえ、あまり強そうには思えませんでした。ですので、おそらく戦力としてはあまりないのかと思われます」

「なるほどなあ」

(だがゲルオードがそんな奴を認めるか? 流石にちょっとぐらいは強えよな······)

「分かった。今回だけは面白え話が聞けたから許してやんよ。それとお前は二度とボーンネルに行くなよ」

「ハッ!」

(た、助かった。二度と行くか、あのような場所)

そうしてロンダートはなんとかこの窮地を脱したのだった。ロンダートが小国で恥を晒されたというその話はいつの間にかギルメスド王国に広がり、貴族の耳や多くの騎士たちの耳にも届いた。

「ベオウルフ殿、小国の者如きにこの国の騎士が負けたということが広まれば、民からの信頼だけではなく、他国からの評価が下がってしまいますぞ。早急に手を打つべきにございます」

そう言うのは、司聖教しせいきょうと呼ばれるギルメスド王国にいる五人の者たちである。司聖教たちは下は平民から一番上は剣帝まで分かれている階級の中で剣帝の次に高位の立場にあるため、発言力も大きいのだ。

「まあそうは言っても今回の件はアイツが完全に悪いからな。小国でもそれくらいの戦力があったってだけだ」

「ですが······分かりました」

司聖教たちは少し不満げな顔を浮かべたが我慢するようにその場でグッと押し黙った。五人の司聖教の瞳は何かを企むようでベオウルフもその様子を若干ながら感じ取っていた。しかしながらそれ以上会話は為されずそのまま進展のないまま会話は終わったのだった。



この数日の中でブルファンたちと何度か話し合いの機会を設けた。
どうやら思ったよりここは噂になっているらしく他国からも注目されているらしい。
多くの国から書簡を受け取り、返答がないことに腹を立てて何度も送ってくる国もあったが、一応ゲルオードが後ろについているため、実際に戦闘行為に及ぶようなものはなかった。

ゼフじいが言うには友好関係を結びたくないような国にいちいち対応していても意味がないから、信頼できる国と時間をかけて関係を築いていくのが大切らしい。
でも外交は私にはあまり分からないから、かなりボルやクレースに任せたりすることも多かったりするのだ。

それにしても最近、一気にここは賑やかになった。
街道の整備や各種施設はさらに発展し、人口に合わせてレストランや温泉などが増設された。至って順調なのだ。
ちなみにエルムは料理の腕をメキメキ伸ばしているらしく今では一人で料理を作り提供するということまでできている。そして今は機械兵の開発を頑張ってくれているギルバルトの元へと来ていた。

「順調そう? あまり無理はダメだよ」

「は、はい。俺のところなんて来てくれてありがとうございます。ゼグトスさんのおかげで開発は順調です」

ギルバルトの近くにあった机には何度も書き直された設計図や細かな部品が丁寧に置かれ、努力の後が多く見られた。
どうやらゼグトスの案を受け、以前よりも改良が進んでいるらしい。

「頑張ってるんだね。ありがとう」

「いっ、いえ俺はまだまだで······」

「そんなことないよ、きっとこの努力は報われる。何か必要なことがあれば言ってね」

「ハッ、はい! お任せを」

次にラルカの元へといった。洋服店の中に入るといい香りが漂い、おしゃれな家具が並べられていた。リラックススペースと同じようにのんびりできる雰囲気がある。ラルカの洋服店では現在、完全なるオーダーメード制となっている。お代などはかからず素材もいらない。どうやら本人が好きでやっているようなのだ。

奥に入っていくとラルカは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。

「ジン様、新しいお洋服が出来ましたわ。ぜひ着てみてください」

「ちょっ··」

顔を赤らめたラルカに試着室まで運び込まれ、抵抗する間もなく着替えさせられた。

「まあ、なんとお可愛いのでしょうか」

「こっ、これって」

「はい、一度作ってみたかったのです。本当にお似合いです」

無理矢理着せられたのはメイド服というものだ。かなり手が込んでおり心地のいい裏地のおかげで着心地もかなりよかった。とても完成度が高くて可愛い、可愛いのだが······

「ではジン様、今お召しになっていたお洋服は私の事情で少し使わせて頂きますのでお預かりいたします。しっかり洗ってお返ししますのでご安心を」

「えっ、使うって。じゃあ私このまま······」

「はい。きっと皆さんもお喜びになると思いますよ」

そう、可愛いのだがその分恥ずかしいのだ。

「でも私こんなに短いスカート履くの初めてだし、それにどうして猫耳なの······」

「ジン様を想像してつくりましたの。本当に可愛らしいですわ」

ラルカはジンの着ていた洋服を丁寧に畳むと奥の部屋に持っていってしまった。

「し、仕方ない」

(クレースとかに見つからないようにしないと)

そして勇気を持ってゆっくりとドアを開く。

「それにしてもジンはどこにいったんだ。さっきから全く見つからない」

「うん、でもこの辺りにいるはず」

キィーッと音を立てて外へと踏み出した。

「ッ—!」

しかし神の悪戯か、それとも二人の願いが届いたのか、タイミングよくジンを探していたクレースとパールに鉢合わせてしまった。

「······」

「······」

「······」

二人と目が合い、数秒見つめ合った。
辺りの活気を忘れさるような静寂の時がその場に流れる。
そして表情を変えずに無言のままゆっくりとドアを閉めた。

一瞬にして顔が真っ赤になり、その場から走り出す。

(やっぱり返してもらう!!)

ラルカの入っていった部屋に向かって大急ぎで向かう。

後ろからバンっとドアが開く音がする。

しかし今はそんなこと関係ない。

今は逃げるのだ。そして服を取り返す。

ようやく扉の前まで辿り着き、慌ててドアを開ける。

「ラルカ! やっぱりかえッ······」

「ハァあ、ハァ、はぁ、はぁあっ」

そこには先程まで着ていた服に顔を埋め、激しい息遣いで耳を真っ赤にしたラルカの姿があった。

「······クレースと、同じことしてる」

その状況に少し思考が止まる。しかしそんな暇もなく後ろからバッと抱きつかれた。

「つかまえた! ジン、かわいい」

「ああ、恥ずかしがっているのも加点だな」

そして次の日、悲しそうな顔をしたラルカに服を返してもらった。
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