ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
97 / 240
中央教会編

四章 第十話 混乱のメスト大森林

しおりを挟む
「ベオウルフ様。確かに状況は厳しいですが、仮に通り魔と魔物の凶暴化が関連しているとすればメスト大森林での魔物は陽動の可能性があります。ここが攻められる可能性がある今、メスト大森林に戦力を割きすぎるのはあまりにも危険です」

ギルメスド王国では朝から住民の避難と凶暴化した魔物たちの対応に追われていた。そのため中央王権教会の騎士団を始めとして八雲朱傘の序列四位から八位の者たちが部隊を引き連れ出陣していたのだ。

「ああ、分かってる。グラムは今どこに?」

「それが······朝早くから捜索させていますが報告はまだ······」

「ったく、こんな時にもあいつは何やってんだよ。あいつがいりゃあ多少はどうにかなるんだがな」

「報告ッ! 凶暴化したヘルワイヴァーンが合計で七体確認されました! それにより死傷者多数、回復班では間に合いません!」

「分かった。仕方ねえ、ハルトの部隊を出陣させろ。ここの奴は全員俺が守る」

「ハッ!」

レイの兄であるハルトは八雲朱傘の序列二位に位置していた。そして現在ではアルベリオン一族において最強の強さを誇る騎士へと成長していたのだ。そしてその命令を待っていたかのようにハルトはベオウルフの前に現れた。

「了解しました、ベオウルフ様。ここは任せます」

「おう、頼むぜ。何かあれば信号弾を飛ばせ」

(冷静に状況を見ろ。ラダルスの死を無駄にするな。あの時ラダルスの服に付着していたのは明らかに他者の魔力の跡。あいつがやられるほどの相手だと考えれば今この場で敵に対応できるのは俺かグラムだけだな、それに死んだ他のやつからは違う質の魔力。敵は少なく見積もっても三人の精鋭)

ベオウルフは久しぶりに腰に携えていた鞘に手を当てる。そしてそれに応えるようにその剣は少し震えた。

(落ち着けよ、ギル。できれば使いたくはねえが、鈍ってねえだろうな?)

(この我が鈍るものかよ。せいぜい安心しておれ。我がいれば、お前は負けぬ)

(ケッ、そうかよ。頼むぜ相棒)

「あっ、そういやもう一つ」

ベオウルフはそう言って急いで行動を始める部下を呼び止めた。

「司聖教の奴らはもうここには現れねえ。仮にノコノコと現れたらすぐ俺に知らせろ」

「?······ベオウルフ様がそう仰るのなら分かりました」

(分かってんだよ、クソジジイどもが)

ベオウルフの言う通り普段は中央教会にいるはずの司聖教が誰一人としていなかったのだ。



ギルメスド王国から近くの範囲では凶暴化した魔物が二千体ほど出現し騎士達の姿を見るなり荒れ狂った様子で向かってきていた。それに加え、出現した魔物はほとんどがAランクであり普段メスト大森林で見られない魔物も多数出現していたのだ。

「クソッ、攻撃のパターンがいつもと全く違いやがる。動きが読めねえ」

「バルバダッ、一度あなたの部隊は後退させてッ!」

「ああ、わかっ······」

そう言いかけた瞬間、バルバダは死角からの攻撃に体制を崩し、二撃目の蹴りで骨が砕けるような音ともに吹っ飛ばされた。

「バルバダッ!!」

バルバダを蹴り飛ばしたベイガルは骨を鳴らし、ゆっくりとミルファたちに近づいてきたのだ。

「全員ッ、下がりなさい!」

「つまらん、剣帝の目は腐っているのか。雑魚しかおらんな」

「お前は何者だ。ベオウルフ様を愚弄するかッ」

ミルファは一瞬でレイピアを突き出し、最大初速で猛撃を繰り出した。

「ハァアアアアアッ!!」

ミルファの猛撃はさらに速く鋭くなるが全て避けられ剣先を軽々と素手で受け止められた。

「あまりにも弱い。この間殺した奴はもう少し骨があったのだがな」

「貴様がッ、ラダルス様を」

ミルファは体を捻りベイガルの手からレイピアを抜き出し、距離をとった。

「ッ!?」

しかしいつの間にか、一瞬で距離を詰められミルファのすぐ目の前にはベイガルの拳が迫る。

(間に合わッ!)

「お前かぁああアアアッ!!!」

だがその拳はミルファに当たることなく次の瞬間、ベイガルの拳は弾かれその巨体が後ろに仰け反った。

「ゼーラッ!」

溢れ出した激しい怒気を孕んだ顔でゼーラは仰け反ったベイガルに更なる追撃を仕掛ける。

「グッ······」

ベイガルは体制が悪いままカウンターを繰り出そうとするもその瞬間に剣で弾かれ脇腹に重たい拳をくらった。
たまらずバックステップで距離を取ろうとするがゼーラは隙を与えることなくベイガルとの距離を詰める。

(凄まじい······これほどまでの差が······)

「ラダルスが何をしたッ!! お前達に危害を加えたか、あんな優しい奴がなぜ死ななければならないッ!」

ゼーラの激しい怒りと共に打撃は重たくなっていき、ベイガルの黒く硬い皮膚がその一撃一撃で傷つき血が飛び散る。
しかしベイガルは雄叫びとともに風圧でゼーラの体を吹き飛ばした。

「フゥ、お前は確か四位だったな。面白い、誉めてやる。三位の奴よりははるかに強いぞ」

「お前は、必ずこの手で殺す。絶対に······ラダルスが苦しんだ以上に苦しませて。それが、私からラダルスにやってあげられる最後の弔いだ」

その言葉を聞いてベイガルは嘲笑うように軽く笑った。

「まあ後から楽しませてもらおう。まずはここを生き抜いてみせろ」

「待てッ!!」

ゼーラは魔力弾を放ったが同時に巻き起こった粉塵とともにベイガルの姿は消え去った。

「ゼーラ、追いかけるのは後よ。まずはここの魔物をどうにかしないと」

「······ええ、でもハルトさんが来ているみたいだから少しは回復が間に合いそうね。ミルファ、あなたはバルバダを」

「分かった」

怒りが収まりきらない様子のゼーラはその後も単身で魔物の群れに突っ込んでいった。


一方、バーガル国周辺のメスト大森林。

「住民を非難させろッ、数が多すぎるッ!」

ここではバーガル国から緊急の依頼として雇われた冒険者達が総出で魔物討伐に向かっていた。
しかしながらこちらも想像以上の魔物の強さと数に押されていたのだ。

今回の緊急討伐にはバーガル国で名を馳せる冒険者として「【神速】ノット」「【大地砕き】バモン」、「【舞剣】ソルカ」と呼ばれる三人が参加していた。

「クソッ。どんだけいるんだよ、これじゃあキリがねえぞ」

「そうだね、僕の速さもこの量では攻めきれない。途中で体力が切れて魔物達の餌食になるだけだ。こっちに攻め込まれないように少しずつ数を減らしていくしかない。それで······」

ノットはチラッと遠くで指揮をとるリュードを見た。

「あの人が言う、『怪物』とやらを待つしかないな」

「リュードから聞いたっていうその話、本当なの?」

「まあ本当だろうね。あの堅物みたいな人がそんなことで嘘をつくはずがない。つまりここにはこの最悪の状況を一変させられる人が来ているってわけだよ。悔しいけど、今はそれに頼るしかない」

ーその時だった

「なんだ今の轟音はッ!?」

その場にいた全員が動きを止めるほどの爆音がメスト大森林の中央から響き渡った。
そして同時にノット達全員に聞こえるほどの大声が聞こえてくる。

「我ッ、参上ーッ!!」

「誰の声だ、敵か?」

某、鬼のその声に凶暴化した魔物たちの注意は一気に集まりバーガル国に向かっていた魔物達は次第に方向を変えその音のする方へと向かっていった。そして辺りの状況がよく分からないままバーガル国の兵士たちや冒険者たちがその場に立ち尽くしているとその場に何かが猛スピードで飛んできてそのまま地面にぶつかった。

土煙が起こり徐々にその姿が見えてきた。

「おい、これって······」

「本当にいたよ······怪物」

その場には血を流し絶命する二体のヘルワイヴァーンの姿があったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...